僕の愛した先生

荒北蜜柑

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 父の暴力を止めたのは、仕事から帰ってきた長男でした。
 不純な行動を取らないよう監視するためだ、と父に言われ、母は父に同調し、長男は実家から仕事場に通っていました。一人暮らしのことでかなり揉めていたのを覚えています。
 ただ、長男は父の病院で働いてはおらず、他の病院で働いていました。長男が父の病院で働くと父に甘えてしまうかもしれないなどと言って父を言いくるめた、と言っていました。充分に生活できるお金が貯まったら、この家を出て、僕と一緒に暮らそうと言ってくれたのを覚えています。
 その日、長男は血だらけの僕を自室へ連れて、手当てをしてくれました。僕の手当てをしながら長男は、この家から一刻も早く出ようと言いました。お金のことを聞いたら、もうそんな悠長なことを言っている場合ではない、このままだといずれ殺されてしまう、とまで言われました。
 確かに、もし長男が帰ってこなければ、僕はあの場で殴り殺されていたでしょう。
 次の日、学校に行ったら周りから心配されました。1日では腫れは引かず、包帯やら湿布やら手当てをしたまま行ったので当然といえば当然なのですが。
 あの日、チャイムが鳴って先生が入ってきた時、先生の指で何かが光ったように見えました。周りが妙に騒ついていていましたが、僕は逆に落ち着いていました。
 精神的におかしくなっていたのかもしれません。まぁ、正常ではありませんよね。
 僕の気持ちなんて知らない貴女は、生徒たちからおめでとうとか、祝福の言葉を貰って照れくさそうに微笑んでいましたね。
 朝のホームルームが終わると、先生は僕を呼び出して、家庭内で何かあったのか、と直接聞いて、僕は何もないと答えましたが貴女は引こうとしませんでした。
 初めて、先生を煩いと思い、口にも出してしまいました。酷いことをしたと、反省しています。
 教室に戻って、授業を受けて放課後、帰りに幼馴染の親友が心配そうに僕の顔を覗き込むのです。大丈夫か、と。親友には時々、親友にとっては度々だったかもしれませんが先生のことは言っていました。
 親友の言っていることは、家のこと、先生のことの2つだったのでしょう。
 なんだか、僕には勿体ない友人でしたよ。とてもやさしくて、こんな僕の側にずっと居てくれたのです。
 親友には心配をかけないように大丈夫、ありがとう、とだけ伝えました。
 僕の言葉を聞いて、親友はとても悲しそうな顔をしました。僕は何か変なことを言ってしまったのか、と思ったのですが違うらしく。間をあけて、親友の口がゆっくり動きました。

 『なぁ、突然何処かに行かないでくれよ、約束な』

 そう、親友は言ったのです。

 僕は、親友に謝りたい。今、この瞬間、約束を破ろうとしているのですから。
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