僕の愛した先生

荒北蜜柑

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 先生の異変にはすぐ気付きましたよ。
 最初、周りは気付かないであろう化粧でしたね。アイシャドウの色が少し濃くなっていました。
 周りは先生の顔なんて怖くて見ようとしません。廊下ですれ違う時も生徒は皆、下を向いていましたから。授業の時なんて先生の顔見てる生徒なんているのでしょうか。
 僕はずっと先生のことを見ていたので気付きましたけどね。
 あの日、教室に入ってきた先生を見て、僕は驚愕しました。本当に信じられないと思いましたよ。
 アイシャドウのほんの少しの濃さで何故そこまでって?
 先生、あなたは僕たちの担任になってから1度も化粧を変えていないのです。あんなに厳しく、美しい先生が、寝ぼけてやってしまったなんて、そんな馬鹿げた話、あるわけないじゃないですか。成績は常にトップでしたし、僕、勘も良いんです。
 この時ばかりは、自身の勘の良さ呪いましたよ。
 次に変わったのは口紅でしたね。地味な色から少し色の付いた口紅に変えましたよね?その次は目元でした。アイシャドウだけでなく、何か、黒い線を入れていましたね。アイライナーって言うんですか?目を大きくするために描くとか何とか。クラスの人間も気付いてきたようで、黒い線が描かれていた日、女子が騒いでいましたよ。
 次に変わったのはシャツ。黒いスーツジャケットから見える皺一つない真っ白なシャツが飾り気のある物に変わっていました。
 その次は黒いスーツから他の女教師が着ているような落ち着いた洋服に変わっていましたよね。
 流石にクラス中…学校中ざわめいたのではないですか?服装で一気に人は変わるものなのですか?服装のことでクラスの人間が勇気を振り絞って先生に声をかける姿を自分の席から見つめていました。
 僕は、先生の性格まで変わっていないだろうと思っていたのです。僕の勘は、決してそうは言っていませんでしたが、そう信じ込もうとしたのです。
 でも、目が見せてくれる先生の姿は違いました。恥ずかしそうに微笑んでいるのです。
 愛しいモノがどんどん醜く変わっていってしまう絶望というのは、こういうことなのですね。
 僕は先生とすれ違う度、物凄く悲しくなりました。ただ、先生のラベンダーの香りだけが救いでした。この香りだけは、変わらないままだろうと、僕は夢見たことをほざいていました。
 どんなに顔が変わろうとも、服装が変わろうとも、性格が変わろうとも、この香りだけは変わらないだろう、と。
 人生って、上手くいかないものですね。
 常に1位だった僕が、初めて2位になった日のこと、覚えていますか?覚えていますよね。つい先日のことですので先生は勿論覚えていると思います。
 僕もあの日はとても驚きましたよ。先生自ら呼び出してくれたのですから。
 2人きりの教室で、先生は変わり果てたその姿で言ったではないですか。あの先生が、絶対言わない言葉。

    『悩みがあるのなら、相談してください』

 その時の僕は、愛する先生から話しかけて喜ぶなんて感情は微塵もありませんでした。
 先生、貴女はどこまで僕を失望させるのですか。
 相談?僕が?誰に?
 更に追い討ちをかけるように貴女は僕の世界に入ってきましたよね。
 首を傾げる動作。纏められていた髪は、変化を重ねておろされていました。ふわり、と先生の香りが僕の鼻を刺激しました。
 僕、その時、本当に吐き気がしてブチまけてしまうかと思いました。文字通り、反吐が出てしまいそうでした。僕の愛していた先生からラベンダーの香りが、全くしなかったんですよ。甘ったるい、男を誘うような、僕の最も嫌う女共の臭い。
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