上 下
6 / 17
第1章:情事に耽って

第5話

しおりを挟む
「ここで待ってろ」と言われて数時間が経過した。スマホでポチポチ検索していたホスクラ豆知識も、もはやスクロールする度に「これさっきも見たな」という情報しか出てこない。扉を挟んだ向こう側では、楽しげな笑い声や音楽が聞こえてきて、まるで俺ひとりだけがぽつんと取り残されたみたいだ。

「ちょっとだけなら……いいよな?」

こっそりと扉を開けて、他の奴ら(特にジン)に気づかれないよう四つん這いで移動する。座り心地の良さそうなソファがいくつも並んでいて、黒いシックなテーブルと雰囲気が合っていて素敵だ。ジンの卓はどこなんだろう?猫のように四つん這いで移動しながら、俺はあの艶やかな黒髪を探すことにした。

「しかもその店長ね、手が滑ったフリして胸揉んでくるの!どう思う!?」
「え~、無理すぎじゃね~?」
「そう、ホントに最悪なの!も~ウサギに話聞いてもらわなきゃやってられない!」
「ありす可哀想~、もうコンカフェとかやめたらぁ?僕まで悲しくなるんだけど~」
「うーん……でも、ウサギと過ごすためにたくさん稼ぎたいから。まだまだ頑張らなくちゃ!」
「そーお?じゃあ景気づけにフィリコ入れよ~」
「え゛……ま、まぁいいけど……!」

白いふわふわの髪の毛が揺れる。ここはウサギの卓のようだ。金髪ボブの小柄な女が隣に座っているせいで、ウサギの体格の良さが際立つ。卓上のお酒やおつまみをもりもりと飲み食いしているし、きっと金髪ボブは母性本能をくすぐられたいタイプなんだろう。ウサギの声に反応した黒服が近づいてきたので、こっそりと卓を移動した。

通路の隙間から見覚えのあるハーフアップが見えたので立ち止まった。明るい茶髪はサイドで編み込まれていて、派手な色のピンを雑に刺している。卓にはミソラの他に、チンピラみたいな赤髪の男と機嫌の悪そうな女が座っていた。どちらも煙草を吸っているせいで、卓の周りにも煙が広がって臭い。

「おいミソラぁ、いつもの挨拶してやれ!」
「っす!名前は味噌ラーメンだけど好きな味は豚骨ラーメン、アーメンだけど実家は寺の海宙アーメンです!気安くミソラって呼んでください!」
「だっははははは!おっっもしれぇ~!!」
「は?つまんな……」

女はそう吐き捨てると机に煙草を押し付けた。チンピラは両手をバシバシと叩きながら爆笑していて、2人のテンションの差が酷すぎる。ヘルプとはいえこんなキツい態度を取られるとは、ホストって大変な仕事だな。ミソラは笑顔のまま硬直してしまい、チンピラに斜め45°の角度でぶっ叩かれていた。

その後も卓の周りを彷徨っていた俺は、数分後に何とか目当ての卓まで辿り着いた。染めたことのなさそうな綺麗な黒髪に、シンプルなデザインのスーツだけど、全身から溢れ出るオーラが眩しすぎて前が見れない。ジンが微笑む度に周りに羽が舞っているようで、ここの卓だけ空気感が違いすぎる。

「さゆりちゃん、久しぶり。また会えて嬉しい……けど、無理してない?」
「ううん、全然!ジ、ジンくんに会うために、色々なバイト掛け持ちしようと思ってて……!」
「そうなんだ。頑張り屋さんだね、偉い子だ」
「あ、あっ、ありがとう……!」

甘い。ジンの対応が砂糖みたいに甘い。俺には「うん」とか「そう」とか大抵2文字でしか返答しないのに、女の前ではふにゃふにゃペラペラ会話しやがって。俺の存在に気づいていないジンは、丁寧に氷を混ぜている。細長い指は男性らしく骨ばっていて、……この指で掻き混ぜられたら、気持ちいいんだろうな。

ジンの骨ばった指がナカを擦って、俺はそれだけでどろどろに溶かされて。熱さで頭がどうにかなっても、きっとジンは平然とした顔で服を脱ぎ捨てて、そして……そして?待て、これじゃ俺がハメられたがってるビッチみたいじゃん。確かにビッチだけど俺だけ余裕が無いってのは腹立つ!そうだ、きっとジンは俺のテクにメロメロになって、情けない顔をして腰を振るに違いない……!

「それでね、バイトの面接で噛んじゃって……!」
「ふふ、さゆりちゃんって結構抜けてるよね。……あ、ごめん。他の卓に呼ばれたから行ってくるね」
「え……うん!行ってらっしゃい、待ってるね!」
「すぐに戻ってくるから。いい子にしてて」

俺が脳内のジンと楽しんでる間に、本物のジンは他の卓へ移動していった。革靴が床を叩く音が響き、まるで店内がジンのために用意されたランウェイのようだ。見上げた背中があまりに大きくて、俺とは住んでる世界が違うんだ、って改めて強く感じた。

甘いバニラを漂わせながら、彼は柔らかそうな革張りのソファへ腰を落とした。何をするにしても所作が丁寧で、まるでおとぎ話の中から飛び出してきた王子様のようだ。‪

「ただいま、みぁ。ちゃんといい子で待ってた?」
「うんっ!ねぇ聞いてよジン、こいつの自己紹介、つまらなすぎて逆にめ~っちゃ面白いの!」
「そうなんだ。俺にも聞かせてよ」
「はいはーい!名前は味噌ラーメンだけど好きな味は豚骨ラーメン、アーメンだけど実家は寺の!海宙アーメンでーす!」
「つまんな~っ!あははははっ!!」
「ふふふ、本当だね。みぁって、確か味噌ラーメン好きだったよね?」
「そ~、出稼ぎで北海道行った時に目覚めた」
「いいじゃん、今度この3人でアフター行こうよ」
「ラーメンアフター!?めっちゃ楽しそう!」

い、いいなぁ~……!俺の恨みがましい目線にちっとも気づかないジンは、腕に抱きついてくるみぁと親しげに話している。俺のジンにそう易々と触れるな……!と頬を膨らませていると、ふと周りの卓が騒がしくなっていることに気がついた。

隣の卓から隣へ、まるで森が揺れるように騒ぎが広がっていく。先程まで楽しく飲んでいたジンたちも立ち上がって、皆の視線の先にある卓へと駆けつけた。俺も皆が何に困惑しているのかが気になって、人だかりの隙間から顔を覗かせてみる。

「ッテメェ……抑制剤飲んでなかったのかよ!?」
「は~…………、は~…………」
「おい黒服ぅ!こいつ追い出せ、出禁にしろ!」
「はい!た、直ちに……!」

視線の先には、先程の赤髪チンピラと煙草女が倒れ込んでいた。女は苦しそうに肩で息をしていて、男の方も額に大粒の汗をかいている。明らかに尋常ではない様子に驚いていると、時が止まった空間の中で、ジンだけはすぐに男の元へ駆け寄った。

「立てる?バックヤード行くよ」
「あ゛ー、気分悪ぃ……」
「あ、あの……宇宙代表……!」
「ミソラくんは戻ってて。他の皆も驚かせちゃってごめんね、こっちは大丈夫だから気にしないで!」

……って、ジンがバックヤードに帰ってくる!?俺は未だに混乱状態の人たちの間を縫って、大慌てでバックヤードまで帰った。チンピラが休めるように一応ベンチやパイプ椅子を端に避けておく。

突然のことで何も考える暇がなかったが、ひょっとしてアレがΩのヒートってやつなんだろうか。男も抑制剤がどうとか言ってたし……。普段Ωの存在なんて意識することはなかったが、そうバース性に呑気でいられるのは俺がβだからなんだろうな。

「あれ、ベンチ避けてくれたんだ。ありがと」
「外から騒ぎ声がしたので、何かトラブルがあったのかなって。……その人、大丈夫そうですか?」
「どうだろう。おーい、大丈夫?」
「クソ……一旦休ませてくださいっす……」

近くに山積みのミネラルウォーターがあったので、適当に1本だけ手に取った。スーツのまま床に横たわった男へ渡すと、チンピラは礼も言わずにキャップを開ける。ありがとうの5文字すら言えない奴がホストになるなよ。俺が女だったら、こういうタイプとは絶対に付き合いたくない。

「……で、何があったのか教えてくれる?」





♥♥





「へぇ、ヒート中のΩが抑制剤を飲まずに来店……か。卓についた時に気づかなかったの?」
「確かに甘い匂いはしましたけど、香水変えたのかなと思ったんすよ。……はー、オレが迂闊でした」
「姫は出禁にするとして。そろそろうちもバース性の提示を義務化するべきかなぁ」
「へー、そんなものがあるんですか」
「惑星グループはキャストが全員‪α‬だからな。Ωの姫がヒートになったら全員の迷惑になんだよ」
「ほー、なんか色々大変なんですね」

バース性による差別解消のため、現在は正当な理由がない限り受験や面接、飲食店の入店などの際にバース性の開示を求めることは禁止されている。まぁそれはほぼ名ばかりの法律で、大抵は「入学・入社後の手続きを円滑にするため」という決まり文句の上、性別欄には男・女と‪α‬・β・Ωにそれぞれ丸をつけるように求められている。だからてっきりホストクラブでも、身分確認の際にバース性も確認されているのかと思っていた。

「はぁ……迷惑かけてサーセンっす、宇宙代表」
「気にしないで。……万が一がなくて良かったよ」
「宇宙代表ぉ~!マジで優しーっすね、オレ、一生ついて行きます!」
「ふふ、大袈裟だってば」

誰だこいつ。良い上司の顔をしながら微笑むジンは、毎度のことながら「淫乱」だの「ストーカー」だの罵ってきた奴と同一人物とは思えない。一体、どちらが本当のジンなんだろうか。上品に笑ってるそいつをじっと見つめると、不意にこちらを見やるジンと視線が絡んだ。途端にチンピラに向けていた穏やかな微笑みはなりを潜めて、いつもの無表情に戻ってしまう。

何だよ、俺よりそのチンピラの方が大切だってか。絶対に俺の方が可愛くて、セックスが上手で、喘ぎ声が扇情的で、ジンに抱かれたいって気持ちが強いのに!そのよく分かんねぇ髪色したチンピラより、もっと俺のことを……!

「何」
「……何でもないでーす」
「はぁ……?」

その後は特に大きな事件やトラブルはなく、俺は暇を持て余しつつ営業時間が終わるのを待っていた。結局最後まで店にいさせてくれたな。無愛想だけど結構優しいところあるじゃん、って柄にもなくジンにドキドキしてしまった。ジンはいつもタクシーで帰宅している(ストーカー対策らしい。こっわ……)らしくて、ついでに俺も乗せてくれた。運転手さんに住所を伝えて、背もたれに身体を預ける。

「‪α‬って大変なんですね」
「うん」
「なぁんか、別次元の人……って感じです」
「そう?」
「はい。でもスーツ姿のジンさん、すげぇ格好良かったですよ」
「……そう。ありがと」

タクシーが緩やかに減速して、自宅の前で止まる。古びた木族建築のアパートは、家賃が安いことだけが決め手だった。ぱっと振り返って、透明なガラス越しにジンへニッコリと笑いかけた。少しでも俺が可愛く見えるように、鏡の前で数十分練習した角度なんだから。きっとジンは俺にきゅんきゅんして、何ならこの場で抱かれちゃうかも……!?

「ジンさん、また明日!」
「うん。気をつけてね、理久」

全然そんなこと無かった。思ってたより手強いぞ、宇宙ジン……。若干落ち込みながら階段を上ると、築何十年かのボロい階段はキシキシと不気味な音を立てる。ドアノブに鍵を差し込んで、ふと考えた。

…………さっきのジンの言葉。あれ?俺って……



___名前、教えたっけ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈 
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

異世界転移したら獣人しかいなくて、レアな人間は溺愛されます。

モト
BL
犬と女の子を助ける為、車の前に飛び出した。あ、死んだ。と思ったけど、目が覚めたら異世界でした。それも、獣人ばかりの世界。人間はとてもレアらしい。 犬の獣人は人間と過ごした前世の記憶を持つ者が多くて、人間だとバレたら(貞操が)ヤバいそうです。 俺、この世界で上手くやっていけるか心配だな。 人間だとバレないように顔を隠して頑張って生きていきます! 総モテですが、一途。(ビッチではないです。)エロは予告なしに入ります。 所々シリアスもありますが、主人公は頑張ります。ご都合主義ごめんなさい。ムーンライトノベルズでも投稿しています。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...