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六十五話『何を望んだか』
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古町さんとの遊園地デート。比較的順調に進んでいたかに思われたが、ここにきて一番のトラブルに遭遇した。厳密には私たちのトラブルではないのだが、無視はできないものだ。
「古町さん、置いてかないでよ」
「すみません、焦ってしまって。すぐに声をかけてあげなきゃって」
古町さんは振り向いて私に謝ると、すぐに女の子の方に向き直した。私も改めて女の子を見る。小学一年生かくらいだろうか。不安と緊張の入り混じった目で私と古町さんをキョロキョロ交互に見ている。
「この人は雪菜さん。優しいお姉さんだから心配しないで」
その視線に気がついた古町さんは優しく説明していた。後ろから表情は窺い知れないが、不安にさせないよう笑顔で話しているのが伝わる。
「わた、し、ハルナ。お、お母さんがね、いな、いなくなってて」
「そっか、怖かったねぇ。……一緒にお母さん探そうか?」
少し間を置いて古町さんが優しく訊くと、ハルナちゃんは静かに頷いた。古町さんが立ち上がってそっと左手を差し出すと、小さな右手がすがるようにギュッと掴んだ。不安が少し和らいだのか、暗い表情が明るくなった。
見つけてもらえた安心、私にもわかる。私も手を繋いであげたほうがいいかもしれないけど、流石に横に広いか。
「ハルナちゃんのお母さんは、どんな服着てるの?」
「茶色のボンボンした上着でね、青いズボン履いてるの」
ボンボン……。ダウンジャケット? に、多分ジーンズか。子供の活発さについていくには、それくらいの服装になるのかな? とりあえず服装がわかっていれば、私と古町さんでも見つけられるはず。もしかしたら命たちにも聞こえているかもしれないし、見つけたら連絡来るだろうから、見つけるのに時間はかからないかもね。
と、楽観的に考えていたのだが、思ったよりも難航した。人混みの中からたった一人を探すのは予想以上に骨が折れる。
肩車でもしてあげられれば見つけやすくなるんだろうけど、そこまで力持ちじゃないしな。それに、他所様の家の子を肩車して怪我なんてさせたら、弁明できないし。
遠くまでな行かないだろうと、近場で三十分ほど探したのだが見つからず、ベンチで一旦休むことにした。私たちはともかく、ヒナちゃんはずっと歩き続けて疲れただろう。
「ヒナちゃんは、遊園地の何が好き?」
「コーヒーカップ! ぐるぐるするの楽しい」
休憩の間、ヒナちゃんが不安にならないように三人でおしゃべりしていた。すっかり心を開いてくれたようで、最初よりも声が明るく、はっきりと話してくれるようになった。
こうも見つからないと、狭い範囲でも動かない方がいいかもしれない。ここで座って待つ方が確実かな。命にメッセージして、探してもらおうか。もう探してくれているかもしれないけど。
連絡をとろうとスマホを取り出すと、ちょうど命からメッセージが届いた。
「総合案内所にでも行ったら?」
もっともな意見だ。迷子センターという名称がなかったからか、最も現実的な策が思いつかなかった。迷子のお知らせ放送、なかったとしても保護者はそこを頼る可能性が高い。
「古町さん。案内所行けば、ヒナちゃんのお母さんがいるかも」
「あ、確かにそうですね。ヒナちゃん、ちょっと移動しようか」
「うん」
ヒナちゃんはベンチから下りると、古町さんと手を繋いだ。比較したところで仕方がないが、初めから何の躊躇いもなくその手を握れることが、羨ましいと思ってしまった。
こんな小さな子供相手に嫉妬とか、本当に余裕ないな。我ながら呆れちゃうわね。
「雪菜お姉さん。はい」
顔に出てしまっていたのか。それともただの子供の無邪気さからか、無垢な笑顔で空いている左手を私に差し出した。こんな時に、少しでも自分のことを考えてしまった私には、少し眩しすぎる。
手を掴めずに少し見つめ、確認するように古町さんを見ると、笑顔で頷いていた。躊躇うように小さな手に触れると、ギュッと弱い力で。なのに力強く、私の手を握ってくれた。
「ヒナちゃんは優しいね」
「えへへ」
三人で手を繋いで総合案内所に向かうと、聞いていた服装と合致する後ろ姿が見えた。不安そうにキョロキョロしている。ヒナちゃんにもその姿が見えたのか、繋いだ手がピクッと反応した。
「お母さーん!」
ヒナちゃんが大声で呼ぶと、女性はこちらを向き、安堵した表情を浮かべてこちらに走ってきた。彼女がヒナちゃんの母親で間違いないようだ。
ヒナちゃんもお母さんに駆け寄り、抱きしめ合っている。無事に二人が再会できたことに、私と古町さんは顔を見合わせて笑った。
「本当にありがとうございました」
「いえ、お気になさらないでください。ヒナちゃん、もう迷子になっちゃダメだよ?」
「うん。ありがとう、琉歌お姉さん、雪菜お姉さん」
別れる時、ヒナちゃんはずっとこちらに手を振っていた。私も古町さんも、その姿が見えなくなるまで手を振り返した。
「お母さんに無事会えて良かったです」
ヒナちゃんを見送ると、だいぶ日が傾いてきた。予定していた時間の終わりも近づいてきている。
「最後に、観覧車乗りましょうか」
「そうだね」
私から誘おうと思っていたのだが、古町さんに先を越されてしまった。
幸い、観覧車に列ができているというようなこともなくすぐに乗ることができた。ゆっくり動く赤いゴンドラに乗り、本当の意味で二人きりになった。ゆっくりと上昇し、景色が変わっていく。私の対面に佇む古町さんは穏やかで変わらないが、彼女の姿をなぞるように日差しが包み込んでいる。ハッキリしているのに、どこか幻想的でボンヤリと映る。その姿に、思わず見惚れてしまう。
「雪菜先輩、すみませんでした」
「え?」
見惚れて、告白することを忘れてしまいそうになっていると、急に古町さんが謝ってきた。思い当たることもないので、戸惑ってしまう。
「ヒナちゃんを見かけた時、置いていってしまって。離れる必要なかったのに」
「い、いやいや、気にしてないよ。手を繋いだままだったら、人に引っ掛かってたかもしれないし」
「でも、雪菜先輩も不安だったかもって」
古町さんの中の私って、一体どんなイメージなんだろう。心配してくれるのは嬉しいけど、心配されすぎてそれが逆に心配。そんなに頼りないのかな、私って。少しくらい頼れる先輩だって思っていて欲しいし、甘えられたい。
「優しいね、古町さん。それに、強い」
「そんなことないですよ。もし私が強いなら、きっと先生のおかげです」
胸を締め付けられるような感覚。話題を聞かなかったフリをすればいいのに、触れずに流してしまえばいいのに。私は聞き返してしまった。
「ヤトちゃん先生?」
「えっと……はい。先生が私を助けてくれたことがあって。私も、誰かを助けられたらって」
明るい声色。大好きな人の嬉しさと恥ずかしさが混ざったような高い声。聞けて嬉しいはずのその声が、ノイズのように私の耳を劈く。
古町さんがとても嬉しそうに見える。その表情が見られて嬉しいのに、それが私に向けられていないことが嫌でも感じ取れる。今まで一回も、その表情を見ることはできなかった。
「そ、そろそろ頂上ですよ。綺麗な眺めですね」
古町さんは話題が恥ずかしかったのか、誤魔化すように窓に近づいて外を眺めた。夕日に染まる頬。耳まで赤い色に染まっている。
私も窓に近づいて、外の景色を見るフリをして古町さんの横顔を盗み見た。そして想像してみる。もしも私の告白を古町さんが受け入れてくれたらと。
一緒に出かけて、ご飯を食べて、家でゆっくりして。笑って、泣いて。ときどき喧嘩もして。想像するだけで心臓が破裂しそうなくらいに嬉しくて恥ずかしい。けれどーー
さっきみたいに笑ってくれている姿が、想像できない。
ーー先ほど見せてくれた表情は、ただの一つも見ることができなかった。
結局、思いの欠片すら伝えることもできずに地上まで戻ってきた。そのまま気持ちを閉じ込めて遊園地をあとにした。バスに揺られ、電車に揺られ戻ってきた集合駅。道中は普段と変わらない、先輩と後輩のお喋りをしただけ。
「今日は楽しかったです。先輩方の受験が無事終わったら、今度はみんなでお出かけしましょう」
「じゃあ、私も命もしっかり頑張らないとね」
古町さんと別れ、その姿が見えなくなるまで手を振る。自動ドアの向こうに古町さんが消えたのを確認して、私はベンチに力無く腰を下ろした。大きなため息を吐くと、ボワンとした感触が肩にのしかかった。
「告白しなかったんだ」
責めるでも、同情するでもなく、命は普通に質問するのと変わらない様子で訊いてきた。観覧車の中のことまで監視できていないのは確実だが、私たちの様子を見て察したらしい。
「しなかった、できなかったよ」
言うだけただ。そういう声もあるだろうけど、そんなことはないと実感した。無償と言うには、心にかかる負担が大きい。それに、相手との未来も想像してしまう。
「私の隣で、古町さんは笑ってなかった。いや、笑ってるんだけどさ」
「わかってる。違うんでしょ?」
わかった風。いや、経験があるように命はいった。私は頷くことも返事することもなく、無言で肯定した。その反応に、命は私の頭を撫でて慰めてくれた。
「よし、傷心したゆきなんを夕食に招待しよう。ほら行くよ~」
やや強引に私の腕を引き、命は歩き出した。お洒落な言葉を使っているが、行き先はファミレスだろう。学生なのだから、相応しい場所だと思う。
未練や後悔がないとは言わないけど、どうしようもないほど気が落ちているとも感じない。古町さんが笑っていられるなら、それが一番いい。隣にいるのが私じゃなくても。あの笑顔を見たら、そう思ってしまった。
悔しいには、悔しいんだけどね。
「命の奢りだよね?」
「もっちろ~ん。あ、でも、今日は白服だからいつも以上に気を遣って食べてね~」
「古町さん、置いてかないでよ」
「すみません、焦ってしまって。すぐに声をかけてあげなきゃって」
古町さんは振り向いて私に謝ると、すぐに女の子の方に向き直した。私も改めて女の子を見る。小学一年生かくらいだろうか。不安と緊張の入り混じった目で私と古町さんをキョロキョロ交互に見ている。
「この人は雪菜さん。優しいお姉さんだから心配しないで」
その視線に気がついた古町さんは優しく説明していた。後ろから表情は窺い知れないが、不安にさせないよう笑顔で話しているのが伝わる。
「わた、し、ハルナ。お、お母さんがね、いな、いなくなってて」
「そっか、怖かったねぇ。……一緒にお母さん探そうか?」
少し間を置いて古町さんが優しく訊くと、ハルナちゃんは静かに頷いた。古町さんが立ち上がってそっと左手を差し出すと、小さな右手がすがるようにギュッと掴んだ。不安が少し和らいだのか、暗い表情が明るくなった。
見つけてもらえた安心、私にもわかる。私も手を繋いであげたほうがいいかもしれないけど、流石に横に広いか。
「ハルナちゃんのお母さんは、どんな服着てるの?」
「茶色のボンボンした上着でね、青いズボン履いてるの」
ボンボン……。ダウンジャケット? に、多分ジーンズか。子供の活発さについていくには、それくらいの服装になるのかな? とりあえず服装がわかっていれば、私と古町さんでも見つけられるはず。もしかしたら命たちにも聞こえているかもしれないし、見つけたら連絡来るだろうから、見つけるのに時間はかからないかもね。
と、楽観的に考えていたのだが、思ったよりも難航した。人混みの中からたった一人を探すのは予想以上に骨が折れる。
肩車でもしてあげられれば見つけやすくなるんだろうけど、そこまで力持ちじゃないしな。それに、他所様の家の子を肩車して怪我なんてさせたら、弁明できないし。
遠くまでな行かないだろうと、近場で三十分ほど探したのだが見つからず、ベンチで一旦休むことにした。私たちはともかく、ヒナちゃんはずっと歩き続けて疲れただろう。
「ヒナちゃんは、遊園地の何が好き?」
「コーヒーカップ! ぐるぐるするの楽しい」
休憩の間、ヒナちゃんが不安にならないように三人でおしゃべりしていた。すっかり心を開いてくれたようで、最初よりも声が明るく、はっきりと話してくれるようになった。
こうも見つからないと、狭い範囲でも動かない方がいいかもしれない。ここで座って待つ方が確実かな。命にメッセージして、探してもらおうか。もう探してくれているかもしれないけど。
連絡をとろうとスマホを取り出すと、ちょうど命からメッセージが届いた。
「総合案内所にでも行ったら?」
もっともな意見だ。迷子センターという名称がなかったからか、最も現実的な策が思いつかなかった。迷子のお知らせ放送、なかったとしても保護者はそこを頼る可能性が高い。
「古町さん。案内所行けば、ヒナちゃんのお母さんがいるかも」
「あ、確かにそうですね。ヒナちゃん、ちょっと移動しようか」
「うん」
ヒナちゃんはベンチから下りると、古町さんと手を繋いだ。比較したところで仕方がないが、初めから何の躊躇いもなくその手を握れることが、羨ましいと思ってしまった。
こんな小さな子供相手に嫉妬とか、本当に余裕ないな。我ながら呆れちゃうわね。
「雪菜お姉さん。はい」
顔に出てしまっていたのか。それともただの子供の無邪気さからか、無垢な笑顔で空いている左手を私に差し出した。こんな時に、少しでも自分のことを考えてしまった私には、少し眩しすぎる。
手を掴めずに少し見つめ、確認するように古町さんを見ると、笑顔で頷いていた。躊躇うように小さな手に触れると、ギュッと弱い力で。なのに力強く、私の手を握ってくれた。
「ヒナちゃんは優しいね」
「えへへ」
三人で手を繋いで総合案内所に向かうと、聞いていた服装と合致する後ろ姿が見えた。不安そうにキョロキョロしている。ヒナちゃんにもその姿が見えたのか、繋いだ手がピクッと反応した。
「お母さーん!」
ヒナちゃんが大声で呼ぶと、女性はこちらを向き、安堵した表情を浮かべてこちらに走ってきた。彼女がヒナちゃんの母親で間違いないようだ。
ヒナちゃんもお母さんに駆け寄り、抱きしめ合っている。無事に二人が再会できたことに、私と古町さんは顔を見合わせて笑った。
「本当にありがとうございました」
「いえ、お気になさらないでください。ヒナちゃん、もう迷子になっちゃダメだよ?」
「うん。ありがとう、琉歌お姉さん、雪菜お姉さん」
別れる時、ヒナちゃんはずっとこちらに手を振っていた。私も古町さんも、その姿が見えなくなるまで手を振り返した。
「お母さんに無事会えて良かったです」
ヒナちゃんを見送ると、だいぶ日が傾いてきた。予定していた時間の終わりも近づいてきている。
「最後に、観覧車乗りましょうか」
「そうだね」
私から誘おうと思っていたのだが、古町さんに先を越されてしまった。
幸い、観覧車に列ができているというようなこともなくすぐに乗ることができた。ゆっくり動く赤いゴンドラに乗り、本当の意味で二人きりになった。ゆっくりと上昇し、景色が変わっていく。私の対面に佇む古町さんは穏やかで変わらないが、彼女の姿をなぞるように日差しが包み込んでいる。ハッキリしているのに、どこか幻想的でボンヤリと映る。その姿に、思わず見惚れてしまう。
「雪菜先輩、すみませんでした」
「え?」
見惚れて、告白することを忘れてしまいそうになっていると、急に古町さんが謝ってきた。思い当たることもないので、戸惑ってしまう。
「ヒナちゃんを見かけた時、置いていってしまって。離れる必要なかったのに」
「い、いやいや、気にしてないよ。手を繋いだままだったら、人に引っ掛かってたかもしれないし」
「でも、雪菜先輩も不安だったかもって」
古町さんの中の私って、一体どんなイメージなんだろう。心配してくれるのは嬉しいけど、心配されすぎてそれが逆に心配。そんなに頼りないのかな、私って。少しくらい頼れる先輩だって思っていて欲しいし、甘えられたい。
「優しいね、古町さん。それに、強い」
「そんなことないですよ。もし私が強いなら、きっと先生のおかげです」
胸を締め付けられるような感覚。話題を聞かなかったフリをすればいいのに、触れずに流してしまえばいいのに。私は聞き返してしまった。
「ヤトちゃん先生?」
「えっと……はい。先生が私を助けてくれたことがあって。私も、誰かを助けられたらって」
明るい声色。大好きな人の嬉しさと恥ずかしさが混ざったような高い声。聞けて嬉しいはずのその声が、ノイズのように私の耳を劈く。
古町さんがとても嬉しそうに見える。その表情が見られて嬉しいのに、それが私に向けられていないことが嫌でも感じ取れる。今まで一回も、その表情を見ることはできなかった。
「そ、そろそろ頂上ですよ。綺麗な眺めですね」
古町さんは話題が恥ずかしかったのか、誤魔化すように窓に近づいて外を眺めた。夕日に染まる頬。耳まで赤い色に染まっている。
私も窓に近づいて、外の景色を見るフリをして古町さんの横顔を盗み見た。そして想像してみる。もしも私の告白を古町さんが受け入れてくれたらと。
一緒に出かけて、ご飯を食べて、家でゆっくりして。笑って、泣いて。ときどき喧嘩もして。想像するだけで心臓が破裂しそうなくらいに嬉しくて恥ずかしい。けれどーー
さっきみたいに笑ってくれている姿が、想像できない。
ーー先ほど見せてくれた表情は、ただの一つも見ることができなかった。
結局、思いの欠片すら伝えることもできずに地上まで戻ってきた。そのまま気持ちを閉じ込めて遊園地をあとにした。バスに揺られ、電車に揺られ戻ってきた集合駅。道中は普段と変わらない、先輩と後輩のお喋りをしただけ。
「今日は楽しかったです。先輩方の受験が無事終わったら、今度はみんなでお出かけしましょう」
「じゃあ、私も命もしっかり頑張らないとね」
古町さんと別れ、その姿が見えなくなるまで手を振る。自動ドアの向こうに古町さんが消えたのを確認して、私はベンチに力無く腰を下ろした。大きなため息を吐くと、ボワンとした感触が肩にのしかかった。
「告白しなかったんだ」
責めるでも、同情するでもなく、命は普通に質問するのと変わらない様子で訊いてきた。観覧車の中のことまで監視できていないのは確実だが、私たちの様子を見て察したらしい。
「しなかった、できなかったよ」
言うだけただ。そういう声もあるだろうけど、そんなことはないと実感した。無償と言うには、心にかかる負担が大きい。それに、相手との未来も想像してしまう。
「私の隣で、古町さんは笑ってなかった。いや、笑ってるんだけどさ」
「わかってる。違うんでしょ?」
わかった風。いや、経験があるように命はいった。私は頷くことも返事することもなく、無言で肯定した。その反応に、命は私の頭を撫でて慰めてくれた。
「よし、傷心したゆきなんを夕食に招待しよう。ほら行くよ~」
やや強引に私の腕を引き、命は歩き出した。お洒落な言葉を使っているが、行き先はファミレスだろう。学生なのだから、相応しい場所だと思う。
未練や後悔がないとは言わないけど、どうしようもないほど気が落ちているとも感じない。古町さんが笑っていられるなら、それが一番いい。隣にいるのが私じゃなくても。あの笑顔を見たら、そう思ってしまった。
悔しいには、悔しいんだけどね。
「命の奢りだよね?」
「もっちろ~ん。あ、でも、今日は白服だからいつも以上に気を遣って食べてね~」
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