BloodyHeart

盲点

「すみません！　やらされていたんですっ」
「オーナーからの指示ですっ。オーナーは、二十パーセントを報酬で受け取っています」
　スタッフの二人が伊吹に言う。
　二階に上がる階段の前で、伊吹は二人を捕まえた。
「だったら逃げようとするなよぅ」
　伊吹は二人の肩を叩く。
　伊吹はこの場から一番近い場所、駐車場にいる警察官にウェアラベル端末から通信を入れた。
「あの、すみません。あれ……」
　返事がない。
「何でだ？」
「折原少佐、どうかしましたか？」
　インカムに通信が入る。
「あっ、スタッフの二人をお願いします。オーナーの居場所も知っています」
「了解しました。場所は？」
「一階フロアの裏、階段です」
　言い終わるとインカムを外す。
　伊吹は二人を見る。
「逃げませんから大丈夫ですっ」
　一人が強く念を押す。
「指示役は三階にいます。スタッフ専用駐車場に直通する、エレベーターがあるんですっ」
　新たな情報を得られた。
「すみません——。裏手に、もう一個駐車場があるそうなんですが？」
　ウェアラベル端末から、クラブ周辺にいる警察官に尋ねる。
「えっ、何処ですか？」
　警察官は分からない。
「シャッターの下りた、倉庫みたいなとこですっ」
　スタッフの一人が言う。
「駐車場の横に有りますね。行ってみます」
　これで問題ない。
　伊吹は、この瞬間まで勝利を信じていた。
　だが、何故、警察官は通信に応答しなかったのだろうか？
「——行かなくていいのか？」
　周りの騒ぎが気になり、警察官の一人は他の二人を窺った。
「まぁ、駐車場から逃げて来る人がいるかもしれませんから」
「事情聴かなきゃいけないスタッフが、逃げて来るかもしれませんし……」
　駐車場からは、まだ誰一人として現れていない。
「君、何？」
　穂積が現れる。
　ゴスロリ調の服装をし、左目のしたには紫の薔薇のタトゥーがある。毛先を巻いたロングヘアの髪型をしている。堂々と歩いて来た。
　警察官の三人がいるのはスロープを下りた先だ。他の警察官からは見えていない。
　それが盲点になる。
　穂積は両手を広げ、大きく振った。
　フレアスリーブに隠れたアンチブレイヴァーから、針が放たれた。
　叫び声を上げる間もなかった。無音のまま、警察官の三人は急所を撃たれてしまった。