BloodyHeart

真代 衣織

文字の大きさ
上 下
113 / 133

殴りてぇ

しおりを挟む
「はぁっ⁉︎ 家から追い出した? 何処にいるか知らない? アンタ正気か⁉︎」
 伊吹は父親の冷酷な行動に驚愕した。
 田内美穂の自宅だった江戸川区の一軒家を、那智と伊吹は訪れている。
 事前にアポを入れると父親は了承した。
 その時から、二人は父親に冷たい印象を抱いていたが、実際に会うと冷たいじゃ済まない。父親はあまりに冷酷過ぎる。血を分けた娘にすら血も涙もないときている。
「当たり前だろっ! 私に養ってもらいながら、ろくに妻の仕事も熟さないんだっ。当然の行動だろ⁉︎」
 父親は正論だと心底思っている。
「娘さん、心臓病ですよっ」
 何時も温和な那智すら不快を隠せない。
「その治療費は私が出しているんだ。最優先は父親だ!」
 那智と伊吹を睨み、父親はアイスコーヒーを口にする。
 下座に座らせた那智と伊吹には飲み物すら出していない。
「父親なら、重病人の娘を心配しろよ」
 あまりの不快に、伊吹は敬語を使う気が失せた。
 更に父親は睨みを入れる。
「いいかっ⁉︎ あいつはな、人の口座から勝手に大金を引き出し、許可なく人工心臓の手術をしたんだ。私が見切りを付けるのも当然だろっ!」
「つまり、あなたは子供を助けたいとは思わないと?」
 呆れたように那智が問う。
「それは、この国が決めたんだ」
 そう言い、父親は口端を吊り上げた。
「お前等、軍人の給料に税金を溶かし、医療支援を大幅に打ち切った。税金で生きるお前等に、私を批判する権利は一切ないっ」
 実際には、超高齢化社会による人口減少が主な原因だ。
 広く認知されている事を無視し、父親は断言する。
 すると、那智に笑みが戻る。
「ええ、分かりますよ。病気の家族の為に、入隊した同期が何人もいましたから」
 余裕たっぷりに那智は発言する。
「アンタは、何かしようと思わないのか?」
 苛立ちを覚えた父親に、今度は伊吹が問う。
「奥様は、一人で娘の介護をしながらアルバイトをし、家計を支えていましたよ」
 那智も続く。
「役割持たないどころか負おうともしない、ホームアウェイ父でいいのか?」
 続く伊吹の問いに、父親は拳でテーブルを叩いた。
「そんな物はないっ! 妻が夫を労わるのは当然っ。子供の不始末は母親の責任だっ!」
 父親は負い目も感じずに言い切った。
「確かに、夫と父親の役割を定義しない、世間にも問題があります。ですが、この国には法律があるんですよ——」
 言いかけると、那智はズボンのポケットにあるスマートフォンを操作した。
「どういう意味だ?」
 父親が怪訝に顔を顰める。
 対する那智は笑顔だ。
「あなたを殴らずに済みました」
 怖ろしい事を那智は穏和に言う。席を立った。
 父親はたじろぐ。
「伊吹君、堪えられる内に帰りましょう」
 隣の伊吹を見て、那智は声を掛けた。
「だな。——アンタ、只の駄々っ子だよ」
 同意し、伊吹も席を立つ。最後に、硬直した父親に軽蔑の眼差しを送る。二人は場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...