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軍内クーデター
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「そうか——。端くれとはいえ、軍人であろう者が無様に惨敗したか」
「もっ、申し訳ありません!」
玉座の間に報告に来た軍人二人は恐縮している。突いた片膝に置いた手は震え、まさかの失態に顔も上げられない。
「血税を払う国民にとって、人間に負けるような弱い軍人は、我が帝国に必要ない。弱い軍人など、ゴミもいいところだ」
怒りを込めた辛辣な言葉を、ドラキュラ帝国、カイ・クライツ帝王は続ける。
「っお、仰せの通りですっ」
「はいっ、肝に命じます!」
軍人二人を更に追い詰めた。
「だが、利はあった」
帝王の横に立つ、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長が発した。
「新たな核使用を知った魔界の諸外国は、我がドラキュラの主張を信用する。核を持て余す人間界の大国は、我がドラキュラと条約を結びたがるだろう」
「そうだな。確かに利はあった」
近衛隊長の見解に帝王は納得した。軍人二人の震えを止めた。
「利が有れば活かす。それは全てにおいて——」
傲慢な笑みを含み、帝王は近衛隊長に視線を送る。
「この俺に、剣を向けた謀反人でも活かしてやった」
「はい。私の部下を含め、御恩は忠義に生きます」
きっぱりと近衛隊長は断言する。瞳から一切の生が失せた。
ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は、前帝王に仕えていた近衛隊長だった。
そして、軍事クーデターを起こした真の謀反人こそが、カイ・クライツだ。
植民地解放戦争に大敗したドラキュラ帝国は、多くの植民地を失い、一気に経済大国から急落した。
そして、経済は低迷した。
多くの国民が貧困に陥り、怒りの矛先は当時の王族に向く。
帝王は怒りの矛先を変える為、軍部の責任を大体的に主張する。軍事費の大幅削減と、軍部の大量リストラを発表した。
カイ・クライツはこれを機とする。
難病を患う姉を殺した罪により、カイ・クライツは十六歳時に更生施設に入っていた。更生プログラムの一環で、軍隊に入隊していた経歴がある。
しかし、更生どころか反省すらしていないカイ・クライツは、常に教官達から問題視される事に——。
そんな中、カイ・クライツを庇い護ってくれる人がいた。志願で入隊していた、二歳上のレオナ・バートリーだ。
カイ・クライツは、今でも従軍していると知り、彼女の元を訪れる。
当時のレオナ・バートリーは、十分な能力があるにも関わらず、出自を原因に昇級を見送られていた。だが、勤勉さと思いやり溢れる性格から、十分な信頼を得ていた。カイ・クライツはこれを利用する。
カイ・クライツは様々な職を渡り歩いたが、どれも長続きせず、無職の状態だった。それにも関わらず、軍人を守る為に国会議員になろうとしていると、大ボラを吹く。大物政治家がバックに付いているとも公言した。
どれも信憑性に欠けたが、藁にも縋りたかった軍人の多くが彼を支持してしまう。
カイ・クライツの狙い通り、軍事クーデターを誘起した。
多くの軍人を牽引し、王族が住む城内にカイ・クライツは攻め込んだ。
だが、それでも勝てない部隊を王族は持っていた。
それこそが、ルゥーガ・リヒトー率いる近衛連隊だった。
特に、近衛隊長であるルゥーガ・リヒトーが直接率いる部隊は、他とは比較出来ないほど強かった。
勝てないと分かったカイ・クライツは交渉にでる。
忠実な姿勢に付き纏う生真面目さに、彼だけは隙を見付けた。
『可哀想にな。王族に騙されているとも知らずに……』
堂々とカイ・クライツは言い放つ。
『何を言っている?』
無視すればいいものを、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は問う。
『これが王族の狙いだ。計画通り、軍人が減っていく』
その言葉に、近衛兵の数人が反応してしまった。
カイ・クライツは勝機を知る。
『どれだけ忠義に尽くしたところで、帝王は近衛隊も切り捨てるぞ。そうすれば再び支持される。帝王は、お前等の事など気に掛けていない。全ては己の名誉の為——。ここで死のうと生きようと、近衛隊どころか軍人に生きる道はない!』
声高々にカイ・クライツはデタラメを主張する。
向かい合う、先頭に立つ近衛隊長は信じなかった。だが、後方、それも王族に近い部下達が信じてしまった。
『やめろっ! よせっ——』
既に、ただならぬ殺気を感じ取ったルゥーガ・リヒトーは王族の元に飛ぶ。
間に合わなかった。
魔界一の俊足を誇るルゥーガ・リヒトーだが、それでも一足遅い。
王族を護るべき近衛兵が、帝王を殺してしまった。
帝王の後ろで、王妃に抱き締められた王女は、謀反の瞬間を目の当たりにしていた。
『よくも俺達を、俺の隊長をっ……』
湧き上がる怒りにわなわなと震える近衛兵が、帝王の首を斬り落とす。
幼き瞳は凄惨な瞬間に、目を閉じる事も出来なかった。
「もっ、申し訳ありません!」
玉座の間に報告に来た軍人二人は恐縮している。突いた片膝に置いた手は震え、まさかの失態に顔も上げられない。
「血税を払う国民にとって、人間に負けるような弱い軍人は、我が帝国に必要ない。弱い軍人など、ゴミもいいところだ」
怒りを込めた辛辣な言葉を、ドラキュラ帝国、カイ・クライツ帝王は続ける。
「っお、仰せの通りですっ」
「はいっ、肝に命じます!」
軍人二人を更に追い詰めた。
「だが、利はあった」
帝王の横に立つ、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長が発した。
「新たな核使用を知った魔界の諸外国は、我がドラキュラの主張を信用する。核を持て余す人間界の大国は、我がドラキュラと条約を結びたがるだろう」
「そうだな。確かに利はあった」
近衛隊長の見解に帝王は納得した。軍人二人の震えを止めた。
「利が有れば活かす。それは全てにおいて——」
傲慢な笑みを含み、帝王は近衛隊長に視線を送る。
「この俺に、剣を向けた謀反人でも活かしてやった」
「はい。私の部下を含め、御恩は忠義に生きます」
きっぱりと近衛隊長は断言する。瞳から一切の生が失せた。
ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は、前帝王に仕えていた近衛隊長だった。
そして、軍事クーデターを起こした真の謀反人こそが、カイ・クライツだ。
植民地解放戦争に大敗したドラキュラ帝国は、多くの植民地を失い、一気に経済大国から急落した。
そして、経済は低迷した。
多くの国民が貧困に陥り、怒りの矛先は当時の王族に向く。
帝王は怒りの矛先を変える為、軍部の責任を大体的に主張する。軍事費の大幅削減と、軍部の大量リストラを発表した。
カイ・クライツはこれを機とする。
難病を患う姉を殺した罪により、カイ・クライツは十六歳時に更生施設に入っていた。更生プログラムの一環で、軍隊に入隊していた経歴がある。
しかし、更生どころか反省すらしていないカイ・クライツは、常に教官達から問題視される事に——。
そんな中、カイ・クライツを庇い護ってくれる人がいた。志願で入隊していた、二歳上のレオナ・バートリーだ。
カイ・クライツは、今でも従軍していると知り、彼女の元を訪れる。
当時のレオナ・バートリーは、十分な能力があるにも関わらず、出自を原因に昇級を見送られていた。だが、勤勉さと思いやり溢れる性格から、十分な信頼を得ていた。カイ・クライツはこれを利用する。
カイ・クライツは様々な職を渡り歩いたが、どれも長続きせず、無職の状態だった。それにも関わらず、軍人を守る為に国会議員になろうとしていると、大ボラを吹く。大物政治家がバックに付いているとも公言した。
どれも信憑性に欠けたが、藁にも縋りたかった軍人の多くが彼を支持してしまう。
カイ・クライツの狙い通り、軍事クーデターを誘起した。
多くの軍人を牽引し、王族が住む城内にカイ・クライツは攻め込んだ。
だが、それでも勝てない部隊を王族は持っていた。
それこそが、ルゥーガ・リヒトー率いる近衛連隊だった。
特に、近衛隊長であるルゥーガ・リヒトーが直接率いる部隊は、他とは比較出来ないほど強かった。
勝てないと分かったカイ・クライツは交渉にでる。
忠実な姿勢に付き纏う生真面目さに、彼だけは隙を見付けた。
『可哀想にな。王族に騙されているとも知らずに……』
堂々とカイ・クライツは言い放つ。
『何を言っている?』
無視すればいいものを、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は問う。
『これが王族の狙いだ。計画通り、軍人が減っていく』
その言葉に、近衛兵の数人が反応してしまった。
カイ・クライツは勝機を知る。
『どれだけ忠義に尽くしたところで、帝王は近衛隊も切り捨てるぞ。そうすれば再び支持される。帝王は、お前等の事など気に掛けていない。全ては己の名誉の為——。ここで死のうと生きようと、近衛隊どころか軍人に生きる道はない!』
声高々にカイ・クライツはデタラメを主張する。
向かい合う、先頭に立つ近衛隊長は信じなかった。だが、後方、それも王族に近い部下達が信じてしまった。
『やめろっ! よせっ——』
既に、ただならぬ殺気を感じ取ったルゥーガ・リヒトーは王族の元に飛ぶ。
間に合わなかった。
魔界一の俊足を誇るルゥーガ・リヒトーだが、それでも一足遅い。
王族を護るべき近衛兵が、帝王を殺してしまった。
帝王の後ろで、王妃に抱き締められた王女は、謀反の瞬間を目の当たりにしていた。
『よくも俺達を、俺の隊長をっ……』
湧き上がる怒りにわなわなと震える近衛兵が、帝王の首を斬り落とす。
幼き瞳は凄惨な瞬間に、目を閉じる事も出来なかった。
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