BloodyHeart

真代 衣織

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捨て切れなかった

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「大丈夫か?」
「あぁ。応急処置のおかげで、もう動ける」
「ありがとな」
 気遣う遠藤の問い掛けに、負傷した二人は感謝する。
「よかった」
「しかし、まずい事になったな」
 安堵を漏らす遠藤に、河上が水を差す。
「ここは、原子炉内部だ」
 事態の悪化に五人の表情が強張る。
 劣勢に、遠藤はシールドを張り、一時撤退を指示した。
 河上が応戦する中、もう一人はゴッドスターを使い退路を確保する。おかげで全員が逃げ延びた。
「追ってくる気はなかった。ここに集める気だったなら、俺達は罠の中だ」
 負傷していない隊員が先行きの暗さを示唆する。
 血を使い、隠れた先を誤魔化し、負傷した隊員に応急処置を施していた。その最中には、誰の足音も聞こえていない。
 一度作戦を立て直す中、結界が発動——。そして、遠藤が率いる分隊は原子炉内部に飛ばされ、今の状況に至っている。
「でも、結城副隊長は原発に危害を加える気はないと言っていた……。大丈夫だっ」
 不測の事態に焦りは隠せないが、ここで士気を落とす訳にはいかない。遠藤は隊員を安心させようとする。
「それは人質にしている間だろ? 今の状況は変わっている。このまま、俺達を犠牲に要求を通す気じゃないのかっ?」
「いや、要求が通らない事は分かっている筈だ。このまま原発を破壊し、日本を非難に追い込む気だっ」
 隊員二人の言葉に遠藤の顔は曇り切る。負傷した隊員もだ。
「つまり、俺達を見捨てればよかったんだって、お前等は言っているのかよっ?」
 負傷した隊員の一人が怒りを発する。
「言ってないだろっ? 危機感を持てって言ってるだけだっ」
 そう言いつつも、言葉の真意は的を得てる。本音を隠すように河上は警告を怒鳴った。
「言われなくても分かってるっ! 責任押し付けたいんだろっ⁉︎」
 付き合いが長い分、真意が見える。負傷したもう一人の隊員が本音を見透かす。
「痛い思いした俺達に、労わる言葉もないのかよっ⁉︎ それでも仲間か⁉︎」
 悲痛な声で訴える。
「ああっ。仲間だからなっ。俺がいくら頑張ろうとも、下手やる奴の犠牲になるんだよっ!」
「何だとっ⁉︎ てめぇ——」
 薄情な河上の言葉が更に怒りを煽った。
「やめろよっ‼︎」
 分隊長である遠藤の怒鳴り声が止めた。横で困惑していた二人も固まる。
「全部俺の所為だ——」
「そんな事ないだろ……」
 遠藤の声が、あまりに哀しく痛々しい。喧嘩の起因を作った河上は真っ先に否定した。
「俺が隊長だ! この分隊の命運は俺が握ってる。非難していいのは俺だけだ!」
 遠藤は、ここに来る前からずっと、全てを背負う覚悟で分隊長の任に就いていた。
「……悪かったよ」
「悪かった」
「言い合いしてる場合じゃないよな」
 負傷に非難を受けた隊員が謝罪し、困惑していた隊員が宥める。張りつめていた空気が和みだす。
「遠藤は、今でも生き延びられると思っているのか?」
 頭を過った疑問を河上は口にした。
「生き延びたい。只の願望だけど、誰も死なせたくない。俺は、まだお前等と過ごす日々が欲しい! まだ……未来があると信じて、捨て切れないんだっ」
 決死の覚悟は確かにあった。死にたくない訳じゃない。
 ただ、純粋に、これからも苦楽を共にする時間が欲しい。
 遠藤は切実に願う。
「俺もだよ」
「ああ、俺もだ」
「全員一致だな」
 思いは伝わった。何時だって気持ちを一つに危機を乗り越えてきた。
「ここは、まだ絶望じゃないかもしれない」
「皆で生きる為に、斬り抜けるかっ」
 隊員達は気合いを入れ直す。
「ああっ」
「了解だ!」
 全員の目に輝きが蘇る。
 死ぬ為じゃない。
 危機を乗り越える為に、気持ちを一つにした。
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