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友達できたっ。
しおりを挟む「本日の授業はここ迄です。この後は、高卒認定試験対策の授業になります。皆さん、お疲れ様でした」
若い女性教官は微笑ましく挨拶をした。
「ありがとうございました」
教室の女生徒達は声を揃えて発し、礼法に習ってお辞儀をする。
放課後のホームルームが終わり、他の生徒が友達と話し出す中、リリアは一人しょんぼりと帰り仕度を始めた。
「姫ー」
「姫も午後はないでしょ?」
二人の生徒が明るく声を掛けてきた。
「何、馴れ馴れしくしてるんですか⁉︎ その方は王族——」
「やっ、やだぁい‼︎」
教室を去ろうとした教官は、慌てて注意をしようとしたが、リリアの意味不明な叫びが止めた。
「すっ、すみませんっ」
教官に頭を下げた後、二人の生徒を向き見る。
「あのね、ずっと友達になりたかったの……」
潤んだ瞳で訴えるリリアを、左側にいる生徒は思わず抱き締めた。
「うん。もう大丈夫だよ。友達になろう」
優しく言うと、抱擁を解いた。
「私も友達になるよ」
右側の生徒も優しく言葉を掛けた。
二人は、リリアの潤んだ瞳に胸を打たれていた。
「私、相原千歳《あいはらちとせ》。私達は姫と同い年だよ」
自己紹介をした左側の生徒は、茶髪のロングヘアをサイドに結んでいる。百六十六センチある、すらりとした体型の垢抜けた今時の十代だ。
「私は、五十嵐美玖《いがらしみく》。私達、同じネンショー出だから高認は取っているんだ」
そう言った右側の生徒は、黒髪の姫カットで、少し暗めだが真面目そうな子だった。
ネンショーとは少年院の事だが、美玖はとても荒くれ者には見えない。身長が百五十四センチと小柄な上に華奢だ。
「燃焼?」
言葉の意味が分からないリリアは、火事という災難を思い浮かべてしまった。
「家がビンボーで、悪いバイトしてたんだ」
背景には、心を蝕む劣悪な環境があっただろうに、千歳は明るい。
「私は家は普通だけど、ウイルス自作してた」
前科を自白する美玖に、悪ぶれる素振りはない。平然としている。
それで家が火事に巻き込まれたんだ。
「二人とも大変だったんだね。それでも頑張っているんだ」
リリアの想像は的はずれだが、何故か話しは噛み合っている。
「姫も頑張ってるじゃん。冷やかしじゃなくて、超真剣なんだって、よく分かったよ」
そう言って、千歳は笑って見せた。
「私も」
美玖も同じ気持ちを抱いていた。
羽月の言う通りになった。
望ん結果にリリアは安堵する。
「そう言えばさぁ、相良中佐って怖くない? 教官達、知ってる人は全員怖がっているよ」
「全然怖くないよ。すっごく親切で頭のいい人だよ。多分、有能だから妬んでる人が多いんだと思う……」
千歳の疑問に、リリアは頭に描いていた全体像から、導き出した結果を述べた。
「そうだったんだ。実際、会ってみないと分からないもんだね」
美玖は納得する。千歳も顔見合わせ「だよね」と共感した。
羽月が教官達に怖がられているのは、現在の悪評からではない。学生時代から素行不良だったからだ。
軍人を育てる施設という事から、生徒に無駄に辛く当たる教官は少なくなかった。
そんな教官達は、羽月に辛く当たった後、決まって酷い返り討ちに遭わされた。
真夏の炎天下に屋外倉庫に閉じ込められる。乗っていた車が炎上する等、命を脅かす返り討ちが待っていた。
それでも退学処分を受けなかったのは、羽月の成績がとても優秀だったからだ。だが、那智と同じエリート部隊には入れなかった。
「そうだ。友達になった事だし、上野に新しく出来たアイス屋に三人で行かない?」
「嬉しいぃっ。行く——」
千歳の誘いに、リリアが喜んだ瞬間だった。
残念な事に、リリアのウェアラブル端末が鳴った。
通常の腕時計画面から、赤い緊急事態発生の文字に画面が変わっている。
事前に教えられていた通り、リリアは羽月に通信を入れる。
「あっ、あの……」
「——来なくていい。学生らしく、放課後楽しんどけっ」
「えっ、でもっ——」
聞き返す間もなく、通信は切られてしまう。
思考の整理が追い付かず、リリアの頭は疑問符だらけだ。
「行かなきゃ駄目なやつじゃない? 緊急時対応は総司令官からの絶対命令でしょ」
呆然としているリリアに、美玖が声を掛けた。
「だと思うんだけど……?」
確かに、そう教えられている。
行かなければ命令無視という軍規違反に該当する。総司令官からの命令なら更に厳罰だ。
違反になる羽月の指示にリリアは戸惑う
「また誘うよ」
「ありがとう。行ってくるっ」
にこやかに言葉を掛ける千歳に背を押され、リリアは急行する事にした。
「——ねぇ。やっぱり、相良中佐って噂通りの人なんじゃない?」
リリアの背中を見送り、美玖は疑心を漏らす。
「私も、そう思う」
千歳も同じ印象を抱いていた。
たった数秒のやり取りだったが、二人が羽月の悪評を信じるには充分だった。
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