59 / 133
リリアの剣
しおりを挟む
ゲートはマンション前に現れた。
噴水の前で、リリアと那智は待ち構える。
リリアは真剣な表情で刀を構えているが、那智は穏やかな表情で刀を鞘に納めている。
「深呼吸して下さい。あまりに緊張すると、太刀筋が固くなりますから」
リリアの横で後ろ手に組み、那智は柔らかに助言する。
「はっ、はい——」
言われた通りに、リリアは刀を構えたまま深呼吸した。
リリアは羽と子羽、尻尾も出して準備万全にしている。
通常の制服はソフィアが特許を持つ合成繊維だが、リリアの制服は上のみ魔界製繊維で作られている。その為、羽を出しても破れない。
ゲートが開き、血刃が飛んでくる。
直ぐ様、リリアは払おうとしたが、目に見えぬ速さで抜刀した那智が前にいる。一振りで全て払っていた。
呆然とリリアは瞬きをする。
「何だよ、てめぇら……」
「退けよ、邪魔だ」
不愉快を露骨に現れたドラキュラは、民兵というよりチンピラのような風貌をした七人の男達だった。
「七名だけですか? 御仲間は?」
那智は刀を鞘に納め、丁寧に問い掛けた。
大勢いる言ってたんは、見栄張りか……。
心の中で那智は呟く。
「人数集めて欲しいって言ってたな。やっぱ、まだ血は大量にあんのか」
一番前にいるドラキュラは確信に、口端を吊り上げた。
「退けよ。血を回収する」
「次いでに、アホヤクザ共を処分してやるからよぅ。退きなっ、見逃してやるよ」
余裕たっぷりにドラキュラ達は発する。
「どちらも手遅れです。お帰り頂けませんか? こちらも不要な殺生は避けたい」
えっ、手遅れ……。血は分かるけど……。
疑問を抱いたリリアは、那智に怪訝な顔を向けた。
禍々しく、心臓が早鐘を打つ。
「あぁっ⁉︎ ナメてんのかっ、人間と尻尾も取れねぇサキュバスのガキがっ!」
平静に戦闘を避けようとする那智の問い掛けは、ドラキュラ達を刺激してしまった。
ドラキュラ達は剣を振り、血刃を放つ。
「こっ、こちらは任務ですが、そちらは違うでしょっ? 充分血は集めたんだし、帰って下さいっ!」
疑心暗鬼に陥っている場合ではなかった。リリアは慌てて血刃を払い、戦闘を避ける為に声を荒げた。
出来るなら殺し合いなんてしたくない。
「うるせーっ、くたばれっ、ガキがっ‼︎」
先陣を切った男が飛び、二刀の短剣を振り、大量の血刃を降らせる。
リリアも刀を振り、ピンクの刃と剣撃で血刃を払う。
その背後で、リリアと那智に斬り掛かる敵三人を、那智がほぼ同時に斬り倒す。
空中で二刀を使う男と、リリアは剣撃を交わす。
何度かリリアは刀で躱したが、短剣を合わせ、長く太くした剣で払われる。地面に落下してしまう。
「終わりだっ! くたばれっ‼︎」
男が剣から大量の血刃を放った。
しまったっ——。
焦り、リリアはシールドを出そうとしたが、目の前に来た那智が一振りで血刃を全て払った。
既に、他の敵は全員倒していた。
「空中での踏み込みが弱いです。地面を破る勢いで踏み込んで下さい」
余裕たっぷりに、那智は背中を向けたまま助言する。
「はっ、はい!」
リリアが立ち上がると、那智は退いた。
「調子に乗ってんなよっ‼︎ 雑魚生物がっ!」
空中から容赦なき斬撃がリリアに向かう。
リリアは刀で受け、頭の前で止めた。
両手の痺れを堪え、リリアは空中に強く踏み込んだ。……が、刀を払われてしまった。
脇腹を蹴り飛ばされる。
直傍で見ている那智は、刀を鞘に納めている。後ろ手に組み静観している。
助ける気があるのか、ないのか丸で分からない。
男はリリアに剣撃を振り下ろす。
自身に振り下ろされる前に、リリアは男の腹をピンクの刃で貫いた。
血を吐き、男は絶命した。
紙一重だった。危うく死ぬ寸前だった。
転がり、慌てて左手から刃を放ったリリアは、息を整えながら立ち上がった。
まだ落ち着かない心臓を労わる。頭の子羽と羽を消す。尻尾を消し忘れて、リリアは那智に習い、一礼して刀を消した。
「協力関係ではなかったんですね」
そう言い、那智を窺う。
「ですね。実は利用し合う間柄——。よくあるオチです」
ふと、那智は刀を抜いた。
「リリア様、構えてくれますか?」
「えっ、あ、はい——」
素直に聞き入れ、リリアは中段に構えた。
那智は刀を片手で持ち、リリアの刀身に振り下ろす。
両手に力を込めてはいたが、リリアは呆気なく刀を落としてしまう。
「手ではなく、姿勢で持つんですよ。それと、刀ではなく身体で斬る」
柔らかに指導し、那智は刀を鞘に納めた。
「はい……。気を付けます」
呆気に捉えながら、リリアは刀を拾って消し、那智の顔を見る。
「指導していたのは、シェリー先生ですか?」
質問する那智は変わらず柔らかだが、何故か刺さるように感じる。
「そうです。でも、日本人の剣道の先生からも、一カ月に一度くらいで御指導頂きました」
「魔力中心の闘いと剣術中心は違いますからね」
あの子(シェリー)我流やろうな。何でか知らんけど……基盤築いてない。
闘うリリアを見れば、那智には容易く見当が付く。
「剣術を頑張れば、私も強くなれますか?」
那智さん、魔力ないのにシェリー先生よりも絶対に強い。刃も使わないで圧勝してる。
魔力がなくても、那智はドラキュラに圧勝出来る。まだ一度しか覚醒していない、魔力の低いリリアに、人間の那智は希望を与えていた。
「勿論強くなれますよ。私は剣術指南でもありますから、御期待通り指導致しましょう」
「やったぁ! ありがとうございますっ」
リリアは喜び、お辞儀する。
人間に支給される武器は、人間の意思を反映させるように製造されている。
魔人は念じて、意のままに武器をコントロールする。対して人間の場合は、身体能力と個人の戦闘能力が要になる。
誰でも同じようには武器を使いこなせない。
噴水の前で、リリアと那智は待ち構える。
リリアは真剣な表情で刀を構えているが、那智は穏やかな表情で刀を鞘に納めている。
「深呼吸して下さい。あまりに緊張すると、太刀筋が固くなりますから」
リリアの横で後ろ手に組み、那智は柔らかに助言する。
「はっ、はい——」
言われた通りに、リリアは刀を構えたまま深呼吸した。
リリアは羽と子羽、尻尾も出して準備万全にしている。
通常の制服はソフィアが特許を持つ合成繊維だが、リリアの制服は上のみ魔界製繊維で作られている。その為、羽を出しても破れない。
ゲートが開き、血刃が飛んでくる。
直ぐ様、リリアは払おうとしたが、目に見えぬ速さで抜刀した那智が前にいる。一振りで全て払っていた。
呆然とリリアは瞬きをする。
「何だよ、てめぇら……」
「退けよ、邪魔だ」
不愉快を露骨に現れたドラキュラは、民兵というよりチンピラのような風貌をした七人の男達だった。
「七名だけですか? 御仲間は?」
那智は刀を鞘に納め、丁寧に問い掛けた。
大勢いる言ってたんは、見栄張りか……。
心の中で那智は呟く。
「人数集めて欲しいって言ってたな。やっぱ、まだ血は大量にあんのか」
一番前にいるドラキュラは確信に、口端を吊り上げた。
「退けよ。血を回収する」
「次いでに、アホヤクザ共を処分してやるからよぅ。退きなっ、見逃してやるよ」
余裕たっぷりにドラキュラ達は発する。
「どちらも手遅れです。お帰り頂けませんか? こちらも不要な殺生は避けたい」
えっ、手遅れ……。血は分かるけど……。
疑問を抱いたリリアは、那智に怪訝な顔を向けた。
禍々しく、心臓が早鐘を打つ。
「あぁっ⁉︎ ナメてんのかっ、人間と尻尾も取れねぇサキュバスのガキがっ!」
平静に戦闘を避けようとする那智の問い掛けは、ドラキュラ達を刺激してしまった。
ドラキュラ達は剣を振り、血刃を放つ。
「こっ、こちらは任務ですが、そちらは違うでしょっ? 充分血は集めたんだし、帰って下さいっ!」
疑心暗鬼に陥っている場合ではなかった。リリアは慌てて血刃を払い、戦闘を避ける為に声を荒げた。
出来るなら殺し合いなんてしたくない。
「うるせーっ、くたばれっ、ガキがっ‼︎」
先陣を切った男が飛び、二刀の短剣を振り、大量の血刃を降らせる。
リリアも刀を振り、ピンクの刃と剣撃で血刃を払う。
その背後で、リリアと那智に斬り掛かる敵三人を、那智がほぼ同時に斬り倒す。
空中で二刀を使う男と、リリアは剣撃を交わす。
何度かリリアは刀で躱したが、短剣を合わせ、長く太くした剣で払われる。地面に落下してしまう。
「終わりだっ! くたばれっ‼︎」
男が剣から大量の血刃を放った。
しまったっ——。
焦り、リリアはシールドを出そうとしたが、目の前に来た那智が一振りで血刃を全て払った。
既に、他の敵は全員倒していた。
「空中での踏み込みが弱いです。地面を破る勢いで踏み込んで下さい」
余裕たっぷりに、那智は背中を向けたまま助言する。
「はっ、はい!」
リリアが立ち上がると、那智は退いた。
「調子に乗ってんなよっ‼︎ 雑魚生物がっ!」
空中から容赦なき斬撃がリリアに向かう。
リリアは刀で受け、頭の前で止めた。
両手の痺れを堪え、リリアは空中に強く踏み込んだ。……が、刀を払われてしまった。
脇腹を蹴り飛ばされる。
直傍で見ている那智は、刀を鞘に納めている。後ろ手に組み静観している。
助ける気があるのか、ないのか丸で分からない。
男はリリアに剣撃を振り下ろす。
自身に振り下ろされる前に、リリアは男の腹をピンクの刃で貫いた。
血を吐き、男は絶命した。
紙一重だった。危うく死ぬ寸前だった。
転がり、慌てて左手から刃を放ったリリアは、息を整えながら立ち上がった。
まだ落ち着かない心臓を労わる。頭の子羽と羽を消す。尻尾を消し忘れて、リリアは那智に習い、一礼して刀を消した。
「協力関係ではなかったんですね」
そう言い、那智を窺う。
「ですね。実は利用し合う間柄——。よくあるオチです」
ふと、那智は刀を抜いた。
「リリア様、構えてくれますか?」
「えっ、あ、はい——」
素直に聞き入れ、リリアは中段に構えた。
那智は刀を片手で持ち、リリアの刀身に振り下ろす。
両手に力を込めてはいたが、リリアは呆気なく刀を落としてしまう。
「手ではなく、姿勢で持つんですよ。それと、刀ではなく身体で斬る」
柔らかに指導し、那智は刀を鞘に納めた。
「はい……。気を付けます」
呆気に捉えながら、リリアは刀を拾って消し、那智の顔を見る。
「指導していたのは、シェリー先生ですか?」
質問する那智は変わらず柔らかだが、何故か刺さるように感じる。
「そうです。でも、日本人の剣道の先生からも、一カ月に一度くらいで御指導頂きました」
「魔力中心の闘いと剣術中心は違いますからね」
あの子(シェリー)我流やろうな。何でか知らんけど……基盤築いてない。
闘うリリアを見れば、那智には容易く見当が付く。
「剣術を頑張れば、私も強くなれますか?」
那智さん、魔力ないのにシェリー先生よりも絶対に強い。刃も使わないで圧勝してる。
魔力がなくても、那智はドラキュラに圧勝出来る。まだ一度しか覚醒していない、魔力の低いリリアに、人間の那智は希望を与えていた。
「勿論強くなれますよ。私は剣術指南でもありますから、御期待通り指導致しましょう」
「やったぁ! ありがとうございますっ」
リリアは喜び、お辞儀する。
人間に支給される武器は、人間の意思を反映させるように製造されている。
魔人は念じて、意のままに武器をコントロールする。対して人間の場合は、身体能力と個人の戦闘能力が要になる。
誰でも同じようには武器を使いこなせない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる