BloodyHeart

真代 衣織

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リリアの剣

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 ゲートはマンション前に現れた。
 噴水の前で、リリアと那智は待ち構える。
 リリアは真剣な表情で刀を構えているが、那智は穏やかな表情で刀を鞘に納めている。
「深呼吸して下さい。あまりに緊張すると、太刀筋が固くなりますから」
 リリアの横で後ろ手に組み、那智は柔らかに助言する。
「はっ、はい——」
 言われた通りに、リリアは刀を構えたまま深呼吸した。
 リリアは羽と子羽、尻尾も出して準備万全にしている。
   通常の制服はソフィアが特許を持つ合成繊維だが、リリアの制服は上のみ魔界製繊維で作られている。その為、羽を出しても破れない。
 ゲートが開き、血刃が飛んでくる。
 直ぐ様、リリアは払おうとしたが、目に見えぬ速さで抜刀した那智が前にいる。一振りで全て払っていた。
 呆然とリリアは瞬きをする。
「何だよ、てめぇら……」
「退けよ、邪魔だ」
 不愉快を露骨に現れたドラキュラは、民兵というよりチンピラのような風貌をした七人の男達だった。
「七名だけですか? 御仲間は?」
 那智は刀を鞘に納め、丁寧に問い掛けた。
 大勢いる言ってたんは、見栄張りか……。
 心の中で那智は呟く。
「人数集めて欲しいって言ってたな。やっぱ、まだ血は大量にあんのか」
 一番前にいるドラキュラは確信に、口端を吊り上げた。
「退けよ。血を回収する」
「次いでに、アホヤクザ共を処分してやるからよぅ。退きなっ、見逃してやるよ」
 余裕たっぷりにドラキュラ達は発する。
「どちらも手遅れです。お帰り頂けませんか? こちらも不要な殺生は避けたい」
 えっ、手遅れ……。血は分かるけど……。
 疑問を抱いたリリアは、那智に怪訝な顔を向けた。
 禍々しく、心臓が早鐘を打つ。
「あぁっ⁉︎ ナメてんのかっ、人間と尻尾も取れねぇサキュバスのガキがっ!」
 平静に戦闘を避けようとする那智の問い掛けは、ドラキュラ達を刺激してしまった。
 ドラキュラ達は剣を振り、血刃を放つ。
「こっ、こちらは任務ですが、そちらは違うでしょっ? 充分血は集めたんだし、帰って下さいっ!」
 疑心暗鬼に陥っている場合ではなかった。リリアは慌てて血刃を払い、戦闘を避ける為に声を荒げた。
 出来るなら殺し合いなんてしたくない。
「うるせーっ、くたばれっ、ガキがっ‼︎」
 先陣を切った男が飛び、二刀の短剣を振り、大量の血刃を降らせる。
 リリアも刀を振り、ピンクの刃と剣撃で血刃を払う。
 その背後で、リリアと那智に斬り掛かる敵三人を、那智がほぼ同時に斬り倒す。
 空中で二刀を使う男と、リリアは剣撃を交わす。
 何度かリリアは刀で躱したが、短剣を合わせ、長く太くした剣で払われる。地面に落下してしまう。
「終わりだっ! くたばれっ‼︎」
 男が剣から大量の血刃を放った。
 しまったっ——。
 焦り、リリアはシールドを出そうとしたが、目の前に来た那智が一振りで血刃を全て払った。
 既に、他の敵は全員倒していた。
「空中での踏み込みが弱いです。地面を破る勢いで踏み込んで下さい」
 余裕たっぷりに、那智は背中を向けたまま助言する。
「はっ、はい!」
 リリアが立ち上がると、那智は退いた。
「調子に乗ってんなよっ‼︎ 雑魚生物がっ!」
 空中から容赦なき斬撃がリリアに向かう。
 リリアは刀で受け、頭の前で止めた。
 両手の痺れを堪え、リリアは空中に強く踏み込んだ。……が、刀を払われてしまった。
 脇腹を蹴り飛ばされる。
 直傍で見ている那智は、刀を鞘に納めている。後ろ手に組み静観している。
 助ける気があるのか、ないのか丸で分からない。
 男はリリアに剣撃を振り下ろす。
 自身に振り下ろされる前に、リリアは男の腹をピンクの刃で貫いた。
 血を吐き、男は絶命した。
 紙一重だった。危うく死ぬ寸前だった。
 転がり、慌てて左手から刃を放ったリリアは、息を整えながら立ち上がった。
 まだ落ち着かない心臓を労わる。頭の子羽と羽を消す。尻尾を消し忘れて、リリアは那智に習い、一礼して刀を消した。
「協力関係ではなかったんですね」
 そう言い、那智を窺う。
「ですね。実は利用し合う間柄——。よくあるオチです」
 ふと、那智は刀を抜いた。
「リリア様、構えてくれますか?」
「えっ、あ、はい——」
 素直に聞き入れ、リリアは中段に構えた。
 那智は刀を片手で持ち、リリアの刀身に振り下ろす。
 両手に力を込めてはいたが、リリアは呆気なく刀を落としてしまう。
「手ではなく、姿勢で持つんですよ。それと、刀ではなく身体で斬る」
 柔らかに指導し、那智は刀を鞘に納めた。
「はい……。気を付けます」
 呆気に捉えながら、リリアは刀を拾って消し、那智の顔を見る。
「指導していたのは、シェリー先生ですか?」
 質問する那智は変わらず柔らかだが、何故か刺さるように感じる。
「そうです。でも、日本人の剣道の先生からも、一カ月に一度くらいで御指導頂きました」
「魔力中心の闘いと剣術中心は違いますからね」
 あの子(シェリー)我流やろうな。何でか知らんけど……基盤築いてない。
 闘うリリアを見れば、那智には容易く見当が付く。
「剣術を頑張れば、私も強くなれますか?」
 那智さん、魔力ないのにシェリー先生よりも絶対に強い。刃も使わないで圧勝してる。
 魔力がなくても、那智はドラキュラに圧勝出来る。まだ一度しか覚醒していない、魔力の低いリリアに、人間の那智は希望を与えていた。
「勿論強くなれますよ。私は剣術指南でもありますから、御期待通り指導致しましょう」
「やったぁ! ありがとうございますっ」
 リリアは喜び、お辞儀する。
 人間に支給される武器は、人間の意思を反映させるように製造されている。
 魔人は念じて、意のままに武器をコントロールする。対して人間の場合は、身体能力と個人の戦闘能力が要になる。
 誰でも同じようには武器を使いこなせない。
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