42 / 133
疑惑のゲート
しおりを挟む
「——そろそろ帰る。ご馳走様」
散々、一方的に注意事項を伝えたシェリーは、コーヒーを飲み干して席を立った。
「ゲートまで送りますよ」
うんざりした顔で親切を言う羽月に、シェリーを呆れた溜息をついた。
「あぁ、まだ何かあんのか?」
露骨に苛立ちを見せ、羽月は尋ねる。
「人口減少で、不動産は余り値崩れを起こしている。特に大都市部は……。なのに、何故、相良中佐は事故物件に住んでいる?」
大都市部の人口減少は、戦火を免れる為もある。近年は、東京から電車で三十分程の郊外が人気エリアになっている。
「ああ。犯人が捕まっていないんで、軍人が住んでくれれば住民が安心するって言うんで……。まぁ、格安だったからですよ」
二人の発言に、今迄オロオロしていたリリアが一気に青褪めた。
「えっ⁉︎ えっ? 事故物件⁉︎ 嘘ですよね?」
「本当だ。この階の共用廊下で、フロア借りしていたIT社長が、メッタ刺しにされて殺された」
寒慄するリリアに、羽月はトドメを刺す事実を話した。
「では、失礼する」
シェリーは玄関に向かい、羽月も付いて向かう。
「シェ、シェ、シェリー先生、お気を付けて……」
と言うリリアは、ソファーから立つも、崩れる様に膝を付き、助けを乞う様に右手を伸ばしている。
——ゲートを登録したマンションのエントランス前でシェリーは振り向く。羽月に鋭い視線を向けた。
ゲートは、建造物内と空中には登録出来ない。
「あまり無礼な真似をするなよ。我が王国の侮辱行為に値する。私と近衛隊には、王族に危害を加える者を始末していい権限があるっ」
湧き上がる怒りを押さえ、シェリーは威嚇する。
「王族は治外法権ですからね」
羽月は軽く笑った。
「……気に食わねぇのは、立場を取られた事じゃねぇな。俺に対する疑心暗鬼だ」
「そんな貴様に、女王陛下は尽力してくれている。敬意を持てっ!」
「持っていますよ。忠誠心を評価しない権力者は信頼出来る」
馬鹿にした様な羽月に、シェリーの怒りは煽られた。
この野郎っ……。
沸騰する怒りを、シェリーは奥歯で噛み砕く。
「疑心暗鬼は持ち帰る」
釘を刺し、シェリーはリストバンドから鍵を出し、地面に刺した。
一般的な玄関ドア程度のゲートが現れる。
「レガイロみたいな、善意を仕向ける悪党もいますからね。お気を付けて——」
シェリーの背中に、羽月は挑発としか思えない言葉を掛けた。
右手だけを向け、シェリーは赤い刃を一筋放った。
羽月は体を横にし、ズボンのポケットに手を入れたまま、ひらりと躱す。
再び前を見ると、ゲートは消え、シェリーは帰って行った。
——羽月が玄関のドアを開けると、体育座りでリリアが待っている。
「……お、お帰りなさい」
上げた顔は涙目で青褪めている。胸中が分かり易く声が震えている。
「飯食ったら、将棋でもするか? 気ぃ紛れるだろ?」
「は、はい。是非ぃ……。将棋、気になって調べてたんですぅ」
散々、一方的に注意事項を伝えたシェリーは、コーヒーを飲み干して席を立った。
「ゲートまで送りますよ」
うんざりした顔で親切を言う羽月に、シェリーを呆れた溜息をついた。
「あぁ、まだ何かあんのか?」
露骨に苛立ちを見せ、羽月は尋ねる。
「人口減少で、不動産は余り値崩れを起こしている。特に大都市部は……。なのに、何故、相良中佐は事故物件に住んでいる?」
大都市部の人口減少は、戦火を免れる為もある。近年は、東京から電車で三十分程の郊外が人気エリアになっている。
「ああ。犯人が捕まっていないんで、軍人が住んでくれれば住民が安心するって言うんで……。まぁ、格安だったからですよ」
二人の発言に、今迄オロオロしていたリリアが一気に青褪めた。
「えっ⁉︎ えっ? 事故物件⁉︎ 嘘ですよね?」
「本当だ。この階の共用廊下で、フロア借りしていたIT社長が、メッタ刺しにされて殺された」
寒慄するリリアに、羽月はトドメを刺す事実を話した。
「では、失礼する」
シェリーは玄関に向かい、羽月も付いて向かう。
「シェ、シェ、シェリー先生、お気を付けて……」
と言うリリアは、ソファーから立つも、崩れる様に膝を付き、助けを乞う様に右手を伸ばしている。
——ゲートを登録したマンションのエントランス前でシェリーは振り向く。羽月に鋭い視線を向けた。
ゲートは、建造物内と空中には登録出来ない。
「あまり無礼な真似をするなよ。我が王国の侮辱行為に値する。私と近衛隊には、王族に危害を加える者を始末していい権限があるっ」
湧き上がる怒りを押さえ、シェリーは威嚇する。
「王族は治外法権ですからね」
羽月は軽く笑った。
「……気に食わねぇのは、立場を取られた事じゃねぇな。俺に対する疑心暗鬼だ」
「そんな貴様に、女王陛下は尽力してくれている。敬意を持てっ!」
「持っていますよ。忠誠心を評価しない権力者は信頼出来る」
馬鹿にした様な羽月に、シェリーの怒りは煽られた。
この野郎っ……。
沸騰する怒りを、シェリーは奥歯で噛み砕く。
「疑心暗鬼は持ち帰る」
釘を刺し、シェリーはリストバンドから鍵を出し、地面に刺した。
一般的な玄関ドア程度のゲートが現れる。
「レガイロみたいな、善意を仕向ける悪党もいますからね。お気を付けて——」
シェリーの背中に、羽月は挑発としか思えない言葉を掛けた。
右手だけを向け、シェリーは赤い刃を一筋放った。
羽月は体を横にし、ズボンのポケットに手を入れたまま、ひらりと躱す。
再び前を見ると、ゲートは消え、シェリーは帰って行った。
——羽月が玄関のドアを開けると、体育座りでリリアが待っている。
「……お、お帰りなさい」
上げた顔は涙目で青褪めている。胸中が分かり易く声が震えている。
「飯食ったら、将棋でもするか? 気ぃ紛れるだろ?」
「は、はい。是非ぃ……。将棋、気になって調べてたんですぅ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる