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蹂躙されるマスメディア
しおりを挟む「あの……勇敢なのは私じゃありません。秘書官です。全て、秘書官、米田君のおかげです」
テレビでは、ヒーローと称賛を受けた藤井大臣がインタビューに答えている。
自身の住まい、二七〇一号室で羽月はリビングのソファーに座り、昼のニュースを見ていた。
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事後報告をした後、相良達、三〇一隊の相次いだ違反行為は全て不問となる。サキュバス王室から感謝と共に多額の謝礼金が支払われた。
「——さっすが、なっちー。予備持ってて助かった」
羽月の隣に座った伊吹はスマートフォンで那智と電話中だ。
「……他は、揃ってますか?」
「羽月と同じ事言ってる。確認済みだよ。大丈夫」
「手袋でよかったよ。軍刀、失くしてなくて……」
電話を切った伊吹を羽月は冷淡に揶揄った。
「さすがにそれはねぇよ」
呑気な様子で伊吹は返す。
通常、サファイア・テレジア女王陛下と謁見する場合、白い礼服を着るのが規則だ。礼服の場合は、式典用の軍刀を帯刀し、他の武器は持ち込まない。
礼服は、式典用の為、着る機会は少ない。滅多に着ないので礼服の手袋を伊吹は失くしてしまっていた。
「成長した姿、超可愛いね。よかったね」
ダイニングテーブルでは、志保がリリア王女のヘアメイクをしている。せっかくの再会だからと志保の心遣いだ。
「ありがとうございます。……でも、百六十センチしかなかった」
お姉ちゃんぐらいには身長伸びてると思ったのに……。リリア王女は残念がっていた。ソフィア王女の身長は百六十六センチだ。
魔人の平均身長は欧米人より低いが日本人よりも高い。だが、リリア王女は日本人の平均しかなかった。
「志保さんみたいなモデル体型になりたいな……」
志保は、百六十八センチのモデル体型で、誰もが目を惹く美脚の持ち主だ。
「まだ伸びるよ」
「そうそう。俺だって二十二迄伸びて、羽月の背超えたよ。二十歳迄は一緒だったのに」
笑顔で励ます志保に伊吹が重ねる。
「でーきたっ」
巻いた髪を、ハーフアップにした部分にリボンを着け、志保が完了を告げた。
「いいっ! 可愛い!」
親指を立て伊吹が褒める。
「可愛い。志保は腕がいいな」
反応は薄いが羽月も褒めた。
「鏡、見てきていいですか?」
ウキウキしながら尋ねるリリア王女に「見てきなよ」と志保が促した。
「あっ、待った」
声を掛けた羽月が、前にあるテーブルの下から小さい紙袋を出し、リリア王女に手渡した。
紙袋を受け取ったリリア王女はラッピングされた箱を取り出す。
「開けていいですか?」
「どうぞ」
羽月から了承を得て丁寧にラッピングを解き開ける。
中身はネックレスだ。三連の真珠の輪に、シルバーの縁が施された、ハート型のローズクウォーツシが中心にある。
「可愛いっ! ありがとうございます」
瞳をキラキラさせてリリア王女は喜びに頭を下げた。
「ずっと物騒なモン付けられてたからな。俺達からだ」
俺達と言う羽月だが実際には羽月からだ。個人的に選んで買って来た。
「せっかくだし着けてもらいなよ」
志保に言われ、後ろを向いたリリア王女に羽月が着ける。
浮かれ気味に玄関の姿見をリリア王女は見に行く。
——映した自分の姿に歓喜する。
志保からプレゼントされた、落ち着きのあるフェミニンなデザインの黒いワンピースと、羽月からプレゼントされたネックレス。ハーフアップで、緩く巻いた髪型に可愛いらしいが大人っぽいメイク。
映した自分の姿に、リリア王女は満面の笑顔でクルクル回りポーズを取った。
「ああしてると王族、サキュバスの前に普通に十六歳の女の子だよね」
「そうだね。雲の上の存在なのにね」
伊吹の隣に来た志保が微笑ましく言う。立ってる志保を見上げ伊吹は目を合わせ共感した。
「あの、本当に、色々とありがとうございました」
丁寧にお辞儀しリリア王女は心からの感謝を伝える。
「いいえ。私まで、いいお金貰っちゃた。お礼伝えてね」
「やっと帰れるね」
笑顔で言う伊吹に「はいっ」と言い、満面の笑みを向けたが……。
「あっ……。ごめんなさい!」
リリア王女は、以前知った事実を思い出し、慌てて謝罪した。申し訳なく後悔している。
「どうしたの?」
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「……軍人の人達は、親を亡くして、もう会えない人ばかりなのに……」
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「気にしなくていいよ。確かに、那智と旭は親いないし……。羽月も、アルツハイマーの母親以外、家族いないけど……。まぁ、いたってホームアウェイだけど……」
笑みを繕い、目を泳がせながら伊吹は言葉を探す。
近年、家庭に居場所のない子供をホームアウェイ児童、役割のない父親をホームアウェイ父《ふ》と呼称される。
「お母さん、どうしているんですか?」
心配そうにリリア王女は尋ねる。
「施設にいる。高齢化社会で、介護施設が足りない中でも、軍人の家族だから優先で入居出来てる。二親等以内は医療費が無料だから、問題は何もない」
「支援が豊富で助かってるよ。家は貧乏子沢山だから。公立校の学費、全部タダで大助かり」
羽月に続けて伊吹が明るく恩を言った。
「様々な事情があって皆様は大変なのに……。私は、助けてもらって……」
不自由なく暮らす。リリア王女は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
「素直に喜べよ。何も知らねぇガキにまで辛く当たったら悪趣味だろ」
そう言い羽月は薄く笑った。
「そうそう。助けたリリアちゃんが笑顔でいたら嬉しいって、ねっ」
重ねた志保が伊吹と目を合わせる。
「そうそう。あっ……そういや、貧血になったらロリア化すんの?」
重たい空気を変えようと伊吹がくだけた質問をしてきた。
「しませんよ。覚醒したので」
答えるリリア王女に笑顔が戻る。
「おっ、旭だ」
伊吹のスマートフォンが鳴った。
「伊吹さん、忘れモンねぇスッか?」
馬鹿にしたように旭は尋ねる。
「手袋だけだよ。お前こそ大丈夫か?」
揶揄い半分に伊吹は問い掛けた。
「ねぇよ。アンタじゃあるまいし……。ピアス外しとけよ」
「分かってるって。旭も間違えられるからイヤホン外しとけよ」
旭は普段から左耳にピアス型のイヤホンを着けている。
「分かってます。後でなぁ」
「——そろそろ髪セットしよっ」
電話を切って、洗面室に行こうと伊吹は立ち上がった。
「って、お前待てっ!」
ギョッとし、羽月は呼び止める。
リリア王女は咄嗟に両手で目を覆う。
「伊吹……。ズボン、破れてる」
志保の声に伊吹はお尻を見て慌てる。
「えっ、えっ、ええっ⁉︎」
スラックスの尻部分、割れ目が破れ、ピンクの豹柄が見えていた。
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