BloodyHeart

真代 衣織

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鮮光のレクイエム

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 何度も振り下ろされる剣撃に耐え切れず、リリア王女のシールドが破れた。
 咄嗟に右手の刀で振り払う。ドラキュラ軍人の刀を飛ばせたが、リリア王女は刀を落としてしまう。直後、ドラキュラ軍人は首を掴む。壁に叩きつけると、リリア王女の顔を何度も殴った。
「人間は、魔人の前に金で飼われてるっ、下等生物だっ‼︎ レガイロだけじゃない! お前だって見ただろっ⁉︎」
 その言葉に、リリア王女の目が曇り出す。
「っ皆が、そうじゃないっ」
 血が溢れる口を動かし、リリア王女は反論する。
「覚えているだろっ⁉︎ イスラム過激派と、統治している地区だっ‼︎」
 リリア王女の頭を掴み、壁にヒビが入る程、激しく打ち付けた。
「爆撃により、両目を失った女児を抱え、監視を潜って来た母親だっ‼︎」
 憎悪を剥き出しに、ドラキュラ軍人は怒鳴る。
「っ忘れられない……」
 グラつきながら、リリア王女は弱々しく口を動かす。
「子供を助けて欲しいと、言うと思ったら……」
 ——お金を下さい。
 ドラキュラ軍人とリリア王女の悲痛な記憶だ。
 統治されている地区では、女性は目以外を布で覆っている。そのおかげで、リリア王女も目以外を隠して、監視を伴い外に出れる日もあった。
 統治されている地区では、民間人全員がイスラム過激派の管理下に置かれる。全員がドラキュラの家畜に登録され、老人と傷病者以外の男は兵士に登録される。後に、イスラム過激派により順番を決められ、ドラキュラ達に略取されていく。
 女性は物として扱わられ、必要な外出さえ許可と同伴者が必要だった。もしも、女性が一人で外出していれば見せしめに殺された。
 そんな中、若い母親が女児を抱えて、一人でドラキュラ帝国軍の基地に走って来た。腕に抱いた女児の顔は血だらけだ。
 停戦はしているものの、軍事衝突は絶えず続いている状況下だった。
 女尊男卑の名残りがあるドラキュラ帝国軍人は、母性を敬う為、基地の警備兵は中に通した。
 そして、このドラキュラ軍人も——。
 安心させようと、布で覆われたリリア王女を連れて話しを聞きに来た。
 若い母親は、二人を前にすると地面に女児を置いて平伏した。
『この子をあげますから、お金を下さいっ。兵士の旦那が死んで、女だから働けないんです。……お願いしますっ』
 涙ながらに母親は懇願する。
 女児を受け取ったドラキュラ軍人は心底軽蔑した。
 爪を長くし、母親の首を引き裂いた。
「——人間には万物創生の母性すらない! 最も下等な生物だっ‼︎」
 動けっ……動けっ……
 頭を何度も打ち付けられ、ぐらつきながらもリリア王女は刀に念じる。
 リリア王女の刀が動いた。
 ドラキュラ軍人の男性器を刺し、連続して睾丸を刺した。
「っぎゃぁっ‼︎」
 強烈な痛みに、ドラキュラ軍人の手が緩んだ。
 瞬時に、リリア王女は刺した男性器と睾丸に、全力の蹴りを両脚で入れた。
 膝が崩れ、ドラキュラ軍人は股間を押さえて蹲り悶絶している。
「ってめえ……。よくもっ……‼︎」
 ……効いてる。
 頭を打ち付けられていたリリア王女に、当たった場所は分からないが、勝機とは分かった。
「魔人も人間も過ちを犯す! 完璧な人は何処にもいないっ! 優劣を測れる程、誰も偉くないっ‼︎」
 右手に向かって来た刀を構え、リリア王女は真っ直ぐな眼で力強く言い放った。
「……勝たない限り、どんな主張も戯言だ。力量を思い知れっ‼︎」
 ドラキュラ軍人は刀を支えに立ち上がり、左腕の上腕を振る。すると、斬られた左腕が戻って来る。
 しまったっ……。もう、治癒が……。でも……。
「負けないもんっ‼︎」
 撃たれると分かっても、リリア王女は斬り掛かる。
 突如、壁が爆発した。
 対峙する二人の間に大穴が開く——。
 驚きに、ドラキュラ軍人が視線を向けたと同時に、戻ろうとする左腕を爆破された。
 爆煙の向こうには、両手でゴッドスターを構えた羽月がいる。
 僅かな隙を捉え、リリア王女の刀がドラキュラ軍人の心臓を貫いた。
 刀が血を奪い返し、赤く染まっていく。
 ドラキュラ軍人は絶命した。
「きゃぁっ」
 凄い勢いで逆流が始まり、リリア王女は赤い光に包まれた。
 逆流の勢いに負け、リリア王女は意識を手放す。
 服が破れ、身体が成長し始める——。
 左手首の刻印が光った。……瞬間、刻印はローズピンクの光を、辺り一面に放つ。
 咄嗟に、羽月は右腕で視界を覆っていた。
 全ての罪を許す様に優しい、暖かなローズピンクの光に辺りは包まれた。
 害を感じさせない光に、羽月はそっと腕を下げた。
 羽月の右手に出来た傷が消える。
 前を見ると、体中の傷が消え、気絶したリリア王女が宙に浮いている。
 一次覚醒だ。
 髪は金髪になり、触覚は小羽になる。色は付いていないが、羽には上部の角が生え、尻尾はそのまま残っている。
 心臓の上を中心にして、刀が現れた。
 今迄の刀と違い、刀身が真っ直ぐで太くなっている。
 刀が心臓に吸い込まれる。
 小羽と羽、尻尾が消えたリリア王女の体が、ゆっくりと降りてくる。
 上着を脱ぎ、羽月は抱き留めた。
 リリア王女を片膝に下ろし、上着を掛けて寝かす。
「……羽月さん」
 まだ朦朧としているが、リリア王女の意識が戻った。
「ごめんなさい。結局、迷惑かけてしまいました」
「——何言ってやがる」
 安堵の吐息ごと、羽月は吐き出す。
「よく頑張ったな」
 優しく頬を撫でる手に、憂いを帯びた慈愛の眼差しに、リリア王女は安心し切り瞳を閉じた。
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