21 / 133
チャイルドソード
しおりを挟む
——リリア王女は防戦一方だった。
自販機とベンチが設置されている憩いスペースで、剣撃を交わす音が鳴り響いている。
ドラキュラ軍人の剣撃を刀で払い、シールドと小さな身体を活かし、何とか雷撃を躱す。
だが、次に躱した瞬間、脇腹を蹴られ、背中を向けて地面に落下した。透かさず、ドラキュラ軍人は血刃を放つ。リリア王女は尻尾から出るシールドで防ぐ。
覚醒前で、色の付いてない飛膜からはシールドが出せない。代わりに、尻尾からシールドが出る。
刀を地面に刺し、膝を突いたままリリア王女は向き直る。
もう、身体中が傷だらけだ。
「諦めろ」
冷たい視線を向け、ドラキュラ軍人は言い放つ。
「……負けないもんっ」
息が上がり、疲労困憊の様子だがリリア王女の目は力強い。
——もう、後がない。
人質にして逃げるしか、生き抜く手段がない。
現状、背水の陣はドラキュラ軍人の方だ。
任地である中東から増員要請し、惨敗した。中東には戻れない上に、ドラキュラ帝国にも帰れない。当の本人は、よく分かっている。
「我が帝国は実績主義だ。戦場は待遇を変える絶好のチャンスだった。任地にいる人間の四分の一を家畜にする。若しくは、その人数分の血を集める。……出来ないなら、家族にも影響を及ぼす」
停戦するしかなかった。
十年前、主要施設から離れた施設が崩落し、ガス管が爆発して水道管が破裂した。無関係だと思っていたら、送電線の引火を招いていた。変電所が爆破し、主要施設が次々に壊滅した。戦況不利に、家畜が減るリスクを考えて、上が停戦を決断してしまった。
結果、今でも任地の家畜を増やせていない。
ライフラインへの攻撃は、魔界も人間界と同じく戦時国際法違反になる。
「だから、亡命と引き換えに帰して下さいと、何度も言ったじゃないですかっ⁉︎」
「ふざけるなっ! あんな女狐(サファイア・テレジア)、信用出来るかっ⁉︎ 不慮の事故にして殺す気だ。何度も言っただろっ‼︎」
魔界では、サキュバスの近衛兵が包囲網を張っている。これを連れて行けば、直ぐに見付かり殺される。
麻薬カルテルの勢力が強いメキシコに行き、これは殺そう。ドラキュラ軍人は策を転じた。
刀を支えに立とうとするリリア王女に、整えた笑みを見せる。
「もう、飛ぶ力も残ってないだろ? ここから逃げるのに、王族ゲートを使わせてくれたら解放しよう」
「っやだぁいっ‼︎」
「はあぁ?」
リリア王女の意味不明な言語に、思わず不快な声が出る。
「そしたら、また犠牲者が出るっ‼︎ そんなのはイヤっ! 犠牲になった人達の為に、何も出来ないのはヤダっ! っやだぁいっ‼︎」
思いを固めてリリア王女は立ち上がり、刀を構えた。
「ナメんなよっ! この程度で軍人に勝てるかよっ!」
ドラキュラ軍人は剣を振り下ろす。
もう体力がなく、リリア王女は転ぶ。だが、運良く剣を避けた。……そう見えた瞬間だった。
「……っ⁉︎」
リリア王女が、ドラキュラ軍人の左腕を下から刺した。
「このガキっ‼︎」
怒り、鬼の形相でドラキュラ軍人は蹴り飛ばす。その拍子に左腕が落ちた。
「……これで、雷撃は撃てない」
一回転し、尻尾を支えに立つ。
お姉ちゃんとは違う。この人は、左手からしか雷撃を撃てない。
リリア王女は、その事に気付き機会を窺っていた。
剣を横に振り、ドラキュラ軍人は血刃を放つ。リリア王女は両腕をクロスし、シールドを強化させて防ぐ。
未だ、リリア王女の劣勢だが、片腕になり威力の落ちた攻撃は、全てシールドで防げている。
「全部お前の親、あの女狐の所為だっ! 人間を人として見ず、家畜と種馬として飼えば、争わずに済んだっ‼︎」
——それこそ戦争だな。
多くが、好きなだけヤラしてくれて愛玩してくれる、美人種族のサキュバスを選ぶだろうよ。……そういや、サキュバスとヤったって話、聞かねぇな。
声には出さずに羽月は反論した。
角を曲がる手前、壁の反対側にもう来ていた。暗がりの通路から、影絵で戦闘の様子を見ている。
意外だな、まだやれるか……。さて、どうするか……。
スマートフォンを手に取り、壁に入った亀裂にカメラを向ける。
傷だらけで弱々しい小さな体に不安を抱くが、自分で討とうとする強い瞳に期待する。
スマートフォンを仕舞う。羽月は迷いに艶やかな黒髪を掻き上げた。
真上にあった空調換気扇を見て煙草を吸い出した。自ずと視線は影絵にいく——。
自販機とベンチが設置されている憩いスペースで、剣撃を交わす音が鳴り響いている。
ドラキュラ軍人の剣撃を刀で払い、シールドと小さな身体を活かし、何とか雷撃を躱す。
だが、次に躱した瞬間、脇腹を蹴られ、背中を向けて地面に落下した。透かさず、ドラキュラ軍人は血刃を放つ。リリア王女は尻尾から出るシールドで防ぐ。
覚醒前で、色の付いてない飛膜からはシールドが出せない。代わりに、尻尾からシールドが出る。
刀を地面に刺し、膝を突いたままリリア王女は向き直る。
もう、身体中が傷だらけだ。
「諦めろ」
冷たい視線を向け、ドラキュラ軍人は言い放つ。
「……負けないもんっ」
息が上がり、疲労困憊の様子だがリリア王女の目は力強い。
——もう、後がない。
人質にして逃げるしか、生き抜く手段がない。
現状、背水の陣はドラキュラ軍人の方だ。
任地である中東から増員要請し、惨敗した。中東には戻れない上に、ドラキュラ帝国にも帰れない。当の本人は、よく分かっている。
「我が帝国は実績主義だ。戦場は待遇を変える絶好のチャンスだった。任地にいる人間の四分の一を家畜にする。若しくは、その人数分の血を集める。……出来ないなら、家族にも影響を及ぼす」
停戦するしかなかった。
十年前、主要施設から離れた施設が崩落し、ガス管が爆発して水道管が破裂した。無関係だと思っていたら、送電線の引火を招いていた。変電所が爆破し、主要施設が次々に壊滅した。戦況不利に、家畜が減るリスクを考えて、上が停戦を決断してしまった。
結果、今でも任地の家畜を増やせていない。
ライフラインへの攻撃は、魔界も人間界と同じく戦時国際法違反になる。
「だから、亡命と引き換えに帰して下さいと、何度も言ったじゃないですかっ⁉︎」
「ふざけるなっ! あんな女狐(サファイア・テレジア)、信用出来るかっ⁉︎ 不慮の事故にして殺す気だ。何度も言っただろっ‼︎」
魔界では、サキュバスの近衛兵が包囲網を張っている。これを連れて行けば、直ぐに見付かり殺される。
麻薬カルテルの勢力が強いメキシコに行き、これは殺そう。ドラキュラ軍人は策を転じた。
刀を支えに立とうとするリリア王女に、整えた笑みを見せる。
「もう、飛ぶ力も残ってないだろ? ここから逃げるのに、王族ゲートを使わせてくれたら解放しよう」
「っやだぁいっ‼︎」
「はあぁ?」
リリア王女の意味不明な言語に、思わず不快な声が出る。
「そしたら、また犠牲者が出るっ‼︎ そんなのはイヤっ! 犠牲になった人達の為に、何も出来ないのはヤダっ! っやだぁいっ‼︎」
思いを固めてリリア王女は立ち上がり、刀を構えた。
「ナメんなよっ! この程度で軍人に勝てるかよっ!」
ドラキュラ軍人は剣を振り下ろす。
もう体力がなく、リリア王女は転ぶ。だが、運良く剣を避けた。……そう見えた瞬間だった。
「……っ⁉︎」
リリア王女が、ドラキュラ軍人の左腕を下から刺した。
「このガキっ‼︎」
怒り、鬼の形相でドラキュラ軍人は蹴り飛ばす。その拍子に左腕が落ちた。
「……これで、雷撃は撃てない」
一回転し、尻尾を支えに立つ。
お姉ちゃんとは違う。この人は、左手からしか雷撃を撃てない。
リリア王女は、その事に気付き機会を窺っていた。
剣を横に振り、ドラキュラ軍人は血刃を放つ。リリア王女は両腕をクロスし、シールドを強化させて防ぐ。
未だ、リリア王女の劣勢だが、片腕になり威力の落ちた攻撃は、全てシールドで防げている。
「全部お前の親、あの女狐の所為だっ! 人間を人として見ず、家畜と種馬として飼えば、争わずに済んだっ‼︎」
——それこそ戦争だな。
多くが、好きなだけヤラしてくれて愛玩してくれる、美人種族のサキュバスを選ぶだろうよ。……そういや、サキュバスとヤったって話、聞かねぇな。
声には出さずに羽月は反論した。
角を曲がる手前、壁の反対側にもう来ていた。暗がりの通路から、影絵で戦闘の様子を見ている。
意外だな、まだやれるか……。さて、どうするか……。
スマートフォンを手に取り、壁に入った亀裂にカメラを向ける。
傷だらけで弱々しい小さな体に不安を抱くが、自分で討とうとする強い瞳に期待する。
スマートフォンを仕舞う。羽月は迷いに艶やかな黒髪を掻き上げた。
真上にあった空調換気扇を見て煙草を吸い出した。自ずと視線は影絵にいく——。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】君が僕に触れる理由
SAI
BL
八田台美術大学に通う高橋歩は同じ学科に在籍する早瀬のことが好きだ。叶わない思いを胸に抱いたまま早瀬の親友である佐倉の手で欲望を発散させる日々。
これは自分の気持ちに鈍感な主人公の恋愛物語。
※性描写を伴う箇所には☆印を入れてあります。
全17話+番外編
番外編の5年後にだけ挿絵があります。
8/24 番外編3話 追加しました。
9/12 アンダルシュ様企画 課題【お月見】に参加予定の為、一時的に完結表示が消えておりますが、本編は完結済みです。ショートストーリー【お月見】は9/18公開予定です。
10/19 こちらの作品の続編にあたる【酷くて淫ら】完結しました。早瀬メインのストーリーになっております。
だいきちの拙作ごった煮短編集
だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです!
初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆
なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。
男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。
✴︎ 挿入手前まで
✴︎✴︎ 挿入から小スカまで
✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで
作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。
リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。
もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。
過去作
なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新)
これは百貨店での俺の話なんだが
名無しの龍は愛されたい
ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
こっち向いて、運命
アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中)
ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~
改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど
名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海-
飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編)
守り人は化け物の腕の中
友人の恋が難儀すぎる話(短編)
油彩の箱庭(短編)
天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます
波木真帆
BL
日本の田舎町に住む高校生の僕・江波弓弦は、物心ついた時には家族は母しかいなかった。けれど、僕の顔には父の痕跡がありありと残っていた。
光に当たると金髪にも見える薄い茶色の髪、そしてグリーンがかった茶色の瞳……日本人の母にはないその特徴で、父は外国人なのだと分かった。けれど、父の手がかりはそれだけ。母に何度か父のことを尋ねたけれど、悲しそうな顔をするだけで、僕は聞いてはいけないことだと悟り、父のことを聞くのをやめた。母ひとり子ひとりで大変ながらも幸せに暮らしていたある日、突然の事故で母を失い、天涯孤独になってしまう。
どうしたらいいか途方に暮れていた時、母が何かあった時のためにと残してくれていたものを思い出し、それを取り出すと一枚の紙が出てきて、そこには11桁の数字が書かれていた。
それが携帯番号だと気づいた僕は、その番号にかけて思いがけない人物と出会うことになり……。
イケメンでセレブな外国人社長と美少年高校生のハッピーエンド小説です。
R18には※つけます。
短編エロ
黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。
前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。
挿入ありは.が付きます
よろしければどうぞ。
リクエスト募集中!
都合の良いすれ違い
7ズ
BL
冒険者ギルドには、日夜依頼が舞い込んでくる。その中で難易度の高い依頼はずっと掲示板に残っている。規定の期間内に誰も達成できない依頼は、期限切れとなり掲示板から無くなる。
しかし、高難易度の依頼は国に被害が及ぶ物も多く重要度も高い。ただ取り下げるだけでは問題は片付かない。
そういった残り物を一掃する『掃討人』を冒険者ギルドは最低でも一名所属させている。
メルデンディア王国の掃討人・スレーブはとある悪魔と交わした契約の対価の為に大金を稼いでいる。
足りない分は身体を求められる。
悪魔は知らない。
スレーブにとってその補填行為が心の慰めになっている事を。
ーーーーーーーーーーーーー
心すれ違う人間と悪魔の異種間BL
美形の万能悪魔×歴戦の中年拳闘士
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。※
高尚とサプリ
wannai
BL
大学生になってやっと出来た彼女(彼氏)がマゾだというので勉強の為にSMバーの門をくぐった棗。
そこで出会ったイツキは、親切にもサドとしての手解きをしてくれるというが……。
離婚してサドに復帰した元・縄師 × 世間知らずのゲイ大学生
※ 年齢差とか嫁関連でいざこざする壱衣視点の後日談を同人誌(Kindle)にて出してます
【完結】君が好きで彼も好き
SAI
BL
毎月15日と30日にはセックスをする、そんな契約から始まった泉との関係。ギブアンドテイクで続けられていた関係にストップをかけたのは泉と同じ職場の先輩、皐月さんだった。
2人に好きだと言われた楓は…
ホスト2人攻め×普通受け
※ 予告なしに性描写が入ります。ご了承ください。
※ 約10万字の作品になります。
※ 完結を保証いたします。
【弐】バケモノの供物
よんど
BL
〜「愛」をテーマにした物語重視の異種恋愛物語〜
※本サイトでは完結記念「それから」のイラストで設定しています
※オリジナル設定を含んでいます
※拙い箇所が沢山御座います。温かい目で読んで頂けると嬉しいです
※過激描写が一部御座います
𝐒𝐭𝐨𝐫𝐲
バケモノの供物シリーズ、第二弾「弐」…
舞台は現代である「現世」で繰り広げられる。
親を幼い頃に亡くし、孤独な千紗はひたすら勉強に励む高校ニ年生。そんな彼はある日、見知らぬ男に絡まれている際に美しい顔をした青年に助けて貰う。そして、その彼が同じ高校の一個上の先輩とて転校してきた事が発覚。青年は過去に助けた事のある白狐だった。その日を境に、青年の姿をした白狐は千紗に懐く様になるが…。一度見つけた獲物は絶対に離さないバケモノと独りぼっちの人間の送る、甘くて切ない溺愛物語。
''執着されていたのは…''
𝐜𝐡𝐚𝐫𝐚𝐜𝐭𝐞𝐫
天城 千紗(17)
…高二/同性を惹きつける魅力有り/虐待を受けている/レオが気になる
突然現れたレオに戸惑いながらも彼の真っ直ぐな言葉と態度、そして時折見せる一面に惹かれていくが…
レオ(偽名: 立花 礼央)
…高三(設定)/冥永神社の守り神/白狐/千紗が大好き
とある者から特別に人間の姿に長時間化ける事が可能になる術式を貰い、千紗に近付く。最初は興味本位で近付いたはものの、彼と過ごす内に自分も知らない内が見えてきて…
ライ(偽名: 松原歩)
…高二(設定)/現世で生活している雷を操る龍神/千紗とレオに興味津々
長く現世で生きている龍神。ネオと似た境遇にいるレオに興味を持ち、千紗と友達になり二人に近付く様に。おちゃらけているが根は優しい。
※「壱」で登場したメインキャラクター達は本編に関わっています。
※混乱を避ける為「壱」を読んだ上でご覧下さい。
※ネオと叶の番外編はスター特典にて公開しています。
𝐒𝐩𝐞𝐜𝐢𝐚𝐥 𝐭𝐡𝐚𝐧𝐤𝐬
朔羽ゆきhttps://estar.jp/users/142762538様
(ゆきさんに表紙絵を描いて頂きました。いつも本当に有難う御座います)
(無断転載は勿論禁止です)
(イラストの著作権は全てゆきさんに御座います)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる