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留学編
作戦会議 3
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「女王陛下と謁見っ!!?」
威力偵察を終えて夢幻大地から戻った翌日の朝、王城で割り当てられている僕の部屋に母さんが来るや、衝撃的な話を聞かされた。
「そ。10時からだから、ちゃんと準備しておきなさい」
「えぇ・・・」
あっけらかんとした表情でそう言い放ってくる母さんに、僕は何とも言えない顔で困惑していた。今までに女王陛下との謁見の経験が無いわけではない。ダイス王国に訪問した際には、女王陛下と直接言葉を交わした事もあるが、言ってみればあれは客人として招かれたものだったので、少なからず精神的な余裕があったのだが、自国の女王陛下からの呼び出しとなると、何を言われるのか身構えてしまう。
「まぁ、あんたがそんな顔するのも無理ないけど、呼び出された理由は単純よ?」
「・・・何か聞いてるの?」
今回の謁見の内容について知っていそうな口振りをする母さんに、僕は怪訝な表情をしながら問いかけた。
「ジール・・・あんたうちの国だけじゃなく、他国の王女殿下達とも親しい間柄でしょう?」
「そう・・だね、良くさせてもらってるよ」
母さんの言葉に一瞬、何故そんな事を聞いてくるのか疑問に思ったが、自分に出ていた命令書や、自らの実力が世に広まった時に考えられる悪影響を殿下達から聞かされていた為、何となくどんな話をされるのか分かったような気がした。
「色々と複雑な事情や思惑が絡み合ってるからね・・・簡単に言えば、ジールにこの大陸の平穏の楔になって欲しいって話よ」
「楔?」
「もっと直接的に言えば、生け贄かしらね」
「っ!?」
母さんの不穏な言葉に、僕は一気に不安に陥る。そんな僕の表情を見てか、母さんは悪戯っぽい表情を浮かべて口を開いた。
「冗談よ。それにおそらく強制ではないわ。あくまでもジールの気持ちや考えを汲んだ上での話になるはずよ」
「・・・殿下達からも、僕を利用しようとする勢力が現れる可能性を聞いたよ。だとしたら、国の平穏を考えて普通は強制されるんじゃない?相手は男の僕だし」
そんな僕の疑問に、母さんは頭を振った。
「それは無いわ。陛下も自分の娘が可愛いだろうし、そこに王族の義務も持ち出さないでしょう・・・彼女なら尚更ね・・・」
遠い目をしながら話す母さんに、過去にいったい何があったのだろうと思ってしまうが、あまり、無神経に触れるのもどうかと考え、その話題は一先ず置いておいて、自分の事を優先することにした。
「えっと、つまりこの謁見で、僕はどうしたらいいの?」
「自分の正直な気持ちを話すと良いわ!それで何か咎められることはないって、私が保証してあげる。殿下達に対してジールが今どう感じ、どんな関係になっていきたいか・・・謁見までの時間に考えを整理することね」
「どうなりたいか、か・・・」
母さんの言葉を反芻するように口に出すと、「時間になったら迎えに来るわ」という言葉を残して、母さんは部屋を後にした。それから残された時間で僕は、今までの王女殿下達との記憶を思い出しながら、将来について考えるのだった。
「お初に御目にかかります、女王陛下!召還の命を受けて馳せ参じました、ジール・シュライザーと申します。ご尊顔を拝見でき、恐悦至極に存じます」
女王陛下との謁見で呼び出されたのは、王城の謁見の間ではなく、驚くことに女王陛下の私的な執務室だった。クルセイダーの制服に着替え終えると、時間だといって母さんが迎えに来た。そうして母さんに誘導されるがままに執務室へ入ると、そこに待っていたのは女王陛下お一人だった。陛下と謁見する時は、必ず護衛として最上位のクルセイダーが数人付くと聞いており、事前の知識とは異なる状況に疑問を浮かべたが、僕が気にすることでも無いだろうと考え直した。
キャンベル様の母親という事もあり、女王陛下はどこかキャンベル様の面影があるお人だった。キャンベル様が今のまま成長されたら、こんな感じに美人な人になるのではないだろうかと思わせる佇まいだ。
女王陛下は重厚な執務机に座りながら名乗りを許してきたので、僕は少し前に進み出ると、片膝を着いて臣下の礼をとりつつ、直前まで練習してきた名乗りをあげた。
「・・・やはり、似ているな・・・」
「???」
どこか憂いを帯びたような陛下から漏れ聞こえる声に顔を上げると、僕は理由が分からずに目を瞬瞬かせた。
「う゛、う゛ん!陛下?」
女王陛下が僕の顔をじっと見つめていた為、隣にいる母さんが咳払いをしながら話を促しているようだった。
「あ、あぁ、ジールと言ったな。ここは非公式な場ゆえ、楽にしてよい」
「わ、分かりました」
そう言われ、僕は少し後ろに下がると、母さんと同じ位置で休めの体勢をとりながら、女王陛下の目を真っ直ぐに見つめた。
「娘から話は聞いていたが、こうして直接顔を見るのは初めてだな。キャンベルの母だ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
あまりにもフランクな陛下の話し方に、若干困惑してしまうが、どうもその言動から察するに、この場では女王陛下としてではなく、一人の母親としての立場から話しているような雰囲気だった。
「先ずは先日の威力偵察の任、ご苦労だった。君の活躍も十分に聞いている。部隊の窮地を救ってくれたこと、称賛に値しよう」
「ありがとうございます。もったいないお言葉です」
「さて、時間も限られているから早速本題に入るが、話は私の娘であるキャンベルと、他国の4人の王女殿下達との関係についてだ」
「はい」
それは予め母さんから聞いていた話でもあったので、僕は動揺せず、真剣な表情で返答した。
「先にお主には私からの指示書を送っておったが、あれは宰相を始めとした文官達からの提案でな、国際的な和平構築の礎になるだろうという考えのものだ。ただ、重要なのは本人の意思だ。嫌々複数の女性と婚姻を結ばされたとなれば、その後の生活態度にお主の想いが垣間見れてしまうかもしれん。そしてそれは夫婦間の不和を招き、ひいては国際問題にも発展するかもしれない。そこでだ!お主は来年18歳になり、婚姻可能な成人年齢となる。今のお主の率直な結婚願望を聞かせてはくれまいか?」
「・・・正直に申しまして、僕には未だ異性に対して『愛する』という感情がどういったものなのか理解できていません。それでも、5人の王女殿下達はそんな僕に良くしてくださっていますし、そんな殿下達の事を僕も大切に思っています」
「そうか・・・では?」
意を決して話す僕に、女王陛下は真剣な表情を向けながら先を促してきた。そんな陛下の視線に、僕は核心となる想いを伝える。
「ただ、全員と婚姻を結ぶという事になると、はたして5人の王女殿下達全員を幸せに出来るか・・・平等に愛せるかについて不安があります。それに、僕の記憶には両親の幸せな姿が残っています・・・ですから、出来れば僕も一人の女性と温かい家庭を築きたいと思っています」
「・・・そういうところは、お主の父親そっくりなのだな・・・」
女王陛下は、僕の父さんについて何か知っているように言葉を漏らした。その呟きに僕は、父さんと陛下がどんな関係なのか気になってしまった。
「あの、女王陛下は僕の父さんの事を知っているのですか?」
「なんだホリー?まだ私達の事を話していなかったのか?」
「いや、まぁ、普通親の色恋沙汰を聞かされても困るだろ?」
「確かにな」
女王陛下は意外そうな表情で母さんに語りかけると、その言葉に母さんは苦笑いを浮かべて答え、陛下も同様に苦笑していた。気心の知れたような2人のやり取りに、陛下と母さんはどんな関係なのかと疑問に思っていると、母さんが言い難そうな表情をしながら口を開いた。
「私と陛下は元々幼馴染みでな、学園の同級生でもあるし、クルセイダーとしても序列1位2位を争っていた仲だ」
「えっ?そうだったの?」
母さんの言葉に、僕は目を丸くして驚いたが、更に驚愕すべきはその後の言葉の方だった。
「それと以前話したが、私の夫・・・つまり、ジールの父親を取り合った恋敵でもある」
「・・・えっ!!!?」
あまりの話に瞬時に理解できず、思考が停止してしまった。そして何を言っていいか分からない僕は、ただただ驚愕の声をあげた。
「ふっ、まぁ、昔の話だ。結局あ奴はホリーを選んだ。諦めきれなかった私は、共同結婚の話を持ちかけたのだがな、丁重にお断りされてしまったよ・・・あの時はまだ王女だったが、プライドもズタズタになったものだ」
「そういえば、その時の断り文句も同じだったわね・・・」
「あぁ、そういえばそうだな。『2人を同時に幸せにする自信はない。それに心に決めた人がいる・・・』だったか。あの言葉は効いたな・・・」
「あの時の涙を必死に堪えたあなたのあの顔・・・今でも思い出せるわ」
「お前・・・相変わらずいい性格してるな。仮にも私はこの国の女王陛下だぞ?」
「あら、この場は私的なものでしょう?そこに肩書きを持ち出すなんて野暮よ」
昔を懐かしむような陛下と母さんのやり取りに、僕はどことなく居心地悪くなってしまった。それは、親の色恋の話を聞かされているという状況もそうだが、なによりその相手が一国の女王陛下で、しかも父さんはその女王陛下からの求愛を断ったというとんでもない事実が、同じような事をしようとしている自分と重なったからだろう。ともすれば、処刑されてもおかしくないのではと思ってしまうほどに、今の自分の言葉を客観視できてしまって真っ青になった。
そんな僕の様子を見かねてか、女王陛下が優しい表情を浮かべながら口を開いた。
「案ずるな。例え我が娘を選ばなかったといって何か咎める事は無い。相手から想いを向けられない気持ちは、痛いほど分かるからな・・・」
「陛下・・・」
母親としての表情を見せる女王陛下に、僕は何も言うことは出来なかった。
そうして女王陛下は、最後に確認するよう語りかけてきた。
「では、ジール・シュライザーよ、お主は結婚相手には1人を選ぶというということでよいな?」
「改めてそう言われると、何だか酷く女ったらしの男性のように聞こえますが、女王陛下の仰る通り、僕はたった一人の最愛の相手と家庭を築きたいと考えています」
女王陛下の質問に対して、僕は自然と姿勢を正し、真剣な表情で真っ直ぐに陛下の目を見ながら返答した。そんな僕の様子に納得したように陛下は頷くと、更に言葉を続けた。
「分かった。では、そのようにこちらも取り計らおう!」
「ありがとうございます」
そうして話は終わり、僕は深々と頭を下げると、陛下の執務室を後にした。その去り際、女王陛下から一声掛けられ、僕はあることを約束させられたのだった。
威力偵察を終えて夢幻大地から戻った翌日の朝、王城で割り当てられている僕の部屋に母さんが来るや、衝撃的な話を聞かされた。
「そ。10時からだから、ちゃんと準備しておきなさい」
「えぇ・・・」
あっけらかんとした表情でそう言い放ってくる母さんに、僕は何とも言えない顔で困惑していた。今までに女王陛下との謁見の経験が無いわけではない。ダイス王国に訪問した際には、女王陛下と直接言葉を交わした事もあるが、言ってみればあれは客人として招かれたものだったので、少なからず精神的な余裕があったのだが、自国の女王陛下からの呼び出しとなると、何を言われるのか身構えてしまう。
「まぁ、あんたがそんな顔するのも無理ないけど、呼び出された理由は単純よ?」
「・・・何か聞いてるの?」
今回の謁見の内容について知っていそうな口振りをする母さんに、僕は怪訝な表情をしながら問いかけた。
「ジール・・・あんたうちの国だけじゃなく、他国の王女殿下達とも親しい間柄でしょう?」
「そう・・だね、良くさせてもらってるよ」
母さんの言葉に一瞬、何故そんな事を聞いてくるのか疑問に思ったが、自分に出ていた命令書や、自らの実力が世に広まった時に考えられる悪影響を殿下達から聞かされていた為、何となくどんな話をされるのか分かったような気がした。
「色々と複雑な事情や思惑が絡み合ってるからね・・・簡単に言えば、ジールにこの大陸の平穏の楔になって欲しいって話よ」
「楔?」
「もっと直接的に言えば、生け贄かしらね」
「っ!?」
母さんの不穏な言葉に、僕は一気に不安に陥る。そんな僕の表情を見てか、母さんは悪戯っぽい表情を浮かべて口を開いた。
「冗談よ。それにおそらく強制ではないわ。あくまでもジールの気持ちや考えを汲んだ上での話になるはずよ」
「・・・殿下達からも、僕を利用しようとする勢力が現れる可能性を聞いたよ。だとしたら、国の平穏を考えて普通は強制されるんじゃない?相手は男の僕だし」
そんな僕の疑問に、母さんは頭を振った。
「それは無いわ。陛下も自分の娘が可愛いだろうし、そこに王族の義務も持ち出さないでしょう・・・彼女なら尚更ね・・・」
遠い目をしながら話す母さんに、過去にいったい何があったのだろうと思ってしまうが、あまり、無神経に触れるのもどうかと考え、その話題は一先ず置いておいて、自分の事を優先することにした。
「えっと、つまりこの謁見で、僕はどうしたらいいの?」
「自分の正直な気持ちを話すと良いわ!それで何か咎められることはないって、私が保証してあげる。殿下達に対してジールが今どう感じ、どんな関係になっていきたいか・・・謁見までの時間に考えを整理することね」
「どうなりたいか、か・・・」
母さんの言葉を反芻するように口に出すと、「時間になったら迎えに来るわ」という言葉を残して、母さんは部屋を後にした。それから残された時間で僕は、今までの王女殿下達との記憶を思い出しながら、将来について考えるのだった。
「お初に御目にかかります、女王陛下!召還の命を受けて馳せ参じました、ジール・シュライザーと申します。ご尊顔を拝見でき、恐悦至極に存じます」
女王陛下との謁見で呼び出されたのは、王城の謁見の間ではなく、驚くことに女王陛下の私的な執務室だった。クルセイダーの制服に着替え終えると、時間だといって母さんが迎えに来た。そうして母さんに誘導されるがままに執務室へ入ると、そこに待っていたのは女王陛下お一人だった。陛下と謁見する時は、必ず護衛として最上位のクルセイダーが数人付くと聞いており、事前の知識とは異なる状況に疑問を浮かべたが、僕が気にすることでも無いだろうと考え直した。
キャンベル様の母親という事もあり、女王陛下はどこかキャンベル様の面影があるお人だった。キャンベル様が今のまま成長されたら、こんな感じに美人な人になるのではないだろうかと思わせる佇まいだ。
女王陛下は重厚な執務机に座りながら名乗りを許してきたので、僕は少し前に進み出ると、片膝を着いて臣下の礼をとりつつ、直前まで練習してきた名乗りをあげた。
「・・・やはり、似ているな・・・」
「???」
どこか憂いを帯びたような陛下から漏れ聞こえる声に顔を上げると、僕は理由が分からずに目を瞬瞬かせた。
「う゛、う゛ん!陛下?」
女王陛下が僕の顔をじっと見つめていた為、隣にいる母さんが咳払いをしながら話を促しているようだった。
「あ、あぁ、ジールと言ったな。ここは非公式な場ゆえ、楽にしてよい」
「わ、分かりました」
そう言われ、僕は少し後ろに下がると、母さんと同じ位置で休めの体勢をとりながら、女王陛下の目を真っ直ぐに見つめた。
「娘から話は聞いていたが、こうして直接顔を見るのは初めてだな。キャンベルの母だ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
あまりにもフランクな陛下の話し方に、若干困惑してしまうが、どうもその言動から察するに、この場では女王陛下としてではなく、一人の母親としての立場から話しているような雰囲気だった。
「先ずは先日の威力偵察の任、ご苦労だった。君の活躍も十分に聞いている。部隊の窮地を救ってくれたこと、称賛に値しよう」
「ありがとうございます。もったいないお言葉です」
「さて、時間も限られているから早速本題に入るが、話は私の娘であるキャンベルと、他国の4人の王女殿下達との関係についてだ」
「はい」
それは予め母さんから聞いていた話でもあったので、僕は動揺せず、真剣な表情で返答した。
「先にお主には私からの指示書を送っておったが、あれは宰相を始めとした文官達からの提案でな、国際的な和平構築の礎になるだろうという考えのものだ。ただ、重要なのは本人の意思だ。嫌々複数の女性と婚姻を結ばされたとなれば、その後の生活態度にお主の想いが垣間見れてしまうかもしれん。そしてそれは夫婦間の不和を招き、ひいては国際問題にも発展するかもしれない。そこでだ!お主は来年18歳になり、婚姻可能な成人年齢となる。今のお主の率直な結婚願望を聞かせてはくれまいか?」
「・・・正直に申しまして、僕には未だ異性に対して『愛する』という感情がどういったものなのか理解できていません。それでも、5人の王女殿下達はそんな僕に良くしてくださっていますし、そんな殿下達の事を僕も大切に思っています」
「そうか・・・では?」
意を決して話す僕に、女王陛下は真剣な表情を向けながら先を促してきた。そんな陛下の視線に、僕は核心となる想いを伝える。
「ただ、全員と婚姻を結ぶという事になると、はたして5人の王女殿下達全員を幸せに出来るか・・・平等に愛せるかについて不安があります。それに、僕の記憶には両親の幸せな姿が残っています・・・ですから、出来れば僕も一人の女性と温かい家庭を築きたいと思っています」
「・・・そういうところは、お主の父親そっくりなのだな・・・」
女王陛下は、僕の父さんについて何か知っているように言葉を漏らした。その呟きに僕は、父さんと陛下がどんな関係なのか気になってしまった。
「あの、女王陛下は僕の父さんの事を知っているのですか?」
「なんだホリー?まだ私達の事を話していなかったのか?」
「いや、まぁ、普通親の色恋沙汰を聞かされても困るだろ?」
「確かにな」
女王陛下は意外そうな表情で母さんに語りかけると、その言葉に母さんは苦笑いを浮かべて答え、陛下も同様に苦笑していた。気心の知れたような2人のやり取りに、陛下と母さんはどんな関係なのかと疑問に思っていると、母さんが言い難そうな表情をしながら口を開いた。
「私と陛下は元々幼馴染みでな、学園の同級生でもあるし、クルセイダーとしても序列1位2位を争っていた仲だ」
「えっ?そうだったの?」
母さんの言葉に、僕は目を丸くして驚いたが、更に驚愕すべきはその後の言葉の方だった。
「それと以前話したが、私の夫・・・つまり、ジールの父親を取り合った恋敵でもある」
「・・・えっ!!!?」
あまりの話に瞬時に理解できず、思考が停止してしまった。そして何を言っていいか分からない僕は、ただただ驚愕の声をあげた。
「ふっ、まぁ、昔の話だ。結局あ奴はホリーを選んだ。諦めきれなかった私は、共同結婚の話を持ちかけたのだがな、丁重にお断りされてしまったよ・・・あの時はまだ王女だったが、プライドもズタズタになったものだ」
「そういえば、その時の断り文句も同じだったわね・・・」
「あぁ、そういえばそうだな。『2人を同時に幸せにする自信はない。それに心に決めた人がいる・・・』だったか。あの言葉は効いたな・・・」
「あの時の涙を必死に堪えたあなたのあの顔・・・今でも思い出せるわ」
「お前・・・相変わらずいい性格してるな。仮にも私はこの国の女王陛下だぞ?」
「あら、この場は私的なものでしょう?そこに肩書きを持ち出すなんて野暮よ」
昔を懐かしむような陛下と母さんのやり取りに、僕はどことなく居心地悪くなってしまった。それは、親の色恋の話を聞かされているという状況もそうだが、なによりその相手が一国の女王陛下で、しかも父さんはその女王陛下からの求愛を断ったというとんでもない事実が、同じような事をしようとしている自分と重なったからだろう。ともすれば、処刑されてもおかしくないのではと思ってしまうほどに、今の自分の言葉を客観視できてしまって真っ青になった。
そんな僕の様子を見かねてか、女王陛下が優しい表情を浮かべながら口を開いた。
「案ずるな。例え我が娘を選ばなかったといって何か咎める事は無い。相手から想いを向けられない気持ちは、痛いほど分かるからな・・・」
「陛下・・・」
母親としての表情を見せる女王陛下に、僕は何も言うことは出来なかった。
そうして女王陛下は、最後に確認するよう語りかけてきた。
「では、ジール・シュライザーよ、お主は結婚相手には1人を選ぶというということでよいな?」
「改めてそう言われると、何だか酷く女ったらしの男性のように聞こえますが、女王陛下の仰る通り、僕はたった一人の最愛の相手と家庭を築きたいと考えています」
女王陛下の質問に対して、僕は自然と姿勢を正し、真剣な表情で真っ直ぐに陛下の目を見ながら返答した。そんな僕の様子に納得したように陛下は頷くと、更に言葉を続けた。
「分かった。では、そのようにこちらも取り計らおう!」
「ありがとうございます」
そうして話は終わり、僕は深々と頭を下げると、陛下の執務室を後にした。その去り際、女王陛下から一声掛けられ、僕はあることを約束させられたのだった。
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