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出会い編
パピル・リーグラント 7
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◆
side パピル・リーグラント
(いや、ありえないんですけど・・・)
パピルの事を命懸けで助けてくれようとしてくれたジルジルに、考えられる限りの助言を伝えた。それは実際にパピルが今までの経験で培ってきた感覚も含まれていて、内容については誰にも言ったことがないものだ。
特に、具現化した武器の変形については自分の切り札のようなものとして、将来序列7位以内となって決闘の場に立った時に使おうと密かに考えていたものなのだ。
そもそもこの具現化武器の形状変化というものは、非常に難易度が高かった。幼い頃から周囲のクルセイダーを見て育ってきた為に、どうしても一度具現化した武器は、固定されたままで変化させることは出来ないという固定概念が染み付いてしまっているのだ。
個人個人で具現化される武器が異なる以上、自由に形を変えられることが出来るはずだという概念は、頭では理解できているはずなのに、実践するとなると異常なまでに難しい。それほどまでに幼い頃から培ってきた知識と経験は、新しい試みに水を差すものだった。
考案したパピルでさえ、既に具現化したレイピアの刀身を伸ばすので精一杯なくらいだった。にもかかわらず、ジルジルは一度の助言であろうことか武器自体を丸ごと変えてしまった。まるでスポンジが水を吸収するように、言われたことを即座に実践して見せたのだ。そこにはパピルの言葉を疑うとか、先入観だとかの余計な思考は一切見られず、純粋で素直な人柄が見てとれた。
そんなジルジルは、自身の勇敢な背中をパピルに見せながら、形状変化させた弓を構えていた。一般的な武器として使用されているような弓ではなく、弓自体が打撃武器になりそうなほどの見た目だった。
ジルジルが弓の弦に手を掛けると、一瞬で矢が出現し、放たれた矢の威力は驚くべきものだったが、その矢に込められたアルマエナジー自体も尋常な量ではないと感じた。もしかしたら、パピルのアルマエナジー全てを越える量が注がれているのでは思えるほどだ。
しかもジルジルは、そんな馬鹿げた量のアルマエナジーが籠った矢を2射放ち、平然としているのだ。あの量のアルマエナジーを使い捨てにするなど常識の埒外だけど、それでこそパピルが見初めた男の子だと、逆に誇らしくも感じる。
(欲しい!ジルジルが!!)
これほど異性に焦がれたことは今まで無かったが、あの害獣の老成体に単独で深手を負わせたのだ。これを知れば、例え男性で他種族であろうと、どの国もジルジルの事を欲しがるはず。その証拠に、既に隣のエレメント王国の王女は動き出している。完全に後手に回っているけど、今からでもすぐに他種族との婚姻を認める法律を制定させる必要がある。まだ危機は去っていないにもかかわらず、パピルはジルジルとの将来について思いを馳せていた。
それは、目の前の老成体は片方の前足を失っているが、何とかバランスを保ってこちらを睥睨している。表情は憤怒に塗れているようだが、その奥にはジルジルに対する恐怖の感情を隠そうとしているようにも見えるからだ。
『ウ゛モ゛~~~!!!』
「っ!!」
ジルジルの攻撃の合間を縫って、突如として老成体が地面に向かって頭突きを行ってきた。角を具現化していなかったこともあってか、ジルジルは意表を突かれたような表情を浮かべていた。かく言うパピルも老成体の行動に疑問を持ったが、次の瞬間にはその理由が分かった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
老成体の頭が地面に激突すると、轟音と共に地面が盛大に揺れた。その為、パピル達は地揺れに足を取られて倒れ込んでしまった。同時に、視界を完全に無くすほどの砂煙が立ち込もり、老成体の巨体を見失う程だった。
(しまった!この視界の悪さに乗じて攻撃を仕掛けてくるつもりね!)
パピルが身構えていると、身体を優しく包まれた。
「殿下!くっ!換装!」
「っ!」
ジルジルは片手でパピルの肩を抱き寄せると、開いた手を前方にかざしていた。その先にはパピル達をスッポリと覆うような大きさの8角形の盾が浮かんでいる。またしてもジルジルは、具現化したアルマエナジーの形状を完全に変えたようだ。
しかし、こちらが防御体制を整えたにもかかわらず、老成体からの攻撃は放たれなかった。代わりに聞こえてきたのは、『ズシーン!ズシーン!』という大きな足音が遠ざかっていく音だった。
「もしかして・・・逃げた?」
「・・・の、ようですね」
視界の悪さもあって、しばらくその場で老成体の攻撃に備えて固まっていたパピル達は、遠ざかる足音を聞きながら肩の力を抜くように、大きく息を吐き出した。まさかあの天災と称される老成体が、たった一人の男の子に尻尾を巻いて逃げ出すなんて信じられないが、これで益々ジルジルの価値は跳ね上がる。
(その才能も実力も、パピルのお婿さんとして申し分なしね!そしてこの状況、最大限に利用しなきゃ!)
未だジルジルに抱き寄せられている状況を利用し、パピルは彼の胸元に顔を寄せ、渾身の上目遣いと猫なで声で、ジルジルの籠絡を試みる。
「ねぇ~ジルジル?いつまでパピルの事抱き締めているつもり?」
「っ!す、すみません!とっさの事でーーー殿下?」
パピルの指摘に離れようとしたジルジルの動きを、彼の服を掴んで制した。そんなパピルの行動に、彼は怪訝な表情を浮かべていた。
「パピル~、こうして男の子から抱き締められるなんて初めての経験なんだよね~。責任、取ってくれない?」
「せ、責任ですか!?」
パピルの言葉に、ジルジルは青ざめた表情を浮かべていた。どうやらジルジルは、王女であるパピルに手を出した事で処罰されると考えてしまったようだ。
(そうじゃないんだけどな~)
パピルの想いが上手く伝わっていなかったことに、内心苦笑いを浮かべつつ、もう少しジルジルには直接的な言葉で伝えることにした。
「男の子が女の子に取る責任って言ったら、お婿さんに来るしかないよね~?」
「オ、オムコサン?おむこさん・・・お婿さん・・・って、結婚ということですかっ!?し、しかし、他種族との婚姻は認められていないですよ!?」
パピルの言葉をすぐに理解できなかったジルジルは、同じ言葉を何度も繰り返し呟いてようやく理解したようだ。それと同時に、異種族間の婚姻は国が制限しているという事を、焦った表情を浮かべながら指摘してくる。
「もちろん分かってるよ?でも、そんな法律なんて変えちゃえば良いんだよ?現に、エレメント王国では最近、他種族間での婚姻が認められるように法改正があったんだよ?」
「そ、そうなんですね・・・」
パピルの言葉にジルジルは、何故か神妙な表情というか、不安な表情というか、とてもパピルにお婿さんに来れる可能性を告げられて喜んでいるとは思えないような表情だった。
(そ、そりゃあ、まだジルジルと出会って数日だから、パピルに対して恋心が無いのはしょうがないけど・・・これでも王国内では結構イケてると思うんだけどな・・・)
ジルジルの表情から、女としての自信が揺らぎかねない衝撃を受けてしまう。もしかすると彼は、人族から見れば幼児体型が基本の妖精族には魅力を感じないのかもしれない。
(でも、幼児体型には幼児体型の良さがある!ジルジルが帰国するまでに、それを理解してもらえば良いんですけど!!)
彼の様子から、並々ならぬ決意をパピルは漲らせたのだった。
◇
カウディザスターの老成体を必死の思いで撃退した僕は、リーグラント王国の王女殿下を抱き締めてしまったことで責任を取るように言われてしまった。
不可抗力であったとしても、王族の女性を異性が抱き締めたというのは、それほどの大事なのだろうと顔を青くした。
しかし、続く殿下の言葉は僕の予想の斜め上をいっていた。なんと、他種族である僕に婿に来いというのだ。妖精族の皆さんは幼い見た目の方が大半で、それほど女性としての拒絶反応は少ないが、そもそも各国とも法律として異種族との婚姻は認められていないはずだ。それを殿下に指摘したのだが、驚くことにルピス殿下のいるエレメント王国は、最近法改正を行って他種族との婚姻を認めているらしい。
何故そんな改正があったのか分からないが、そういった前例があれば、リーグラント王国でも踏襲しやすいと笑みを浮かべて言われてしまった。
女性恐怖症である僕が、婿に行くなど考えただけでも恐怖しか無い。しかし、他国とはいえ王族の方の申し出を無下にするなんて、国際問題になりそうで出来ない。困惑と不安に飲み込まれそうになると、殿下はそんな僕の内心を察したように、「冗談よ!」と笑い飛ばしてくれた。
その言葉に安堵していると、様子を伺っていたシュラムさん達が駆け寄って来て安否を確認してきた。大きな怪我もなかったので無事である旨を告げると、隣で殿下がレイダーさんから拳骨を頭に落とされていた。
どうも今回の老成体襲撃に関して殿下が何かしら関わっていたようだったが、内容については追って周知するということで、先ずは他部隊との合流が優先されることになった。
殿下は僕に何か話したがっていたようだったが、レイダーさんがそれを許さず、殿下を引きずりながら移動を始め、僕とシュラムさんはその後を微妙な表情を浮かべながら付いて行った。
その道中、シュラムさんから老成体を撃退した際に見せた具現化武器の形状を変化させたことについての詳細を聞かれたが、僕としては殿下から言われた事をそのまま実行しただけだったので、聞いた通りに報告したのだが、そんな僕の言葉に唖然とした表情を浮かべていた。
「いや、ありえないだろう。そもそも具現化とは、アルマエナジーを武器の形状に固定して使うものだが、強固なイメージで固定出来れば出来るほど強力な力を発揮する。逆に、イメージする武器を多数にしてしまうと威力が落ちるどころか、最悪イメージが弱くなってしまい、具現化も出来なくなるはずだぞ?」
「そ、そうなんですか?う~ん、でも出来ちゃいましたけど・・・」
「それがおかしいんだ!まだ、パピル殿下の形状の変化は理解できる。基本的に武器はそのままに、長さを変化させただけだからな。しかし君ときたら・・・まぁ、最初から君はおかしい事だらけだった。それが1つ2つ増えたところで今更か・・・」
シュラムさんの指摘に、僕は苦笑いを浮かべた。出来ると教わったからやっただけで、それほど凄い事をしたという実感もない。そんな僕にシュラムさんは、達観した様な表情を浮かべていた。
それから間もなく僕達はそれぞれの国の部隊と合流し、事の顛末についての説明を行った。老成体が出現したという事に不安の表情を浮かべている人達は多かったが、既に撃退したという事に安堵の表情を浮かべ、その直後、僕がそれを成したという説明に全員が懐疑的な表情で僕の方を凝視してきた。
ただ、直接その光景を目撃して説明しているのは、それぞれの国の部隊を率いているシュラムさんとレイダーさんという事もあり、結局はその説明を嘘だと断じることもなく、微妙な表情を浮かべながらも疑問を飲み込んでいるようだった。
また、何故老成体が殿下を追っていたのかについては、部隊からはぐれてしまった殿下が、偶発的に老成体と接触してしまい、原因は不明だが、老成体からの敵意を買ってしまったことが発端だったらしい。故意では無かったが、各国の部隊全体を危険に曝してしまったということで、殿下は全員を前にして謝罪のために頭を下げた。
更に殿下は、今回の騒動で僕に一番迷惑を掛けてしまったということで、改めて直接の謝罪と感謝の言葉を伝えてくれた。
そしてーーー
「パピルは君の事をジルジルって呼ぶから、ジルジルもパピルの事はパピルって呼び捨てにしていいからね?」
「えっ?いえ、流石に他国の王女殿下の事を呼び捨てには出来ませーーー」
「えぇ~!!そんなこと気にしなくても良いよ!だってパピルが良いって言ってるんだよ?」
「そ、その・・・他の方の目もありますから・・・」
「じゃあせめて、殿下って敬称は止めてよ?何かジルジルとの壁を感じるんだよね~」
「わ、分かりました・・・パピル様」
「う~ん。様も要らないんだけど・・・まぁ、今はそれで我慢しよっかな」
僕の言葉に殿下は被せ気味に不満を口にされてしまい、何とか理由をつけてこの場をやり過ごそうとしたのだが、結局押しきられる形で名前を呼ぶことになった。
その後は何かと理由をつけてパピル様は僕と行動を共にし、結局残りの遠征中は僕から離れようとしなかった。それは文字通りの意味で、食事中でも休憩中でも僕の隣に陣取り、汚れを落とす為に汗を拭う時にも、就寝の時にも、当然の顔をして隣に居ようとするのだ。困り果てた僕はシュラムさんに相談したのだが、相手が他国の王女という事もあって、無下にも扱えず、あと数日の事だからと我慢をお願いされた。
そんな精神的な疲労を抱えながらも、結局残りの日数を何とか耐えきり、ようやく合同討伐遠征は終わりを迎えた。
別れ際、パピル様から潤んだ瞳を向けられながら再会を固く約束させられ、僕は引きつりそうになる顔を必死に隠して握手を交わし、ドーラル王国への帰路へとついたのだった。
side パピル・リーグラント
(いや、ありえないんですけど・・・)
パピルの事を命懸けで助けてくれようとしてくれたジルジルに、考えられる限りの助言を伝えた。それは実際にパピルが今までの経験で培ってきた感覚も含まれていて、内容については誰にも言ったことがないものだ。
特に、具現化した武器の変形については自分の切り札のようなものとして、将来序列7位以内となって決闘の場に立った時に使おうと密かに考えていたものなのだ。
そもそもこの具現化武器の形状変化というものは、非常に難易度が高かった。幼い頃から周囲のクルセイダーを見て育ってきた為に、どうしても一度具現化した武器は、固定されたままで変化させることは出来ないという固定概念が染み付いてしまっているのだ。
個人個人で具現化される武器が異なる以上、自由に形を変えられることが出来るはずだという概念は、頭では理解できているはずなのに、実践するとなると異常なまでに難しい。それほどまでに幼い頃から培ってきた知識と経験は、新しい試みに水を差すものだった。
考案したパピルでさえ、既に具現化したレイピアの刀身を伸ばすので精一杯なくらいだった。にもかかわらず、ジルジルは一度の助言であろうことか武器自体を丸ごと変えてしまった。まるでスポンジが水を吸収するように、言われたことを即座に実践して見せたのだ。そこにはパピルの言葉を疑うとか、先入観だとかの余計な思考は一切見られず、純粋で素直な人柄が見てとれた。
そんなジルジルは、自身の勇敢な背中をパピルに見せながら、形状変化させた弓を構えていた。一般的な武器として使用されているような弓ではなく、弓自体が打撃武器になりそうなほどの見た目だった。
ジルジルが弓の弦に手を掛けると、一瞬で矢が出現し、放たれた矢の威力は驚くべきものだったが、その矢に込められたアルマエナジー自体も尋常な量ではないと感じた。もしかしたら、パピルのアルマエナジー全てを越える量が注がれているのでは思えるほどだ。
しかもジルジルは、そんな馬鹿げた量のアルマエナジーが籠った矢を2射放ち、平然としているのだ。あの量のアルマエナジーを使い捨てにするなど常識の埒外だけど、それでこそパピルが見初めた男の子だと、逆に誇らしくも感じる。
(欲しい!ジルジルが!!)
これほど異性に焦がれたことは今まで無かったが、あの害獣の老成体に単独で深手を負わせたのだ。これを知れば、例え男性で他種族であろうと、どの国もジルジルの事を欲しがるはず。その証拠に、既に隣のエレメント王国の王女は動き出している。完全に後手に回っているけど、今からでもすぐに他種族との婚姻を認める法律を制定させる必要がある。まだ危機は去っていないにもかかわらず、パピルはジルジルとの将来について思いを馳せていた。
それは、目の前の老成体は片方の前足を失っているが、何とかバランスを保ってこちらを睥睨している。表情は憤怒に塗れているようだが、その奥にはジルジルに対する恐怖の感情を隠そうとしているようにも見えるからだ。
『ウ゛モ゛~~~!!!』
「っ!!」
ジルジルの攻撃の合間を縫って、突如として老成体が地面に向かって頭突きを行ってきた。角を具現化していなかったこともあってか、ジルジルは意表を突かれたような表情を浮かべていた。かく言うパピルも老成体の行動に疑問を持ったが、次の瞬間にはその理由が分かった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
老成体の頭が地面に激突すると、轟音と共に地面が盛大に揺れた。その為、パピル達は地揺れに足を取られて倒れ込んでしまった。同時に、視界を完全に無くすほどの砂煙が立ち込もり、老成体の巨体を見失う程だった。
(しまった!この視界の悪さに乗じて攻撃を仕掛けてくるつもりね!)
パピルが身構えていると、身体を優しく包まれた。
「殿下!くっ!換装!」
「っ!」
ジルジルは片手でパピルの肩を抱き寄せると、開いた手を前方にかざしていた。その先にはパピル達をスッポリと覆うような大きさの8角形の盾が浮かんでいる。またしてもジルジルは、具現化したアルマエナジーの形状を完全に変えたようだ。
しかし、こちらが防御体制を整えたにもかかわらず、老成体からの攻撃は放たれなかった。代わりに聞こえてきたのは、『ズシーン!ズシーン!』という大きな足音が遠ざかっていく音だった。
「もしかして・・・逃げた?」
「・・・の、ようですね」
視界の悪さもあって、しばらくその場で老成体の攻撃に備えて固まっていたパピル達は、遠ざかる足音を聞きながら肩の力を抜くように、大きく息を吐き出した。まさかあの天災と称される老成体が、たった一人の男の子に尻尾を巻いて逃げ出すなんて信じられないが、これで益々ジルジルの価値は跳ね上がる。
(その才能も実力も、パピルのお婿さんとして申し分なしね!そしてこの状況、最大限に利用しなきゃ!)
未だジルジルに抱き寄せられている状況を利用し、パピルは彼の胸元に顔を寄せ、渾身の上目遣いと猫なで声で、ジルジルの籠絡を試みる。
「ねぇ~ジルジル?いつまでパピルの事抱き締めているつもり?」
「っ!す、すみません!とっさの事でーーー殿下?」
パピルの指摘に離れようとしたジルジルの動きを、彼の服を掴んで制した。そんなパピルの行動に、彼は怪訝な表情を浮かべていた。
「パピル~、こうして男の子から抱き締められるなんて初めての経験なんだよね~。責任、取ってくれない?」
「せ、責任ですか!?」
パピルの言葉に、ジルジルは青ざめた表情を浮かべていた。どうやらジルジルは、王女であるパピルに手を出した事で処罰されると考えてしまったようだ。
(そうじゃないんだけどな~)
パピルの想いが上手く伝わっていなかったことに、内心苦笑いを浮かべつつ、もう少しジルジルには直接的な言葉で伝えることにした。
「男の子が女の子に取る責任って言ったら、お婿さんに来るしかないよね~?」
「オ、オムコサン?おむこさん・・・お婿さん・・・って、結婚ということですかっ!?し、しかし、他種族との婚姻は認められていないですよ!?」
パピルの言葉をすぐに理解できなかったジルジルは、同じ言葉を何度も繰り返し呟いてようやく理解したようだ。それと同時に、異種族間の婚姻は国が制限しているという事を、焦った表情を浮かべながら指摘してくる。
「もちろん分かってるよ?でも、そんな法律なんて変えちゃえば良いんだよ?現に、エレメント王国では最近、他種族間での婚姻が認められるように法改正があったんだよ?」
「そ、そうなんですね・・・」
パピルの言葉にジルジルは、何故か神妙な表情というか、不安な表情というか、とてもパピルにお婿さんに来れる可能性を告げられて喜んでいるとは思えないような表情だった。
(そ、そりゃあ、まだジルジルと出会って数日だから、パピルに対して恋心が無いのはしょうがないけど・・・これでも王国内では結構イケてると思うんだけどな・・・)
ジルジルの表情から、女としての自信が揺らぎかねない衝撃を受けてしまう。もしかすると彼は、人族から見れば幼児体型が基本の妖精族には魅力を感じないのかもしれない。
(でも、幼児体型には幼児体型の良さがある!ジルジルが帰国するまでに、それを理解してもらえば良いんですけど!!)
彼の様子から、並々ならぬ決意をパピルは漲らせたのだった。
◇
カウディザスターの老成体を必死の思いで撃退した僕は、リーグラント王国の王女殿下を抱き締めてしまったことで責任を取るように言われてしまった。
不可抗力であったとしても、王族の女性を異性が抱き締めたというのは、それほどの大事なのだろうと顔を青くした。
しかし、続く殿下の言葉は僕の予想の斜め上をいっていた。なんと、他種族である僕に婿に来いというのだ。妖精族の皆さんは幼い見た目の方が大半で、それほど女性としての拒絶反応は少ないが、そもそも各国とも法律として異種族との婚姻は認められていないはずだ。それを殿下に指摘したのだが、驚くことにルピス殿下のいるエレメント王国は、最近法改正を行って他種族との婚姻を認めているらしい。
何故そんな改正があったのか分からないが、そういった前例があれば、リーグラント王国でも踏襲しやすいと笑みを浮かべて言われてしまった。
女性恐怖症である僕が、婿に行くなど考えただけでも恐怖しか無い。しかし、他国とはいえ王族の方の申し出を無下にするなんて、国際問題になりそうで出来ない。困惑と不安に飲み込まれそうになると、殿下はそんな僕の内心を察したように、「冗談よ!」と笑い飛ばしてくれた。
その言葉に安堵していると、様子を伺っていたシュラムさん達が駆け寄って来て安否を確認してきた。大きな怪我もなかったので無事である旨を告げると、隣で殿下がレイダーさんから拳骨を頭に落とされていた。
どうも今回の老成体襲撃に関して殿下が何かしら関わっていたようだったが、内容については追って周知するということで、先ずは他部隊との合流が優先されることになった。
殿下は僕に何か話したがっていたようだったが、レイダーさんがそれを許さず、殿下を引きずりながら移動を始め、僕とシュラムさんはその後を微妙な表情を浮かべながら付いて行った。
その道中、シュラムさんから老成体を撃退した際に見せた具現化武器の形状を変化させたことについての詳細を聞かれたが、僕としては殿下から言われた事をそのまま実行しただけだったので、聞いた通りに報告したのだが、そんな僕の言葉に唖然とした表情を浮かべていた。
「いや、ありえないだろう。そもそも具現化とは、アルマエナジーを武器の形状に固定して使うものだが、強固なイメージで固定出来れば出来るほど強力な力を発揮する。逆に、イメージする武器を多数にしてしまうと威力が落ちるどころか、最悪イメージが弱くなってしまい、具現化も出来なくなるはずだぞ?」
「そ、そうなんですか?う~ん、でも出来ちゃいましたけど・・・」
「それがおかしいんだ!まだ、パピル殿下の形状の変化は理解できる。基本的に武器はそのままに、長さを変化させただけだからな。しかし君ときたら・・・まぁ、最初から君はおかしい事だらけだった。それが1つ2つ増えたところで今更か・・・」
シュラムさんの指摘に、僕は苦笑いを浮かべた。出来ると教わったからやっただけで、それほど凄い事をしたという実感もない。そんな僕にシュラムさんは、達観した様な表情を浮かべていた。
それから間もなく僕達はそれぞれの国の部隊と合流し、事の顛末についての説明を行った。老成体が出現したという事に不安の表情を浮かべている人達は多かったが、既に撃退したという事に安堵の表情を浮かべ、その直後、僕がそれを成したという説明に全員が懐疑的な表情で僕の方を凝視してきた。
ただ、直接その光景を目撃して説明しているのは、それぞれの国の部隊を率いているシュラムさんとレイダーさんという事もあり、結局はその説明を嘘だと断じることもなく、微妙な表情を浮かべながらも疑問を飲み込んでいるようだった。
また、何故老成体が殿下を追っていたのかについては、部隊からはぐれてしまった殿下が、偶発的に老成体と接触してしまい、原因は不明だが、老成体からの敵意を買ってしまったことが発端だったらしい。故意では無かったが、各国の部隊全体を危険に曝してしまったということで、殿下は全員を前にして謝罪のために頭を下げた。
更に殿下は、今回の騒動で僕に一番迷惑を掛けてしまったということで、改めて直接の謝罪と感謝の言葉を伝えてくれた。
そしてーーー
「パピルは君の事をジルジルって呼ぶから、ジルジルもパピルの事はパピルって呼び捨てにしていいからね?」
「えっ?いえ、流石に他国の王女殿下の事を呼び捨てには出来ませーーー」
「えぇ~!!そんなこと気にしなくても良いよ!だってパピルが良いって言ってるんだよ?」
「そ、その・・・他の方の目もありますから・・・」
「じゃあせめて、殿下って敬称は止めてよ?何かジルジルとの壁を感じるんだよね~」
「わ、分かりました・・・パピル様」
「う~ん。様も要らないんだけど・・・まぁ、今はそれで我慢しよっかな」
僕の言葉に殿下は被せ気味に不満を口にされてしまい、何とか理由をつけてこの場をやり過ごそうとしたのだが、結局押しきられる形で名前を呼ぶことになった。
その後は何かと理由をつけてパピル様は僕と行動を共にし、結局残りの遠征中は僕から離れようとしなかった。それは文字通りの意味で、食事中でも休憩中でも僕の隣に陣取り、汚れを落とす為に汗を拭う時にも、就寝の時にも、当然の顔をして隣に居ようとするのだ。困り果てた僕はシュラムさんに相談したのだが、相手が他国の王女という事もあって、無下にも扱えず、あと数日の事だからと我慢をお願いされた。
そんな精神的な疲労を抱えながらも、結局残りの日数を何とか耐えきり、ようやく合同討伐遠征は終わりを迎えた。
別れ際、パピル様から潤んだ瞳を向けられながら再会を固く約束させられ、僕は引きつりそうになる顔を必死に隠して握手を交わし、ドーラル王国への帰路へとついたのだった。
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