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最終章 未来
最終決戦 7
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圧縮した白銀のオーラを解放し、必死に自分の身体の内側に抑えつけていると、エレインが僕の変化について目を見開いて呟いた。その声に自分の手や身体を確認するも、特に何かが変化している様子は見ることが出来ず、彼女が何に驚いたのか分からなかった。
ただ、先程まで感じていた激痛も治まり、むしろ身体が軽くなったような気もするが、まずは僕の変化についてエレインに確認した。
「えっと、エレイン?僕の姿がどうかしたんですか?」
「いや、エイダ・・・身体は何とも無いのか?」
「・・・今は何とも無いですが、何か変わりましたか?」
心配そうなエレインの言葉に、僕は首を傾げながら身体に変調が無いことを伝えた。
「何ともないならいいが、君の髪・・・銀髪になっているぞ?」
「えっ?」
エレインの指摘に自分の髪を触りながら見てみようとするが、自分で見れるほどの長さはないので、確認することは出来なかった。すると、そんな僕にアリアさんも変化を指摘してきた。
「それに、目の色も漆黒と黄金のオッドアイになっているようですね」
「目、ですか?髪もそうですけど、確認しようが無いな・・・」
鏡でもあれば確認できるが、これから戦いに向かうというのに、そんな物を持ち歩いているはずもなく、自分で変化した姿を確認することは諦めた。
「というかエイダ、今の君の状態は【昇華】に至ったということなのか?」
エレインが疑問の声と共に問いかけてきたが、それは僕にも分からなかった。身体の底から力が溢れてくるような感覚もないし、先程まで溢れ出ていた白銀のオーラもピタリと止まり、エレイン達の指摘を考えれば単に見た目が変わっただけで、父さんと母さんの様に見た目にはっきり現れてもいない。
「う、う~ん、どうなんだろう?良く分からないけど、とにかく試してみます」
そう言うと僕は、目前まで迫ってきている魔獣の群れを見据えた。既に目視できる魔獣は、Aランク魔獣のフェンリルやケルベロス、グリフォンにベヒモスが確認できる。さらに遅れて上空からSランク魔獣のワイバーンやSSランクのドラゴンまでも2、3体見えてきた。しかも、その全ての魔獣は全身を暗い緑色のオーラが覆っている。
僕は身体を少し沈めて、その魔獣の群れを迎え撃つ為に戦いに意識を切り替えた。
(あれ?)
戦いに意識を切り替えた瞬間、僕は身体の違和感を感じ取った。何というか、この状態での戦い方は今までと根本的に違うのだということを本能的に感じたとでもいうのか、剣や魔術杖を使ってはいけないような気がするのだ。
その本能に従うように、僕は武器を構えることなく素手で魔獣の群れに突っ込んだのだが、今まで移動の際に感じていた空気抵抗が全く感じられず、音もなく踏み込んでいたのだ。
そんな変化に動揺しながらも、僕は先頭を走って来ていたフェンリルの鼻っ面に向けて正拳突きを放った。
「はぁぁ!!」
『GYAーーー』
「・・・・・」
フェンリルが威嚇のように口を大きく開けて叫ぼうとした時には、既に僕の拳が鼻先に触れていた。今のこの状態の力が身体に段々と馴染んできたのか、これまでとは比べ物にならない速度を発揮することが出来ていた。しかし、その事に驚く間もなく、もっと重大な事に僕は目を見開きながら驚いていた。
(・・・フェンリルが・・・消えた?)
そう、目の前に居たはずのフェンリルは、僕の拳が触れると同時にその姿を掻き消し、叫ぼうとした咆哮の残り声だけが、フェンリルの存在した名残だった。
(何だ?僕の攻撃で身体が塵のように木っ端微塵になって消滅した、という感じでもない・・・まるで、最初からそこには何も存在していなかったかのように消えた・・・)
僕は困惑しながら自分の振り抜いた拳を見つめていたが、さすがに魔獣が押し寄せてきているこの状況で、そのまま突っ立っていることも出来ない。ここで魔獣達を討ち漏らしてしまえば、僕の後ろにいるエレイン達にも被害が及んでしまうかもしれないからだ。
(考察は後だ!とにかく今は目の前の魔獣の群れを殲滅しないと!)
そう考え、次々と手近にいる魔獣達に向かって拳や蹴りを繰り出す。すると、僕の身体に接触した瞬間にケルベロスやグリフォン、ベヒモスがその肉体の一欠片も残すことなく消え去っていった。しかも手応えはほとんど無く、まるで布を撫でる様な感触が残るぐらいで魔獣達は消えていった。
(何だこれ?どうなってるんだ?)
僕の身体に触れるだけで次々と魔獣が消えていっている現状に、驚きと共に不安が押し寄せてくる。もしこの状態のままでエレインやイドラさん達に触れてしまい、彼女達が消えてしまったとしたら・・・そんな事を考えてしまうのだ。
(幸いなことに、僕の目の前には自分のこの状態を試せる相手に事欠かない。様々な事を試して、この状態が何なのか確認し、早く自分のものとしないと!)
それから様々な条件を自分に課しながら、どういった場合に相手を消してしまうのか、どうすれば相手は消えないのかを確認していった。そうしてしばらく魔獣達で検証した結果、相手を消してしまうのは、僕が敵意を向け、殺気を込めて攻撃を放った場合だということが分かった。
つまり、単に僕の身体に触れただけで相手がどうこうなるようなことはなく、僕が相手をしっかりと認識し、相手を害する意思を持って攻撃を放つ、もしくは相手の攻撃を受けることでその存在を消すことが出来るようだ。偶発的に僕に触れたからといっても、誤って消してしまうようなことはない。
しかし同時にそれは、相手を認識していなければ僕を殺そうと襲いかかってきた攻撃を消すことは出来ないということだ。更に、この状態での僕の攻撃射程範囲はゼロ距離。つまり、相手に直接自分の身体が接触しなければ効果を発揮しない。剣や魔術杖で間接的に相手に触れたとしても何も起きなかったのだ。
また、この状態をどの程度維持できるかだが、最初に白銀のオーラを圧縮した量が多かったのか、魔獣の過半数を消し去った今も力が減少しているような感覚がない。もしこれが本当に【昇華】に至った状態なのだとすれば、力の変換効率がかなり高いと思えた。
(能力の最高到達点【昇華】・・・ここに至った父さんと母さんは、確かに世界から剣神や魔神と呼ばれてもおかしくないな。これほど圧倒的な力を、長時間振るえるんだから)
ある程度今の自分の状態のことを把握したことで、僕は一番重要なことに思考を割く。すなわち、この接触した相手を消してしまう力が”世界の害悪”に通用するかどうかということだ。一欠片の塵となっても再生してみせる奴に、本当に効くかどうかは分からない。この力は、相手を人の目に見えない程に分解してしまうだけのものなのか、それとも完全にこの世界から消滅させてしまうものなのかまでは分からない。
(とにかく今はこの魔獣達を一掃して、父さん達と合流しないと)
集まってきていた魔獣達はほとんど消し去り、残るはSランク以上の魔獣達だった。しかし、その魔獣達は空を飛んでいるため、僕の射程距離外にいる。残念ながら今の状態の僕では、遠距離攻撃ができない。この状態では、魔術も剣術も放つことが出来なかったのだ。しかも、この状態を一度解いてしまうと、再度【昇華】に至るためにはかなりの集中と激痛に耐えなければならない。
今は父さんと母さんが”世界の害悪”と対峙して足止めをしてくれているが、【昇華】に至ろうと集中する僕の隙を突いて、奴が攻撃してくる可能性もある。特に、奴が魔獣達を操っているとすれば、僕がどんどん魔獣を消していっている事を認識している可能性もある。不安要素を増やしたくないと考える僕は、どうやってあのドラゴン達を消し去るか思案した。
奴が魔獣達をどの程度操れるのかは不明だが、今上空にいるドラゴン達は、僕の事を睥睨するように監視しているだけで、積極的に攻撃を仕掛けてこようという気配がなかった。
(・・・まさか、操る魔獣の視覚を通して僕を観察している、何てこと有り得るのか?それにしては、ここまで魔獣をただ突っ込ませることしかしていなかったな)
状況を俯瞰できるのであれば、より高度な戦略でもって僕に攻撃を仕掛けることも可能なはずだ。対峙している父さんとの攻防に手一杯になっているせいで細かい操作が出来ないのか、僕が大した苦労もせず片っ端から魔獣を消し去っているために対抗策が思い付かなかったのか分からないが、どちらにしても今の内に上空の魔獣も消しておきたかった。
しかし、あれだけ上空に構えられては手の出しようがない。思いっきり跳躍したとしてもとても届かないだろう。
(何か手はないか・・・この状態の力の特徴を考慮して、空を飛ぶ相手との間合いを詰める方法・・・)
おそらくこの力の根本的な在り方は、自分が触れた対象を任意に消去するようなものだと推測できる。例えばそれが物体に限定されることなく、事象にも影響が及ぶのだとしたら・・・
(試してみるか!)
僕は身体を屈め、上空を見据えながらこちらを睥睨しているドラゴンの一体に狙いを定めた。そして地面を蹴って勢い良く飛び上がると同時に、自分の身体に掛かっている重力を消去しようと意識を巡らせた。
するとーーー
「うわっ!何だこれっ!!」
重力を消去しようと意識を巡らせた瞬間、今まで常に感じていた身体の重さが解き放たれたように、弾丸の如く上空へ舞い上がっていった。その勢いは止まることなく上昇するので、どこまで行ってしまうのか不安に思った僕は、狙いを定めたドラゴンにぶつかることで勢いを止めようと、そのドラゴンを消去しないように意識した。
『ドンッ!』
「うおっ!」
質量差のせいか、僕はドラゴンの腹の辺りにぶつかると、その反動で地面に向かって勢い良く墜落していく。対するドラゴンの方は、少しだけバランスを崩したようだったが、すぐに立て直せる程度のものだった。
(くそっ!このまま地面に激突すると痛そうだ。今度は衝突の勢いを消去する!)
僕は地面に激突する寸前に意識を集中し、衝突の勢いを消去しようと試みた。すると、着地する際の音すらなく、僕は無音で地面に降り立っていた。そして僕は今の一連の出来事から、上空にいる魔獣達を倒す算段を思い付いた。
(なるほど、重力を消去した状況で何かにぶつかると、相手の質量の大小で弾き飛ばすか、逆に弾き飛ばされるかするようだな。なら・・・)
僕はもう一度重力を消去して上空に飛び上がると、体勢を反転させ、狙いを定めた魔獣を足蹴にして、別の魔獣へと弾き飛んでいく。その際、力を解放して足蹴にした魔獣を消去することも忘れない。
(よし!これなら!)
それから僕は、狭い空間で弾け飛び続けるボールの様な変則的な動きで、上空にいた魔獣達を消去していった。既に相手がSランク魔獣であろうとも、“害悪の欠片”を取り込んで更に強大な力を有していようとも、今の僕の前では等しく無力となっていた。
ただ、先程まで感じていた激痛も治まり、むしろ身体が軽くなったような気もするが、まずは僕の変化についてエレインに確認した。
「えっと、エレイン?僕の姿がどうかしたんですか?」
「いや、エイダ・・・身体は何とも無いのか?」
「・・・今は何とも無いですが、何か変わりましたか?」
心配そうなエレインの言葉に、僕は首を傾げながら身体に変調が無いことを伝えた。
「何ともないならいいが、君の髪・・・銀髪になっているぞ?」
「えっ?」
エレインの指摘に自分の髪を触りながら見てみようとするが、自分で見れるほどの長さはないので、確認することは出来なかった。すると、そんな僕にアリアさんも変化を指摘してきた。
「それに、目の色も漆黒と黄金のオッドアイになっているようですね」
「目、ですか?髪もそうですけど、確認しようが無いな・・・」
鏡でもあれば確認できるが、これから戦いに向かうというのに、そんな物を持ち歩いているはずもなく、自分で変化した姿を確認することは諦めた。
「というかエイダ、今の君の状態は【昇華】に至ったということなのか?」
エレインが疑問の声と共に問いかけてきたが、それは僕にも分からなかった。身体の底から力が溢れてくるような感覚もないし、先程まで溢れ出ていた白銀のオーラもピタリと止まり、エレイン達の指摘を考えれば単に見た目が変わっただけで、父さんと母さんの様に見た目にはっきり現れてもいない。
「う、う~ん、どうなんだろう?良く分からないけど、とにかく試してみます」
そう言うと僕は、目前まで迫ってきている魔獣の群れを見据えた。既に目視できる魔獣は、Aランク魔獣のフェンリルやケルベロス、グリフォンにベヒモスが確認できる。さらに遅れて上空からSランク魔獣のワイバーンやSSランクのドラゴンまでも2、3体見えてきた。しかも、その全ての魔獣は全身を暗い緑色のオーラが覆っている。
僕は身体を少し沈めて、その魔獣の群れを迎え撃つ為に戦いに意識を切り替えた。
(あれ?)
戦いに意識を切り替えた瞬間、僕は身体の違和感を感じ取った。何というか、この状態での戦い方は今までと根本的に違うのだということを本能的に感じたとでもいうのか、剣や魔術杖を使ってはいけないような気がするのだ。
その本能に従うように、僕は武器を構えることなく素手で魔獣の群れに突っ込んだのだが、今まで移動の際に感じていた空気抵抗が全く感じられず、音もなく踏み込んでいたのだ。
そんな変化に動揺しながらも、僕は先頭を走って来ていたフェンリルの鼻っ面に向けて正拳突きを放った。
「はぁぁ!!」
『GYAーーー』
「・・・・・」
フェンリルが威嚇のように口を大きく開けて叫ぼうとした時には、既に僕の拳が鼻先に触れていた。今のこの状態の力が身体に段々と馴染んできたのか、これまでとは比べ物にならない速度を発揮することが出来ていた。しかし、その事に驚く間もなく、もっと重大な事に僕は目を見開きながら驚いていた。
(・・・フェンリルが・・・消えた?)
そう、目の前に居たはずのフェンリルは、僕の拳が触れると同時にその姿を掻き消し、叫ぼうとした咆哮の残り声だけが、フェンリルの存在した名残だった。
(何だ?僕の攻撃で身体が塵のように木っ端微塵になって消滅した、という感じでもない・・・まるで、最初からそこには何も存在していなかったかのように消えた・・・)
僕は困惑しながら自分の振り抜いた拳を見つめていたが、さすがに魔獣が押し寄せてきているこの状況で、そのまま突っ立っていることも出来ない。ここで魔獣達を討ち漏らしてしまえば、僕の後ろにいるエレイン達にも被害が及んでしまうかもしれないからだ。
(考察は後だ!とにかく今は目の前の魔獣の群れを殲滅しないと!)
そう考え、次々と手近にいる魔獣達に向かって拳や蹴りを繰り出す。すると、僕の身体に接触した瞬間にケルベロスやグリフォン、ベヒモスがその肉体の一欠片も残すことなく消え去っていった。しかも手応えはほとんど無く、まるで布を撫でる様な感触が残るぐらいで魔獣達は消えていった。
(何だこれ?どうなってるんだ?)
僕の身体に触れるだけで次々と魔獣が消えていっている現状に、驚きと共に不安が押し寄せてくる。もしこの状態のままでエレインやイドラさん達に触れてしまい、彼女達が消えてしまったとしたら・・・そんな事を考えてしまうのだ。
(幸いなことに、僕の目の前には自分のこの状態を試せる相手に事欠かない。様々な事を試して、この状態が何なのか確認し、早く自分のものとしないと!)
それから様々な条件を自分に課しながら、どういった場合に相手を消してしまうのか、どうすれば相手は消えないのかを確認していった。そうしてしばらく魔獣達で検証した結果、相手を消してしまうのは、僕が敵意を向け、殺気を込めて攻撃を放った場合だということが分かった。
つまり、単に僕の身体に触れただけで相手がどうこうなるようなことはなく、僕が相手をしっかりと認識し、相手を害する意思を持って攻撃を放つ、もしくは相手の攻撃を受けることでその存在を消すことが出来るようだ。偶発的に僕に触れたからといっても、誤って消してしまうようなことはない。
しかし同時にそれは、相手を認識していなければ僕を殺そうと襲いかかってきた攻撃を消すことは出来ないということだ。更に、この状態での僕の攻撃射程範囲はゼロ距離。つまり、相手に直接自分の身体が接触しなければ効果を発揮しない。剣や魔術杖で間接的に相手に触れたとしても何も起きなかったのだ。
また、この状態をどの程度維持できるかだが、最初に白銀のオーラを圧縮した量が多かったのか、魔獣の過半数を消し去った今も力が減少しているような感覚がない。もしこれが本当に【昇華】に至った状態なのだとすれば、力の変換効率がかなり高いと思えた。
(能力の最高到達点【昇華】・・・ここに至った父さんと母さんは、確かに世界から剣神や魔神と呼ばれてもおかしくないな。これほど圧倒的な力を、長時間振るえるんだから)
ある程度今の自分の状態のことを把握したことで、僕は一番重要なことに思考を割く。すなわち、この接触した相手を消してしまう力が”世界の害悪”に通用するかどうかということだ。一欠片の塵となっても再生してみせる奴に、本当に効くかどうかは分からない。この力は、相手を人の目に見えない程に分解してしまうだけのものなのか、それとも完全にこの世界から消滅させてしまうものなのかまでは分からない。
(とにかく今はこの魔獣達を一掃して、父さん達と合流しないと)
集まってきていた魔獣達はほとんど消し去り、残るはSランク以上の魔獣達だった。しかし、その魔獣達は空を飛んでいるため、僕の射程距離外にいる。残念ながら今の状態の僕では、遠距離攻撃ができない。この状態では、魔術も剣術も放つことが出来なかったのだ。しかも、この状態を一度解いてしまうと、再度【昇華】に至るためにはかなりの集中と激痛に耐えなければならない。
今は父さんと母さんが”世界の害悪”と対峙して足止めをしてくれているが、【昇華】に至ろうと集中する僕の隙を突いて、奴が攻撃してくる可能性もある。特に、奴が魔獣達を操っているとすれば、僕がどんどん魔獣を消していっている事を認識している可能性もある。不安要素を増やしたくないと考える僕は、どうやってあのドラゴン達を消し去るか思案した。
奴が魔獣達をどの程度操れるのかは不明だが、今上空にいるドラゴン達は、僕の事を睥睨するように監視しているだけで、積極的に攻撃を仕掛けてこようという気配がなかった。
(・・・まさか、操る魔獣の視覚を通して僕を観察している、何てこと有り得るのか?それにしては、ここまで魔獣をただ突っ込ませることしかしていなかったな)
状況を俯瞰できるのであれば、より高度な戦略でもって僕に攻撃を仕掛けることも可能なはずだ。対峙している父さんとの攻防に手一杯になっているせいで細かい操作が出来ないのか、僕が大した苦労もせず片っ端から魔獣を消し去っているために対抗策が思い付かなかったのか分からないが、どちらにしても今の内に上空の魔獣も消しておきたかった。
しかし、あれだけ上空に構えられては手の出しようがない。思いっきり跳躍したとしてもとても届かないだろう。
(何か手はないか・・・この状態の力の特徴を考慮して、空を飛ぶ相手との間合いを詰める方法・・・)
おそらくこの力の根本的な在り方は、自分が触れた対象を任意に消去するようなものだと推測できる。例えばそれが物体に限定されることなく、事象にも影響が及ぶのだとしたら・・・
(試してみるか!)
僕は身体を屈め、上空を見据えながらこちらを睥睨しているドラゴンの一体に狙いを定めた。そして地面を蹴って勢い良く飛び上がると同時に、自分の身体に掛かっている重力を消去しようと意識を巡らせた。
するとーーー
「うわっ!何だこれっ!!」
重力を消去しようと意識を巡らせた瞬間、今まで常に感じていた身体の重さが解き放たれたように、弾丸の如く上空へ舞い上がっていった。その勢いは止まることなく上昇するので、どこまで行ってしまうのか不安に思った僕は、狙いを定めたドラゴンにぶつかることで勢いを止めようと、そのドラゴンを消去しないように意識した。
『ドンッ!』
「うおっ!」
質量差のせいか、僕はドラゴンの腹の辺りにぶつかると、その反動で地面に向かって勢い良く墜落していく。対するドラゴンの方は、少しだけバランスを崩したようだったが、すぐに立て直せる程度のものだった。
(くそっ!このまま地面に激突すると痛そうだ。今度は衝突の勢いを消去する!)
僕は地面に激突する寸前に意識を集中し、衝突の勢いを消去しようと試みた。すると、着地する際の音すらなく、僕は無音で地面に降り立っていた。そして僕は今の一連の出来事から、上空にいる魔獣達を倒す算段を思い付いた。
(なるほど、重力を消去した状況で何かにぶつかると、相手の質量の大小で弾き飛ばすか、逆に弾き飛ばされるかするようだな。なら・・・)
僕はもう一度重力を消去して上空に飛び上がると、体勢を反転させ、狙いを定めた魔獣を足蹴にして、別の魔獣へと弾き飛んでいく。その際、力を解放して足蹴にした魔獣を消去することも忘れない。
(よし!これなら!)
それから僕は、狭い空間で弾け飛び続けるボールの様な変則的な動きで、上空にいた魔獣達を消去していった。既に相手がSランク魔獣であろうとも、“害悪の欠片”を取り込んで更に強大な力を有していようとも、今の僕の前では等しく無力となっていた。
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