剣神と魔神の息子

黒蓮

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第五章 能力別対抗試合

予選 13

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 目が覚めると、どこかで見たような白い天井が視界に入ってきた。身体を起こして周囲を確認すると、やっぱり学院の保健室で寝かされていたようだ。外はまだ薄暗く、夜明け前のようだったが、前回のこともあるので自分がどのくらい眠っていたのか心配になった。



(まさか先輩の予選がある週末まで寝てたって事はないだろうけど、今日は何日なんだ?)



過去の経験から、2つの能力のせいで倒れたときは、数時間で目を覚ましていた事を踏まえると、それほど長い時間が経過しているわけではないと考えたいが、それを聞こうにも保健室には誰も居らず、確認のしようがなかった。


誰かを探して聞くにしても、陽が昇って朝になってからの方が良いだろうと考え、今のうちに自分の身に起きたことを振り返る。



(僕を誘き出したあの執事の人・・・たぶん依頼者の手の内の人っぽかったな。それにあの大通り、だいぶ派手に壊しちゃったけど大丈夫か?あの襲撃者達もまだ狙ってくるかな?)



色々と考えるべき疑問点も多いが、先の出来事で最も考えるべきは能力の同時発動の事だろう。



(それにしても、本当に2つの能力を同時に発動できるなんて・・・闘氣による身体能力、防御力、攻撃力を強化しながら、魔術を同時に発動できるのはかなりの強みだ。何より、ただの打撃でも桁違いの威力だったのには驚いたな・・・)



問題があるとすれば、2つの能力を同時に発動していると、耐えがたい虚脱感と頭痛にさいなまれることだろう。ただ、それは自分を纏う紫色の闘氣のようなオーラの状態によって刻々と変化していた。



(薄い紫色の時はかなり楽だった・・・たぶん魔力量と闘氣量のバランスが完全に一致してないといけないんだろうな)



どちらも精密な制御には自信はあるが、それを完全に同一量を合わせるとなると話が違ってくる。闘氣を定着させて固定化することには馴れているが、魔力は基本的に放出する事を鍛練してきたので、常に一定量を留めようとすると魔力が身体に戻ろうとしてしまい、バランスの調整が繊細なのだ。



(要鍛練だな。母さんがやっていたように、魔力を掌で完全な球体に維持できれば同時発動も制御できるかもしれない)



現状は乱回転によって魔力を球体にしている僕は、昔母さんに見せてもらった、制止した状態での魔力の完全な球体を思い浮かべていた。


自分の更なる成長の余地が見えたことで、僕は嬉々として陽が昇るまで魔力を完全な球体にする鍛練を保健室のベッドの上でしていたのだった。




 朝になり、メアリーちゃんが保健室にやって来ると、ベッドの上で魔力を操っている僕の姿を見て、目を丸くして驚くと、頬を膨らませながら説教されてしまった。



「もう!エイダ君!あなたは昨日ボロボロになって倒れたんですよ?今日は安静にしていなさい!」



メアリーちゃんの言葉から、やっぱり寝ていたのは半日だけの事だったのかと、胸を撫で下ろした。



「あ、心配かけたようですみません」


「まったくです!正門前で倒れ込んだ姿を見た時には何事かと思いましたよ!」


「ははは、ちょっと色々ありまして・・・」


「詳しいことはまた後で聞きますから、今はゆっくり横になっていてくださいね?」


「はい、分かりました」



メアリーちゃんの指示に素直に従うと、ベッドに潜り込んだ。するとメアリーちゃんが小さい手を額や首筋に当ててブツブツと呟いている。おそらく触診なんだろうけど、なんだか気恥ずかしくて目を閉じた。


しばらくして診察が終わったようで、メアリーちゃんは机に向かって何やら書類を書いているようだ。そんな彼女に自分の状態を聞いてみようと口を開いた。



「あの、メアリーちゃん?」


「はい、どうしましたか?」


「僕の身体は大丈夫そうですか?」


「そうですね、確認した限りでは外傷もありませんし、熱もなく、脈も正常ですから心配ありません。症状としては、魔力や闘氣の枯渇と似ていますが、心当たりはありますか?」



なんだかメアリーちゃんの対応がいつもと違って、頼りがいのある先生のような雰囲気になっている。



(いやいや、そもそもメアリーちゃんは先生だった)



普段は背伸びしたお姉さんのような雰囲気を漂わせてくるメアリーちゃんが、この時ばかりは年相応の信頼感があった。そんな若干失礼なことを考えながらも、問われた心当たりに返答する。



「そうですね、ちょっと魔力と闘氣を無茶して使ったので、その影響が出たのかもしれません」



2つの能力を同時に使った事については、メアリーちゃんといえどどのような反応をされるのか分からないので、そのことについてはぼかして答えた。



「無茶ですか・・・とにかく、しばらく安静にしていてくださいね!お昼には事情の確認に人が来ますので、頭の中を整理しておいてください」



メアリーちゃんは笑顔でウィンクしながらそう言うと、先程書いていた書類を片手に保健室を出ていった。



「事情か・・・どう説明したらいいんだ?」



誰も居なくなった保健室で、ベッドで横になっている僕は天井を見上げながらそう呟いた。






side ジョシュ・ロイド



「ーーー報告は以上でございます」


「チッ!・・・そうか、ご苦労だった」



 俺様は学院の応接室にて、我が家の執事から昨日の顛末についての報告を受け取っていた。想定された内容だとはいえ、50人以上もの襲撃者に囲まれながらも暗殺する事が叶わなかったという事には少なからず衝撃だった。


しかも奴には強力な毒を仕込み、その効果が現れたことも確認し、回復手段を奪った上で尚、とどめを刺すには至らなかったというわけだ。これ以上武力での排除を指示するのは愚策だろう。


もはや、奴をただのノアと侮ることはあり得ない。強大な実力を保有している人外の存在と見なして対処する必要がある。そう考え、一度ため息を吐いて意識を切り替えると、目の前に佇む執事に鋭い視線を飛ばす。



「それで、次の仕込みはちゃんとしてきたんだろうな?」


「勿論でございます。雇っていたあの者共は、口封じも兼ねて始末しておきましたので、今頃ちょっとした騒ぎになっているでしょう」


「そうか。投獄されている方はどうなっている?」


「そちらも既に手を回しておりますが、少し時間が掛かりそうですね」



すぐに処分出来ないという執事の報告に、若干眉を寄せる。



「なに?何故だ?」


「どうやら警備と尋問を行っているのは、アーメイ家の腹心の部下のようでして、少々手間取っております」


「ちっ!頭の堅い奴等め!情報が漏れることはないと思うが、念の為に早急に手を打っておけよ!」


「畏まりました。それと、もう一つお耳に入れておきたい情報が・・・」



執事の表情に変化はないが、声のトーンが一段下がり、余程重要な情報なのだろうと少し顔を寄せる。



「なんだ?話せ!」


「はい。実は例の破滅主義者達の組織が、この都市で何か動きを見せているとの報告がございました」


「なに?何故この都市で?」


「詳細は確認中でございますが、目的が分からぬ以上用心せよと御当主様よりのお言葉でございます」



あの破滅主義者達の大きな目的は、各国との戦争を煽ることだ。ここのような学院都市を狙う目的とすれば、まだ実力の乏しい学院生を使って何か裏工作を考えているかもしれない。



(いや、決勝トーナメントには各貴族の当主も観戦に来るし、今年は王女も来られるはずだったな。とすれば、それを狙っている可能性もあるか・・・)



そこまで考えると、破滅主義者達の行動を上手く利用すれば、奴を排除するのと同時に、我がロイド家の名声を更に高められるかもしれないと考えた。



「父上はその件、どの様に動くと仰っていた?」


「後程確認いたしますが、おそらくいつも通り、一番功績が立てられるタイミングで動くと思われます」


「ふむ、そうだろうな・・・」



もし、連中の目的が貴族当主の拉致や殺害だとすれば、多少被害が出てからの方が、その騒動を収めた際の印象も強く残るだろう。それは、その分より多くの報奨が得られる機会があるということだ。しかもそれが王女を助けるということに繋がれば、さらに王家に対してまでも恩が売れるという事に他ならない。



「よし!奴への告発は、王女が観戦する決勝の日に合わせる!その方が奴を完全に社会的に葬れるからな!それに、例の組織が同じタイミングで動くのであれば、それを静めたロイド家は、王族にとって益々重宝されるというものだろう?」



ニヤリと笑みを浮かべながら話す俺様に、執事も笑みを返してくる。



「さすが次期御当主であらせられるジョシュ様でございます。そのご慧眼、感服致しました」


「ふっ!では、裏工作と例の組織についての動向は、逐一俺様にも連絡をするように!」


「畏まりました!では、失礼いたします!」



恭しく頭を下げてから、執事は応接室を出ていった。



「ふふふ!いいぞ、いいぞ!俺様に追い風が吹いてきたようだな!富も権力も名声も女も、全ては俺様の手中に収まるのが自然の摂理というものだ!!」



誰も居なくなった応接室で俺様は、これから訪れようとしている輝かしい未来に思いを馳せ、高らかに笑い声をあげるのだった。
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