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第四章 クルニア共和国国立ギルド
ギルド 28
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アーメイ先輩から僕にとって尻込みするような話を聞かされた後、注意事項として釘を刺された事がある。今回のドラゴン討伐は、極一部の者にのみ真実が周知されている状況で、世間一般には深手を負ったドラゴンが逃げ出したということになっているらしい。僕が切り飛ばしたドラゴンの手足が良い証拠になったようだ。
何故という疑問があったのだが、アーメイ先輩から「全ては君のためだ!」と力強く言われてしまい、更に詳しいことは先輩のお父さんから話があるということで、それ以上聞くことができなかった。
夕方近くになってアッシュがカリン、ジーアと共に様子を見に来てくれた。
先輩は皆と入れ違うように、「用事があるから」と保健室をあとにした。きっと、僕達が気兼ねしないように気を遣ってくれたのだろう。みんなは僕の無事な様子に安堵した表情をしてくれて、僕も心配掛けてしまったことを詫びた。
最初はそんな感じで僕の体調を気遣ったり、ここ数日の騒動について話していたのだが、次第に話題がアーメイ先輩の事へと移っていった。
「ところで、エイダはん?アーメイ先輩とはその後どうなん?」
「あ、私もそれは気になったわ!エイダを見る先輩の目が、前とは明らかに違っているし!」
ジーアとカリンが興奮した表情で聞いてくるのだが、僕にはどう答えていいか分からなかった。
「いや、別に何もないよ?確かに今日の先輩の様子はちょっと変だったけど、たぶん僕に寝顔を見られたせいじゃないかな?」
「へぇ~、あの先輩でもそんな隙を他人に見せるんだな」
僕の話に、アッシュが意外とばかりに先輩の振る舞いに驚いていたが、それを鼻で笑うかのようにジーアとカリンが声を荒げた。
「何言うてんねん!驚くとこ、そこやないやろ!?」
「そうそう!先輩はエイダにだったら自分の寝顔を見られても良いって判断したのよ!」
「せやで!これは既に・・・アーメイ先輩はもう・・・」
真剣な表情をしながら僕の顔を覗き込んでくるジーアとカリンに、困惑しながら聞き返す。
「も、もう・・・何??」
僕の言葉に2人は顔を見せ合い、ニヤリと表情を緩めながら、意味ありげな眼差しを向けてきた。
「それは、ウチらの口からは言えへんわ!」
「そうね!本人から直接聞いた方が良いと思うわ!あっ!でも、こういうのは男性から言ってくれた方が良いんだけどね~」
「せやねぇ!先輩はどうか分からへんけど、大抵の女性は待ってまうもんやね~」
「ね~!」
僕を置いて2人して楽しそうに会話してしまっているので、同じく置いてけぼりになっているアッシュに視線を向けるのだが、彼は肩を窄めながら苦笑いをするだけだった。
しばらくして女性陣の話が終ると、唐突にジーアは以前行ったレストランについての話をしてきた。
「ところで、こうしてエイダはんの意識も戻ったことやし、快気祝いも兼ねて例のレストランに行こうと思うんやけど、いつがええ?」
「俺はいつでもいいぜ!まぁ、エイダの体調に合わせるわ」
「私もそれで問題ない」
アッシュとカリンは僕の体調に合わせてくれると言うことだったが、もう身体は万全だった。ただ、次の休息日には既に予定が入ってしまっていた。
「実は、次の休息日にはアーメイ先輩のお父さんと会わないといけなくて、早くても再来週の休息日かな・・・」
苦笑いしながらそう伝えると、みんなは目を丸くしながら僕を見て固まっていた。そんな中でもジーアはベッドに身を乗り出すように聞いてきた。
「はっ!?えっ?もうそんなとこまで話が進んどるん!?」
「そんなとこって・・・僕が今回のスタンピードの功労者だとかで、その処遇について希望を聞きたいって言われたんだけど?」
「えっ?あ、そ、そっちのことかいな!」
「???そっち?」
「あぁ、いやいや、何でもあらへんで!」
僕の疑問に焦ったように取り繕うジーアだったが、何を考えていたのか追求する前にアッシュが質問してきた。
「それにしても、エイダの希望を聞くって、具体的に何か選択肢が与えられてるのか?」
「それが全然!詳しくは先輩のお父さんから話があるらしくて、それまではどんな話があるのか、まるで分からないよ」
「まぁ、さすがにSSランクのドラゴンを騎士団に協力して撃退したんだし、悪いようにはされないだろう?」
「そうそう!まったく、アッシュから話に聞いて驚いたわよ!無茶をするだけの実力はあると思うけど、まさかドラゴンに向かっていくなんてね!」
「ほんまやで!相手を考えて挑まんと、命が幾ら有っても足りへんで?」
どうやらアーメイ先輩が言っていた通り、一般にはドラゴンは討伐ではなく撃退したことになっており、僕も騎士団に協力したという扱いになっているようだ。
「あはは・・・まぁ、何とかなったから良かったよ。とりあえず、僕にとって良い話だといいんだけどね」
僕の呟きに、ジーアは真剣な表情で忠告してくる。
「無下にはされんやろうけど、相手は伯爵家の当主やからな・・・前の商人の時みたいに、いつの間にか無理難題を呑まされんようにな?」
いつかの商人との契約の事を指摘されて、ぐうの音も出なかった。
「そ、そうだね。何か話をされたときは、裏がないかよく考えてから返答するようにするよ」
「うんうん、それがええで!」
僕の言葉に、ジーアは少し安心した表情になった。その後も皆と取り留めもない話をして、辺りが暗くなるくらいには皆寮に戻っていった。
そして、それから数日後の休息日、いよいよアーメイ先輩のお父さんと対面する日が来た。
当日は先輩が別邸まで案内するからと、学院の正門前に馬車を呼び、そこからこの都市の貴族街の方へと向かった。馬車には妙齢のメイドさんが1人同乗しており、アーメイ先輩と僕の身の回りのお世話をしてくれると言うことなのだが、メイドという存在に今まで関わることがなかったので、どう接していいのかよく分からなかった。
その為、自分で馬車の扉を開けようとしたり、乗る際の踏み板を準備される前に乗り込もうとして、苦笑いをさせてしまった。
しばらく馬車に揺られること数十分で、アーメイ先輩の家の別邸に到着した。道中は見知らぬメイドさんの存在もあって先輩との会話もほとんど無いどころか、あまり目も合わせてくれなかった。
覗き見る表情からは、怒っているというわけではなさそうで、恥ずかしがっているような印象だった。まだ寝顔の事を気にしているのかなと考えてしまい、僕から会話を振ることも憚られてしまったのだ。
アーメイ家の別邸は、これが主要都市のあちこちで用意している家とは思えないほどの豪華さで、立派な門構えに2人の門番が睨みを効かせており、奥に見える家は、広大な敷地にお城のような3階建ての屋敷が聳聳え建っていた。
(これで単なる別邸って・・・貴族ってどんだけお金持ちなんだろう・・・)
先輩の家を見上げながらそんなことを思っていると、同乗していたメイドさんが前に進み出て、屋敷の大きな扉を開けて僕達を案内してくれる。
「お嬢様、ファンネル様、どうぞこちらへ」
開け放たれた扉から見える内装も豪華の一言で、落ち着きのあるダークブラウンを基調とした家具などからは高級感が溢れているようだった。
先輩のお父さんの準備が整うまでと、屋敷の一室に案内され、メイドさんは「用があればお呼びください」と言って、深々と頭を下げながら退出していった。
2人残された部屋で、未だ僕に対してどこか余所余所しい先輩に、意を決して話しかけた。
「あ、あの、アーメイ先輩?」
「ど、どうしたんだ、エイダ君?」
たどたどしく答える先輩に、内心で苦笑いしながら疑問をぶつけた。
「あ、いえ、今日の話ってどんな内容なのか気になってしまいまして・・・」
「そ、そうだな、予め概要だけは伝えておこう」
先輩はそう前置きして、これから行われる話についての大まかな事を伝えてくれた。
曰く、今日の話の主たる題材は2つ。僕の実力と報奨についてなのだという。前者については、ドラゴンを単独討伐するだけの力のあり方について話があるらしく、後者については文字通りドラゴンを討伐し、都市を危機から救ったことに対しての報酬だ。
「君には事前に希望を聞くと言っておいたな?」
「はい。ただ、そもそも何を希望すれば良いのかもわからなくて・・・」
「ふむ、私の言葉足らずだったな。すまない!」
「いえいえ、別に謝っていただかなくても大丈夫ですよ!」
頭を下げようとする先輩を、必死に押し止めるように声を上げた。
「そう言ってもらえるとありがたい。簡単に言うと、もし君が栄達を望むと言えば、最大限その望みに沿うように騎士団から計らうということだ」
「・・・栄達、ですか?」
「そうだ!爵位を望みたいということであれば、成人後に騎士爵程度なら騎士団長の権限で推薦できるだろう」
先輩からの「栄達」という言葉を頭でよく考える。端的に言えば、それは先輩が言ったように貴族に叙爵されるということだろう。
(貴族なんてなるもんじゃないって、父さんも母さんも口酸っぱく言ってたし、性格の悪い貴族の子供も見てきたから、正直良い印象がないんだよな・・・)
そんな人種の中の一員になるのは忌避感を覚えるし、ジーア曰く貴族は互いに弱味を掴もうと画策し、他家を蹴落とす事に策を労するような生活をしているという事だった。そんな話を聞かされて、とても貴族になりたいなんて考えは持てなかった。
「えっと、その栄達を断ることは出来るんですか?」
「・・・勿論だ。その可能性も考慮して、ドラゴン討伐における情報を伏せていたのだからな」
どうやら討伐ではなく撃退したという情報や、単独ではなく騎士団と協力したという情報は、僕が栄達を望まなかった場合の布石だったようだ。ただ、僕が栄達に否定的な言葉を伝えた時の先輩は、どこか悲しそうな表情をしていた。
「えっと、僕の実力についての方はどういう事なんですか?」
「それについてはお父様から詳しく話があるが、正直に言って君の実力は個人で持てる武力の範囲を越えているんだ。それに、実力が高すぎてどう扱うべきか分からない」
「はぁ・・・」
力があり過ぎると指摘されたところで、自分自身ではどうしようもないことに何と答えて良いか分からず、生返事を返すことしかできなかった。もっと言えば、ことの重大性がよく分かっていないとも言える。
「ギルドランクを昇格するにしても、学院生では何かと目立ってしまう。かといって、これほどの実力者と功績者に何もしないというのも外聞が悪い」
別にそれなりの褒賞金をもらうだけでも全然構わないのだが、体面を気にするということは、貴族ならではの柵柵でもあるのだろう。
「う~ん、実力の事についてはしっかりと確認して判断した方が良さそうですね」
「そうだな。私にも大体の方針しか聞かされていないから、それが良いだろう」
先輩との話が一段落すると扉がノックされ、先程のメイドさんから、「当主の準備が整いました」と声を掛けられた。そしてメイドさん先導のもと、屋敷の奥の重厚な扉の前まで案内された。
『コンコン!』
「御当主様!エレインお嬢様とエイダ・ファンネル様をご案内致しました!」
扉越しにメイドさんが声を掛けると、部屋の中から返事が返ってきた。
『御苦労!入ってくれ!』
メイドさんが扉を開けると、僕らに入室を促してくる。部屋に入ると、いかにも高級そうなダークブラウンの机に座る、精悍な顔つきの男性がこちらを鋭く見据えてきた。
「初めまして、エイダ・ファンネル君。私がアーメイ伯爵家当主、グレス・アーメイだ」
何故という疑問があったのだが、アーメイ先輩から「全ては君のためだ!」と力強く言われてしまい、更に詳しいことは先輩のお父さんから話があるということで、それ以上聞くことができなかった。
夕方近くになってアッシュがカリン、ジーアと共に様子を見に来てくれた。
先輩は皆と入れ違うように、「用事があるから」と保健室をあとにした。きっと、僕達が気兼ねしないように気を遣ってくれたのだろう。みんなは僕の無事な様子に安堵した表情をしてくれて、僕も心配掛けてしまったことを詫びた。
最初はそんな感じで僕の体調を気遣ったり、ここ数日の騒動について話していたのだが、次第に話題がアーメイ先輩の事へと移っていった。
「ところで、エイダはん?アーメイ先輩とはその後どうなん?」
「あ、私もそれは気になったわ!エイダを見る先輩の目が、前とは明らかに違っているし!」
ジーアとカリンが興奮した表情で聞いてくるのだが、僕にはどう答えていいか分からなかった。
「いや、別に何もないよ?確かに今日の先輩の様子はちょっと変だったけど、たぶん僕に寝顔を見られたせいじゃないかな?」
「へぇ~、あの先輩でもそんな隙を他人に見せるんだな」
僕の話に、アッシュが意外とばかりに先輩の振る舞いに驚いていたが、それを鼻で笑うかのようにジーアとカリンが声を荒げた。
「何言うてんねん!驚くとこ、そこやないやろ!?」
「そうそう!先輩はエイダにだったら自分の寝顔を見られても良いって判断したのよ!」
「せやで!これは既に・・・アーメイ先輩はもう・・・」
真剣な表情をしながら僕の顔を覗き込んでくるジーアとカリンに、困惑しながら聞き返す。
「も、もう・・・何??」
僕の言葉に2人は顔を見せ合い、ニヤリと表情を緩めながら、意味ありげな眼差しを向けてきた。
「それは、ウチらの口からは言えへんわ!」
「そうね!本人から直接聞いた方が良いと思うわ!あっ!でも、こういうのは男性から言ってくれた方が良いんだけどね~」
「せやねぇ!先輩はどうか分からへんけど、大抵の女性は待ってまうもんやね~」
「ね~!」
僕を置いて2人して楽しそうに会話してしまっているので、同じく置いてけぼりになっているアッシュに視線を向けるのだが、彼は肩を窄めながら苦笑いをするだけだった。
しばらくして女性陣の話が終ると、唐突にジーアは以前行ったレストランについての話をしてきた。
「ところで、こうしてエイダはんの意識も戻ったことやし、快気祝いも兼ねて例のレストランに行こうと思うんやけど、いつがええ?」
「俺はいつでもいいぜ!まぁ、エイダの体調に合わせるわ」
「私もそれで問題ない」
アッシュとカリンは僕の体調に合わせてくれると言うことだったが、もう身体は万全だった。ただ、次の休息日には既に予定が入ってしまっていた。
「実は、次の休息日にはアーメイ先輩のお父さんと会わないといけなくて、早くても再来週の休息日かな・・・」
苦笑いしながらそう伝えると、みんなは目を丸くしながら僕を見て固まっていた。そんな中でもジーアはベッドに身を乗り出すように聞いてきた。
「はっ!?えっ?もうそんなとこまで話が進んどるん!?」
「そんなとこって・・・僕が今回のスタンピードの功労者だとかで、その処遇について希望を聞きたいって言われたんだけど?」
「えっ?あ、そ、そっちのことかいな!」
「???そっち?」
「あぁ、いやいや、何でもあらへんで!」
僕の疑問に焦ったように取り繕うジーアだったが、何を考えていたのか追求する前にアッシュが質問してきた。
「それにしても、エイダの希望を聞くって、具体的に何か選択肢が与えられてるのか?」
「それが全然!詳しくは先輩のお父さんから話があるらしくて、それまではどんな話があるのか、まるで分からないよ」
「まぁ、さすがにSSランクのドラゴンを騎士団に協力して撃退したんだし、悪いようにはされないだろう?」
「そうそう!まったく、アッシュから話に聞いて驚いたわよ!無茶をするだけの実力はあると思うけど、まさかドラゴンに向かっていくなんてね!」
「ほんまやで!相手を考えて挑まんと、命が幾ら有っても足りへんで?」
どうやらアーメイ先輩が言っていた通り、一般にはドラゴンは討伐ではなく撃退したことになっており、僕も騎士団に協力したという扱いになっているようだ。
「あはは・・・まぁ、何とかなったから良かったよ。とりあえず、僕にとって良い話だといいんだけどね」
僕の呟きに、ジーアは真剣な表情で忠告してくる。
「無下にはされんやろうけど、相手は伯爵家の当主やからな・・・前の商人の時みたいに、いつの間にか無理難題を呑まされんようにな?」
いつかの商人との契約の事を指摘されて、ぐうの音も出なかった。
「そ、そうだね。何か話をされたときは、裏がないかよく考えてから返答するようにするよ」
「うんうん、それがええで!」
僕の言葉に、ジーアは少し安心した表情になった。その後も皆と取り留めもない話をして、辺りが暗くなるくらいには皆寮に戻っていった。
そして、それから数日後の休息日、いよいよアーメイ先輩のお父さんと対面する日が来た。
当日は先輩が別邸まで案内するからと、学院の正門前に馬車を呼び、そこからこの都市の貴族街の方へと向かった。馬車には妙齢のメイドさんが1人同乗しており、アーメイ先輩と僕の身の回りのお世話をしてくれると言うことなのだが、メイドという存在に今まで関わることがなかったので、どう接していいのかよく分からなかった。
その為、自分で馬車の扉を開けようとしたり、乗る際の踏み板を準備される前に乗り込もうとして、苦笑いをさせてしまった。
しばらく馬車に揺られること数十分で、アーメイ先輩の家の別邸に到着した。道中は見知らぬメイドさんの存在もあって先輩との会話もほとんど無いどころか、あまり目も合わせてくれなかった。
覗き見る表情からは、怒っているというわけではなさそうで、恥ずかしがっているような印象だった。まだ寝顔の事を気にしているのかなと考えてしまい、僕から会話を振ることも憚られてしまったのだ。
アーメイ家の別邸は、これが主要都市のあちこちで用意している家とは思えないほどの豪華さで、立派な門構えに2人の門番が睨みを効かせており、奥に見える家は、広大な敷地にお城のような3階建ての屋敷が聳聳え建っていた。
(これで単なる別邸って・・・貴族ってどんだけお金持ちなんだろう・・・)
先輩の家を見上げながらそんなことを思っていると、同乗していたメイドさんが前に進み出て、屋敷の大きな扉を開けて僕達を案内してくれる。
「お嬢様、ファンネル様、どうぞこちらへ」
開け放たれた扉から見える内装も豪華の一言で、落ち着きのあるダークブラウンを基調とした家具などからは高級感が溢れているようだった。
先輩のお父さんの準備が整うまでと、屋敷の一室に案内され、メイドさんは「用があればお呼びください」と言って、深々と頭を下げながら退出していった。
2人残された部屋で、未だ僕に対してどこか余所余所しい先輩に、意を決して話しかけた。
「あ、あの、アーメイ先輩?」
「ど、どうしたんだ、エイダ君?」
たどたどしく答える先輩に、内心で苦笑いしながら疑問をぶつけた。
「あ、いえ、今日の話ってどんな内容なのか気になってしまいまして・・・」
「そ、そうだな、予め概要だけは伝えておこう」
先輩はそう前置きして、これから行われる話についての大まかな事を伝えてくれた。
曰く、今日の話の主たる題材は2つ。僕の実力と報奨についてなのだという。前者については、ドラゴンを単独討伐するだけの力のあり方について話があるらしく、後者については文字通りドラゴンを討伐し、都市を危機から救ったことに対しての報酬だ。
「君には事前に希望を聞くと言っておいたな?」
「はい。ただ、そもそも何を希望すれば良いのかもわからなくて・・・」
「ふむ、私の言葉足らずだったな。すまない!」
「いえいえ、別に謝っていただかなくても大丈夫ですよ!」
頭を下げようとする先輩を、必死に押し止めるように声を上げた。
「そう言ってもらえるとありがたい。簡単に言うと、もし君が栄達を望むと言えば、最大限その望みに沿うように騎士団から計らうということだ」
「・・・栄達、ですか?」
「そうだ!爵位を望みたいということであれば、成人後に騎士爵程度なら騎士団長の権限で推薦できるだろう」
先輩からの「栄達」という言葉を頭でよく考える。端的に言えば、それは先輩が言ったように貴族に叙爵されるということだろう。
(貴族なんてなるもんじゃないって、父さんも母さんも口酸っぱく言ってたし、性格の悪い貴族の子供も見てきたから、正直良い印象がないんだよな・・・)
そんな人種の中の一員になるのは忌避感を覚えるし、ジーア曰く貴族は互いに弱味を掴もうと画策し、他家を蹴落とす事に策を労するような生活をしているという事だった。そんな話を聞かされて、とても貴族になりたいなんて考えは持てなかった。
「えっと、その栄達を断ることは出来るんですか?」
「・・・勿論だ。その可能性も考慮して、ドラゴン討伐における情報を伏せていたのだからな」
どうやら討伐ではなく撃退したという情報や、単独ではなく騎士団と協力したという情報は、僕が栄達を望まなかった場合の布石だったようだ。ただ、僕が栄達に否定的な言葉を伝えた時の先輩は、どこか悲しそうな表情をしていた。
「えっと、僕の実力についての方はどういう事なんですか?」
「それについてはお父様から詳しく話があるが、正直に言って君の実力は個人で持てる武力の範囲を越えているんだ。それに、実力が高すぎてどう扱うべきか分からない」
「はぁ・・・」
力があり過ぎると指摘されたところで、自分自身ではどうしようもないことに何と答えて良いか分からず、生返事を返すことしかできなかった。もっと言えば、ことの重大性がよく分かっていないとも言える。
「ギルドランクを昇格するにしても、学院生では何かと目立ってしまう。かといって、これほどの実力者と功績者に何もしないというのも外聞が悪い」
別にそれなりの褒賞金をもらうだけでも全然構わないのだが、体面を気にするということは、貴族ならではの柵柵でもあるのだろう。
「う~ん、実力の事についてはしっかりと確認して判断した方が良さそうですね」
「そうだな。私にも大体の方針しか聞かされていないから、それが良いだろう」
先輩との話が一段落すると扉がノックされ、先程のメイドさんから、「当主の準備が整いました」と声を掛けられた。そしてメイドさん先導のもと、屋敷の奥の重厚な扉の前まで案内された。
『コンコン!』
「御当主様!エレインお嬢様とエイダ・ファンネル様をご案内致しました!」
扉越しにメイドさんが声を掛けると、部屋の中から返事が返ってきた。
『御苦労!入ってくれ!』
メイドさんが扉を開けると、僕らに入室を促してくる。部屋に入ると、いかにも高級そうなダークブラウンの机に座る、精悍な顔つきの男性がこちらを鋭く見据えてきた。
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