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第二章 クルニア学院
入学 14
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「いてててて・・・ったく、エイダは全然手加減しないなぁ」
地面に座り込みながら右腕を押さえて苦悶の表情を浮かべるアッシュは、僕を見ながらそんな軽口を叩いてきた。
「大丈夫!綺麗に折ったから、治癒すると逆に骨が丈夫になるんだよ?」
彼の軽口に対して僕も何でもないことのように話す。寧ろ、骨が丈夫になるから良かったね、と付け加えて。
「ははは、皮鎧を着込んで闘氣まで纏っているのに、素の状態のお前に手も足も出ないとなると笑えてくるぜ・・・おまけに、人の腕折っておいてその言い種だもんな・・・」
「ご、ごめん!一応事前に忠告はしてたと思うんだけど・・・」
「冗談だよ!別に怒ってる訳じゃねえ。ただ、自分の不甲斐なさに愕然としちまっただけだ・・・」
確かに彼は言葉こそ僕を非難しているように聞こえるが、その表情や口調からは怒りと言うよりも自嘲のような感情が感じ取れた。
元々彼は騎士団への入団を目指しているということだったので、それに合わせてしっかり鍛練しようかと思ったのだが、想像以上に僕と実力差があったので、この短時間で既に両手で数えられる程骨を折り、僕の治療を受けている。
「・・・しかし聖魔術をここまで使いこなせるなんて凄いな・・・」
アッシュは僕に治療を受けながら感嘆の声を溢した。
「う~ん、母さんと比べたら全然なんだけどね・・・」
正直、母さんにかかれば手足が千切れても回復させてくれるので、死ななければなんとでもなるのではないかと思うほどの治癒力があると思っている。
それに比べれば、僕の治癒力など精々骨折を治す事位までしか出来ない。しかしアッシュ曰く、普通の第二階悌の魔術師では小さな裂傷を治すくらいが精々らしいので、規格外も甚だしいと乾いた笑いを浮かべて僕に治療されていた。
「よし!これでもう大丈夫!」
「サンキュー!・・・バッチリだ!」
アッシュは骨折していた腕を動かして感触を確かめると、痛みや違和感もないようで笑顔でお礼を言ってきた。鍛練を続けたいところだが、そろそろ彼の闘氣が枯渇し始めてきたので、闘氣を使った鍛練はここまでだ。
(こうして一緒に鍛練すると、アッシュの闘氣量は僕と比べてかなり少ないな。僕の闘氣量なんて父さんの半分だって言われているけど、世間一般の普通の闘氣量ってどれくらいなんだろう?)
ここ数日、自分は世間の普通からはだいぶ離れた場所に居るという自覚が出てきたので、変なことを口走って周りに引かれないようにするため、常識を確認してから口に出そうと思っていた。その一つが、自分の闘氣量と魔力量だ。
この学院では教育機関だけあって、申請すれば自分の闘氣量や魔力量の確認を行うことができる。基本的にそれらの量は生まれたときからあまり変わらないとされているので、一度測定すれば、その後測定することはあまりない。
僕の場合は闘氣は父さんが、魔力は母さんが測ってくれたのだが、世間の普通と比べた際の自分の立ち位置が不明だったので後で確認しておこうと考えていた。
「後は時間まで素振りくらいしか出来ないね」
「そうだな、さすがにこれ以上は倒れそうだよ・・・俺は大丈夫だから、カリン達の方を見てやってくれよ!」
「そうだね、ちょっと見てくるよ!」
そう言ってアッシュから離れて、詠唱での魔術行使を鍛練している2人の元へと移動した。
「ど、どう?進展はあったかな?」
彼女達の様子を見に来ると、魔力を使い過ぎたのか、地面にへたり込んでいる2人の姿にまず驚いた。俯く2人に声をかけると、2人共ゆっくりと顔を上げたが、その表情に力はなかった。
「本当に杖無しで、魔術なんて発動できるの?」
「ウチもそんなことが出来るか、自信無くなってしもたわ・・・」
どうやら彼女達は魔力が尽きる寸前まで詠唱による魔術の発動を試みたようだが、結局一度も成功することはなかったらしい。
「ま、まぁ、今まで一度もやってなかったことが、急に出来るようになるなんて無いんだから、気長に頑張ろう!」
そう励ますのだが、彼女達の表情は冴えなかった。
「はぁ・・・ちょっとエイダ、一度やってみてくれる?」
カリンはいつも通りの口調で話しかけてきてくれたことに僕は安堵しながらも、二つ返事で了承した。
「じゃあ、いくよ!『我が身に宿りし力よ、求めに応じて顕現せよ!その力、我が意思により望むものへと姿を変えよ!』」
第二階悌の詠唱を終えると、僕は掌に火の玉を浮かべて見せた。2人は僕の掌に浮かぶ火の玉を中腰になって覗き込み、そのまま目線を上げて上目遣いにこちらを向いてきた。
「・・・どうやるん?」
膝に手を置いて中腰になっているせいで、ただでさえ存在感のある2人の胸が、両腕で圧迫されて服の上からでも分かるくらいに凄いことになっている。
2人の胸に視線が吸い込めれそうになるのを極力我慢しながら、ジーアの問いにどう答えたものかと少し考えて返答する。
「そ、そうだね・・・急に出来ることじゃないと思うから、今まで杖頼みで無意識にしていた魔力の流れを、まずは意識的に感じ取って感覚を掴むとかかな?」
おそらく魔術が発動できない原因は、発動に必要な量の魔力を制御できていないのだろう。個人証へ魔力を流すときは極少量で済むし、杖を用いての魔術は、杖が勝手にやってくれる。
そうなると、彼女達は個人証へ注ぐ魔力量以上の魔力の制御をしたことがないということになる。
だからこそ、必要な魔力量が制御できずに不発となっているのだろう。だとすれば、感覚を養うために無意識だった部分こそを意識する必要性を感じたのだ。
「う~ん、まぁそうよね。今までは杖に少し魔力を流せば、あとは勝手に発動していたし、魔力の流れなんて意識したことなかったもんなぁ」
「やっぱりそうか。じゃあ、明日からは杖を使ってゆっくりと集中して魔術を発動するところまでやって、とにかく魔力の流れを感じ取れるようになろうか!」
「そうね。さすがに今日はもう魔力が限界よ」
「ウチも今日は限界や。明日からもよろしゅうな!」
それから授業終了の時間まで、アッシュも含めてしばらく今後の鍛練内容を皆で確認してから寮へと戻った。
一度部屋へ戻ってから、僕は夕食までの時間を利用して、寮母のメアリーちゃんの元を訪れていた。寮母とはいっても寮に常駐しているわけではなく、基本的に彼女は校舎の受け付け横にある保健室に居ることが多い。
何を隠そうメアリーちゃんは、貴重な聖魔術の使い手らしく、彼女を聖女のように崇める生徒もいるとかいないとか。いまいち釈然としない評価になってしまうのは、彼女の普段の言動のせいだろう。
『コンコン!』
「失礼します!」
「はいは~い!あら?え~っと・・・」
「こんちは!エイダです」
「そうそう、エイダ君!今日はどうしたのかな?」
ノックをして保健室へ入ると、同い年としか思えない見た目のメアリーちゃんが、可愛らしく小首を傾げながら保健室へ通してくれた。
いくつかのベッドがカーテンで仕切られているが、今は誰も使っていないようだった。メアリーちゃんの机の向かいの椅子へ案内されると、さっそくここを訪れた本題を伝える。
「実は闘氣と魔力の量を確認したいと思うのですが、どうすればいいですか?」
「ふんふん、闘氣量と魔力量の測定ね!オッケ~!ちょっと待っててね~!」
そう言うとメアリーちゃんは奥へと引っ込んでいった。先生の実年齢が29歳ということを知ってしまったので、なんだかその言動の一つ一つが、妙に若者ぶっているのではないかと穿った見方をしてしまう。
(外見だけ見れば相応な子供っぽい言動も、年齢を考えるとなんだか痛々しく思えちゃうな・・・)
本人に対しては絶対言えないことを考えながら、戻ってくるのを待っていると、一抱えもある大きな箱のようなものを持ち出してきた。
「よい・・・しょっと!」
重そうなそれを掛け声と共に机に乗せると、メアリーちゃんも椅子に腰かけて僕に向き直ってきた。
「エイダ君は測定器を使ったことはあるの?」
「いえ、僕の魔力と闘氣の量については、両親が見てくれてまして、こういった機器を使ったことはありません」
「へぇ~、そうなんだ。ある程度の実力者になると、相手の放つ魔術や剣術を見るだけで内包量が分かるって言うけど、エイダ君の両親はそんなに凄い人なの?」
「本人達はただの生産職だって言っているんですけど・・・どうなんでしょうね?」
「え~、なにそれ?生産職の人でそんなことが出来るなんて聞いたこと無いよ~。まぁ、いっか!それでエイダ君は、どの程度なのか確認しておこうと思ったんだね?」
メアリーちゃんは僕がからかっていると思っているのか、全く僕の言葉を信じていないという顔をしていた。
「そうですね。今は基礎的な鍛練をしているので、自分の力を確認しておいた方が言いと思いまして」
「うんうん、良い心掛けだね~!じゃあ、この使い方なんだけど、トレーに自分の血を垂らして計測器に入れると測定出来るんだよ?」
そう言いながらメアリーちゃんは、机の引き出しから一本の針と小さな板状のトレーを僕に手渡してきた。
「測定結果なんだけど、この上部の部分が測定者の内包した闘氣量、魔力量に応じて色が変化して表示されるんだ!その色をこのランク別確認シートと照らし合わせて、自分がどの程度の量を保有しているか確認するの!」
測定器には2つの窓のような部分があり、どうやらそこに魔力と闘氣がその量に応じて色で表示されるようだ。そして、メアリーちゃんが取り出した表と照らし合わせるのだと言う。
その表を見るとFランクからSランクの7段階に分けられており、ランクの隣にはそのランクを示すのだろう色が表示されていた。
「なるほど。じゃあ、早速やってみますね!」
手渡された針を指先に突き刺し、軽く圧迫して血を絞り出す。その血をトレーに乗せてメアリーちゃんへと渡した。
「は~い、ちょっと待っててね!」
メアリーちゃんは僕から受け取ったトレーをゆっくり測定器へ差し込む。しばらくすると、ぼんやりと測定機の2つの窓が色を表示しだした。
「・・・ほぇ?」
はっきりと表示された色を見たメアリーちゃんが、急に間の抜けたような声を吐き出した。
「ど、どうしたんですか??」
「えっ?だって・・・嘘っ!故障?なんで・・・」
僕の声に反応せず、窓に表示された色を見ながらぶつぶつ呟くメアリーちゃんを横目に、持っているランク表の色と照らし合わせてみる。
「えぇと・・・Aランクか・・・」
確認すると、僕の魔力量と闘氣量はそれぞれAランクの色を示していた。ランク表の表示から、上の方だと確認できたので、そこそこの量なのだろうという事が窺い知れるのだが、それで何故メアリーちゃんがブツブツ呟いて混乱しているのか分からない。
「あの~、メアリーちゃん?いったいどうしーーー」
「エイダ君!!いったいどういうこと!!?」
「へっ?」
メアリーちゃんは僕の問い掛けを遮り、肩を掴みながら目を見開いて問いただしてきた。何故これほどまでに興奮しているか分からない僕は、どうしたら良いか分からず混乱してしまう。
「あ、あの、いったい何がですか?」
「な、何が、じゃないよ!何でノアである君がこれほどの魔力量と闘氣量を保有してるの!?」
「な、何でって言われても・・・そんなに凄いことなんですか?」
「あ、当たり前でしょ!!単体の能力者だってBランクあれば十分なのに、Aランクって言ったら一流へ至れる保有量だよ!!しかもそれが両方の能力でなんて・・・」
どうやら僕が思った以上に保有量は多かったらしい。正直、両親の半分の量しかないと言われていたので、大した量じゃないと思っていたのだが、かなり多かったようだ。
確かにそれは驚くべき事なのかもしれないが、僕がそれほど驚いていないのは、それ以上に驚くべき事があったからだ。
(う~ん、その僕の倍の量を保有してるんだから、もう父さん母さんを普通の生産職と考えるのは止めよう・・・)
自分の事よりも、規格外だった両親の方へ思考が流れてしまったが、とりあえず自分の世間での立ち位置が確認できたので良しとしようと考えた。
「メアリーちゃん、ありがとうございます!参考になりまーーー」
「ねぇ、エイダ君?」
「は、はい?」
メアリーちゃんは急に肩を掴んでいた手を離し、僕の胸にしなだれるように顔を埋め、そこから上目遣いに僕の目を覗き込んできた。
「エイダ君は~、将来の目標って決めてるのかな~?」
「も、目標ですか?一応安定した奉仕職になりたいなぁと・・・」
「なるほど、そうなんだぁ。ちなみに~、エイダ君は婚約者とかっているのかなぁ?」
「こ、婚約者ですか?居るわけないですよ!」
「ふ~ん、そうなんだ~・・・エイダ君は~、大人な女性と可愛らしい女性とどっちがタイプかなぁ?」
「タ、タイプですか?そういうのは、まだ分からなくて・・・」
「ふふふ、なるほどね~。エイダ君、私は基本的にこの保健室にいることが多いんだけど・・・見ての通り、暇な時も多いんだよね~」
「そ、そうですね・・・」
「先生寂しいから、いつでも遊びに来て良いからね~!」
「は、はぁ。分かりました」
メアリーちゃんは笑顔で僕に語り掛けてくるのだが、何故かその瞳を見ると、獰猛な魔獣に睨まれているような錯覚に陥ってしまい、そう返答するので精一杯だった。
危機感を覚えた僕は、いそいそと保健室を後にすると寮へと急ぎ戻った。保健室を出る際のニコニコ顔で手を振るメアリーちゃんから、何故か言い知れぬプレッシャーを感じて、無意識に体をブルッと震わせてしまっていた。
(なんだろう、この感じ・・・殺気でもないのに、何でこんなに寒気がするんだ?)
そうして、今の僕では答えの出ない疑問に頭を悩ませるのだった。
地面に座り込みながら右腕を押さえて苦悶の表情を浮かべるアッシュは、僕を見ながらそんな軽口を叩いてきた。
「大丈夫!綺麗に折ったから、治癒すると逆に骨が丈夫になるんだよ?」
彼の軽口に対して僕も何でもないことのように話す。寧ろ、骨が丈夫になるから良かったね、と付け加えて。
「ははは、皮鎧を着込んで闘氣まで纏っているのに、素の状態のお前に手も足も出ないとなると笑えてくるぜ・・・おまけに、人の腕折っておいてその言い種だもんな・・・」
「ご、ごめん!一応事前に忠告はしてたと思うんだけど・・・」
「冗談だよ!別に怒ってる訳じゃねえ。ただ、自分の不甲斐なさに愕然としちまっただけだ・・・」
確かに彼は言葉こそ僕を非難しているように聞こえるが、その表情や口調からは怒りと言うよりも自嘲のような感情が感じ取れた。
元々彼は騎士団への入団を目指しているということだったので、それに合わせてしっかり鍛練しようかと思ったのだが、想像以上に僕と実力差があったので、この短時間で既に両手で数えられる程骨を折り、僕の治療を受けている。
「・・・しかし聖魔術をここまで使いこなせるなんて凄いな・・・」
アッシュは僕に治療を受けながら感嘆の声を溢した。
「う~ん、母さんと比べたら全然なんだけどね・・・」
正直、母さんにかかれば手足が千切れても回復させてくれるので、死ななければなんとでもなるのではないかと思うほどの治癒力があると思っている。
それに比べれば、僕の治癒力など精々骨折を治す事位までしか出来ない。しかしアッシュ曰く、普通の第二階悌の魔術師では小さな裂傷を治すくらいが精々らしいので、規格外も甚だしいと乾いた笑いを浮かべて僕に治療されていた。
「よし!これでもう大丈夫!」
「サンキュー!・・・バッチリだ!」
アッシュは骨折していた腕を動かして感触を確かめると、痛みや違和感もないようで笑顔でお礼を言ってきた。鍛練を続けたいところだが、そろそろ彼の闘氣が枯渇し始めてきたので、闘氣を使った鍛練はここまでだ。
(こうして一緒に鍛練すると、アッシュの闘氣量は僕と比べてかなり少ないな。僕の闘氣量なんて父さんの半分だって言われているけど、世間一般の普通の闘氣量ってどれくらいなんだろう?)
ここ数日、自分は世間の普通からはだいぶ離れた場所に居るという自覚が出てきたので、変なことを口走って周りに引かれないようにするため、常識を確認してから口に出そうと思っていた。その一つが、自分の闘氣量と魔力量だ。
この学院では教育機関だけあって、申請すれば自分の闘氣量や魔力量の確認を行うことができる。基本的にそれらの量は生まれたときからあまり変わらないとされているので、一度測定すれば、その後測定することはあまりない。
僕の場合は闘氣は父さんが、魔力は母さんが測ってくれたのだが、世間の普通と比べた際の自分の立ち位置が不明だったので後で確認しておこうと考えていた。
「後は時間まで素振りくらいしか出来ないね」
「そうだな、さすがにこれ以上は倒れそうだよ・・・俺は大丈夫だから、カリン達の方を見てやってくれよ!」
「そうだね、ちょっと見てくるよ!」
そう言ってアッシュから離れて、詠唱での魔術行使を鍛練している2人の元へと移動した。
「ど、どう?進展はあったかな?」
彼女達の様子を見に来ると、魔力を使い過ぎたのか、地面にへたり込んでいる2人の姿にまず驚いた。俯く2人に声をかけると、2人共ゆっくりと顔を上げたが、その表情に力はなかった。
「本当に杖無しで、魔術なんて発動できるの?」
「ウチもそんなことが出来るか、自信無くなってしもたわ・・・」
どうやら彼女達は魔力が尽きる寸前まで詠唱による魔術の発動を試みたようだが、結局一度も成功することはなかったらしい。
「ま、まぁ、今まで一度もやってなかったことが、急に出来るようになるなんて無いんだから、気長に頑張ろう!」
そう励ますのだが、彼女達の表情は冴えなかった。
「はぁ・・・ちょっとエイダ、一度やってみてくれる?」
カリンはいつも通りの口調で話しかけてきてくれたことに僕は安堵しながらも、二つ返事で了承した。
「じゃあ、いくよ!『我が身に宿りし力よ、求めに応じて顕現せよ!その力、我が意思により望むものへと姿を変えよ!』」
第二階悌の詠唱を終えると、僕は掌に火の玉を浮かべて見せた。2人は僕の掌に浮かぶ火の玉を中腰になって覗き込み、そのまま目線を上げて上目遣いにこちらを向いてきた。
「・・・どうやるん?」
膝に手を置いて中腰になっているせいで、ただでさえ存在感のある2人の胸が、両腕で圧迫されて服の上からでも分かるくらいに凄いことになっている。
2人の胸に視線が吸い込めれそうになるのを極力我慢しながら、ジーアの問いにどう答えたものかと少し考えて返答する。
「そ、そうだね・・・急に出来ることじゃないと思うから、今まで杖頼みで無意識にしていた魔力の流れを、まずは意識的に感じ取って感覚を掴むとかかな?」
おそらく魔術が発動できない原因は、発動に必要な量の魔力を制御できていないのだろう。個人証へ魔力を流すときは極少量で済むし、杖を用いての魔術は、杖が勝手にやってくれる。
そうなると、彼女達は個人証へ注ぐ魔力量以上の魔力の制御をしたことがないということになる。
だからこそ、必要な魔力量が制御できずに不発となっているのだろう。だとすれば、感覚を養うために無意識だった部分こそを意識する必要性を感じたのだ。
「う~ん、まぁそうよね。今までは杖に少し魔力を流せば、あとは勝手に発動していたし、魔力の流れなんて意識したことなかったもんなぁ」
「やっぱりそうか。じゃあ、明日からは杖を使ってゆっくりと集中して魔術を発動するところまでやって、とにかく魔力の流れを感じ取れるようになろうか!」
「そうね。さすがに今日はもう魔力が限界よ」
「ウチも今日は限界や。明日からもよろしゅうな!」
それから授業終了の時間まで、アッシュも含めてしばらく今後の鍛練内容を皆で確認してから寮へと戻った。
一度部屋へ戻ってから、僕は夕食までの時間を利用して、寮母のメアリーちゃんの元を訪れていた。寮母とはいっても寮に常駐しているわけではなく、基本的に彼女は校舎の受け付け横にある保健室に居ることが多い。
何を隠そうメアリーちゃんは、貴重な聖魔術の使い手らしく、彼女を聖女のように崇める生徒もいるとかいないとか。いまいち釈然としない評価になってしまうのは、彼女の普段の言動のせいだろう。
『コンコン!』
「失礼します!」
「はいは~い!あら?え~っと・・・」
「こんちは!エイダです」
「そうそう、エイダ君!今日はどうしたのかな?」
ノックをして保健室へ入ると、同い年としか思えない見た目のメアリーちゃんが、可愛らしく小首を傾げながら保健室へ通してくれた。
いくつかのベッドがカーテンで仕切られているが、今は誰も使っていないようだった。メアリーちゃんの机の向かいの椅子へ案内されると、さっそくここを訪れた本題を伝える。
「実は闘氣と魔力の量を確認したいと思うのですが、どうすればいいですか?」
「ふんふん、闘氣量と魔力量の測定ね!オッケ~!ちょっと待っててね~!」
そう言うとメアリーちゃんは奥へと引っ込んでいった。先生の実年齢が29歳ということを知ってしまったので、なんだかその言動の一つ一つが、妙に若者ぶっているのではないかと穿った見方をしてしまう。
(外見だけ見れば相応な子供っぽい言動も、年齢を考えるとなんだか痛々しく思えちゃうな・・・)
本人に対しては絶対言えないことを考えながら、戻ってくるのを待っていると、一抱えもある大きな箱のようなものを持ち出してきた。
「よい・・・しょっと!」
重そうなそれを掛け声と共に机に乗せると、メアリーちゃんも椅子に腰かけて僕に向き直ってきた。
「エイダ君は測定器を使ったことはあるの?」
「いえ、僕の魔力と闘氣の量については、両親が見てくれてまして、こういった機器を使ったことはありません」
「へぇ~、そうなんだ。ある程度の実力者になると、相手の放つ魔術や剣術を見るだけで内包量が分かるって言うけど、エイダ君の両親はそんなに凄い人なの?」
「本人達はただの生産職だって言っているんですけど・・・どうなんでしょうね?」
「え~、なにそれ?生産職の人でそんなことが出来るなんて聞いたこと無いよ~。まぁ、いっか!それでエイダ君は、どの程度なのか確認しておこうと思ったんだね?」
メアリーちゃんは僕がからかっていると思っているのか、全く僕の言葉を信じていないという顔をしていた。
「そうですね。今は基礎的な鍛練をしているので、自分の力を確認しておいた方が言いと思いまして」
「うんうん、良い心掛けだね~!じゃあ、この使い方なんだけど、トレーに自分の血を垂らして計測器に入れると測定出来るんだよ?」
そう言いながらメアリーちゃんは、机の引き出しから一本の針と小さな板状のトレーを僕に手渡してきた。
「測定結果なんだけど、この上部の部分が測定者の内包した闘氣量、魔力量に応じて色が変化して表示されるんだ!その色をこのランク別確認シートと照らし合わせて、自分がどの程度の量を保有しているか確認するの!」
測定器には2つの窓のような部分があり、どうやらそこに魔力と闘氣がその量に応じて色で表示されるようだ。そして、メアリーちゃんが取り出した表と照らし合わせるのだと言う。
その表を見るとFランクからSランクの7段階に分けられており、ランクの隣にはそのランクを示すのだろう色が表示されていた。
「なるほど。じゃあ、早速やってみますね!」
手渡された針を指先に突き刺し、軽く圧迫して血を絞り出す。その血をトレーに乗せてメアリーちゃんへと渡した。
「は~い、ちょっと待っててね!」
メアリーちゃんは僕から受け取ったトレーをゆっくり測定器へ差し込む。しばらくすると、ぼんやりと測定機の2つの窓が色を表示しだした。
「・・・ほぇ?」
はっきりと表示された色を見たメアリーちゃんが、急に間の抜けたような声を吐き出した。
「ど、どうしたんですか??」
「えっ?だって・・・嘘っ!故障?なんで・・・」
僕の声に反応せず、窓に表示された色を見ながらぶつぶつ呟くメアリーちゃんを横目に、持っているランク表の色と照らし合わせてみる。
「えぇと・・・Aランクか・・・」
確認すると、僕の魔力量と闘氣量はそれぞれAランクの色を示していた。ランク表の表示から、上の方だと確認できたので、そこそこの量なのだろうという事が窺い知れるのだが、それで何故メアリーちゃんがブツブツ呟いて混乱しているのか分からない。
「あの~、メアリーちゃん?いったいどうしーーー」
「エイダ君!!いったいどういうこと!!?」
「へっ?」
メアリーちゃんは僕の問い掛けを遮り、肩を掴みながら目を見開いて問いただしてきた。何故これほどまでに興奮しているか分からない僕は、どうしたら良いか分からず混乱してしまう。
「あ、あの、いったい何がですか?」
「な、何が、じゃないよ!何でノアである君がこれほどの魔力量と闘氣量を保有してるの!?」
「な、何でって言われても・・・そんなに凄いことなんですか?」
「あ、当たり前でしょ!!単体の能力者だってBランクあれば十分なのに、Aランクって言ったら一流へ至れる保有量だよ!!しかもそれが両方の能力でなんて・・・」
どうやら僕が思った以上に保有量は多かったらしい。正直、両親の半分の量しかないと言われていたので、大した量じゃないと思っていたのだが、かなり多かったようだ。
確かにそれは驚くべき事なのかもしれないが、僕がそれほど驚いていないのは、それ以上に驚くべき事があったからだ。
(う~ん、その僕の倍の量を保有してるんだから、もう父さん母さんを普通の生産職と考えるのは止めよう・・・)
自分の事よりも、規格外だった両親の方へ思考が流れてしまったが、とりあえず自分の世間での立ち位置が確認できたので良しとしようと考えた。
「メアリーちゃん、ありがとうございます!参考になりまーーー」
「ねぇ、エイダ君?」
「は、はい?」
メアリーちゃんは急に肩を掴んでいた手を離し、僕の胸にしなだれるように顔を埋め、そこから上目遣いに僕の目を覗き込んできた。
「エイダ君は~、将来の目標って決めてるのかな~?」
「も、目標ですか?一応安定した奉仕職になりたいなぁと・・・」
「なるほど、そうなんだぁ。ちなみに~、エイダ君は婚約者とかっているのかなぁ?」
「こ、婚約者ですか?居るわけないですよ!」
「ふ~ん、そうなんだ~・・・エイダ君は~、大人な女性と可愛らしい女性とどっちがタイプかなぁ?」
「タ、タイプですか?そういうのは、まだ分からなくて・・・」
「ふふふ、なるほどね~。エイダ君、私は基本的にこの保健室にいることが多いんだけど・・・見ての通り、暇な時も多いんだよね~」
「そ、そうですね・・・」
「先生寂しいから、いつでも遊びに来て良いからね~!」
「は、はぁ。分かりました」
メアリーちゃんは笑顔で僕に語り掛けてくるのだが、何故かその瞳を見ると、獰猛な魔獣に睨まれているような錯覚に陥ってしまい、そう返答するので精一杯だった。
危機感を覚えた僕は、いそいそと保健室を後にすると寮へと急ぎ戻った。保健室を出る際のニコニコ顔で手を振るメアリーちゃんから、何故か言い知れぬプレッシャーを感じて、無意識に体をブルッと震わせてしまっていた。
(なんだろう、この感じ・・・殺気でもないのに、何でこんなに寒気がするんだ?)
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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