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第一章 はじまり

幼少期 4

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 狩り場付近の野営場所に到着した当日は、そのまま夜営の準備と夕食の準備で終わった。夕飯の材料はいつのまにか父さんと母さんが採取していた野鳥と山菜、木の実だった。


いつ採ったのか2人に確認すると、「走って移動している最中に決まっているだろ!」と当たり前のように言われた。残念ながら、疲労困憊の僕には両親の動きまで気にしている余裕はなかったので気がつかなかった。


移動と食材確保の時間短縮を両立するには確かに有効な手段なのだろうけど、もしこれが野営をする者にとっての普通なのだとしたら、僕はまだ世間一般の普通の足元にも及んでないと再認識させられるのだった。



 夜営中の警戒については、母さんは風魔術で索敵を、父さんは気配と殺気を頼りに敵を感知しているらしい。僕には風魔術は使えないので、警戒は父さんのやり方を教え込まれている。


正直言って父さんの感覚的過ぎる教えは未だに不安が残るが、実際父さんにかかれば半径1km以内に殺気を持った存在が侵入した時点で、たとえ爆睡していたとしても反応していた。これを僕にも出来るようになれ、と言うのだから息子に求める期待が高すぎるというものだ。


未だに父さんの期待通りに出来てはいないが、最近はようやく気配や殺気と言うものが分かってきた。と言っても、意識がある状態で自分を中心に半径100m程の極近距離において、というのが現状だ。



 そして、特に魔獣による夜襲もなく夜は明け、今日は早朝から1日中魔獣の素材集めと平行して僕の鍛練も行う。



「疲れは無いか?」


「野営なんて何回もしているから大丈夫だよ!」


「よし!今日は剣術の技をお前に教える。よく見て動きを覚え、自分の力にするんだぞ?」


「分かった。よろしく父さん!」


「獲物はここから5分位の所を徘徊している。おそらく朝食でも探してるんだろう。そいつを使うぞ」



そう言って父さんが先導し、僕と母さんは父さんの後を付いていく。これから技の伝授のために父さんと相対することになる魔獣に同情しつつ。



 5分ほど足音を忍ばせて移動すると、茂みの向こうに父さんの言葉通り魔獣を確認した。相手はBランク魔獣のオーガだ。奴は基本、単独で行動しているので、こういった鍛練にはもってこいなのだという。



「・・・母さん、いきなりオーガって大丈夫なの?」



オーガを間近で目視し、筋骨粒々のその容貌と迫力に、これからの鍛練の事を考えて不安に駆られた僕は、隣の母さんに小声で問いかけた。前日に父さんから僕の技の伝授と魔獣討伐の鍛練は、オーガを使うと聞かされていたのだ。



「何?あなた緊張してるの?あれほど自分はもう魔獣なんて倒せるって豪語していたくせに」


「だ、だって急だったし、昔父さんと母さんが僕なんて3秒でやられるなんて言ってたから・・・」


「父さんがエイダならオーガでも問題ないって判断したんでしょ?だったら大丈夫よ」


「むぅ、その根拠が知りたいのに・・・」


「父さんにそんなこと期待してどうするの?あの人は直感タイプの天才よ?父さんの直感を信じなさい」


「母さんって理論派なのに、よく父さんと結婚したね・・・」


「あなたバカね。もし父さんが私と同じタイプだったら、とっくに別れてるわよ」


「・・・なるほど」



母さんと話したことで少し緊張が解れた僕は、オーガと相対する為に歩みを進めた父さんの背後に陣取って、その技の全てを観察するために全神経を集中した。



「始めるぞエイダ。まばたきすらするなよ?」


「はい。父さん」



眼前のオーガを見据え、こちらを振り向かないまま言葉を掛けてくる父さんのその声は、普段とは違う迫力のある声音で、僕の意識も引き締まり、真剣な返事を返した。


赤褐色の肌色をしているオーガは、身の丈2mを優に越える巨体に、上半身の筋肉を見せびらかすように上は裸で、下半身は魔獣の毛皮を巻いている。


奴の手には粗末な棍棒が握られているが、あれは樫の木だ。硬くしなやかな特性を持つ樫の木を、オーガが振り回せばとんでもない威力になる。ただし、当たればの話だが。



「まずは闘氣を全身に纏って構える」



そう言うと、父さんはいつもの木剣を正眼に構えて深紅の闘氣で身体を覆った。その瞬間、父さんから冷気が漂ってきて、僕の身体を震わせた。



(僕に向けられた殺気でもないのに・・・)



オーガは父さんの殺気に呑まれてしまったようで、明らかに挙動不審な動きを見せている。いや、動けるだけ凄いと評価すべきだろう。こんな濃密な殺気が自分に向けられたとしたら、はたして僕は動くことが出来るかどうか疑問だ。そういう意味ではオーガは間違いなく僕より格上の魔獣だろう。



(本当に大丈夫かな・・・?)



この後に鍛練と称してオーガとの実戦があると思うと不安が押し寄せてくるが、頬を叩いて不安を払拭し、父さんの一挙手一投足も見逃さまいと集中を高める。


すると、恐怖の緊張に耐えられなかったのか、オーガが狂ったように父さんに突進し、手に持つ棍棒を振り上げて襲いかかってきた。



「オガーーー!!」


「・・・スゥゥ」



それを見た父さんはゆっくりと息を吸い、木剣を水平にして頭上で受けの構えをとった。同時に、前に出していたはずの右足が後ろに退かれていた。上半身の姿勢が全く変わらなかったので気付かなかったが、重心をやや後ろに移している。



『カシュッ!・トンッ!』



父さんが木剣で受けようとした瞬間、刃先を下げて棍棒の力を滑らかに受け流した。それだけでオーガは体勢を崩したのだが、更に受け流しの最中に木剣を通して棍棒に斜め下の力を瞬間的に加えて完全に体勢を崩させた。


オーガは棍棒ごと倒れ込むように前のめりになる。倒れると思うその時には父さんは、退いていた右足に上半身を乗せるように体勢を後退させていて、オーガとの間合いを取っていた。いつの間にか棍棒を受け流していた木剣は、突きの構えになっている。



(柄の裏を左の掌でも押し出すのか?)



そう考察した瞬間、父さんの姿がブレた。



凛天刹りんてんさつ!」


「ギョボッーーー」



オーガは奇妙な声を上げながら、頭部を消し飛ばされて物言わぬ骸となった。残心を取る父さんの右足の地面は陥没しており、その威力の凄まじさを物語っているようだった。



「どうだ?理解できたか?」



残心を解いた父さんが、「分かったよな」という表情をしながら僕に振り向いてきた。おおよそのやり方は分かったと思うが、高度すぎて完全にものに出来るか若干不安だった。そんな僕の心情を察したかは分からないが、父さんが今の技について解説してくれた。



「いいか、この凛天刹はシビアなまでのタイミングが要求される技だ。相手の攻撃が剣に触れた瞬間にスッと受け流し、その最中にグッと自分の力を押し付けて相手の体勢を完全に崩す。同時にその反発力をガッと利用して突きの構えにもっていき、柄の後ろを掌で押し出すようにグイッと突き込むんだ」


「・・・・・・」



相変わらず擬音過多な説明だが、何となく理解は出来る。伊達に10年も父さんの息子をやっていないのだ。ただ、理解できることと、実践出来るかは別の話だ。



(一番難しいのが自分の力を押し付けるタイミングだな。早過ぎても遅すぎてもきっとダメだ。そのタイミングを見切るには反復練習と実践あるのみだな!)



目に焼き付いている父さんの動作と解説の言葉を、ゆっくりと含ませるように思考の中に浸透させていく。再現出来るかは分からないが、今はとにかく実践してみたいと感じていた。もしかしたら、父さんの戦闘を見て僕も興奮しているのかもしれない。



「次はエイダが討伐してみろ。出来るな?」


「わかった。やってみる!」


「分かっていると思うが、オーガはお前よりも格上だ。間違っても正面から相手の力を受け止めるなよ?」


「今まで父さんと剣の鍛練してきたんだよ?オーガの動きはしっかり見えていたから大丈夫だよ!」


「よし!もう一体すぐ近くに居る。覚悟は良いな?」


「任せて!」
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