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第八章 戦争 編
戦争介入 38
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◆
side ティア・ロキシード
突然だったーーー
彼はいきなり現れて、私の想いを聞かせて欲しいと言ってきた。あまりにも急な状況に少し混乱していると、彼は謝りながら告げてきた。
「急にゴメンね。あの時聞けなかった返事を聞きに来たんだ。ティアのやりたい事や願い、その想いを聞きたいんだ」
彼は優しく微笑みかけるように私に語り掛けた。彼の言葉に、私は最近の自分の身の上の事が脳裏に過った。
(公国から戻ってから、ずっとお父様は私の警護のためだと言って四六時中監視を付けていたのはこの為だったのね・・・)
彼の力をもってすれば私に会いに来るのは簡単だろうが、さすがに常時監視されている中を強行突破してくるのは憚るはずだ。それで彼もあれから会いに来てくれなかったのだろう。こうして彼に会えたのは嬉しいが、最近は事あるごとにお父様から言われていた言葉を思い出してしまう。
「・・・ん、ダリア、私にはこの家を裏切ることは出来ない・・・」
「ロキシード家は、宰相の地位から退いているとしても?」
「ん、だから尚更私は頑張らないといけない。家を再興するために」
この数日、ずっとお父様から言われた言葉だ。宰相としての役職を外されてしまったお父様は、どこからか資金を調達しているようで、有力貴族の子息との縁談を結ぼうと躍起になっていた。それは宰相の任を解かれた為、第二王子との縁談が破談になってしまったからだ。
正直、第二王子との破談が決まった時には内心ホッとしていた。しかし、今のお父様が考えている縁談を聞くと、第二王子の方がましだったと思えてしまうほどの相手と交渉をしていた。20歳以上年の離れた公爵家の側室だったり、夜な夜な女性の悲鳴が聞こえてくる噂のある伯爵家の側室、さらには生理的に受け付けない見た目と性格の豪商の正室と、相手の選定は多岐にわたっていた。
お父様は早急に縁談を纏めるべく、相手にかなりの金銭を融通しながら有利な条件を模索していたが、落ち目のロキシード家と縁を結ぶことに中々前向きな返事を得られていないようだった。最近では協力が得られるなら妾でも仕方ないかと、ぼやくほどだった。
そこには私の幸せはなかった。追い詰められたお父様の目に映るのは、自らが再び栄誉を掴むことだった。その為に利用できるものは、娘の私でも利用するという考えを、本人の前ですら隠そうとしていなかった。そんなお父様に嫌悪を抱きながらも、今まで私が不自由なく暮らせてこれたのは、確かにロキシード家のお陰でもあるという事実から、ただ黙って縁談が決まるのを待っていた。
「ティアの背負っているものは、僕も分かっているつもりだよ?でも、聞きたいことはそこじゃないんだ。ロキシード家のティアとしてではなく、一人の女の子としてのティアの想いを聞きたいんだ」
「・・・だ、だから私は家をーーー」
「今は家のことは聞いていないよ。ティアが本当に望む自分の想いはなんだい?」
「・・・わ、私は・・・」
◇
彼女は僕から目を反らし、俯きながら考え込んでしまった。その様子に、彼女の心の葛藤が窺い知れた。
「ティアがしたいと思うことを言ってみて?僕が君の力になるよ!」
「・・・力に?」
「そう!ティアが幸せになる為に!」
「・・・私はただ、自由に生きたい・・・好きな事を学んで、それを議論して、時にはお互い主張をぶつけるかもしれないけど、最後はそれぞれの主張を認める。そんな簡単な事でいいの。そして・・・自由に人を好きになって、幸せな家庭を築きたかった・・・」
顔を上げた彼女は、虚空を見上げながら自分の想いを教えてくれた。ただ、最後に自らの想いを過去形にして。
「ティアは幸せになることを諦めてしまったの?」
「覚悟は出来てる」
「家に縛られて生きていくことを選ぶの?」
「そう。これがロキシード家に生まれた者としての定めなの」
「変えられる運命だったとしても?」
「・・・・・・」
「君が願えば叶えられる未来だったとしても?」
「・・・止めて!私の・・・私の決意を惑わせないで!!」
彼女は耳を塞いで、頭を左右に振りながら僕の言葉を必死に拒絶する。その様子に、ふとある言葉が思い浮かぶ。
(【才能】と【血筋】に縛られた世界か・・・)
思えば、僕が【速度】という才能を持っていなければもっと違った未来があっただろう、伯爵家の息子でなければ、両親を思い悩ますことも無かったかもしれない。そう思うとこの世界は人ではなく【才能】が支配しているといっても過言ではない。
(この支配から逃れることは容易じゃない。もしかしたら不可能なのかもしれない。けど、どんな【才能】だろうが【血筋】だろうが、誰でも幸せになれるんだってことを見せつけて・・・この世界を見返してやる!!)
僕の最初の目的は復讐だった。しかし、その目的は今は消え去り、幸せになることが目的となっていた。そして今、幸せになることで、こんな運命を強いた世界を見返す。僕の新しい復讐が始まった。
「おいで!ティアが望むのなら、僕はどこにだって連れていける!ティアが願うのなら、僕も一緒に幸せを見つけてみせるよ!」
座っていたテーブルから立ち上がり、彼女の側に来て僕は手を差し伸ばした。彼女は僕の目を見つめると、耳を覆っていた手を力なく降ろし、涙を浮かべながらポツリと呟いた。
「・・・私は幸せになっていいの?」
「もちろんだよ」
「・・・育ててくれた家を捨てても?」
「捨てる必要なんて無いさ。家も自分の幸せも大事なら、両方掴み取れば良いだけさ」
僕の言葉に彼女は目を丸くして驚いた後に、微笑みを浮かべながら僕の手を取った。
「ん、ダリアは我が儘。どっちも叶えようなんて欲張り過ぎ」
彼女の手を力強く握りしめ、僕へと引き寄せた。
「言わなかった?僕は『神人』だよ?それくらい出来なくて『神人』は名乗れないよ」
「ん、そうだね。たった一人で国を滅ぼしたという神人なら、私一人の願いを叶えることくらい出来るよね!」
彼女は、にこやかにそう言って僕に抱きついてきた。そんな彼女を僕は優しく抱き締めた。
「お待たせしました」
王城へ戻ると、会談を中断してしまったことを詫びるように、丁寧な口調で断りを入れた。
「構わん。それほど長い時間だったわけではないが・・・急に貴殿の姿が消えたが、あれはなんだったのだ?」
国王は僕が会談中に席を外したことには特に思うところはないようだった。それよりも、僕が急に消えたことの方に興味があるようだ。
「これは僕の能力の1つで、任意の場所に一瞬で移動できる力だよ」
「・・・な、なるほど。以前も会議室に急に現れたのはそう言うことだったか。その能力はどこまで移動できるのだ?」
この能力に畏怖を感じたのか、国王が引きつった表情で聞いてきた。
「この大陸ならどこでも」
僕の言葉に他の謁見の間に集まっている貴族達も、動揺を隠せないようでざわついてしまった。この発言はすなわち、僕はどこにいても一瞬で移動でき、手を下すことが出来るという表明に他ならない。今回の会談で僕との約束を反故にしようとするなら、どんなに守りを固めても意味がないことを理解できたはずだ。 国境を封鎖しようが、門を閉じようが、常に騎士に守らせようが無意味なのだ。
「な、なるほど。素晴らしい能力を持っているようだな。それで、その少女が先ほど言っていたロキシード家の子女か?」
国王は居住まいを正し、僕の背に隠れるような立ち位置になっているティアに視線を向けてきた。すると、彼女は僕の前に進み出てきて、青いドレスの裾を持ち上げ、国王に対して挨拶をした。
「お初にお目にかかります、ジョゼフ・ウル・オーガンド国王陛下。私はロキシード家の長女、ティア・ロキシードと申します。陛下のご尊顔の拝謁が叶い、恐悦至極にございます」
「うむ。そなたは既に神人殿からの話しは聞いているであろう。ここに来たということは・・・」
「はい。神人殿に付いていくことを決めました」
「なっ!ティ、ティア!!どうしたというのだ!?脅されたのか?脅されたんだな?ティアが私を見捨てていくはずは無いからな!!」
ティアが僕についていくという言葉を聞いて、元宰相が愕然とした表情で彼女に詰め寄っていた。
「いいえ、お父様。私は自分で決めました」
「な、何故だ!!?今まで何不自由無く暮らせていたのは誰のお陰だと思っているのだ!?」
「もちろん、お父様のお陰であるということは理解しています」
「だ、だったら何故・・・?」
「私はお父様の子供ですが、同時にティア・ロキシードという自分の考えを持った個人でもあるのです。お父様の政略結婚の道具にはなりたくありません。・・・私だって、幸せになりたい!」
彼女は毅然とした態度で自分の父親に自らの想いを言って聞かせた。その言葉に元宰相は目を丸くして、口をワナワナさせて驚くだけだった。やがて膝から崩れ落ち、絶望したように両手を地面に着いて動かなくなった。
「お父様、勘違いしないで欲しいの。私は別に家名を捨てて行くわけではない。お父様に感謝しているというのも事実。だから私は、私なりのやり方で家の再興を目指します」
「・・・ティア・・・」
ティアの言葉に俯いていた顔を上げ、複雑な感情を思わせる表情で彼女のことを見つめていた。
「ふむ、ロキシード家の娘の決意は余も聞き届けた。本来王国に多大な損害を与える結果を招いたロキシード侯爵は廃摘しようとも考えていたが、公国との戦争を2ヶ月延期できたという功績も事実。そこで、貴族位を子爵へ降格することで今回の処罰とする。これからも王国の力になるようその能力を発揮せよ!」
国王が宣言すると、元宰相は国王へ向き直り、恭しく跪きながら了承の意を示した。
「陛下の寛大な処分に感謝いたします」
その後、王国とは月に一度月初の日に、王国の領土を6分割した地域を時計回りにまわり、魔獣の数を3分の1まで減らすことで決まった。会談が終わり、王国を去る際に見たティアのお父さんの暗い笑顔は少し気になったが、この時はその真意まで見通すことは出来なかった。
side ティア・ロキシード
突然だったーーー
彼はいきなり現れて、私の想いを聞かせて欲しいと言ってきた。あまりにも急な状況に少し混乱していると、彼は謝りながら告げてきた。
「急にゴメンね。あの時聞けなかった返事を聞きに来たんだ。ティアのやりたい事や願い、その想いを聞きたいんだ」
彼は優しく微笑みかけるように私に語り掛けた。彼の言葉に、私は最近の自分の身の上の事が脳裏に過った。
(公国から戻ってから、ずっとお父様は私の警護のためだと言って四六時中監視を付けていたのはこの為だったのね・・・)
彼の力をもってすれば私に会いに来るのは簡単だろうが、さすがに常時監視されている中を強行突破してくるのは憚るはずだ。それで彼もあれから会いに来てくれなかったのだろう。こうして彼に会えたのは嬉しいが、最近は事あるごとにお父様から言われていた言葉を思い出してしまう。
「・・・ん、ダリア、私にはこの家を裏切ることは出来ない・・・」
「ロキシード家は、宰相の地位から退いているとしても?」
「ん、だから尚更私は頑張らないといけない。家を再興するために」
この数日、ずっとお父様から言われた言葉だ。宰相としての役職を外されてしまったお父様は、どこからか資金を調達しているようで、有力貴族の子息との縁談を結ぼうと躍起になっていた。それは宰相の任を解かれた為、第二王子との縁談が破談になってしまったからだ。
正直、第二王子との破談が決まった時には内心ホッとしていた。しかし、今のお父様が考えている縁談を聞くと、第二王子の方がましだったと思えてしまうほどの相手と交渉をしていた。20歳以上年の離れた公爵家の側室だったり、夜な夜な女性の悲鳴が聞こえてくる噂のある伯爵家の側室、さらには生理的に受け付けない見た目と性格の豪商の正室と、相手の選定は多岐にわたっていた。
お父様は早急に縁談を纏めるべく、相手にかなりの金銭を融通しながら有利な条件を模索していたが、落ち目のロキシード家と縁を結ぶことに中々前向きな返事を得られていないようだった。最近では協力が得られるなら妾でも仕方ないかと、ぼやくほどだった。
そこには私の幸せはなかった。追い詰められたお父様の目に映るのは、自らが再び栄誉を掴むことだった。その為に利用できるものは、娘の私でも利用するという考えを、本人の前ですら隠そうとしていなかった。そんなお父様に嫌悪を抱きながらも、今まで私が不自由なく暮らせてこれたのは、確かにロキシード家のお陰でもあるという事実から、ただ黙って縁談が決まるのを待っていた。
「ティアの背負っているものは、僕も分かっているつもりだよ?でも、聞きたいことはそこじゃないんだ。ロキシード家のティアとしてではなく、一人の女の子としてのティアの想いを聞きたいんだ」
「・・・だ、だから私は家をーーー」
「今は家のことは聞いていないよ。ティアが本当に望む自分の想いはなんだい?」
「・・・わ、私は・・・」
◇
彼女は僕から目を反らし、俯きながら考え込んでしまった。その様子に、彼女の心の葛藤が窺い知れた。
「ティアがしたいと思うことを言ってみて?僕が君の力になるよ!」
「・・・力に?」
「そう!ティアが幸せになる為に!」
「・・・私はただ、自由に生きたい・・・好きな事を学んで、それを議論して、時にはお互い主張をぶつけるかもしれないけど、最後はそれぞれの主張を認める。そんな簡単な事でいいの。そして・・・自由に人を好きになって、幸せな家庭を築きたかった・・・」
顔を上げた彼女は、虚空を見上げながら自分の想いを教えてくれた。ただ、最後に自らの想いを過去形にして。
「ティアは幸せになることを諦めてしまったの?」
「覚悟は出来てる」
「家に縛られて生きていくことを選ぶの?」
「そう。これがロキシード家に生まれた者としての定めなの」
「変えられる運命だったとしても?」
「・・・・・・」
「君が願えば叶えられる未来だったとしても?」
「・・・止めて!私の・・・私の決意を惑わせないで!!」
彼女は耳を塞いで、頭を左右に振りながら僕の言葉を必死に拒絶する。その様子に、ふとある言葉が思い浮かぶ。
(【才能】と【血筋】に縛られた世界か・・・)
思えば、僕が【速度】という才能を持っていなければもっと違った未来があっただろう、伯爵家の息子でなければ、両親を思い悩ますことも無かったかもしれない。そう思うとこの世界は人ではなく【才能】が支配しているといっても過言ではない。
(この支配から逃れることは容易じゃない。もしかしたら不可能なのかもしれない。けど、どんな【才能】だろうが【血筋】だろうが、誰でも幸せになれるんだってことを見せつけて・・・この世界を見返してやる!!)
僕の最初の目的は復讐だった。しかし、その目的は今は消え去り、幸せになることが目的となっていた。そして今、幸せになることで、こんな運命を強いた世界を見返す。僕の新しい復讐が始まった。
「おいで!ティアが望むのなら、僕はどこにだって連れていける!ティアが願うのなら、僕も一緒に幸せを見つけてみせるよ!」
座っていたテーブルから立ち上がり、彼女の側に来て僕は手を差し伸ばした。彼女は僕の目を見つめると、耳を覆っていた手を力なく降ろし、涙を浮かべながらポツリと呟いた。
「・・・私は幸せになっていいの?」
「もちろんだよ」
「・・・育ててくれた家を捨てても?」
「捨てる必要なんて無いさ。家も自分の幸せも大事なら、両方掴み取れば良いだけさ」
僕の言葉に彼女は目を丸くして驚いた後に、微笑みを浮かべながら僕の手を取った。
「ん、ダリアは我が儘。どっちも叶えようなんて欲張り過ぎ」
彼女の手を力強く握りしめ、僕へと引き寄せた。
「言わなかった?僕は『神人』だよ?それくらい出来なくて『神人』は名乗れないよ」
「ん、そうだね。たった一人で国を滅ぼしたという神人なら、私一人の願いを叶えることくらい出来るよね!」
彼女は、にこやかにそう言って僕に抱きついてきた。そんな彼女を僕は優しく抱き締めた。
「お待たせしました」
王城へ戻ると、会談を中断してしまったことを詫びるように、丁寧な口調で断りを入れた。
「構わん。それほど長い時間だったわけではないが・・・急に貴殿の姿が消えたが、あれはなんだったのだ?」
国王は僕が会談中に席を外したことには特に思うところはないようだった。それよりも、僕が急に消えたことの方に興味があるようだ。
「これは僕の能力の1つで、任意の場所に一瞬で移動できる力だよ」
「・・・な、なるほど。以前も会議室に急に現れたのはそう言うことだったか。その能力はどこまで移動できるのだ?」
この能力に畏怖を感じたのか、国王が引きつった表情で聞いてきた。
「この大陸ならどこでも」
僕の言葉に他の謁見の間に集まっている貴族達も、動揺を隠せないようでざわついてしまった。この発言はすなわち、僕はどこにいても一瞬で移動でき、手を下すことが出来るという表明に他ならない。今回の会談で僕との約束を反故にしようとするなら、どんなに守りを固めても意味がないことを理解できたはずだ。 国境を封鎖しようが、門を閉じようが、常に騎士に守らせようが無意味なのだ。
「な、なるほど。素晴らしい能力を持っているようだな。それで、その少女が先ほど言っていたロキシード家の子女か?」
国王は居住まいを正し、僕の背に隠れるような立ち位置になっているティアに視線を向けてきた。すると、彼女は僕の前に進み出てきて、青いドレスの裾を持ち上げ、国王に対して挨拶をした。
「お初にお目にかかります、ジョゼフ・ウル・オーガンド国王陛下。私はロキシード家の長女、ティア・ロキシードと申します。陛下のご尊顔の拝謁が叶い、恐悦至極にございます」
「うむ。そなたは既に神人殿からの話しは聞いているであろう。ここに来たということは・・・」
「はい。神人殿に付いていくことを決めました」
「なっ!ティ、ティア!!どうしたというのだ!?脅されたのか?脅されたんだな?ティアが私を見捨てていくはずは無いからな!!」
ティアが僕についていくという言葉を聞いて、元宰相が愕然とした表情で彼女に詰め寄っていた。
「いいえ、お父様。私は自分で決めました」
「な、何故だ!!?今まで何不自由無く暮らせていたのは誰のお陰だと思っているのだ!?」
「もちろん、お父様のお陰であるということは理解しています」
「だ、だったら何故・・・?」
「私はお父様の子供ですが、同時にティア・ロキシードという自分の考えを持った個人でもあるのです。お父様の政略結婚の道具にはなりたくありません。・・・私だって、幸せになりたい!」
彼女は毅然とした態度で自分の父親に自らの想いを言って聞かせた。その言葉に元宰相は目を丸くして、口をワナワナさせて驚くだけだった。やがて膝から崩れ落ち、絶望したように両手を地面に着いて動かなくなった。
「お父様、勘違いしないで欲しいの。私は別に家名を捨てて行くわけではない。お父様に感謝しているというのも事実。だから私は、私なりのやり方で家の再興を目指します」
「・・・ティア・・・」
ティアの言葉に俯いていた顔を上げ、複雑な感情を思わせる表情で彼女のことを見つめていた。
「ふむ、ロキシード家の娘の決意は余も聞き届けた。本来王国に多大な損害を与える結果を招いたロキシード侯爵は廃摘しようとも考えていたが、公国との戦争を2ヶ月延期できたという功績も事実。そこで、貴族位を子爵へ降格することで今回の処罰とする。これからも王国の力になるようその能力を発揮せよ!」
国王が宣言すると、元宰相は国王へ向き直り、恭しく跪きながら了承の意を示した。
「陛下の寛大な処分に感謝いたします」
その後、王国とは月に一度月初の日に、王国の領土を6分割した地域を時計回りにまわり、魔獣の数を3分の1まで減らすことで決まった。会談が終わり、王国を去る際に見たティアのお父さんの暗い笑顔は少し気になったが、この時はその真意まで見通すことは出来なかった。
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