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黒蓮

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第八章 戦争 編

戦争介入 33

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 屋敷に戻ると、みんなに王城での事を伝える。おおむねこちらの提案を飲んでくれそうな雰囲気だった事などを話すと、みんなも安心した顔をしてくれた。アレックスさん達にもやがて連絡がいくだろうと考え、とりあえず戦場の方は様子を見ることにした。

「一週間後という事は、帝国の返事を聞きに行って、翌日ということですね?」

メグが行動予定について確認してきた。

「そうだね。忙しくなるけど、ここが上手くいってくれれば各国の争い事はしばらく無くなるんじゃないかな?」

「本当にそうであって欲しいですね」

僕の言葉にフリージアがしみじみとした口調でそう言ってきた。

「でも、話が纏まったとしても、しばらくダリア君は忙しくなっちゃいますよね?」

シルヴィアの指摘にざっと思い浮かべても、帝国の砂漠農地化に作物育成の手伝い。王国の魔獣討伐を場所を伝えつつ実行していく作業等々、やらないといけないことは山積みになっているといっていい。

「あぁ、言われてみればそうだね。はぁ・・・」

げんなりしたようにため息を吐きながら虚空を見上げる。段々と自分のやるべき責務みたいなものが増えている状況に、精神的に疲労が蓄積している気がする。

「だ、大丈夫です!今回の事が終れば、みんなで楽しく過ごせますよ!!」

自分の言葉に僕が疲れたような表情を見せたためか、シルヴィアが僕の腕に抱きついてきて励ましてくれた。

「そうです!もう少しだけ頑張ったら、また皆で海に行って遊びましょう!」

逆の腕にはメグが抱きついてきた。そして・・・

「一人矢面に立っていますからお疲れですよね?少し肩の力を抜いて休んでください」

フリージアは後ろから覆い被さるように抱きつき、僕の目を手で隠しながら優しい声で耳元に囁くようにそう言ってきた。みんなに心配を掛けてしまっていることに申し訳なさを感じる。最近は恥ずかしいと思ってしまう柔らかい感触も、今日ばかりはみんなの気遣いもあって僕の疲れを癒してくれる。そうして少しの時間、みんなと一緒にそうしていた。


 その日の夕食、メグから公国のある人物との会談の日程が決まったと知らされた。

「連絡取れたんだね、ありがとう。いつになりそう?」

「出来るだけ早い方が良いと思いまして、明日行くことにしたんですが、ダリアは大丈夫ですか?」

先程疲れた表情を見せていたためか、メグは僕の体調面に気を使ってくれているようだ。元々肉体的な疲れは無く、精神的に詰め込んでいる予定や、やるべき事の多さに少し辟易しただけなので問題ない。みんなの心配を薙ぎ払うように笑顔で告げた。

「もちろん大丈夫だよ!」

「では、場所はリバーバベル。時間は10時頃に参りましょう」

「分かったよ」

そうして明日の予定が決まると、一緒に食事をしていたアシュリーちゃんが不満げな顔で話し掛けてきた。

「良いなぁ、またお兄ちゃんはお出掛けするの?」

「そうだけど、遊びじゃないんだよ?」

僕は苦笑いしながらそう答えるも、アシュリーちゃんは依然として不満げに口を尖らせていた。

「でも、外に出れるんでしょ?アシュリーずっと家の中でつまらないの・・・」

彼女はまだ5歳、遊びたい盛りの年の子を屋敷にずっと閉じ込めておくのも確かにどうかと思う。とはいえ、どこに耳目があるか分からない状況で、不用意に彼女達を外に出すのも憚られる。

(う~ん、困ったな。ずっと閉じ籠っているのも不健康だし、早急に改善しないとな)

保留になっている彼女達の生活環境について、早めに取りかかった方が良いだろうとアシュリーちゃんの態度でそう考えた。

「も、申し訳ありません!このようなお屋敷に身を置かせていただいているだけでもありがたいことなのですが、なにぶんまだ幼いですので・・・」

シャーロットは自分達の状況を良く理解しての言葉なのか、妙に格式張った固い言い回しでアシュリーちゃんの言葉を謝罪してきた。その対応に壁を感じてしまうが、彼女の起こした行動を考えればそうしてしまうのも致し方の無いことかもしれない。

(僕は別にどうとも思っていないから気にしなくても良いのにな・・・)

実際にそう伝えたのだが、彼女はそれは出来ないとがんとして態度を変えることがなかった。それで言えば、アシュリーちゃんの方が自分の想いを素直に言葉に出してくれるので、こちらにとってもいろいろと分かり易い。

「全然気にしなくて良いよ!確かにずっと屋敷の中に居るのも不健康だし、明日の話し合いが上手く終われば、保留になってたシャーロット達の生活拠点をなんとかしよう。もう少しの辛抱だから、ちょっと待っててねアシュリーちゃん?」

「は~い!分かったのお兄ちゃん!・・・・・ありがとうなの!」

彼女はトテトテと僕に近づいて、精一杯背伸びしながら座っている僕の頬に口づけしてきた。

「「「あああ~~!!!」」」

彼女のその行動に、みんな目を見開きながら立ち上がって声を上げた。

「ダリア、いつの間にこんな幼い子供にまで手を出したんですか!?」

「ダリア君、さすがにまだ5歳の子供はいかがと思います!」

「ダリア君もやっぱりロリコンなの?」

三者三様に僕を攻め立ててくるのだが、僕は何もしていない。むしろ、された側であって手を出してもいないのに物凄い勢いで詰め寄られてしまった。シルヴィアの『ロリコン』という言葉には聞き覚えがないのだが、僕は両手を上げながら何もしてないことを主張する。

「み、みんな、子供のしたことなんだから。それに僕は何もしてないよ!」

「いいえダリア、彼女はもう立派な女性よ。目を見れば分かるわ!」

そう言いながら、アシュリーちゃんに視線を向けてメグが言い放つ。

「ダリア君、女の子は小さくても女性なんですよ?」

シルヴィアも力の籠った言い方で僕に訴えかけてくる。そう言われてアシュリーちゃんを見つめるも、幼い子供と言う印象の笑顔を向けられるだけで、皆が言うような女性という印象はまるでなかった。

「う~ん、そうなのかな・・・」

「どうしたの?お兄ちゃん?」

僕の疑問を投げ掛ける顔を見て、首をかしげて聞いてくるアシュリーちゃんに何でもないよと返しておく。

「むむむ、今後要注意です」

 シルヴィアの言葉に他の2人が頷き、何かを確認し合っているようだった。

ちなにみ、シルヴィアの言ったロリコンという表現だったが、後で聞いてみると、上級貴族の男性は自分よりも20歳も30歳も若い女性を好んで側室にしたりめかけにしたりする者が多く、そういった自分よりも下に年齢がかけ離れた女性を好む者の蔑称として、女性達の間で囁かれている言葉なのだという。

その言葉の意味を聞いて、なんとなくそう言われるのは嫌だなという感情を抱いたので、さすがに5歳の女の子を女性として見ることは無いと強調しておいた。ただ、それを聞いたアシュリーちゃんは口を尖らせて、「私は今年で6歳だし、もう心は大人の女性なの!」と強弁して抱きついてきた。幼い子を無理矢理引き剥がすわけにもいかず、どう対処したものかと困ってしまい、しばらく苦笑いを浮かべながら彼女の好きにさせるのだった。


 翌日、いつもの神人衣装でリバーバベルに向かう。そこでの公国のある人物との会談は順調に終った。いや、順調とかそういった表現で良いのか分からないほど順調だった。なにせ僕との会談に臨んでくれた彼女は、一切拒絶の返答をせず、全ての事柄に対して「はい、畏まりました」としか答えなかったのだから。

 予想外に早く終った会談の後に、リバーバベルを案内された。約半年ほど前にはバハムートが暴れ、瓦礫の山と化していた都市も、今やすっかり復興し、活気に溢れていた。そんな中、大通りを進みながら案内を受けている僕に、住民達はみんな跪きながら胸の前で手を組んでいた。その様子はさながら信仰対象に祈りを捧げている格好そのものだった。

説明を求める僕に、彼女は微笑みながら「そういう事でございます」と笑みを浮かべるだけだった。何がと聞く前に、彼女から住民のみんなに手を振ってあげて欲しいと頼まれたので、少し手を振ってみると、周囲から大歓声が上がるほどで、その様子にとても居づらくなり、そそくさとその場を後にした。

 別れ際には、みんな涙を流しながら別れを惜しんでくるので、一体この都市での僕の評価はどうなっているんだと、頭を抱えたくなるほどだった。今回は仲介役としてメグも同行していたのだが、ほとんど出番はなく、メグは終始笑顔のまま僕の隣に寄り添うようにして、リバーバベルの訪問を終えたのだった。
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