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黒蓮

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第八章 戦争 編

戦争介入 25

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「お帰りなさいダリア!上手くいったようですね!」

「お帰り、ダリア君!」

「お帰りなさいダリア君!・・・その子が?」

 屋敷のリビングに直接移動すると、みんなもう驚くこと無く出迎えてくれた。

「うん、シャーロットの妹さんだよ。孤児院は平民街の方で当たっていたよ」

シャーロット達に視線を向けながら、救出が上手くいったことを伝えた。2人はきつく抱き合っていたが、シャーロットが妹の身体を離し、みんなに挨拶するように促していた。彼女は涙でグチャグチャになった顔をハンカチで拭いながら、大きく息を吸い込んでスカートの裾を摘まんで淑女の挨拶をした。

「皆様、初めましてなの!マリーゴールド侯爵家次女のアシュリー・マリーゴールドなの!この度は私やお姉さまを救っていただきとても感謝しているの!ありがとうなの!」

 アシュリーちゃんは5歳とは思えないほどしっかりとした挨拶が出来ていた。きっと侯爵家としての教育の賜物なのだろう。

「皆様、本当にありがとうございます!」

アシュリーちゃんに続いてシャーロットも、彼女の隣で深々と頭を下げてきた。

「そんなに気にしなくて良いよ!妹さんが無事で良かったね!」


 それから簡単にみんなの自己紹介をしつつ、最初よりも幾分落ち着いたアシュリーちゃんを交えて談笑した。


 話も一段落ついたところで、難しい顔をしたメグがシャーロット達のこれからについて確認してきた。

「現状シャーロットさんとアシュリーちゃんは死んだことになっています。となると、王国で生活していくことは難しいかもしれません。このまま公国で亡命者として生活出来ないことは無いと思いますが、それにも色々と問題はあります」

「確かに、もし彼女達が生きて公国に居ると王国に発覚すれば、両国の新たな火種になりますね・・・」

メグの言わんとしていることが分かった様子で、フリージアが問題点を指摘する。各国とも他国には情報収集の為の間者を放っているようなので、どこから情報が流出するかは分からない。となれば・・・

「えぇ、そのリスクを負ってまで公国が亡命を認めるかは、正直かなり厳しいと思います」

「私としても、そこまで公国やマーガレット殿下にご迷惑を掛けるわけには参りませんので、その際はどこかで身を隠しながら生活しようと思います。2人だけであれば何とか生きていけます」

 自分達が迷惑になるならばと、シャーロットはここから出て、アシュリーちゃんと隠れ住むと言う。ただそうなると、一生怯えて暮らしていかなくてはならないだろう。シャーロット程の魔法の才能があれば、魔獣を討伐したりして生計を立てることは難しいことでは無いと思うが、常に周りの目を気にして自分達の正体がバレないようにするのは普通であればかなり神経をすり減らすだろう。いくら姉妹一緒に生活出来るからといって、とてもそんな生活は幸せとは思えない。

「彼女達の事は今は一旦保留にしよう。確かにこのまま公国でと言うわけにはいかないだろうけど、正体を気にしながら隠れて住むと言うのも、とても大変なことだと思うし、何か良い方法がないか僕も検討してみるから!」

そんな感じで、離しは一旦置いておく事になったのだが、深刻な表情でみんなが話していたために、アシュリーちゃんが不安になったのか、涙目でみんなに聞いてきた。

「・・・アシュリー達は邪魔なの?何処にも居場所がないの?」

 小さな子の悲痛な言葉に胸が締め付けられる。彼女の両親は既に処刑されているらしく、身寄りとなるのは既にシャーロットしかいない。そんなシャーロットも、今は安定した身の上かと言えばそうではない。彼女達には安心して暮らせる場所が現状無いのだ。

「大丈夫だよアシュリーちゃん!僕がなんとかしてあげるよ!」

今にも泣き出しそうにしている不安げな彼女に視線を合わせるようにしゃがみこみ、頭を優しく撫でながら安心させるようにそう伝えた。

「うん!ありがとうなの!ダリアお姉ちゃん!!」

僕の言葉にパッと明るい表情になった彼女だったが、未だに僕のことを女の子だと思っている。

(そういえば、名前を言っただけで僕が男だって訂正してなかったな・・・)

 みんなで自己紹介をした時は、名前を伝えただけで性別までは言っていなかった。自分の事を僕と表現しているので、分かるものかと思っていたのだが、まだ幼い彼女には伝わっていなかったようだ。心の中で盛大にため息をつきながら、彼女の勘違いを訂正する。

「あのね、僕は男だからね。」

「・・・嘘なの。どう見ても女の子なの」

「いや、ほんとよくそう言われるけどね・・・本当に男なんだよ?」

「・・・ホントにホントなの?」

「本当に本当!」

「・・・凄いの!こんなに可愛い男の子が実在したの!」

彼女の言葉は誉めているのか、貶しているのか・・・。その真っ直ぐな瞳を見れば、決して嫌みや悪口で言ったのではないと分かるのだが、そうはいっても腑に落ちない。あのキラキラとした瞳はどんな感情によるものなのか、僕には判断できなかった。

「も、申し訳ありません!アシュリーは昔から物語を読むのが好きでして。きっと読んだ物語にダリア様を重ねているのです・・・」

申し訳なさそうにシャーロットが言ってきた。その話を聞いたフリージアがそっとアシュリーちゃんに近より、ちょいちょいと手招きして、何やらこそこそ話している。

「・・・そうなの!その本なの!・・・えっ、皆さんもなの!?」

フリージアの声は聞こえなかったが、アシュリーちゃんの反応する声が大きいのと、フリージアのワクワクしているような顔を見ると、何となくどんな話をしているのか分かってしまった。

(またフリージアの同胞が増えてしまったようだ・・・)

 ともあれ、今は彼女が喜びそうな話をして、悲しみに沈んでしまわないようにする方が良いだろう。そう思ってフリージアも彼女と話しているのかもしれないが、端から見ていると2人の話は凄く弾んでいるので、彼女を励ますと言う真意を疑ってしまうが、一先ず心配は無さそうだった。

そんな様子を見つめている僕に、シルヴィアが心配そうな声を掛けてきた。

「でもダリア君、あんなこと言って大丈夫なの?」

「あんなこと?」

「その・・・2人の居場所・・・」

シルヴィアはアシュリーちゃんに聞こえないように、小声で話してきた。少し思案するが、手が無いわけでもない。王国の廃村を住める状況にして、第五位階の土魔法でぐるりと壁を作ってしまえば、物理的に侵入できないように出来る。ただ、ずっと2人っきりの生活は寂しいと思うので、そこはどうしたものかと考えてしまう。

 もしかしたら、もっと良い方法があるかもしれないので、もう少し検討していこうと考えている。

「実際なんとか出来ると思うんだけど、みんなの意見も聞いてみてもっと良い方法があったらそうしようと考えているから、心配しなくても大丈夫だよ」

「ふぁ~、さすがダリア君。よく考えているんだね」

彼女の尊敬の眼差しが眩しいが、そんなに大した考えがあっての事でもない。ただ、自分の知り合った人が不幸になることが何となく嫌なだけで、それほど労力でなければ手助けしたいと考えているだけだ。

そんな僕を真っ直ぐに見つめてくるシルヴィアの目を見ていると、昔と比べ、少し考え方が変わってきているのかもしれないと気づいた。

(以前だったら、自分以外の人はどうでも良いと言うか、そう深く関わりたくないと、表面的に付き合っていただけだったけど、今の僕は何だかんだと積極的に関わっている気がする・・・これは良いことなんだろうか?)

 父親とのことから以降、自分の幸せについてよく考えるようになった。その中で、一人で生きていくと言う選択肢は僕の考えになかった。親に捨てられてから師匠に育てられた為に、友人と呼べる存在もいない。しかも、サバイバル等でほとんど一人で過ごしてきた僕にとっては、人の温もりというものに飢えていたのかもしれない。

いや、人の温もりを知ってしまったが為に求めるようになってしまったのかもしれない。それが良いことか悪いことかは分からないが、少なくともこうして僕の周りにいる人達が笑顔だったり幸せだったりするのは、僕にとっても嬉しかった。

「・・・どうしたの?ダリア君?」

 自分の想いに少し気づき、微笑みながらみんなの事を見ていると、そんな僕の様子にシルヴィアが不思議がって聞いてきた。

「何でもないよ!それより、明日のジャンヌさんとの話し合いについて少し確認しよう!」

少しの気恥ずかしさを感じて、そんな自分の想いを何でもないと隠してしまった。


「・・・そういえば、ダリア君?」

「ん?どうしたの?」

急に深刻そうな表情になったシルヴィアが、僕に詰め寄ってきた。

「帝国の【剣聖】さんから求婚されたって言ってたけど、詳しく教えてくれる?」

「っ!!」

シルヴィアのその一言に、周りのみんなの視線が一斉に僕に集中したのを感じた。

「そういえばそんなこと言っていましたね。ダリア君、私も聞かせてもらって良いですか?」

今までアシュリーちゃんと楽しげに会話していたフリージアも、急に詰め寄ってきた。

「そうそう、私もその事を聞きたいと思っていたんですよ?」

メグも同様に、笑っていない笑顔でズイっと詰め寄ってきた。

「・・・ええと、それはね・・・」

彼女達の迫力に圧倒されて、上手く言葉が出てこないが、彼女達を怒らすような後ろめたいようなことは何もない。

(あれ、何で僕はあの時他の女性と仲良くなるのはダメだろうと思ったんだろう?)

不意に、ジャンヌさんに断りを入れた時の感情が蘇る。何となく彼女達以外の女性と親しげにするのは不味いだろうと思ったのだ。

(もしかして僕も少し女心が分かってきたのかな?)

みんなに詰め寄られているこんな状況で、そんな楽観的なことを考えていると、みんなからさらに詰め寄られてしまった。

「もしかしてダリア、言えないようなことがあるんですか?」

「ダリア君は年上が良いのですか?」

「ダリア君・・・信じてるよ?」

 そうして僕は、彼女達が納得するまで多大な時間を要して説明をさせられるはめになってしまったのだった。そんな中、アシュリーちゃんだけは事態が飲み込めずにいた。

「・・・皆さん急にどうしたの?」

「アシュリー、あなたも大きくなれば分かるわ」

「はぁ、大人の問題なの」

アシュリーちゃんに説明するシャーロットの表情は、少し楽しげだった。
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