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黒蓮

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第二章 冒険者生活 編

冒険者生活 5

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 カリンちゃんに案内された部屋へ入ると、ベッドと机、テーブルに2脚の椅子、クローゼットが置かれており、奥を見るとお風呂とトイレまで完備されていた。門番のお兄さんの言うように設備がしっかりしている。

「えっと、お風呂は時間を指定いただければ、魔法師の方が来ますがどうしますか?」

この宿ではお風呂の用意に魔法師を雇っているらしく、サービスも申し分ない。ただ、僕は自分で出来ることだったので断ると、カリンちゃんは目をパチクリさせながら聞き返してきた。

「あのあの、追加料金は掛からないですよ?」

「自分で出来るから大丈夫だよ。ありがとう」

「ふぇ~、冒険者って凄いんですね。私とそんなに変わらない年の女の子なのに・・・」

 どうもカリンちゃんは僕のことを女の子と勘違いしているようだった。この王都へ来てからと言うもの野盗には女の子と言われたり、門番のお兄さんにも可愛いだとか言われたり、今までは生活していた環境から自分の見た目なんて気にしたことはなかったけど、ここまで言われてくるとさすがに良い気分ではないので、しっかりと訂正しておく。

「僕は男だからね!」

「えっ!?あ、そうですよね、髪が短いですもんね!すみません!」

男かどうかを判断するのに髪の長さは関係ないと思ったけど、カリンちゃんは悪気はないし、あまり責めるのも悪いのでこのへんにしておく。多分これが僕の外見に対する普通の反応で、今後も誰かと出会う度に同じ様な事を言われるのならもう慣れていくしかないと、若干諦めの境地に入っていた。

「いえ、いいです。それより一つ聞いていいですか?」

「はい!何でしょう?」

「この辺で雑貨を扱っているお店はありますか?」

冒険者協会で素材の運搬をどうするか困ったので、素材を入れて運べるような袋か何かを購入したいと考えていた。

「えっと、宿を出て左に通りを進んでいくと、[カネルの雑貨屋]というお店があります。結構大きなお店ですし、大抵の物はそこで揃うと評判です」

「そうなんだ、ありがとう!じゃあこの後早速行ってみるよ」

「良い買い物が出来ると良いですね!あ、これ部屋の鍵です!無くさないように気を付けて下さい。あと、お出掛けの際には受付に鍵を預けてから外出をお願いしまちゅ・・・します」

あと少しで案内も終わりだろうというところでまた噛んでしまい赤くなるカリンちゃんに笑顔で感謝する。

「色々教えてくれてありがとう!」


 宿屋で部屋を借りた後に必要な物の買い出しのために雑貨屋へ向かう。もちろん忘れずに受付の女将さんに鍵を預けていった。
通りに出ると多くの人が行き交っていて、改めて王都の賑わいが感じられる。カリンちゃんに教えられた通り、宿屋を出て左にしばらく進むと、看板に籠の絵が描かれた雑貨屋を見つけた。

「「「いらっしゃいませ!!」」」

中に入ると活気の良い声がお店中に響き渡る。店内を見回すといたる所に大量の商品が置かれており、小さな籠から外套がいとうに布地、大きな物だとベッドや本棚等も売られており、取り扱う商品の多さに圧倒され本来の目的を忘れていろんな商品に目移りしてしまう。
キョロキョロしていると近くにいた店員のお姉さんが笑顔で話しかけてきた。

「いらっしゃいませ!お使いかな?何探してるの?」

 愛嬌のある顔をしているスラリとした長身の店員さんだったので、腰を屈めながら小さな子供に聞くように接客された。いくら一人で生活する力があるといっても、見た目も年齢的にもただの子供なのでこの扱いも仕方ないものなのだろう。今までの生活から自分が子供扱いされることはこの3年間でほとんど無かったので違和感があるが、慣れるしかない。

「えっと、魔獣を討伐した際に剥ぎ取った素材を入れる袋かなにか欲しいんですが」

「は~い!お父さんのお使い?使う人の身長で使いやすい大きさも変わるから、どの位の身長か分かるかな?」

「あの、僕が使うんですが・・・」

「・・・えっ?あっ!そうよね、認識票着けてるもんね!ゴメンね、こんな可愛い子が冒険者だって思わなくて。じゃあ、お姉さんが見繕ってあげるからいらっしゃい!」

後をついてくるように手招きしているお姉さんを追っていくと、様々なサイズの荷物入れのリュックが陳列しているフロアに着いた。

「冒険者なら何かあっても両手が使えた方が良いでしょ?君の身長ならこのくらいかな?」

お姉さんが選んだ黒地に銀のラインが入ったリュックを背負ってみると、動きに邪魔にならない様に身体にフィットしている。100cm位の大きさがあるので中に一杯荷物を入れられそうだ。

「これくらいなら良いですね!背負っていても動きやすいですし、何より沢山運べそうです」

「良かった!冒険者用だから剥ぎ取った素材で中が汚れても、水で洗い流せば汚れも匂いも残らないのよ!ただ、魔獣のお肉を入れるなら、他の素材に血が付かないように別で袋にいれておく方が買取り価格が落ちないわよ!今ならセットで銀貨8枚と銅貨5枚で良いわ!」

「ではそれでお願いします」

「は~い!毎度あり!」


 必要な物を買い終わると僕の所持金は残り銀貨1枚と銅貨5枚になっていた。明日からしっかりとお金を稼がないと生きていけないので頬を叩いて気を引き締める。すると隣から空腹のお腹を刺激するいい匂いがしてきた。匂いの方を見ると露天で串焼きを売っている屋台にお客さん達が群がっていた。その看板には〈オーク肉の串焼き〉と書かれていた。

(オークか、確かファング・ボアより脂が乗っていて癖も無く美味しいって師匠が言ってたっけ)

値段を見ると一本銅貨1枚だった。お昼はとっくに過ぎていたけど、まだご飯を食べていなかったのでさっそく購入の列に並ぶ。
順番まであと数人というところで、横から銀の認識票を提げた筋骨隆々のオッサン2人組が突然僕の前に割り込んでこようとしてきた。

「おぅ!ワリィな!俺らの為に順番取っておいてくれたんだろ?ビギナーの銅板どうばん君?」

どうやら彼らは僕の認識票を見て先輩風を吹かして列に割り込んでこようとしているらしい。師匠から教えられた一般的なマナーに照して考えると彼らの行為は社会人として落第点のはずだ。そう考えた僕は彼らに注意を促す。

「どなたか知りませんが、順番は守りましょう!」

「あ?何言ってやがる!俺らは銀ランク!お前の先輩だぞ!先輩は敬うもんだってママに習わなかったか!?」

「あいにくと尊敬できない人を敬う気持ちは僕にはありません」

「テメー、調子乗ってんじゃねーぞ!ガキがいっちょ前にお高いローブなんぞ羽織りやがって!世間の厳しさってもんを先輩が教えてやるよ!」

僕の物言いが気に触ったのか、語気を強めながら凄んできた。僕としては師匠の教えに基づいて当然の事を言っただけだったのだが、火に油を注ぐような結果になってしまった。

相手は気が短いのか、僕の近くにいた方が胸元を掴もうと手を伸ばしてきた。掴ませる気はなかったので、少し魔力強化した手でスナップを効かせて相手の手を払いのけると、「ゴキッ」という音と共に男の手が腕ごと弾けとんだ。

「っ!?いってー!!お、俺の手が!お、折れてるー!?」

手首から先がぷらーんとなっている手を見ながら痛さのせいか叫び声を上げていた。

「骨が折れたくらいで大声出さないで下さいよ」

僕にとって骨折は骨の強度を高める鍛練のように師匠に折られていたので、いまいち彼が何でそこまで切羽詰まった声を出しているのか理解できなかった。うずくまっている彼に代わってもう一人が突っ掛かってきた。

「て、テメーやりやがったな!ぶっ潰してやる!!」

僕から見ればスローモーションのように殴り掛かってくるので、周りに被害が及ばないように注意して、カウンターで鳩尾にアッパーを放つと、胸からくの字に折れ曲がり1mほど真上に浮かび上がって地面に倒れ込んだ。
周りを見ると見物人が集まり、注目を集めてしまっていたので騒ぎを詫びた。

「お騒がせしてすいません!終わりましたので気にせず買い物を続けてください!」

よくあることなのか騒がしかった見物人達もあっという間に引いていき、絡んできた2人も慌てて骨折した方が地面に倒れている仲間を引きずりながら遠ざかって行った。騒ぎが落ち着いたころ、やっと僕の順番が回ってきた。

「おじさーん、串焼き5本ちょーだい!」

黒髪の短髪頭にねじり鉢巻を巻いて、上着も肩まで捲り上げ玉の汗をかきながら串を焼いている中年のおじさんに注文する。手早く串焼きを大きな葉っぱに包んでくれると僕に取りやすいように差し出してくれた。

「ほれ、銅貨5枚だ!一本おまけしといたぞ!お前さん出世しそうだからな、オークを討伐したら俺の店に直接来な!状態によるが協会より高く買ってやる!」

「ありがとおじさん!明日から依頼をこなすつもりだからよろしく!」

代金を渡しながら笑顔でおじさんに宣言をしておく。

「おう!頼むぞ!えぇと、お前さん名前は?」

「ダリア!」
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