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第一章 運命
融合魔法
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上空を旋回しているグリフォン達は、まるで僕たちを品定めでもしているのか、今のところ攻撃してこない。
ただ、ギャアギャアと鳴き声をあげながらこちらを睥睨してくる様子は、いつ襲いかかってきてもおかしくなかった。
それこそ、僕たちの行動が切っ掛けとなって一斉に襲いかかってくる可能性もあるが、だからといってこのままずっと睨み合っている訳にもいかない。
月下草は月の出ている内にしか、花を咲かせないのだから。
「いくよ、リーア?僕が魔法を放ったら、一直線にあの島を目指してね」
「えぇ、準備は出来てるわ。いつでもいいわよ?」
リーアは僕が教えた身体強化を施し、いつでも飛び出せるように構えている。僕もイメージを固めて、すぐにでも雷魔法を放てるよう待機していた。
「・・・雷撃!」
「ーーーーーー」
『『『Gyuaaaaaaaaaa!!』』』
僕はグリフォン達がいる上空に向けて雷魔法を放つと、甲高い破裂音と共に辺りを眩い閃光が覆った。
上空を旋回していた一体のグリフォンに魔法が命中すると、口から煙を吐きながら微動だにすることなく地面に落下していった。
(良かった。グリフォン相手にもちゃんと効いてる)
僕は雷魔法が難度七の魔物でも通用したことに、少なからず安堵した。
更に僕の思惑通りに、雷魔法の放つ閃光が、攻撃が当たらなかったグリフォン達にも影響を及ぼしていた。
それは深夜で暗かったことも幸いして、突然の眩しさにグリフォン達は混乱しているようだった。
僕とリーアはその閃光を見ないように腕で目隠しをして、閃光から視覚を守っていた。
「リーア、今だ!」
「っ!!」
僕の合図と同時に、彼女は一気に加速するように飛び出した。
水面スレスレを飛行する彼女に上空のグリフォン達は今のところ気づいていない。まだ視力が回復していないのだろう、けたたましい唸り声を上げて右往左往している。
(このまま何事もなく上手くいって!)
最善は、このままグリフォンの目が眩んでいる内にリーアが月下草を摘み終え、そのまま離脱できることだ。
逆に最悪は、今すぐにでもグリフォンの視力が回復して、怒りに駆られて襲いかかってくることだろう。
相手の数からいって、僕とリーアを同時に襲いかかってきてもおかしくない。
(でも、僕がグリフォン達にとって脅威だと分かれば、君たちの標的は僕一人になるよね?)
『『『『Gyuaaaaaaaa!!!!!』』』』
僕の眼前には、怒りの声に震える20体程のグリフォンが滑空してきていた。
残念ながら目眩ましの効果は既に切れてしまったようだ。
チラリとリーアの様子を確認すると、もう少しで島まで到達しそうな距離にいる。ここで僕が逃げたり、瞬殺されたりしてしまうと、彼らの目標はリーアに移ってしまうだろう。
「リーアの事は、僕が守るって約束だったよね?」
絶望的なはずのこの状況で、彼女との約束を口にすると、不思議と力が沸き上がってくるようだった。
(魔法は、魔力の制御と現象の結果をイメージすること・・・)
この数のグリフォンを、剣技で相手するには手数が足りない。とすれば僕の取れる手段は、魔法による広範囲攻撃しか残されていない。
しかし、僕はそれほど複雑な魔法はまだ使えない。それでも僕はこの危機的状況において、必死に最善の攻防手法を考え出し、それを具現化する。
「・・・雷障壁!」
僕を中心とした半径1メートル程の空間を、自分の雷魔法で半円状に覆うように展開した。
『『『GYAaaーーー』』』
雷で出来た障壁に接触した瞬間、グリフォン達は感電して体が仰け反り、黒焦げになって絶命した。
それでも、倒せたのは最初に突っ込んできた3、4体で、残りは仲間のグリフォンが黒焦げで絶命したのを見て、障壁を避けるように上昇してしまった。
「出来ればこれに驚いて見逃してくれないかな・・・君たちと戦いたいわけじゃくて、少しだけ月下草が採れれば良いだけなんだけど・・・」
僕は通じないと分かっていても、呟くようにグリフォンに語り掛けた。
しかし、再び上空から僕を見下ろす格好となったグリフォン達からは、明らかに敵意の籠った殺気が感じられる気がした。おそらくは、仲間を傷付けられたことに激昂しているようだった。
「・・・そうだよね、ここは君たちの縄張りだもんね。でも、僕もここで引くことは出来ないんだ。大切な人の目的を叶えてあげるために!・・・纏雷!」
僕は身体強化を行い、短剣に雷を帯電させると上段に構えた。帯電した短剣は、それ自体が発光するように輝き、グリフォン達の視線は僕の持つ短剣に吸い寄せられているようだった。しかし、この雷魔法の危険性を認識したかのように、グリフォン達は翼をはためかせ、遠距離から風魔法を放ってきた。
それは以前、リーアが見せた風刃のような魔法で、10体以上が連携するように放つそれは、まさしく脅威だった。
「くっ!」
僕は上空から次々と襲い来る風の刃を躱していくが、避け難い真上からの攻撃に、防戦一方を余儀なくされてしまう。
なんとかその攻撃を耐え凌いでいたのだが、僕が避けようとする場所に、まるで待ち構えていたかのように一体のグリフォンが、その鋭い鈎爪で僕の頭を切り裂こうと振り下ろしてくるところだった。
「ぐあぁ!くそっ!」
寸前で身体を捩って回避しようとするも、左肩を抉るように切り裂かれてしまった僕は、右手で短剣を振り抜き、バランスを崩しながらも反撃を試みた。
『Gaーーー』
感電したグリフォンは、短い雄叫びと共に、口から煙を上げて絶命した。
その様子を横目に僕は、腰のポーチからポーションを取り出すと、一気に飲み干した。更にもう1本を、直接肩の傷口に振り掛ける。
「ふぅ・・・とりあえず止血は出来た。でも、このままじゃ長くは持たないかも・・・」
未だズキズキ痛む左肩を気にしながら、相手の数の多さに弱気になってしまう。
僕がもっと魔法の扱いに習熟して、広範囲の魔物を一気に薙ぎ払うような事が出来れば良いのだが、今の僕の技量では、一体づつ倒すくらいしか出来ない。しかも相手に距離をとられれば、それすらも当たらない。
「まだだ!リーアが逃げるまでは、時間を稼ぐ!」
既に左腕は痛みで思うように動かないが、僕には守りたい大切な人がいる。守りたい大切な約束がある。
僕は自分を奮い立たせ、上空のグリフォン達へ鋭い視線を向ける。
するとグリフォンは、仲間がまた倒された様子を見たからか、攻撃スタイルを変えてきた。
今度は残ったグリフォン達による、逃げ場の無い遠距離からの風魔法による集中攻撃だった。
前後左右、四方八方から風の刃が隙間無く僕に迫ってくる。そんな、あまりの密度の濃い攻撃に、目を見張って驚いてしまう。
「くっ、雷障壁!」
僕は咄嗟に雷で壁を作ったが、それで風の刃を防げる確信は無かった為、冷や汗を流しながら身構えた。
『バチィィ!!』
グリフォン達の放った風の刃が雷の壁に接触した瞬間、激しい閃光と音と共に風の刃が弾けて消滅した。
その光景に僕はホッと安堵のため息を吐くが、グリフォン達は攻撃の手を緩めること無く次々に風の刃を放ってきていた。
(・・・まずい)
雷の壁は攻撃を受ける度に揺らいでいき、このままではすぐに物量に負けて消滅してしまいそうだった。
再度雷障壁を張り直しても、圧倒的な手数のせいで魔法の維持もままならなかった。
(ごめん、リーア。逃げて!!)
この絶望的な状況を前に僕は目を閉じ、心の中で時間を稼げなかったことを謝った。
そしてーーー
「乱気流!!」
「っ!?」
魔法名を叫ぶ声と共に、僕の側に誰かが降り立った気配がした。
僕は閉じていた目を開けて確認すると、そこにはリーアが淡い緑色に輝くワンドを構え、焦燥した表情で立っている。
周囲を確認すると、あれだけ一斉に放たれたグリフォンの風魔法は、コントロールを乱したかのか、僕らを避けるように周辺に着弾していた。
「馬鹿ライデル!言いたいことは沢山あるけど、今はこの場を何とかするわよ!!」
リーアは激怒しながら、僕に怒声を飛ばしてきた。
「・・・何で?リーア?」
「何でじゃないわよ!私があなたの言う通り、逃げると思った!?ずっとあなたを見てきた私が、あなたの考えを読めないとでも思ってるの!?」
「で、でも、この状況じゃあ・・・」
「約束したでしょ!あなたの命は、私が死んでも守ってあげるわ!」
リーアの翡翠色の瞳が、僕を射貫くように見つめてきた。
彼女の想いに、彼女の決意に、僕はもう一度心を奮い立たせる。
「そうだよね。なら、君の命は僕が死んでも守る!」
僕の言葉に、リーアは綺麗な笑みを浮かべた。
「いくわよ!!」
グリフォンとの攻防にリーアが加わったことで、ある程度の対抗手段が出来始めていた。
風魔法が得意な彼女がグリフォン達の風魔法のコントロールを乱して、僕らに当たらないように逸らしつつ、その隙に僕が雷魔法で一体一体行動不能にしていくというものだ。
しかしーーー。
「くそっ!早い!」
「落ち着いて、ライデル!集中して、行動を先読みするの!」
上空を飛び回るグリフォンに対し、僕は地上から雷魔法を放つのだが、高速で飛び回り、かつ、僕の魔法を警戒してかなり高い位置にいるグリフォンには、中々命中させることが出来なかった。
そんな状況がしばらく続くと、やがてこの攻防にも限界が見え始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
リーアは風の上級魔法を連発しているせいで、魔力の消耗が激しいらしく、既に息切れし始め、額には脂汗が滲み始めていた。
僕も馴れない魔法を連発しているため、集中力が切れ始め、魔法が発動しなくなりつつあった。
(このままじゃ駄目だ!何とかしないと!)
グリフォンは常に遠距離攻撃で、こちらの魔力切れを狙っているかのようだった。
何か現状を変える一手を打たないと均衡が崩れ、僕たちはグリフォンの餌食になってしまう。
「リーア!分かっているだろうけど、このままだとすぐに限界が来る!」
「分かってるけど、他に方法が無いわ!数が多い上に、これだけ距離を取られたら、私の魔法じゃ致命打にならない!ライデルの魔法も、あの速さじゃ当てるのは難しいでしょ!?」
リーアの言う通り、彼女の魔法は広範囲に影響を及ぼすが、精々かすり傷程度しか付けられない。
僕の魔法はわずかでも当たれば、感電して絶命させることができるが、そもそも警戒されてて当たらない。
彼女の言葉から状況を整理するように考えると、一つの考えが浮かんできた。
「リーア!僕たちの魔法を合わせて放つことは出来ない?」
「え?融合魔法をするって言うの!?」
「融合魔法が何なのか分かんないけど、広範囲に影響する君の魔法と、威力だけはある僕の魔法を合わせて、広範囲に高威力の魔法を放てない?」
僕の言葉に彼女は瞬巡するが、すぐに口を開いた。
「出来ないことはない!でも、融合魔法を発動するには、物凄い高度な技量が要求されるの!2人のタイミング、2つの魔法威力の均等化、少しでもズレると、ただの2つの魔法に成り下がるわ!」
彼女の説明に、僕は必死で理解しようと思考を巡らせる。
(タイミングは全く同時に放つ必要があるってことで、威力の均等化は、たぶん片方の魔法だけ強力すぎてはいけないってことか?)
既にギリギリの状況で、一から説明を聞いている余裕がないため、自分なりに解釈する。
そして、リーアに近づき、僕は決意の籠った眼差しを向けた。
「やろう、リーア!それしかない!」
「・・・ライデルの言う通り、やるしかないわね!細かい部分は私が何とかするわ!あなたは私とタイミングを合わせて雷魔法を放って!出来るわよね!?」
「大丈夫!信じて!?」
僕の言葉に彼女は、フッと笑みを浮かべて指を絡ませるようにして手を握ってきた。
「出逢ったその日から、あなたの事はずっと信じてるわよ!」
そうしてリーアは手を繋いだまま、ワンドを持った左手を上空へ掲げ、僕もそれに合わせるように右手を上空に掲げた。
「いくわよ、ライデル!」
「いくよ、リーア!」
自分の手から伝わる彼女の体温の温かさが、この状況にあって自分を落ち着かせていた。
そしてリーアの手を通して、まるで彼女の考えが分かるかのように、魔法の発動タイミングが理解できた。
「雷撃!」・「乱気流!!」
僕の手の平から閃光と共に雷が、リーアは今まで以上に魔石が鮮やかな緑色に輝くワンドから風魔法が放たれた。
そして僕らの魔法は1つになり、さながら雷を纏う嵐となった。
圧倒的な威力を内包する嵐が上空へ昇ると、広範囲にその影響を及ぼし、感電したグリフォン達はけたたましい叫び声を上げると、黒焦げになって地上へと落下していった。
「・・・・・・やった」
「・・・・・・やったわ」
僕たちはずっと手を繋いだまま、上空から落ちてくるグリフォン達を見つめて、生きている喜びと、お互いが無事だったという安堵感と共にそう呟いた。
ただ、ギャアギャアと鳴き声をあげながらこちらを睥睨してくる様子は、いつ襲いかかってきてもおかしくなかった。
それこそ、僕たちの行動が切っ掛けとなって一斉に襲いかかってくる可能性もあるが、だからといってこのままずっと睨み合っている訳にもいかない。
月下草は月の出ている内にしか、花を咲かせないのだから。
「いくよ、リーア?僕が魔法を放ったら、一直線にあの島を目指してね」
「えぇ、準備は出来てるわ。いつでもいいわよ?」
リーアは僕が教えた身体強化を施し、いつでも飛び出せるように構えている。僕もイメージを固めて、すぐにでも雷魔法を放てるよう待機していた。
「・・・雷撃!」
「ーーーーーー」
『『『Gyuaaaaaaaaaa!!』』』
僕はグリフォン達がいる上空に向けて雷魔法を放つと、甲高い破裂音と共に辺りを眩い閃光が覆った。
上空を旋回していた一体のグリフォンに魔法が命中すると、口から煙を吐きながら微動だにすることなく地面に落下していった。
(良かった。グリフォン相手にもちゃんと効いてる)
僕は雷魔法が難度七の魔物でも通用したことに、少なからず安堵した。
更に僕の思惑通りに、雷魔法の放つ閃光が、攻撃が当たらなかったグリフォン達にも影響を及ぼしていた。
それは深夜で暗かったことも幸いして、突然の眩しさにグリフォン達は混乱しているようだった。
僕とリーアはその閃光を見ないように腕で目隠しをして、閃光から視覚を守っていた。
「リーア、今だ!」
「っ!!」
僕の合図と同時に、彼女は一気に加速するように飛び出した。
水面スレスレを飛行する彼女に上空のグリフォン達は今のところ気づいていない。まだ視力が回復していないのだろう、けたたましい唸り声を上げて右往左往している。
(このまま何事もなく上手くいって!)
最善は、このままグリフォンの目が眩んでいる内にリーアが月下草を摘み終え、そのまま離脱できることだ。
逆に最悪は、今すぐにでもグリフォンの視力が回復して、怒りに駆られて襲いかかってくることだろう。
相手の数からいって、僕とリーアを同時に襲いかかってきてもおかしくない。
(でも、僕がグリフォン達にとって脅威だと分かれば、君たちの標的は僕一人になるよね?)
『『『『Gyuaaaaaaaa!!!!!』』』』
僕の眼前には、怒りの声に震える20体程のグリフォンが滑空してきていた。
残念ながら目眩ましの効果は既に切れてしまったようだ。
チラリとリーアの様子を確認すると、もう少しで島まで到達しそうな距離にいる。ここで僕が逃げたり、瞬殺されたりしてしまうと、彼らの目標はリーアに移ってしまうだろう。
「リーアの事は、僕が守るって約束だったよね?」
絶望的なはずのこの状況で、彼女との約束を口にすると、不思議と力が沸き上がってくるようだった。
(魔法は、魔力の制御と現象の結果をイメージすること・・・)
この数のグリフォンを、剣技で相手するには手数が足りない。とすれば僕の取れる手段は、魔法による広範囲攻撃しか残されていない。
しかし、僕はそれほど複雑な魔法はまだ使えない。それでも僕はこの危機的状況において、必死に最善の攻防手法を考え出し、それを具現化する。
「・・・雷障壁!」
僕を中心とした半径1メートル程の空間を、自分の雷魔法で半円状に覆うように展開した。
『『『GYAaaーーー』』』
雷で出来た障壁に接触した瞬間、グリフォン達は感電して体が仰け反り、黒焦げになって絶命した。
それでも、倒せたのは最初に突っ込んできた3、4体で、残りは仲間のグリフォンが黒焦げで絶命したのを見て、障壁を避けるように上昇してしまった。
「出来ればこれに驚いて見逃してくれないかな・・・君たちと戦いたいわけじゃくて、少しだけ月下草が採れれば良いだけなんだけど・・・」
僕は通じないと分かっていても、呟くようにグリフォンに語り掛けた。
しかし、再び上空から僕を見下ろす格好となったグリフォン達からは、明らかに敵意の籠った殺気が感じられる気がした。おそらくは、仲間を傷付けられたことに激昂しているようだった。
「・・・そうだよね、ここは君たちの縄張りだもんね。でも、僕もここで引くことは出来ないんだ。大切な人の目的を叶えてあげるために!・・・纏雷!」
僕は身体強化を行い、短剣に雷を帯電させると上段に構えた。帯電した短剣は、それ自体が発光するように輝き、グリフォン達の視線は僕の持つ短剣に吸い寄せられているようだった。しかし、この雷魔法の危険性を認識したかのように、グリフォン達は翼をはためかせ、遠距離から風魔法を放ってきた。
それは以前、リーアが見せた風刃のような魔法で、10体以上が連携するように放つそれは、まさしく脅威だった。
「くっ!」
僕は上空から次々と襲い来る風の刃を躱していくが、避け難い真上からの攻撃に、防戦一方を余儀なくされてしまう。
なんとかその攻撃を耐え凌いでいたのだが、僕が避けようとする場所に、まるで待ち構えていたかのように一体のグリフォンが、その鋭い鈎爪で僕の頭を切り裂こうと振り下ろしてくるところだった。
「ぐあぁ!くそっ!」
寸前で身体を捩って回避しようとするも、左肩を抉るように切り裂かれてしまった僕は、右手で短剣を振り抜き、バランスを崩しながらも反撃を試みた。
『Gaーーー』
感電したグリフォンは、短い雄叫びと共に、口から煙を上げて絶命した。
その様子を横目に僕は、腰のポーチからポーションを取り出すと、一気に飲み干した。更にもう1本を、直接肩の傷口に振り掛ける。
「ふぅ・・・とりあえず止血は出来た。でも、このままじゃ長くは持たないかも・・・」
未だズキズキ痛む左肩を気にしながら、相手の数の多さに弱気になってしまう。
僕がもっと魔法の扱いに習熟して、広範囲の魔物を一気に薙ぎ払うような事が出来れば良いのだが、今の僕の技量では、一体づつ倒すくらいしか出来ない。しかも相手に距離をとられれば、それすらも当たらない。
「まだだ!リーアが逃げるまでは、時間を稼ぐ!」
既に左腕は痛みで思うように動かないが、僕には守りたい大切な人がいる。守りたい大切な約束がある。
僕は自分を奮い立たせ、上空のグリフォン達へ鋭い視線を向ける。
するとグリフォンは、仲間がまた倒された様子を見たからか、攻撃スタイルを変えてきた。
今度は残ったグリフォン達による、逃げ場の無い遠距離からの風魔法による集中攻撃だった。
前後左右、四方八方から風の刃が隙間無く僕に迫ってくる。そんな、あまりの密度の濃い攻撃に、目を見張って驚いてしまう。
「くっ、雷障壁!」
僕は咄嗟に雷で壁を作ったが、それで風の刃を防げる確信は無かった為、冷や汗を流しながら身構えた。
『バチィィ!!』
グリフォン達の放った風の刃が雷の壁に接触した瞬間、激しい閃光と音と共に風の刃が弾けて消滅した。
その光景に僕はホッと安堵のため息を吐くが、グリフォン達は攻撃の手を緩めること無く次々に風の刃を放ってきていた。
(・・・まずい)
雷の壁は攻撃を受ける度に揺らいでいき、このままではすぐに物量に負けて消滅してしまいそうだった。
再度雷障壁を張り直しても、圧倒的な手数のせいで魔法の維持もままならなかった。
(ごめん、リーア。逃げて!!)
この絶望的な状況を前に僕は目を閉じ、心の中で時間を稼げなかったことを謝った。
そしてーーー
「乱気流!!」
「っ!?」
魔法名を叫ぶ声と共に、僕の側に誰かが降り立った気配がした。
僕は閉じていた目を開けて確認すると、そこにはリーアが淡い緑色に輝くワンドを構え、焦燥した表情で立っている。
周囲を確認すると、あれだけ一斉に放たれたグリフォンの風魔法は、コントロールを乱したかのか、僕らを避けるように周辺に着弾していた。
「馬鹿ライデル!言いたいことは沢山あるけど、今はこの場を何とかするわよ!!」
リーアは激怒しながら、僕に怒声を飛ばしてきた。
「・・・何で?リーア?」
「何でじゃないわよ!私があなたの言う通り、逃げると思った!?ずっとあなたを見てきた私が、あなたの考えを読めないとでも思ってるの!?」
「で、でも、この状況じゃあ・・・」
「約束したでしょ!あなたの命は、私が死んでも守ってあげるわ!」
リーアの翡翠色の瞳が、僕を射貫くように見つめてきた。
彼女の想いに、彼女の決意に、僕はもう一度心を奮い立たせる。
「そうだよね。なら、君の命は僕が死んでも守る!」
僕の言葉に、リーアは綺麗な笑みを浮かべた。
「いくわよ!!」
グリフォンとの攻防にリーアが加わったことで、ある程度の対抗手段が出来始めていた。
風魔法が得意な彼女がグリフォン達の風魔法のコントロールを乱して、僕らに当たらないように逸らしつつ、その隙に僕が雷魔法で一体一体行動不能にしていくというものだ。
しかしーーー。
「くそっ!早い!」
「落ち着いて、ライデル!集中して、行動を先読みするの!」
上空を飛び回るグリフォンに対し、僕は地上から雷魔法を放つのだが、高速で飛び回り、かつ、僕の魔法を警戒してかなり高い位置にいるグリフォンには、中々命中させることが出来なかった。
そんな状況がしばらく続くと、やがてこの攻防にも限界が見え始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
リーアは風の上級魔法を連発しているせいで、魔力の消耗が激しいらしく、既に息切れし始め、額には脂汗が滲み始めていた。
僕も馴れない魔法を連発しているため、集中力が切れ始め、魔法が発動しなくなりつつあった。
(このままじゃ駄目だ!何とかしないと!)
グリフォンは常に遠距離攻撃で、こちらの魔力切れを狙っているかのようだった。
何か現状を変える一手を打たないと均衡が崩れ、僕たちはグリフォンの餌食になってしまう。
「リーア!分かっているだろうけど、このままだとすぐに限界が来る!」
「分かってるけど、他に方法が無いわ!数が多い上に、これだけ距離を取られたら、私の魔法じゃ致命打にならない!ライデルの魔法も、あの速さじゃ当てるのは難しいでしょ!?」
リーアの言う通り、彼女の魔法は広範囲に影響を及ぼすが、精々かすり傷程度しか付けられない。
僕の魔法はわずかでも当たれば、感電して絶命させることができるが、そもそも警戒されてて当たらない。
彼女の言葉から状況を整理するように考えると、一つの考えが浮かんできた。
「リーア!僕たちの魔法を合わせて放つことは出来ない?」
「え?融合魔法をするって言うの!?」
「融合魔法が何なのか分かんないけど、広範囲に影響する君の魔法と、威力だけはある僕の魔法を合わせて、広範囲に高威力の魔法を放てない?」
僕の言葉に彼女は瞬巡するが、すぐに口を開いた。
「出来ないことはない!でも、融合魔法を発動するには、物凄い高度な技量が要求されるの!2人のタイミング、2つの魔法威力の均等化、少しでもズレると、ただの2つの魔法に成り下がるわ!」
彼女の説明に、僕は必死で理解しようと思考を巡らせる。
(タイミングは全く同時に放つ必要があるってことで、威力の均等化は、たぶん片方の魔法だけ強力すぎてはいけないってことか?)
既にギリギリの状況で、一から説明を聞いている余裕がないため、自分なりに解釈する。
そして、リーアに近づき、僕は決意の籠った眼差しを向けた。
「やろう、リーア!それしかない!」
「・・・ライデルの言う通り、やるしかないわね!細かい部分は私が何とかするわ!あなたは私とタイミングを合わせて雷魔法を放って!出来るわよね!?」
「大丈夫!信じて!?」
僕の言葉に彼女は、フッと笑みを浮かべて指を絡ませるようにして手を握ってきた。
「出逢ったその日から、あなたの事はずっと信じてるわよ!」
そうしてリーアは手を繋いだまま、ワンドを持った左手を上空へ掲げ、僕もそれに合わせるように右手を上空に掲げた。
「いくわよ、ライデル!」
「いくよ、リーア!」
自分の手から伝わる彼女の体温の温かさが、この状況にあって自分を落ち着かせていた。
そしてリーアの手を通して、まるで彼女の考えが分かるかのように、魔法の発動タイミングが理解できた。
「雷撃!」・「乱気流!!」
僕の手の平から閃光と共に雷が、リーアは今まで以上に魔石が鮮やかな緑色に輝くワンドから風魔法が放たれた。
そして僕らの魔法は1つになり、さながら雷を纏う嵐となった。
圧倒的な威力を内包する嵐が上空へ昇ると、広範囲にその影響を及ぼし、感電したグリフォン達はけたたましい叫び声を上げると、黒焦げになって地上へと落下していった。
「・・・・・・やった」
「・・・・・・やったわ」
僕たちはずっと手を繋いだまま、上空から落ちてくるグリフォン達を見つめて、生きている喜びと、お互いが無事だったという安堵感と共にそう呟いた。
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