侍女の恋日記

桜 詩

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エセルの章

黒い王子さま

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「やっぱり、ギロチンにしよう!」
高みの席に座ったアルベルトは、優男から、みすぼらしく変貌した男たちにそう宣告した。

エセルはシュヴァルド王太子、アンソニーとジェイクの後ろのカーテンの、影からこっそり裁判をのぞいていた。
エミリアとステラ、セラフィーナもいた。それはエセルたちが当事者の裁判だからだった。

夏の終わりに北の砦から帰還したアルベルトは、今、議会室の議長席にすわり、裁判を行っていた。

それは先日、エセルたちの部屋に侵入を謀った男たちの裁きを行うためだ。
「マルセル、まずはエセルにしつこく声をかけていた男の名前をよろしく」
「はい!」
言われたマルセルは紙を読み上げた。

マルセルは、きっちり記録をしていたらしい。そして、調べてもいたようである。

一人ずつ読み上げるたびに男たちはピクリと反応した。
「ありがとう、マルセル。エセルの目の前に現れて汚い息を吹きかけるなんて、それだけで、処刑したいくらいだね!」
「殿下…」
隣に立つ侍従のエリオットが困ったように声をかける。

「うん、でも、コイツらは若くて綺麗な女の子たちの部屋によりにもよって忍び込もうとしたんだから、処刑は当たり前でいいよね?黒騎士たち、忍び込もうとした時のコイツらの持ち物だして」
その声に黒騎士たちが登場し、細いロープや細長い布を並べた。

「こんなもの持って、何も悪いことしようとしてませんなんて、言えるわけないよね?」
「な、なんの権利があって殿下が裁こうとなさってるのですか?」
男たちのうちの一人が勇気を振り絞って口をひらいた。

「はぁ?俺が誰だか知らないって訳?」
アルベルトは立ち上がり、 
「この国の第二王子で、アルベルト様だけど?それでもって」
キラリと光る紋章を見せたアルベルトは 
「新たに王国軍総帥に任命されたから、俺には裁く資格も十分な訳。わかった?お粗末な脳ミソでもわかるよね?」
男たちはぶるぶるふるえ
「俺は頼まれただけだー!」
「うん、じゃぁちゃちゃっといっちゃおうか。その頼んだ人物名を今すぐ!」
アルベルトの、勢いに押されたのか、男たちは口々に述べた。

「うんうん、よく言ってくれたね~。」
アルベルトはニヤリと笑うと
「じゃぁ、君たちは北の大地で、鎖に繋がれて開墾して。俺は慈悲深いから、命は助けてあげるよ。」
男たちはガクリと力をおとした。

衛士たちが男たちを立たせて連れていく。
口々に、罵るので、アルベルトは
「じゃやっぱりギロチンにしよう!」
と宣言したのだ。
「殿下…」
「ちょっとしたジョークだよ」
こそっとエリオットにいうが、あまりジョークに聞こえず、目も笑ってない。

「じゃ黒騎士、さっきコイツらが吐いた貴族たちしょっぴいといて、よろしく~」
ひらひらと手を降って命じた。

「婦女暴行の指示により、身分剥奪の上、国外追放ってことで処理をよろしく!あんまり聞き分けなければ、痛め付けてもいいしなんなら死んじゃってもいいや」
黒騎士たちは一礼して、機敏な動きで去っていった。
「殿下、間違ってはいませんがもう少しお言葉つかいを…」
「あのねエリオット。庇うところ間違えてるよ?黒騎士たちに張らせてなかったら、エセルもエセルの友達たちもあの男たちになにをされてたかわかるよね?しかも、大の男が複数でだよ?死刑じゃ足りないくらいの所を命は助けたんだから感謝してほしいくらいだね」

「殿下、クロすぎるわ…!」
エミリアが言った。
「でも、なかなか、見事な手腕で裁いたように思ったわ」
セラフィーナが言った。確かにクロさは全開だったけど、その罪は妥当に思えた。

「さっ、エセル、行こう…大丈夫?」
黒騎士たちがいなかったらたぶん、エセルはあの男たちに、無理やり犯されていたに違いない。この事を改めて思ってエセルは真っ青になり、気分も悪くなってしまった。

そして、友人たちもどうなっていたことか…
「みんな…ごめんね。危ない事に巻き込んでしまってたのね」
エセルが真っ青になって、言うのでエミリアたちも、
「や、やだ。エセルったら大丈夫だったんだから、気にしてはだめよ」
「うん…でも…」
エセルはついに胸が苦しくなりすぎて、その場に崩れ落ちてしまった。
「ちょっ…!やだ、エセル!大丈夫??」


倒れたエセルは叔父のタウンハウスに連れてもらうようお願いし、しばらく休暇を願い出て休養させてもらうようにしたのだ。
「エセル、大丈夫なの?」
ひさしぶりに、母と会い、エセルはほっと一息ついた。
「お母さま…。」
「大変だったのね」
「私、とても怖くなったの。知らないところで、人が傷つけようとしていたり、自分のせいで友達も傷つけられそうになっていたり。田舎娘が都会に来て馴染めるわけなかったのよ」
エセルは涙かとまらず、母にすがり付いた。
「どうするの?エセル。このまま領地に私たちとかえる?それとももう一度頑張るの?お友だちも、恋人も、捨てていってしまうつもりなの?」
エセルは首をゆっくりとふった。わからないの、意味だった。
「いいわ、少し考えなさい。納得出来るようにしっかりね」
母はエセルの背を撫でて、頭を撫でると、部屋を出ていった。 

エセルは、鬱々と考えるにつれて、エセルに害をなそうとした貴族と男たち。そして、何より元はといえば、王子である彼の隣に立つことも、怖くなってしまった。

エセルは、辞表願いを書くと叔父に託し、母と共に王都を後にする決心をしたのだった。
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