真夜中は秘密の香り

桜 詩

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黎明の章

二人の未来は

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 『一緒に暮らそう』

こうして、同じテーブルについて食事をし終えれば、自然と昨日の彼の言葉が思い出される。
そんな事を思いながら、ジョルダンの顔を見れば

「少し、ゆっくり話がしたい。夜の城を探検してみようか?」
まるで、思考を読んだかのように話しかけてくる。
「探検なんて、楽しそう」
探検、と言われると大人であっても少しわくわくとさせられてしまう。

 椅子を引きに来たジョルダンに従い、グレイシアはそのエスコート通りに席を立ち、そしてダイニングルームを後にすると、人気のない城はシンとしていて、夜の闇の中では、靴音だけが響き一人では心細くなりそうで、知らずジョルダンと距離を狭くさせていた。

 そして、回廊を進み、螺旋らせんの長く伸びた階段を上がり塔へ上がる。

夜のキンと冷えた空気の中の、冬の星の光が降り注ぐその空の下、ジョルダンは着ていたディナージャケットをグレイシアの肩に羽織らせて、その残った熱を伝えてくる。
「寒い?」
「私なら、平気………空が近くて………手が届きそう」

見上げたその空の星が本当に降ってくるように思える。
寒さは酔いの回った熱い頬には、むしろ心地よいほどで……。
 それに、北にある故郷はもっと寒いから。

「この世にはこの星の数ほど、人がいるらしいね」
同じように見上げたジョルダンが呟いた。

「ええ、そうね」
「そんな中で、こうして出会って………。今は二人きりで眺めてる」
ロンティックを語るよりは、天文や数学を語るかのよう。
「どんな気分?城主になって」
グレイシアは、ジャケットの襟のあたりを腕を交差して指先で持ちながら見上げて聞いた。
「………さして。良くはなかった、面倒だ……“気楽な次男坊”でいられなくなったから」
その答にグレイシアは、軽く声をあげて笑った。

「でも、男としては、単純だがやはり自信にはなる。家族を、迎えたいと。そんな気にもなる」

その言葉に、昨日の言葉を思い出してグレイシアの鼓動は跳ねあがりそして、派手な音をたてて走り出す。

「グレイシアが、何を心配してるかはわかる。でも、一体だれが人の死を知ることが出来る?
――――離れていて、気づいた。たとえ、短い間だとしても、愛する人と過ごすことは何にも変えがたく、かけがえがない。俺は、必ず幸せにするとか、絶対に先に死なないなんて、出来もしない約束はしない。嘘の誓いをするなら、今ここで君と飛び降りた方がましだ」

暗闇でも、射ぬくその瞳を見返しながらグレイシアは息をのんだ。

「そう………私も。そう思ったの。死なせたくなくて離れたのに、見るのは貴方の夢ばかりで、失いたくなくて離れるなんて、生きているのに、離れるなんて………おかしい事をしてるって、そう気づいた」
「まったく、その通りだ。矛盾してる」

「私といると本当に、早く死んじゃうかもしれない」
「そんな事に、まったく同意する気はないが、もしも、仮にそうだとしても愛する人と離れてまで、長く生きたいと思わない」

“愛する人と離れてまで”

「ジョルダン……本当に?」
「本当に?と聞かれるよりも、『yes』の言葉が聞きたい」
「あまりに……これまで考えていなかったから。返事は待って」

彼の事、自分の事、そしてレナの事。

「待つよ。『yes』を言わせるまで」
「言わせるまでって」

「君の言葉には嘘が多い」
クスッと笑ったジョルダンは、
「そして、俺は………望む答え以外、聞く気はない。この件に関しては……。なぜって、昨日の言葉を聞いているから」

『愛してるから』
確かにグレイシアは、そう告げていた。

「部屋まで、送る」

「ありがとう……」

部屋まで……。

昇った階段を、今度は降り、そしてまた別の階段を上がって扉をジョルダンが開ける。

「おやすみ、グレイシア」

「おやすみ、なさい」

ジョルダンのキスは、グレイシアの手の甲。

その事に、なぜか胸がズキンと疼く。

そのまま、何も言葉を交わさずに部屋に入っては、その疼きはその腕に抱かれたかったと、そう望んでいた事に気づかされる。
ここまで来て、想いも告げて、なのに……別のベッドで眠る……。
こんな事を考えてしまうなんて

なんて……欲深くて………浅ましい………。

今すぐ追いかけてしまいたかった。追いかけて『yes』と素直に言えば良いのに、そんな簡単な一言をいうのを躊躇い実行に移す事が出来ないでいる自分が……嫌になる……。
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