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夜深の章
手紙は炎に包まれる[Jordan]
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熱くなりすぎたセックスで、グレイシアは気を失ったかのようにくったりとシーツに横たわり美しい体をさらし、白金の髪を広げている。
閉じられた瞼は長い睫毛がその頬に影を落としていて、見惚れるほどの美しい線を描いている。
さらりとその乱れた髪を顔から払い、現れたその顔は昼の母の顔ともそして夜の妖艶な顔とも違い、グレイシアそのものの美しくもどこか少女めいた寝顔で。
この部屋で過ごす間だけでも………嫌な事の全てを忘れれば……。
若く美しい彼女は、その運命に傷つけられ過ぎて痛々しいほどだ。
ベッドから降りて、寝室のハンガーに掛かっているガウンを羽織り、情交の跡の残る彼女の為にタオルと湯を用意させるべくベルを鳴らす。
心得たバレリオがきっと準備をしているはずだから。
カートにのせられたそれでグレイシアの体を拭いていると、わずかに身じろぎをした彼女はすこし言葉にならない声を出した。
「大丈夫だ、ゆっくり眠って」
小さく囁くと彼女はそのまま眠りに落ちていく。
上掛けをかけて、部屋の一画にある窓越しのテーブルにある細工の美しいシガーケースを開けた。
シガーに火をつけて紫煙を燻らせて椅子に座り、手紙に手を伸ばした。
そこには、グレイ侯爵家の令嬢 カーラの事が書かれている。
5年前、わずか2歳で患った熱病で左目の視力を失った彼女は………その残された右目も光を失った。そして、その治癒の見込みは極めて低い、と。
イングレスの国にはたくさんの貴族がいるが、その中でも次期王の妃として選ぶのは家柄それに財政としかるべき条件がいる。
王太子 シュヴァルドの第一王子 エリアルドの妃候補の筆頭であったカーラは、その病のせいで5年前、候補の筆頭から外れてしまっていた。
だからこそ………妃候補の為に、有力な若い貴族たちの結婚と出産が求められた訳だが………。実際、ジョルダンもそのように働きかけた。
その結果、誕生したのは次の筆頭として有力となった次期ブロンテ伯爵 ラファエルの娘であるフェリシアだった。ブロンテ家は、社交界の縦横の繋がりも強く、そして武門派の名門であり、何よりもブロンテ家の人々の華やかな気質は人々を惹き付けてやまない。
マクラーレン侯爵家のエリーは、父であるベネディクトに似たのか、幼いながらも地味な印象がぬぐえずファーストレディとしては見劣りがしてしまう。
グレイシアは、グレイ侯爵の姪。彼を頼りに王都へ来たのだろうけど、かの家は今はカーラの治療に奔走していて、グレイの姓ももたない彼女の事を気遣う余裕はなかっただろう。
カーラは年もそして身分も釣り合いが良くグレイ侯爵家としても、王家としても治せるものなら治したいというのが本音だろう。
他の年頃の令嬢がいる家を、調べさせてはいるが……。
筆頭となる令嬢が、8歳年下になるとは……王子はどう思うだろうか?
エリアルド王子は、勤勉で穏やかな性質で王妃に似て容姿も美しい。成長すれば、立派な王になるだろうと予測される。
フェリシアが、結婚可能な16歳になるとき、エリアルドは24歳になる。自分が今の年で18歳の女性と結婚など……。
そもそも結婚を考えていないからかもしれないが、どちらにも可哀想な事に思える。
しかし、世継ぎの王子の結婚は国を背負う大事な事だ。
隣国のエリュシアもフルーレイスも、どうも一筋縄でいかない熱いお国柄だ。代々婚姻と言う形で交流を密にしているが、サリアナ王女がエリュシアに嫁ぎなんとか現在も均衡を保っている。
特にフルーレイスは、容易にこちら駒を引き入れてしまえば内から食われるかも知れない、そんな危うさがある。
いずれ、王家の姫の誰かにフルーレイスに嫁してもらう事になるだろう……。そして、その時期に荒らさせない為にも、他国に付け入らせる隙を、作ってはならない。
グレイ侯爵家は、大将軍として強固な力を……持っていなくてはならない。
しかし……。
ジョルダンには、様々な諜報を得て情報を調べる事は出来るが、だからその後の事は……知ったことではない。と、
そう、言い切れないのはこの国の教育を施された……イングレスの男子は紳士たれというゆえんなのか………。
叩き込まれた幼い頃からの教育が、ジョルダンを縛る鎖となって知ったことか!と心から思うことが出来ない。
(君は……私が出会ったその日、ブロンテ家に行ったのは……幼い妃候補を見定める為だと知ったら、幼い子の養育情況を知るためだと知ったら軽蔑するだろうか?)
手紙にシガーを押し付け火を灯し燃えるままに灰皿に落とす。
真っ黒に燃えるのを確かめて、火を始末した。
『銀色のねずみ』
ナサニエルがそう評しても仕方ないな、とジョルダンは口を歪めた。彼がそう言ったのは、妻の周りをうろうろするな、という意であろうが、こそこそと探るその行為はまさしく鼠に等しい。
脱いだガウンをかけて、再び眠るグレイシアの横に滑り込む。
氷河の名をもつ彼女は……その名にふさわしい美しい容姿をしていて、それでいて熱い情熱を秘めている。
そして今……。
その身体は心地よく、ジョルダンを暖める。
彼女のミュゲの香りが……、ジョルダンを絡めとってゆく。
美しい女....『Femme fatale』と噂される、しかしそれは、魔性の女でなくジョルダンからすれば『運命の女』。
一目で魅せられた女だから……。
たとえ、どんな事が待ち受けようと、彼女の手だけは放さない。心から彼女が離れたいと思わない限り。決して……中途半端に諦めたりしない。
閉じられた瞼は長い睫毛がその頬に影を落としていて、見惚れるほどの美しい線を描いている。
さらりとその乱れた髪を顔から払い、現れたその顔は昼の母の顔ともそして夜の妖艶な顔とも違い、グレイシアそのものの美しくもどこか少女めいた寝顔で。
この部屋で過ごす間だけでも………嫌な事の全てを忘れれば……。
若く美しい彼女は、その運命に傷つけられ過ぎて痛々しいほどだ。
ベッドから降りて、寝室のハンガーに掛かっているガウンを羽織り、情交の跡の残る彼女の為にタオルと湯を用意させるべくベルを鳴らす。
心得たバレリオがきっと準備をしているはずだから。
カートにのせられたそれでグレイシアの体を拭いていると、わずかに身じろぎをした彼女はすこし言葉にならない声を出した。
「大丈夫だ、ゆっくり眠って」
小さく囁くと彼女はそのまま眠りに落ちていく。
上掛けをかけて、部屋の一画にある窓越しのテーブルにある細工の美しいシガーケースを開けた。
シガーに火をつけて紫煙を燻らせて椅子に座り、手紙に手を伸ばした。
そこには、グレイ侯爵家の令嬢 カーラの事が書かれている。
5年前、わずか2歳で患った熱病で左目の視力を失った彼女は………その残された右目も光を失った。そして、その治癒の見込みは極めて低い、と。
イングレスの国にはたくさんの貴族がいるが、その中でも次期王の妃として選ぶのは家柄それに財政としかるべき条件がいる。
王太子 シュヴァルドの第一王子 エリアルドの妃候補の筆頭であったカーラは、その病のせいで5年前、候補の筆頭から外れてしまっていた。
だからこそ………妃候補の為に、有力な若い貴族たちの結婚と出産が求められた訳だが………。実際、ジョルダンもそのように働きかけた。
その結果、誕生したのは次の筆頭として有力となった次期ブロンテ伯爵 ラファエルの娘であるフェリシアだった。ブロンテ家は、社交界の縦横の繋がりも強く、そして武門派の名門であり、何よりもブロンテ家の人々の華やかな気質は人々を惹き付けてやまない。
マクラーレン侯爵家のエリーは、父であるベネディクトに似たのか、幼いながらも地味な印象がぬぐえずファーストレディとしては見劣りがしてしまう。
グレイシアは、グレイ侯爵の姪。彼を頼りに王都へ来たのだろうけど、かの家は今はカーラの治療に奔走していて、グレイの姓ももたない彼女の事を気遣う余裕はなかっただろう。
カーラは年もそして身分も釣り合いが良くグレイ侯爵家としても、王家としても治せるものなら治したいというのが本音だろう。
他の年頃の令嬢がいる家を、調べさせてはいるが……。
筆頭となる令嬢が、8歳年下になるとは……王子はどう思うだろうか?
エリアルド王子は、勤勉で穏やかな性質で王妃に似て容姿も美しい。成長すれば、立派な王になるだろうと予測される。
フェリシアが、結婚可能な16歳になるとき、エリアルドは24歳になる。自分が今の年で18歳の女性と結婚など……。
そもそも結婚を考えていないからかもしれないが、どちらにも可哀想な事に思える。
しかし、世継ぎの王子の結婚は国を背負う大事な事だ。
隣国のエリュシアもフルーレイスも、どうも一筋縄でいかない熱いお国柄だ。代々婚姻と言う形で交流を密にしているが、サリアナ王女がエリュシアに嫁ぎなんとか現在も均衡を保っている。
特にフルーレイスは、容易にこちら駒を引き入れてしまえば内から食われるかも知れない、そんな危うさがある。
いずれ、王家の姫の誰かにフルーレイスに嫁してもらう事になるだろう……。そして、その時期に荒らさせない為にも、他国に付け入らせる隙を、作ってはならない。
グレイ侯爵家は、大将軍として強固な力を……持っていなくてはならない。
しかし……。
ジョルダンには、様々な諜報を得て情報を調べる事は出来るが、だからその後の事は……知ったことではない。と、
そう、言い切れないのはこの国の教育を施された……イングレスの男子は紳士たれというゆえんなのか………。
叩き込まれた幼い頃からの教育が、ジョルダンを縛る鎖となって知ったことか!と心から思うことが出来ない。
(君は……私が出会ったその日、ブロンテ家に行ったのは……幼い妃候補を見定める為だと知ったら、幼い子の養育情況を知るためだと知ったら軽蔑するだろうか?)
手紙にシガーを押し付け火を灯し燃えるままに灰皿に落とす。
真っ黒に燃えるのを確かめて、火を始末した。
『銀色のねずみ』
ナサニエルがそう評しても仕方ないな、とジョルダンは口を歪めた。彼がそう言ったのは、妻の周りをうろうろするな、という意であろうが、こそこそと探るその行為はまさしく鼠に等しい。
脱いだガウンをかけて、再び眠るグレイシアの横に滑り込む。
氷河の名をもつ彼女は……その名にふさわしい美しい容姿をしていて、それでいて熱い情熱を秘めている。
そして今……。
その身体は心地よく、ジョルダンを暖める。
彼女のミュゲの香りが……、ジョルダンを絡めとってゆく。
美しい女....『Femme fatale』と噂される、しかしそれは、魔性の女でなくジョルダンからすれば『運命の女』。
一目で魅せられた女だから……。
たとえ、どんな事が待ち受けようと、彼女の手だけは放さない。心から彼女が離れたいと思わない限り。決して……中途半端に諦めたりしない。
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