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黄昏の章
プロローグ
しおりを挟むイングレス王国 北方に位置するラングトン伯爵の領地。
その伯爵家のカントリーハウスは、いつものように朝を迎えるはずだった。
その屋敷の使用人たちがいつもの朝を迎えるべく働き出したそんなまだ明けぬ早朝、女性の悲鳴が響き渡った。
「きゃあーーーーーーー!」
聞こえたのは領主である伯爵の寝室。
皆が何事かと、掃除の手を止めて悲鳴の聞こえた2階の方を見上げた。
銀食器を磨いていた執事のディールが、磨き粉とクロスを置いて緊急であるからと主夫妻の扉を開けた。
「何事ですか!」
「ディール!!旦那様が…おかしいの……!」
寝台の上の美しく若い女性、伯爵夫人のグレイシアがもともと白い顔を青ざめさせてそう呆然と告げた。
おろしている白金の長い髪がその肩を覆い、アイスブルーの瞳のは今は恐怖に怯え、震える肩と指先。
男なら…抱き締めたくなる風情だ。
そして、なおかつ彼女は一糸纏わぬ美しい裸体であった。
彼女の傍らには同じく裸体の男、チェルノ・ラングトン伯爵の姿がそこにあった。
チェルノは、青ざめていて少しも動かない。
「旦那さま!」
ディールは首筋に手を当てて、脈を確かめた。
「…残念ですが…」
そう告げた瞬間にグレイシアはふっつりとその意識を手放した。
「奥方さま!」
・†・†・†・†・†・
チェルノの死因は、下世話な言葉で言うならば“腹上死”。
若きグレイシアは、その身を黒いドレスに身を包みまだ結婚して3ヶ月の夫を弔った。
そして、新な伯爵を継いだのはチェルノの弟のナイジェルだった。
「義姉上…なんと言葉をかけていいのか」
ナイジェルは、喪に服しその悲しみに暮れるその姿さえ美しいグレイシアにゴクリと唾を飲み込んだ。
傾国の美女…。そんな言葉が世の中にはあるが、目の前のこの女にはぴったりと合うのではないだろうか。
黒のベール越しに見えるその顔はゾッとするほどの美貌だ。
「ナイジェル…いいえ、伯爵閣下…わたくしはこれからどうすれば、いいの?」
幸か不幸か、ナイジェルは独身だった。
そして彼女は未亡人だ。
「私が…ついています」
そう言う以外に何が言えるだろうか、この今にも倒れそうなこの女性に。
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