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友人からの頼み
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社交シーズンが本格的になりだした春を過ぎた頃、ブルーメンタール伯爵家の舞踏会にキースと共にレオノーラは向かった。
「しかし…なんだな…こうなると、俺はフェリクスとアルバートと兄弟になるわけだな」
とキースが言った。
「そう言えばそうなるね」
フェリクスもアルバートもキースの親しい友人達である。
そんな身近な彼らとブロンテ姉妹が婚約、結婚したということに、レオノーラは少し可笑しくなり笑った。
アルバートは次男ということもあり、招待されているのは、ブルーメンタール家の主な親族とそしてブロンテ家の親族。それからアルバートとルシアンナの友人達をはじめとした若い年代の貴族達である。
「ルシアンナ、おめでとう」
アルバートと共にキースとレオノーラを迎えたルシアンナは、穏やかな表情を浮かべている。
「ありがとうレオノーラお姉様」
にっこりと微笑みを返すその顔はとても美しい。
「ルシアンナがアルバートと良いように纏まって良かったよ」
レオノーラは笑みを返した。
こくん、と頷くルシアンナは幸せそうに見えた。
次々と挨拶に訪れる招待客の為にレオノーラはそのまま会場内に入った。
アルバートとルシアンナの婚約発表という主旨だけあり、舞踏会は華やかな曲と共に始まった。
キースをはじめとして、スクール時代の仲間がたくさん来ていて、昔なじみで気安い面々ということもあり次第にお酒もまわり砕けた雰囲気となっていく。
「ランス、そういえばそろそろ婚約間近と聞いたがどうなんだ?」
ディーンが聞いた。
相変わらず情報通である。
「ああ、実はそうなんだ」
ランスロットは嬉しそうにうなずいた。
「へえ?それは初耳だな」
キースがその話を促すように反応した。
「実は…レオノーラのお陰なんだけどさ」
「私の?」
心当たりのないレオノーラはランスロットをみた。
ランスロットは、この国ではありがちな金髪と青い瞳で柔和な面差しの好青年である。キースとはスクール時代からの友人で遊び仲間である。
「そう。昨年のシーズン終わりごろのブラッドフィールド家の舞踏会でレオノーラがダンス相手のいないレディと踊ってこいと言ったことがあっただろう?」
レオノーラはそう言われて記憶をたどると、確かにそのような事を言ったような気がした。
「そういえばあったかな?」
「うん。まぁそれが縁で知り合った訳で」
とランスロットは照れたように笑った。
ランスロットの相手の令嬢は、メグ・オルセン子爵令嬢で、20歳だという。
そのダンスで、優しげな雰囲気のメグに手紙でまず交流を深めたランスロットはシーズンオフの間も積極的にメグのカントリーハウスを訪ねてようやく恋人になれたのだという。
「今日はそのレディ メグは来ていないのか?」
「ああ、今日はメグの従妹がいるんだか…その令嬢を慰めに行っているんだ」
「従妹?」
ディーンが食いついて話を促す。
商売人でもある彼はどんな些細な情報も得たいらしい。
「ティファニー・プリスフォード 新しいバクスター子爵の姉上にあたるんだが…」
「ああ…バクスター子爵は昨年末に急死されたのだったな…。幼くして、まだ11歳のルロイ卿が爵位を継がれたとか」
「そう、そのバクスター子爵だ」
ランスロットはうなずいた。
「ミス ティファニーは、前バクスター子爵夫人とはいわゆる成さぬ仲というわけで、どうやらバクスター子爵の死後に家から出されて今は郊外の亡き母君のタウンハウスでひっそりと暮らされているそうだ」
「それはお気の毒な事だな…」
レオノーラは、痛ましく思い、そう言った。
「そう思うだろう?」
レオノーラの言葉にランスロットは身を乗り出すように言ってきた。
「そうだ!レオノーラ、そちらでしばらくそのミス ティファニーを預かってもらえないだろうか?」
「…は?」
「今年16歳だというんだが、着るものも食事さえままならないそうで誰か庇護できる人がいればと、メグが言っていたんだ」
「…お気の毒とは思うが、それならアンヴィル家で引き受ければいいじゃないか?」
アンヴィル家は男爵家だが、ディーンと同じく裕福な家である。
「うちには俺もだが、弟のアルフォンスがいて未婚の令嬢をお預かりするのは外聞が良くないと言うんだ」
確かに血縁関係のない男女が共に暮らすのは良くないだろう。
「…じゃあそのメグの家はどうなんだ?」
キースが聞くと
「…今のバクスター子爵の母上の手前、むしろ立場が近すぎてどうにも出来ないらしい。メグがひっそりと援助するくらいが精一杯なのだそうだ」
ランスロットが溜め息をついた。
レオノーラも引き受けられそうな家を思い浮かべたが、実家はラファエルがいるし、他に心当たりもない。
ちょうど皆が考えを巡らせた所に
「なんだ?みんなして深刻そうな顔をして」
と笑みをたたえて、フェリクスとルナがやって来た。
「フェリクス、やっとこっちに来たか」
フェリクスは公爵代理として色々と挨拶回りが忙しい。
ルナもやや疲れた表情をしている。
「ルナ、少し休むといいよ」
レオノーラは笑みを浮かべて隣を促した。
「レオノーラお姉様ありがとう」
ルナはホッとしたように微笑むと隣に座った。
その間にディーンがティファニーの話をフェリクスにしていた。
「うちで引き受けようと言いたいところなんだが…あいにく時期が悪いな」
フェリクスが眉をひそめた。
「レディ エレナは今身重だし、ジョエルもまだ小さい。ジョージアナもフレデリックとようやく婚約発表が出来そうだしな」
「へぇ?あの二人やっと婚約か長かったな!」
キースが言った。ジョージアナとフレデリックは、その身分と年齢から何年も前から周りの認識はいつか婚約するだろうと見ていたが、それがようやく整いそうだということらしい。
「ああ、ようやく落ち着くな…」
フェリクスがホッと息を吐いた。ルナもフェリクスの様子を見てにっこりと微笑んでいる。
何せ、昨年には父であるライアンが離婚再婚と揺れたのだ。ようやくウィンスレット公爵家も落ち着いてきたのだろう。
お陰でフェリクスが公爵代理として社交にいそしんでいる。
「キース、そのミス ティファニーをお預かりしてみようか?」
「え?」
キースはレオノーラを見た。
「アークウェイン邸なら部屋は有り余っているし、未婚の男もいない事だし、若いご令嬢お一人助けることくらい出来るとおもうんだけど?」
レオノーラはキースに言った。
「俺は構わないが、レオノーラが何もかも引き受けないといけなくなるよ?」
「…行き場のない令嬢は大変苦労しておられるだろう。お助けしようじゃないか」
「さすがレオノーラ!ありがたい!」
ランスロットはレオノーラの手を握ってぶんぶんと振った。
ちょうど妹たちが手を離れて、寂しい気持ちもあったかもしれない。レオノーラはやれやれと思いながら、ランスロットの手をそっと離した。
見ず知らずの少女を引き受ける事は大変な事になると思うが、元々レオノーラは騎士として勤めていただけあり、そういう困っている人を放っておける質でもなかったのだ。
「しかし…なんだな…こうなると、俺はフェリクスとアルバートと兄弟になるわけだな」
とキースが言った。
「そう言えばそうなるね」
フェリクスもアルバートもキースの親しい友人達である。
そんな身近な彼らとブロンテ姉妹が婚約、結婚したということに、レオノーラは少し可笑しくなり笑った。
アルバートは次男ということもあり、招待されているのは、ブルーメンタール家の主な親族とそしてブロンテ家の親族。それからアルバートとルシアンナの友人達をはじめとした若い年代の貴族達である。
「ルシアンナ、おめでとう」
アルバートと共にキースとレオノーラを迎えたルシアンナは、穏やかな表情を浮かべている。
「ありがとうレオノーラお姉様」
にっこりと微笑みを返すその顔はとても美しい。
「ルシアンナがアルバートと良いように纏まって良かったよ」
レオノーラは笑みを返した。
こくん、と頷くルシアンナは幸せそうに見えた。
次々と挨拶に訪れる招待客の為にレオノーラはそのまま会場内に入った。
アルバートとルシアンナの婚約発表という主旨だけあり、舞踏会は華やかな曲と共に始まった。
キースをはじめとして、スクール時代の仲間がたくさん来ていて、昔なじみで気安い面々ということもあり次第にお酒もまわり砕けた雰囲気となっていく。
「ランス、そういえばそろそろ婚約間近と聞いたがどうなんだ?」
ディーンが聞いた。
相変わらず情報通である。
「ああ、実はそうなんだ」
ランスロットは嬉しそうにうなずいた。
「へえ?それは初耳だな」
キースがその話を促すように反応した。
「実は…レオノーラのお陰なんだけどさ」
「私の?」
心当たりのないレオノーラはランスロットをみた。
ランスロットは、この国ではありがちな金髪と青い瞳で柔和な面差しの好青年である。キースとはスクール時代からの友人で遊び仲間である。
「そう。昨年のシーズン終わりごろのブラッドフィールド家の舞踏会でレオノーラがダンス相手のいないレディと踊ってこいと言ったことがあっただろう?」
レオノーラはそう言われて記憶をたどると、確かにそのような事を言ったような気がした。
「そういえばあったかな?」
「うん。まぁそれが縁で知り合った訳で」
とランスロットは照れたように笑った。
ランスロットの相手の令嬢は、メグ・オルセン子爵令嬢で、20歳だという。
そのダンスで、優しげな雰囲気のメグに手紙でまず交流を深めたランスロットはシーズンオフの間も積極的にメグのカントリーハウスを訪ねてようやく恋人になれたのだという。
「今日はそのレディ メグは来ていないのか?」
「ああ、今日はメグの従妹がいるんだか…その令嬢を慰めに行っているんだ」
「従妹?」
ディーンが食いついて話を促す。
商売人でもある彼はどんな些細な情報も得たいらしい。
「ティファニー・プリスフォード 新しいバクスター子爵の姉上にあたるんだが…」
「ああ…バクスター子爵は昨年末に急死されたのだったな…。幼くして、まだ11歳のルロイ卿が爵位を継がれたとか」
「そう、そのバクスター子爵だ」
ランスロットはうなずいた。
「ミス ティファニーは、前バクスター子爵夫人とはいわゆる成さぬ仲というわけで、どうやらバクスター子爵の死後に家から出されて今は郊外の亡き母君のタウンハウスでひっそりと暮らされているそうだ」
「それはお気の毒な事だな…」
レオノーラは、痛ましく思い、そう言った。
「そう思うだろう?」
レオノーラの言葉にランスロットは身を乗り出すように言ってきた。
「そうだ!レオノーラ、そちらでしばらくそのミス ティファニーを預かってもらえないだろうか?」
「…は?」
「今年16歳だというんだが、着るものも食事さえままならないそうで誰か庇護できる人がいればと、メグが言っていたんだ」
「…お気の毒とは思うが、それならアンヴィル家で引き受ければいいじゃないか?」
アンヴィル家は男爵家だが、ディーンと同じく裕福な家である。
「うちには俺もだが、弟のアルフォンスがいて未婚の令嬢をお預かりするのは外聞が良くないと言うんだ」
確かに血縁関係のない男女が共に暮らすのは良くないだろう。
「…じゃあそのメグの家はどうなんだ?」
キースが聞くと
「…今のバクスター子爵の母上の手前、むしろ立場が近すぎてどうにも出来ないらしい。メグがひっそりと援助するくらいが精一杯なのだそうだ」
ランスロットが溜め息をついた。
レオノーラも引き受けられそうな家を思い浮かべたが、実家はラファエルがいるし、他に心当たりもない。
ちょうど皆が考えを巡らせた所に
「なんだ?みんなして深刻そうな顔をして」
と笑みをたたえて、フェリクスとルナがやって来た。
「フェリクス、やっとこっちに来たか」
フェリクスは公爵代理として色々と挨拶回りが忙しい。
ルナもやや疲れた表情をしている。
「ルナ、少し休むといいよ」
レオノーラは笑みを浮かべて隣を促した。
「レオノーラお姉様ありがとう」
ルナはホッとしたように微笑むと隣に座った。
その間にディーンがティファニーの話をフェリクスにしていた。
「うちで引き受けようと言いたいところなんだが…あいにく時期が悪いな」
フェリクスが眉をひそめた。
「レディ エレナは今身重だし、ジョエルもまだ小さい。ジョージアナもフレデリックとようやく婚約発表が出来そうだしな」
「へぇ?あの二人やっと婚約か長かったな!」
キースが言った。ジョージアナとフレデリックは、その身分と年齢から何年も前から周りの認識はいつか婚約するだろうと見ていたが、それがようやく整いそうだということらしい。
「ああ、ようやく落ち着くな…」
フェリクスがホッと息を吐いた。ルナもフェリクスの様子を見てにっこりと微笑んでいる。
何せ、昨年には父であるライアンが離婚再婚と揺れたのだ。ようやくウィンスレット公爵家も落ち着いてきたのだろう。
お陰でフェリクスが公爵代理として社交にいそしんでいる。
「キース、そのミス ティファニーをお預かりしてみようか?」
「え?」
キースはレオノーラを見た。
「アークウェイン邸なら部屋は有り余っているし、未婚の男もいない事だし、若いご令嬢お一人助けることくらい出来るとおもうんだけど?」
レオノーラはキースに言った。
「俺は構わないが、レオノーラが何もかも引き受けないといけなくなるよ?」
「…行き場のない令嬢は大変苦労しておられるだろう。お助けしようじゃないか」
「さすがレオノーラ!ありがたい!」
ランスロットはレオノーラの手を握ってぶんぶんと振った。
ちょうど妹たちが手を離れて、寂しい気持ちもあったかもしれない。レオノーラはやれやれと思いながら、ランスロットの手をそっと離した。
見ず知らずの少女を引き受ける事は大変な事になると思うが、元々レオノーラは騎士として勤めていただけあり、そういう困っている人を放っておける質でもなかったのだ。
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