初恋

桜 詩

文字の大きさ
上 下
14 / 35

舞踏会

しおりを挟む
公爵家の嫡男 フェリクス・ウィンスレット。そのウィンスレット邸での舞踏会で、求婚され華々しく婚約した妹のルナ。

可愛い妹の幸せな瞬間に立ち会ったレオノーラの喜びもひとしおだった。
そのフェリクスの父、ウィンスレット公爵にスキャンダラスな噂が飛び込んで来たのは、レオノーラが結婚してすぐの夏も終わりに近づいた頃だった。

【ライアン卿 すでに離婚していた!早くも再婚。お相手はエレナ・ヘプバーン】
新聞の見出しにデカデカと書き立てられていた。
「…ライアン卿が離婚とは…しかも早くも再婚ね…」
レオノーラはアークウェイン邸にきても、これまでの習慣通り、朝にはゆったりとお茶を飲んでいた。
「すでに、噂は回っていたんだよ。レディ エリザベスが邸を出ていったらしいし、ライアン卿も別邸に住まわれているそうだ、その新しい奥さんと」
「ルナに影響はあるかな?」
心配なのは、ルナの事だけ。
「ルナには影響はないよ…ただ、未来の義母が変わるっていう事くらいかな…」
そうか…とうなずいた。
ライアンとエリザベスの不仲は有名だった。
イングレス王国での離婚は珍しい事で、不仲でも婚姻関係を続けている夫婦は多くて、それぞれに恋人がいることは珍しくない。
離婚という醜聞をさらす形をとったライアンはある意味勇気ある行動をとったといえる。

【レディ エレナ・ヘプバーンとは?誰か!? 
先代のノースブルック伯爵令嬢(27歳)は、社交界デビューの年以来社交界に出ていないその素顔は!? 】 
【美貌で男をたぶらかす悪女、レディ エレナとライアン卿の馴れ初めは?】 
等憶測と偏見に満ちた新聞にレオノーラはそれを読まずに飛ばした。

社交界の噂はとにかく尾ひれがつく。
ゴシップ記事もそうだ。

その日のブラッドフィールド邸の舞踏会では、ライアン卿とレディ エレナの噂で持ちきりだった。
会場に着いたレオノーラは、祝福を告げる夫人たちに囲まれた。
そして、ライアンとエレナの噂話に自然となる。
「新婚のレオノーラ様にはさぞご不快でしょうね、あんなスキャンダラスな方が妹様の将来のご両親におなりだなんて」
「そうでしょうか?私は別に気になりませんよレディ」
レオノーラは微笑んで話しかけてきた夫人を見つめた。
「あ、あらレオノーラ様がそうおっしゃるなら…」
夫人はぽぅっとレオノーラを見た。レオノーラはドレスを着ていてもやはり、レオノーラなのだ。
「それはそうとレオノーラ様は新婚生活はいかがですの?」
「キースはとても優しい。上手くやっていると思いますよ」
「まあ、本当に素敵だわ」
夫人たちは笑いさざめき、レオノーラを囲んでいた。
「レオノーラ、少しいいかな?」
後ろからキースがやってきた。
今日は黒のテールコートで、立ち居振舞いは、きちんと洗練された貴公子のそれだ。
「公爵の元へ挨拶に行こう」
と、囁くと
「失礼します。ご婦人方」
と一礼すると、レオノーラをエスコートして輪から連れ出した。
「…正直、助かったよキース」
と微笑んで言った。
「いや…大したことじゃない」
キースは綺麗な笑みを向けた。

ブラッドフィールド公爵と夫人のカレンにキースは紹介した。
「閣下、妻のレオノーラです」
「やぁレオノーラ、おめでとう」
近衛騎士であったレオノーラを知る男性たちは多い。しかし、言葉を交わすのははじめてのことだ。
「ありがとうございます閣下」
とレディらしい一礼をする。

…とても、頑張ってレディらしい振る舞いをするように気をつけているのだ。

「レオノーラ様が奥さまになるなんて、キースは幸運ね…。ねぇ?またご招待するので、うちにも来てくださいねレオノーラ様」
レオノーラは、レディ レオノーラというよりは皆これまで通りレオノーラ様と呼ばれる方が多い…。
レディをつけられるのはこそばゆいので丁度よいとレオノーラ自身は思っていた。

挨拶が一通り終わると、公爵夫妻のダンスを皮切りに舞踏会が始まる。
レオノーラもキースと次の曲からダンスを始めた。
「やっと足を踏まなくて済むようになった…」
レオノーラは微笑んでいった。
騎士の間、男性パートばかり踊っていたレオノーラは、練習してようやく女性パートに慣れてきた。
「俺の足なら問題ないさ」
キースも優しく微笑み返した。
レオノーラは、それなりにダンスの誘いを受けつつ場をこなし、ほどほどに時間が過ぎたと思い、役目は果たしたとばかりに、レオノーラはキースを探した。
自分と背の変わらない男性や、自分より下手な男性パートを踊る男性とのダンスに飽き飽きしてきた。

それに…想像していたのに、キースを狙っていた令嬢たちからの嫌がらせがないのだ…。
キースの親衛隊は過激だと聞いていたのに、婚約から今まで、どういう手で来るのかと待ち構えていたのに拍子抜けだ…。

会場の端の方で、男性たちとキースは話していたので、ゆっくり近づいた。
「で、新婚生活はどうなんだ?キース」
そう聞いた声は多分アルバート・ブルーメンタールだ
声をかける前に聞こえてしまい、レオノーラは足を止めた。
「この上なく幸せを噛みしめてるぞ?」
キースが笑いながら返した。
「しかしレオノーラとキースが結婚するなんて…驚きだな…」
そう言ったのはランスロット・アンヴィル。

かつてスクールに共に通った仲間だ。

「私だって驚いてる」
背後から声をかけた。
「レオノーラ、そこにいたのか」
先に目を向けたアルバートが言った。
「こんなに目立つ私が目に入らなかったのか?アルバート」
「ああ、どうかしてるね」
クスクスとアルバートが笑った。
アルバートは、妹のルシアンナの恋人だ。あの求婚された時も家にいた…。
「レオ…本当に女だったんだな…」
ランスロットが頭から爪先まで眺めた。
「間違いなくね…なんなら脱いで見せようか?」
レオノーラがいうと、ランスロットは慌てて拒否した。
「ランスをからかうのはよせよ、レオノーラ」
キースは苦笑した。
「からかってない。別に私は気にしない」
「君がしなくても、男の方は気にする。裸を簡単に見せるとか言うな」
キースは、真剣に止めた。
「冗談だ。いくら私でもそれくらいはわかってる」 
騎士は訓練中はほとんど半裸だし、レオノーラたち女性騎士たちも、動きやすい格好で男たちとは別に訓練するが、時々は一緒に訓練もあった。
その事でレオノーラの羞恥心は低かった…。
「キース、私はそろそろ帰りたいんたが、先に帰ってもいいか?」
「なぜ?一緒に帰るよ」
「まだ話の途中だろう?私なら構わない。先に帰って待っている」
レオノーラは暗にベッドでと匂わせて、微笑んだ。

「…いや、一緒に帰るよ…」
レオノーラはキースに微笑みつつ、
「キース、それにランスロットたちもよく見ろ」
とレオノーラは会場を指差した。
「ダンスに誘われていないレディたちがいるだろう?男同士喋ってないで、とっととダンスをお誘いしてくるんだ」
レオノーラはかつて、王妃に命じられるまま、そうやって壁の花の女性を誘い、ダンスをした。
中にはそれを狙っている女性もいたらしいが…。
「あ、ああ…本当だ…」
ランスロットは慌てて言い、一番近くの淡いグリーンのドレスの令嬢を誘いに行き、アルバートももう一人の令嬢を誘いに行った。
「キースは…」
「俺は、愛する人と過ごしたいから遠慮してこのまま帰るよ」
とレオノーラをエスコートして会場を出たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

処理中です...