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桜 詩

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第三章

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年が明けて、ソフィア王女とセルジュ王子の婚約が発表され、ライアンを責任者とした花嫁一行は、遠きセルリナ国に旅立った。

イングレス王国の正装である軍服を身に付けたライアンが騎乗し一行を率いて街道を行進すると、華やかな行列に王都の住民たちは喜びの声をあげて、手を振った。
「ソフィア王女、セルジュ王子おめでとうございます!」

王都を離れた所で、ライアンはジュリアン・ブラッドフィールド公爵が隣に並んだのに気づいた。
「ライアン、何やらキナ臭いと思わないか?」
こっそりというジュリアンにライアンはうなずいた。
「…思う…、陛下は何かご存知で私たち二人を遣わしたに違いない」
イングレスの公爵を二人…ソフィアに同行させるとは、
「セルジュにあくまで、個人的に手を貸せ…ということかな…クーデターに…」
「しっ!聞かれるぞジュリアン」
「もちろん、抜かりなく指示はしてきたんだろ?」
ライアンは危険な任務だと、そう感じ取っていた。だからこそ、ウィンスレット公爵の兵力は、いつでも出兵出来るよう手配はしてある。

セルリナに着いてセルジュ王子とソフィア王女の婚礼は滞りなく行われ、表面上はソフィアも微笑みを絶やさずに、儀式を終えて、結婚を披露する宴もそつなくこなしていた。
男嫌いで、嫌々結婚させられたソフィアだがそこは流石に王女というべきか、覚悟をもって嫁いだのだ、と感じさせられた。

脆弱で、たるんだ体つきに、耽溺と贅の限りを尽くした雰囲気の漂わせる国王と、王太子。なるほど、王としての風格のあるセルジュ王子としては、この男たちの下につくのは、我慢がならないのだろう…。
ライアンにもジュリアンにもそれが見てとれた。

連日の宴三昧。
…ライアンたちが呆れるほどの、贅沢を凝らしたものだ。
『わかっていると思うが…手を貸してもらいたいのだ…』
セルジュがそう言ったのは、そんな王子の婚礼で浮かれた雰囲気の残る、騒がしい中であった。
『決行はいつだ?』
ライアンはそっと聞いた。
『シルキアからはすぐに出してくれる…そちらからは最短でどれくらいだ?』
ライアンとジュリアンは目配せをしあった。
『2週間…』
セルジュは覇気のある目で頷くと
『では手配を…。後ろについていると誇示してもらえればそれだけで助かる』
ニヤリと笑った。

ライアンとジュリアンは、知られないように…もっともセルリナ国王も王太子もそんな事に気がつくような人物には見えなかったが、密かに手を回した。

しん、と、寝静まった夜明け前…。
セルリナの王宮に鬨の声があがり、怒号が響き渡る。
王と王太子に不満を抱いた人物たちを巧みに、自分の元に惹き付けて、セルジュが決起したのだ。

「ちっ、こんなところで剣を振るわねばならんとは」
ライアンは面倒そうに呟き、甲冑姿で右往左往する王と王太子の仲間をとらえた。
王の親衛隊は、セルジュに任せればいい。
「お互いにいい年だから運動になっていいじゃないか」
くくっとジュリアンが笑う。

あっという間に王宮はセルジュ一派が制圧したが、国のなかにはまだまだ王に与する輩はいるはずだ。気は抜けない。
ソフィアは妖精さん的な娘だが、こういう時には王女らしさを発揮して、慌てる事なく、穏やかに守られていた。
「殿下、大丈夫ですか?」
「…ええ。もちろん、これだから嫌なのに…」
男臭い…その格好に嫌悪感いっぱいの目で眺められ、ライアンもジュリアンも苦笑した。
「セルジュ王子、ちゃんと後始末まできっちりしてくださるわよね?こういうの一番大嫌いなの」
おっとりとソフィアが言うと
「仰せの通りに、わが妃よ」
おどけてセルジュが言った。
「さて、どこが出てくるのか…楽しみだな…これで一掃出来そうだ」
そして…不敵に笑う。
贅肉たっぷりの、王や王太子など、一捻りだろう。
だが、そのたるんだ贅肉に群がる連中がいるのもまた事実だった。

セルジュについたシルキア国と、イングレス王国のあくまで一貴族のライアンとジュリアン。
ウィンスレットとブラッドフィールドの兵士を率いてやって来たのは、アドルファス・グレイ侯爵、いや大将軍というべきだ。とアルマン・ブロンテ伯爵。
二人とも、軍事能力に長けた頼もしい面々だ。
「やれやれ、陛下は本気で肩入れするがあくまで国は関与してないと表向きは思わせたいようだな…」
ジュリアンが笑った。
「他国の事に国王の騎士は動けまい」
ライアンは呟いた。

前方には、平原で相対した王の威を傘に来ていた領主たち。
それと、セルジュの騎士たち。
数ではセルジュの大敗だ。しかし、シルキアの兵士と、イングレスの兵士たちが背後をしっかりと固めている。
「さぁ、どうするかな…」

「なぁ、肩入れした方が早く片がついて早く帰れるんじゃないのか?」
ジュリアンが言った。
「お前もたまには良いことをいうな?」
好戦的なアドルファスとアルマンはニヤリと、爛々と燃えた瞳をしていた。血がたぎっているようだ。
イングレスの領主軍は、前進しセルジュ王子の軍の横につけた。
陣頭に立つセルジュは、艶然と笑って見せた。

イングレスがついたことで、シルキアも動いた。
これで数の上で上回った。
「ライアン、死ぬなよ」
ニヤリとジュリアンが笑った。
死ぬ気はない。だが、戦場にいる以上、何が起こるかわからない。

統率のとれた、3国連合軍は敵を圧倒した。
実質的に率いる、アドルファスとアルマンは勇猛果敢で恐るべし剣豪だった。
普段は気のいい男たちだが、敵には決して回してはならない。

平和を享受しているイングレスにおいては、このような戦場など覚えている限り縁は無かったというのに…。

勝利を収めると、セルジュのもとには、志を共にする様々な身分のものたちが結集してきて、セルジュの勝利は確実なものとして捉えられるようになっていた。
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