13 / 16
13.
しおりを挟む
ヴィオラが私に嗜虐的な笑みを向けてくる。
「フフフ……殿下が手中に納まったら、今度こそあなたを全裸で外に放り出すのも悪くないかもね。
そうやって恥ずかしいのに抗って苦しむ姿、中々に悪くないわ」
私はヴィオラを睨み付けて応える。
「あんたも本当にいいご趣味をお持ちのようね。
貴族令嬢として、ヴィルヘルムに思う所はないの?!」
きょとんとしたヴィオラが、私を見つめて応える。
「思う所? 『便利な男』ってぐらいかしら。
私に面白いものを見せてくれるし、付き合ってて退屈はしないわね」
どうやらこの二人は、似た者同士という所らしい。
馬が合った二人は意気投合し、共犯者として生きていくことを決めたのだろう。
こんな身勝手な人間たちに、王国を好き放題させちゃいけない。
私が固い決意を心に刻み込んでいると、メモを書き終わったヴィルヘルムが私に折りたたんだ紙を差し出した。
「このメモにある通りに動け。
決してしくじるなよ」
私の身体が勝手に頷き、「はい」と返事をした。
悔しさで顔が紅潮するのがわかる。
そんな私を見て、目の前の二人は手を叩いて喜んでいた。
「ハハハ! 今度も抗えないか。
そんなザマで、よく父上の愛人を拒絶できたな。
心に決めた男でもいるのか? 言ってみろ」
そんな人、いる訳が――
「はい、フリードリヒ・シュレーダー様です」
勝手に私の口が告げた名に、私自身が驚いていた。
――え?! フリードリヒ?! なんでその名前が出てくるの?!
一瞬ぽかんと口を開けたヴィルヘルムが、再び楽し気に笑いながら手を叩いた。
「はっはっは! そうかそうか、あの不愛想な騎士に憧れていたのか!
父上ほどではないが、奴も二十代半ば、立派に中年に片足を突っ込んだ男だろうにな。
お前は存外、趣味が悪いと言う事か?」
私はキッとヴィルヘルムを睨み付け、声を上げる。
「フリードリヒ様を悪く言わないで!」
「その反抗的な口を閉じろ」
「はい」
またしても、私の身体は彼の命令に従った。
その様子に満足した様子のヴィルヘルムたちがソファから立ち上がり、私に告げる。
「私たちが帰るまで、そこで這いつくばって跪いているがいい。
――ああ、あのメモの内容は、決して他人に知られるなよ」
「はい」
私の身体が跪き、這いつくばるように頭を下げた。
ヴィルヘルムの足が私の後頭部を踏み付け、踏みにじってから去っていく。
ヴィオラも同じようにヒールで私の頭を踏み付けたあと、楽し気な笑い声を残して応接間から去っていった。
****
二人の気配が遠のくと、私の身体に自由が戻ってくる。
――ふぅ、なんとか耐えきったわ。
それに、罪を被せるためとはいえ、殿下を陥れる計画に加えてもらえることにもなった。
私はメモを広げて中身を読んでいく。
どうやら、町を散策している途中で町はずれの広場に立ち寄る予定らしい。
そこに指定された時間に姿を見せて、ローレンス殿下一人を森の中に誘き出せと書いてあった。
……これで殿下に何かあれば、私は少なくとも共犯者の一人に見える。
その後はヴィルヘルムが姿を見せずに殿下に隷属の魔法をかけるか、失敗しても私が単独犯で行ったと自供すればいいわけだ。
そこには自供内容まで丁寧に書いてあった。
『ヴィルヘルムと付き合っているうちに禁呪の存在を知り、興味本位で殿下に隷属の魔法をかけたと言え』と記されている。
誘き出す手口も『色仕掛けを使え』とか、本当に下劣な人間だ。
だけど悲しいかな、ローレンス殿下は少々、女性に弱いらしい。
良くない女性に言い寄られては、側近が追い払ったという噂をよく聞いた。
だけど近寄るのが、ヴェーバー伯爵家の令嬢だったなら? ――そう、側近が追い払う事なんてできない相手だ。
なるほど、よく考えられていること。
私はふぅ、と小さく息を吐く。
――これで、ヴィルヘルムの尻尾を押さえる機会を得た。
この貴重な機会を逃さず、確実に仕留めないと。
……でも、私ってフリードリヒを慕っていたのか。今さらながら恥ずかしくなって、思わず赤面していた。
そんな自覚はなかったのに、命令で恋心に気付かされるなんて。なんて情緒のない話なのだろう。
彼は『私を頼って欲しい』と言ってくれてたっけ。
その言葉を、今は頼もしく感じていた。
「エリーゼ、大丈夫かい」
お父様の声に振り返る。心配そうな表情のお父様が、応接間の入り口に立っていた。
「ええ、問題ありませんわ」
私の身体がメモを懐にしまい込もうとするのを、裂帛の気合で押し留めた。
「……お父様、これが彼らの計画ですわ」
私が差し出したメモを受け取り、お父様がそれに目を通していく。
険しい表情のお父様が頷き、私に告げる。
「これだけでは物証として弱い。
お前や殿下には、多少の危ない橋を渡ってもらう必要があるだろう。
なんとしても奴の犯行現場を取り押さえ、陰謀を白日の下にさらす必要がある」
私も頷いて応える。
「ええ、わかってますわ。
王家の人間を守るのは、臣下である私たちの務め。
必ずヴィルヘルムたちを追い詰め、悪の根を絶ってみせましょう!」
私たちは頷きあうと、応接間を後にした。
「フフフ……殿下が手中に納まったら、今度こそあなたを全裸で外に放り出すのも悪くないかもね。
そうやって恥ずかしいのに抗って苦しむ姿、中々に悪くないわ」
私はヴィオラを睨み付けて応える。
「あんたも本当にいいご趣味をお持ちのようね。
貴族令嬢として、ヴィルヘルムに思う所はないの?!」
きょとんとしたヴィオラが、私を見つめて応える。
「思う所? 『便利な男』ってぐらいかしら。
私に面白いものを見せてくれるし、付き合ってて退屈はしないわね」
どうやらこの二人は、似た者同士という所らしい。
馬が合った二人は意気投合し、共犯者として生きていくことを決めたのだろう。
こんな身勝手な人間たちに、王国を好き放題させちゃいけない。
私が固い決意を心に刻み込んでいると、メモを書き終わったヴィルヘルムが私に折りたたんだ紙を差し出した。
「このメモにある通りに動け。
決してしくじるなよ」
私の身体が勝手に頷き、「はい」と返事をした。
悔しさで顔が紅潮するのがわかる。
そんな私を見て、目の前の二人は手を叩いて喜んでいた。
「ハハハ! 今度も抗えないか。
そんなザマで、よく父上の愛人を拒絶できたな。
心に決めた男でもいるのか? 言ってみろ」
そんな人、いる訳が――
「はい、フリードリヒ・シュレーダー様です」
勝手に私の口が告げた名に、私自身が驚いていた。
――え?! フリードリヒ?! なんでその名前が出てくるの?!
一瞬ぽかんと口を開けたヴィルヘルムが、再び楽し気に笑いながら手を叩いた。
「はっはっは! そうかそうか、あの不愛想な騎士に憧れていたのか!
父上ほどではないが、奴も二十代半ば、立派に中年に片足を突っ込んだ男だろうにな。
お前は存外、趣味が悪いと言う事か?」
私はキッとヴィルヘルムを睨み付け、声を上げる。
「フリードリヒ様を悪く言わないで!」
「その反抗的な口を閉じろ」
「はい」
またしても、私の身体は彼の命令に従った。
その様子に満足した様子のヴィルヘルムたちがソファから立ち上がり、私に告げる。
「私たちが帰るまで、そこで這いつくばって跪いているがいい。
――ああ、あのメモの内容は、決して他人に知られるなよ」
「はい」
私の身体が跪き、這いつくばるように頭を下げた。
ヴィルヘルムの足が私の後頭部を踏み付け、踏みにじってから去っていく。
ヴィオラも同じようにヒールで私の頭を踏み付けたあと、楽し気な笑い声を残して応接間から去っていった。
****
二人の気配が遠のくと、私の身体に自由が戻ってくる。
――ふぅ、なんとか耐えきったわ。
それに、罪を被せるためとはいえ、殿下を陥れる計画に加えてもらえることにもなった。
私はメモを広げて中身を読んでいく。
どうやら、町を散策している途中で町はずれの広場に立ち寄る予定らしい。
そこに指定された時間に姿を見せて、ローレンス殿下一人を森の中に誘き出せと書いてあった。
……これで殿下に何かあれば、私は少なくとも共犯者の一人に見える。
その後はヴィルヘルムが姿を見せずに殿下に隷属の魔法をかけるか、失敗しても私が単独犯で行ったと自供すればいいわけだ。
そこには自供内容まで丁寧に書いてあった。
『ヴィルヘルムと付き合っているうちに禁呪の存在を知り、興味本位で殿下に隷属の魔法をかけたと言え』と記されている。
誘き出す手口も『色仕掛けを使え』とか、本当に下劣な人間だ。
だけど悲しいかな、ローレンス殿下は少々、女性に弱いらしい。
良くない女性に言い寄られては、側近が追い払ったという噂をよく聞いた。
だけど近寄るのが、ヴェーバー伯爵家の令嬢だったなら? ――そう、側近が追い払う事なんてできない相手だ。
なるほど、よく考えられていること。
私はふぅ、と小さく息を吐く。
――これで、ヴィルヘルムの尻尾を押さえる機会を得た。
この貴重な機会を逃さず、確実に仕留めないと。
……でも、私ってフリードリヒを慕っていたのか。今さらながら恥ずかしくなって、思わず赤面していた。
そんな自覚はなかったのに、命令で恋心に気付かされるなんて。なんて情緒のない話なのだろう。
彼は『私を頼って欲しい』と言ってくれてたっけ。
その言葉を、今は頼もしく感じていた。
「エリーゼ、大丈夫かい」
お父様の声に振り返る。心配そうな表情のお父様が、応接間の入り口に立っていた。
「ええ、問題ありませんわ」
私の身体がメモを懐にしまい込もうとするのを、裂帛の気合で押し留めた。
「……お父様、これが彼らの計画ですわ」
私が差し出したメモを受け取り、お父様がそれに目を通していく。
険しい表情のお父様が頷き、私に告げる。
「これだけでは物証として弱い。
お前や殿下には、多少の危ない橋を渡ってもらう必要があるだろう。
なんとしても奴の犯行現場を取り押さえ、陰謀を白日の下にさらす必要がある」
私も頷いて応える。
「ええ、わかってますわ。
王家の人間を守るのは、臣下である私たちの務め。
必ずヴィルヘルムたちを追い詰め、悪の根を絶ってみせましょう!」
私たちは頷きあうと、応接間を後にした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる