20 / 28
第1章
第20話:みんな落ち着いて!
しおりを挟む
「ふざけるなっ!」
叫びながらレイスくんが立ち上がり、ニックくんの胸ぐらを掴んでいた。その形相は怒りを通り越して憎しみすら感じた。
私は言葉の意味が解らなかった。ローブの男のことはわかったけど、「私を貸せ」とか「落とす」とか、どういう意味なんだろう?
言葉の意味を解説してもらおうとアリーナを見ると……そこには羅刹の如き空気をまとったアリーナが居た。怒りで髪の毛が波打ってるかのような錯覚を覚えた。
……ガチギレしてるアリーナ、初めて見たかもしれない。
「俺の協力がなければ“奴”に辿り着くことは難しい。俺を尋問してもいいが、不穏な空気を感じ取れば“奴”は姿をくらますだろう。どうだ? 悪い話じゃないと思うんだが?」
ニックくんの胸ぐらをつかんだレイスくんの両手は怒りで震えていた。アリーナの目には殺意が浮かんでる……いけない、空気が悪すぎるな。
この状況でも不敵に笑ってられるニックくんは大物かもしれない。
それだけ、今自分が提示した情報の価値を理解しているのかもしれない。私たちが喉から手が出るほど欲しがっているものなのだから。
「ね、ねぇ“アルルカ様”、ニックくんが言ってるのはどういう意味なのですか?」
おそるおそるアリーナに聞いてみたのだが。
「あなたがそれを知る必要も、理解する必要もありません。」
と、一刀両断されてしまった。うひぃ、空気が! 空気が重い!
「れ、レイスくん……?」
そっとレイスくんの方を伺うが、返答はなかった。アリーナと同じ意見なのかもしれない。
「あの、その、喧嘩は……やめよう? もっとこう、落としどころがあるはず、だよね?」
私としてもローブの男につながる手がかりは欲しい。けど、二人がここまで激高するってことは、私にとってあんまり良いことじゃない条件を提示されたのだろう。私としてもそんな条件をのめるとは思えない。
「このような下衆の言うこと、信用なりません。」
「下衆とは失礼だな。俺はルカに本気なんだが。それに情報は確かだ。それは保証する。」
絞り出すようなレイスくんの言葉に、飄々としたニックくんが答える。
しばしの硬直の後――
「わかった、時間をやるよ。俺の持ってる情報の価値、よく考えてみるんだな。」
ニックくんが肩をすくめておどけて見せた。
「考えるまでもないだろう。貴様など信用できない。」
レイスくんは100%敵対モードだなこれ……。少し頭を冷やした方がいい気がする。
……うう、空気が重たいよう。アリーナも取りつく島がなさそうだし。もうここは私が一肌脱ぐしかないか。
「ねぇニックくん。商人の命は?」
私の突然の質問に、驚いたようにニック君が答える。
「ん? さっきも言ったろう? 情報だ。」
「情報と信用、だよ。今のニックくんには信用が足りてないんだよ。」
「この保護者たちに、どうやって俺を信用させるんだ? どうせ何を言っても信じないだろう?」
心外そうにニック君が答えた。確かに、もうレイスくんもアリーナも、完全にニックくんを敵とみなしてるみたいだから、ここから信用を勝ち取るのは至難の業だろう。
「いきなり大口取引をしようとするからいけないんだよ。もっと他に、小さな情報とか持ってない? それに見合った対価なら、払えるかもしれないよ?」
「ルカさん!」
「ルカ!」
私の譲歩に、二人から叱責が飛んできた。「お前は何を言っているんだ」という空気がありありと見える。でもニックくん、信用できると思うんだ。だから二人が彼を信用できれば、ローブの男の情報が得られるんじゃないかな。
「ふーん……なるほどな。じゃあ別の商品を用意してみるよ。だが対価はルカ、おまえだ。そこは譲れない。」
「わかった。じゃあこっちもさっきの取引を含めて、家で相談してくる。それでいい?」
私のニックくんへの返答に食い気味に
「ルカ!!」
と、アリーナの叱責が飛んできたけど、だってこのままじゃ、らちが明かないじゃん。情報は欲しいもの。
「オッケー、それで行こう。新しい商品、楽しみにしててくれ。じゃあな。」
ニックくんは、襟をつかんでいたレイスくんの手を叩き落として踵を返し、そのまま食堂を後にした。
「ねぇレイスくん、アリーナも落ち着こう? 帰ってから赤竜おじさまと一緒に考えてみようよ。よくわからないけど、私にできることはやってみるしさ。」
二人の視線が痛い……けど「ここ、まだ学園だから、ね?」となんとかとりなして帰路に就いたのだった。
その後、私には「公爵子息と子爵子息を手玉に取る悪女」とかいう噂が追加されたのを知るのは、また別の話である。
叫びながらレイスくんが立ち上がり、ニックくんの胸ぐらを掴んでいた。その形相は怒りを通り越して憎しみすら感じた。
私は言葉の意味が解らなかった。ローブの男のことはわかったけど、「私を貸せ」とか「落とす」とか、どういう意味なんだろう?
言葉の意味を解説してもらおうとアリーナを見ると……そこには羅刹の如き空気をまとったアリーナが居た。怒りで髪の毛が波打ってるかのような錯覚を覚えた。
……ガチギレしてるアリーナ、初めて見たかもしれない。
「俺の協力がなければ“奴”に辿り着くことは難しい。俺を尋問してもいいが、不穏な空気を感じ取れば“奴”は姿をくらますだろう。どうだ? 悪い話じゃないと思うんだが?」
ニックくんの胸ぐらをつかんだレイスくんの両手は怒りで震えていた。アリーナの目には殺意が浮かんでる……いけない、空気が悪すぎるな。
この状況でも不敵に笑ってられるニックくんは大物かもしれない。
それだけ、今自分が提示した情報の価値を理解しているのかもしれない。私たちが喉から手が出るほど欲しがっているものなのだから。
「ね、ねぇ“アルルカ様”、ニックくんが言ってるのはどういう意味なのですか?」
おそるおそるアリーナに聞いてみたのだが。
「あなたがそれを知る必要も、理解する必要もありません。」
と、一刀両断されてしまった。うひぃ、空気が! 空気が重い!
「れ、レイスくん……?」
そっとレイスくんの方を伺うが、返答はなかった。アリーナと同じ意見なのかもしれない。
「あの、その、喧嘩は……やめよう? もっとこう、落としどころがあるはず、だよね?」
私としてもローブの男につながる手がかりは欲しい。けど、二人がここまで激高するってことは、私にとってあんまり良いことじゃない条件を提示されたのだろう。私としてもそんな条件をのめるとは思えない。
「このような下衆の言うこと、信用なりません。」
「下衆とは失礼だな。俺はルカに本気なんだが。それに情報は確かだ。それは保証する。」
絞り出すようなレイスくんの言葉に、飄々としたニックくんが答える。
しばしの硬直の後――
「わかった、時間をやるよ。俺の持ってる情報の価値、よく考えてみるんだな。」
ニックくんが肩をすくめておどけて見せた。
「考えるまでもないだろう。貴様など信用できない。」
レイスくんは100%敵対モードだなこれ……。少し頭を冷やした方がいい気がする。
……うう、空気が重たいよう。アリーナも取りつく島がなさそうだし。もうここは私が一肌脱ぐしかないか。
「ねぇニックくん。商人の命は?」
私の突然の質問に、驚いたようにニック君が答える。
「ん? さっきも言ったろう? 情報だ。」
「情報と信用、だよ。今のニックくんには信用が足りてないんだよ。」
「この保護者たちに、どうやって俺を信用させるんだ? どうせ何を言っても信じないだろう?」
心外そうにニック君が答えた。確かに、もうレイスくんもアリーナも、完全にニックくんを敵とみなしてるみたいだから、ここから信用を勝ち取るのは至難の業だろう。
「いきなり大口取引をしようとするからいけないんだよ。もっと他に、小さな情報とか持ってない? それに見合った対価なら、払えるかもしれないよ?」
「ルカさん!」
「ルカ!」
私の譲歩に、二人から叱責が飛んできた。「お前は何を言っているんだ」という空気がありありと見える。でもニックくん、信用できると思うんだ。だから二人が彼を信用できれば、ローブの男の情報が得られるんじゃないかな。
「ふーん……なるほどな。じゃあ別の商品を用意してみるよ。だが対価はルカ、おまえだ。そこは譲れない。」
「わかった。じゃあこっちもさっきの取引を含めて、家で相談してくる。それでいい?」
私のニックくんへの返答に食い気味に
「ルカ!!」
と、アリーナの叱責が飛んできたけど、だってこのままじゃ、らちが明かないじゃん。情報は欲しいもの。
「オッケー、それで行こう。新しい商品、楽しみにしててくれ。じゃあな。」
ニックくんは、襟をつかんでいたレイスくんの手を叩き落として踵を返し、そのまま食堂を後にした。
「ねぇレイスくん、アリーナも落ち着こう? 帰ってから赤竜おじさまと一緒に考えてみようよ。よくわからないけど、私にできることはやってみるしさ。」
二人の視線が痛い……けど「ここ、まだ学園だから、ね?」となんとかとりなして帰路に就いたのだった。
その後、私には「公爵子息と子爵子息を手玉に取る悪女」とかいう噂が追加されたのを知るのは、また別の話である。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる