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第1章:エスケープ
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翌日、花連と映画を見ていると、香澄のスマホが音声着信音を鳴り響かせた。
あわてて香澄がスマホを手に持ち、通話に応じる。
「はい、水無瀬ですが」
『あ、氷雨よー。
トラックを確保できたんだけど、明日は大丈夫ー?
これを逃すと、一週間後くらいになっちゃうのー』
「えっと……はい、大丈夫です。
時間は何時ごろですか?」
『また八時くらいに伺うわー。
それじゃあねー』
通話を終えた香澄に、花連が告げる。
「よかったね、引っ越し日が決まって!」
香澄がうなずいて応える。
「そうなんだけど……まだ実感が湧かないわね。
引っ越し先はどこになるのかしら」
「んー、パンフレットに載ってなかった?
喫茶店の上の階に、マンションのフロアがあるんだよ。
だからここからだと、割と近くだね」
香澄がきょとんとした顔で花連を見つめた。
「あれ? 『マヨヒガ』って、他にも住民がいるって言ってなかった?」
――その人たちは、どこに住んでいるんだろう?
「いるよー? 転居してきたんだよ。
前のビル、結構古くなってたからさー。
オーナーが『せっかくだから、最新式にしよう』とか言って」
香澄が眉をひそめて尋ねる。
「オーナーって、『あやかし』なのよね?
どうやってお金を稼いでるのかしら」
「オーナーは『河童』混じりだよー。
企業経営してる人なんだよ。
お金稼ぎは得意みたい」
河童――言われてみれば、頭頂部に髪の毛がなかった。
そんなことを香澄が思っていると、花連がクスリと笑みをこぼす。
「オーナーの頭は、単に年をとって髪の毛が抜けただけだよ?
『あやかし』混じりは、外見じゃ『それ』とわからないよ。
氷雨だって『雪女』には見えないでしょ?」
香澄がおずおずと花連に尋ねる。
「その『あやかし』混じりって、戸籍はどうしてるの?
花連ちゃんには戸籍なんてないんでしょう?」
「オーナーの家はねー、昔から孤児院を経営してるんだ。
『あやかし』混じりとして生まれた子は、各地の孤児院に登録されるんだよ。
表向きは孤児として、実際には家庭の中で暮らしていくってわけ」
――なるほど、人間社会と共存してるのか。
「オーナーがどんな仕事をしてるか、知ってる?」
「いろいろやってるらしいよー?
氷雨が勤めてる引っ越し業者もオーナーの会社だし。
他にもいろいろあるみたい。
詳しくはオーナーに聞いてみたら?」
香澄は小さくうなずいた。
草薙が言っていた『就職先の斡旋』とはつまり、手持ちの企業を紹介するということだろう。
あるいは取引先に口利きをしてくれるのかもしれない。
どちらにしても、大卒半年で離職した人間の受け皿にはなってくれそうだった。
安心した香澄は、再び花連とベッドに横たわり映画を見始めた。
****
午前八時、香澄の家のインターホンが鳴った。
早起きして準備していた香澄が、整った服で玄関を開ける。
氷雨が業者の制服を着てにこやかに立っていた。
「どうもー、タヂカラオ引越センターでーす。
まずは荷造りをしちゃうわねー」
氷雨が数人の女性スタッフと一緒に上がりこみ、手慣れた作業で段ボールに荷物を詰めていく。
香澄は花連と一緒に、荷物が梱包されて行くのを見守った。
家具以外が梱包されると氷雨がスマホを取り出した。
「田口さーん、入ってきてー」
すぐにインターホンが鳴り、氷雨が玄関に向かう。
今度は男性の作業員が数名入ってきて、家具に緩衝材を取り付けていった。
氷雨が香澄に告げる。
「家電は置いて行っちゃうけど、大丈夫かしらー?」
「えっと……それじゃあ生活できないんだけど」
氷雨が明るい笑顔で応える。
「大丈夫ー、家電一式はそろってる家だからー。
ほらー、洗濯機とかサイズの問題があるでしょー?
持ち込もうとすると大変なのー」
一人暮らしを始めた時、親から買ってもらった家電が大半だ。
新品と言えるものではないので、そこまで愛着がある訳ではない。
だが財産を置いて行くという決断に、香澄が戸惑っていた。
氷雨が香澄の肩に手を置いて告げる。
「大丈夫よー。
下取りに出して、現金に換えておくからー。
当面の生活費に充てておいたらー?」
「……そういうことなら、まぁ」
氷雨が女性スタッフと共に引き上げていき、男性スタッフが荷物の搬出を開始した。
花連が香澄の手を取って告げる。
「私たちは先に、新居に移動しようよ。
オーナーが喫茶店で待ってるはずだよ」
「うん……」
香澄は花連に手を引かれ、階段を使って一階に降りていった。
****
香澄は花連に手を引かれ、『喫茶わだつみ』のドアをくぐる。
ドアベルの軽快な音と共に、またコーヒーの優しい香りが鼻をくすぐった。
カウンターの中で晴臣が微笑んで告げる。
「いらっしゃい、水無瀬さん。
何か飲む?」
「あ……じゃあブレンドを」
「うん、喜んで。
ちょっと待っててね」
四人席に座る草薙が、花連を手招きした。
「あんたは引っ越しが終わるまで、ここで待っていなさい。
ついでに少し、話を聞かせてくれないか」
香澄はうなずいて、草薙の向かいの席に腰を下ろした。
その隣に花連が座る。
草薙がコーヒーを一口飲んでから告げる。
「あんたは会社に最後まで居残りをしていた。
それは間違いないね?」
辛い日々を思い出し、暗い表情で香澄が応える。
「……はい。
ほぼ毎日、私が最後に出てました」
「会社の施錠はどうしてたんだね?」
「いつもは巡回の警備員さんに事情を話してました。
出入りはセキュリティカードでしたし」
草薙がニヤリと微笑んだ。
「なるほど、超過勤務の証拠はバッチリという訳だね。
それならあんたは、期待しておくといいよ」
香澄がきょとんとした顔で尋ねる。
「どういうことでしょうか」
「なに、こちらの話だよ。
あんたの離職手続きが簡単になるってことだ。
今は労基の監視が厳しいからね」
「はぁ……」
草薙がスマホを操作しながら尋ねる。
「あんたの銀行口座、教えてもらえるかい?
これから何かと使うことになる。
給与振り込みも、そこでいいかな?」
香澄がスマホを取り出し、銀行アプリを立ち上げた。
「それなら……これです」
スマホを差し出し、口座画面を見せる。
草薙は香澄のスマホを見ながら、自分のスマホを操作していった。
「……ありがとう。
ついでに家電の下取り代金も振り込んでおいた。
そのうち反映されるから、確認しておきなさい」
「はぁ……」
香澄がスマホを手に取ると、晴臣がコーヒーとショートケーキを香澄の前に置いた。
「どうぞ召し上がれ」
「あ、どうも……」
香澄はコーヒーを飲みながら、口座画面の更新ボタンを定期的にタップしていく。
何度か繰り返すと、香澄の口座に企業名義で振り込みが反映された。
「……えっ?! こんなにもらっていいんですか?!」
草薙が楽しそうに告げる。
「うちの系列のリサイクルショップだ。
氷雨が査定した上での額だから、気にしなくていいよ」
「でもこれ、ものすごい高くないですか?!」
草薙が声を上げて笑った。
「あんた、しばらくは物入りになるだろう?
儂からの餞別だよ。
大事に使うといい」
香澄はスマホを胸に抱きしめ、草薙に頭を下げた。
****
香澄がコーヒーを飲んでいると、ドアベルを鳴らして氷雨が店内に入ってきた。
「えっと――ああ、いたいたー。
荷ほどきまでやっておいたわよー。
もうバッチリ、すぐに住めるわー」
草薙がうなずくと、氷雨は会釈を返して店を出ていった。
「水無瀬さん、スマートロックのアプリは設定を終えたかな?」
「あ――はい。さっき教えられたとおりに」
草薙が立ち上がって告げる。
「それじゃあ新居に入るとしようか。
ついでにいくつか、案内をしていこう」
香澄がうなずき、花連と一緒に立ち上がった。
草薙の後を追って、香澄は喫茶店の外へ出た。
エントランス脇のゴミ集積場。
エントランスに入ってからの郵便箱や宅配ボックス。
オートロックの仕組みなど、草薙は丁寧に説明していった。
香澄がスマートロックで解錠し、エレベーターホールに入る。
三人でビルの高層に移動し、部屋の前まで草薙が案内した。
「ほれ、あんたの部屋だ。
自分でドアを開けてみなさい」
香澄がうなずき、おそるおそるスマホをロック装置に近づける。
カチャリと音がしてから、香澄がドアノブに手をかけた。
ゆっくりとドアが開かれると、新居特有の木の香りが香澄の鼻をくすぐった。
香澄は慎重に、タイル敷きの玄関に足を踏み入れた。
あわてて香澄がスマホを手に持ち、通話に応じる。
「はい、水無瀬ですが」
『あ、氷雨よー。
トラックを確保できたんだけど、明日は大丈夫ー?
これを逃すと、一週間後くらいになっちゃうのー』
「えっと……はい、大丈夫です。
時間は何時ごろですか?」
『また八時くらいに伺うわー。
それじゃあねー』
通話を終えた香澄に、花連が告げる。
「よかったね、引っ越し日が決まって!」
香澄がうなずいて応える。
「そうなんだけど……まだ実感が湧かないわね。
引っ越し先はどこになるのかしら」
「んー、パンフレットに載ってなかった?
喫茶店の上の階に、マンションのフロアがあるんだよ。
だからここからだと、割と近くだね」
香澄がきょとんとした顔で花連を見つめた。
「あれ? 『マヨヒガ』って、他にも住民がいるって言ってなかった?」
――その人たちは、どこに住んでいるんだろう?
「いるよー? 転居してきたんだよ。
前のビル、結構古くなってたからさー。
オーナーが『せっかくだから、最新式にしよう』とか言って」
香澄が眉をひそめて尋ねる。
「オーナーって、『あやかし』なのよね?
どうやってお金を稼いでるのかしら」
「オーナーは『河童』混じりだよー。
企業経営してる人なんだよ。
お金稼ぎは得意みたい」
河童――言われてみれば、頭頂部に髪の毛がなかった。
そんなことを香澄が思っていると、花連がクスリと笑みをこぼす。
「オーナーの頭は、単に年をとって髪の毛が抜けただけだよ?
『あやかし』混じりは、外見じゃ『それ』とわからないよ。
氷雨だって『雪女』には見えないでしょ?」
香澄がおずおずと花連に尋ねる。
「その『あやかし』混じりって、戸籍はどうしてるの?
花連ちゃんには戸籍なんてないんでしょう?」
「オーナーの家はねー、昔から孤児院を経営してるんだ。
『あやかし』混じりとして生まれた子は、各地の孤児院に登録されるんだよ。
表向きは孤児として、実際には家庭の中で暮らしていくってわけ」
――なるほど、人間社会と共存してるのか。
「オーナーがどんな仕事をしてるか、知ってる?」
「いろいろやってるらしいよー?
氷雨が勤めてる引っ越し業者もオーナーの会社だし。
他にもいろいろあるみたい。
詳しくはオーナーに聞いてみたら?」
香澄は小さくうなずいた。
草薙が言っていた『就職先の斡旋』とはつまり、手持ちの企業を紹介するということだろう。
あるいは取引先に口利きをしてくれるのかもしれない。
どちらにしても、大卒半年で離職した人間の受け皿にはなってくれそうだった。
安心した香澄は、再び花連とベッドに横たわり映画を見始めた。
****
午前八時、香澄の家のインターホンが鳴った。
早起きして準備していた香澄が、整った服で玄関を開ける。
氷雨が業者の制服を着てにこやかに立っていた。
「どうもー、タヂカラオ引越センターでーす。
まずは荷造りをしちゃうわねー」
氷雨が数人の女性スタッフと一緒に上がりこみ、手慣れた作業で段ボールに荷物を詰めていく。
香澄は花連と一緒に、荷物が梱包されて行くのを見守った。
家具以外が梱包されると氷雨がスマホを取り出した。
「田口さーん、入ってきてー」
すぐにインターホンが鳴り、氷雨が玄関に向かう。
今度は男性の作業員が数名入ってきて、家具に緩衝材を取り付けていった。
氷雨が香澄に告げる。
「家電は置いて行っちゃうけど、大丈夫かしらー?」
「えっと……それじゃあ生活できないんだけど」
氷雨が明るい笑顔で応える。
「大丈夫ー、家電一式はそろってる家だからー。
ほらー、洗濯機とかサイズの問題があるでしょー?
持ち込もうとすると大変なのー」
一人暮らしを始めた時、親から買ってもらった家電が大半だ。
新品と言えるものではないので、そこまで愛着がある訳ではない。
だが財産を置いて行くという決断に、香澄が戸惑っていた。
氷雨が香澄の肩に手を置いて告げる。
「大丈夫よー。
下取りに出して、現金に換えておくからー。
当面の生活費に充てておいたらー?」
「……そういうことなら、まぁ」
氷雨が女性スタッフと共に引き上げていき、男性スタッフが荷物の搬出を開始した。
花連が香澄の手を取って告げる。
「私たちは先に、新居に移動しようよ。
オーナーが喫茶店で待ってるはずだよ」
「うん……」
香澄は花連に手を引かれ、階段を使って一階に降りていった。
****
香澄は花連に手を引かれ、『喫茶わだつみ』のドアをくぐる。
ドアベルの軽快な音と共に、またコーヒーの優しい香りが鼻をくすぐった。
カウンターの中で晴臣が微笑んで告げる。
「いらっしゃい、水無瀬さん。
何か飲む?」
「あ……じゃあブレンドを」
「うん、喜んで。
ちょっと待っててね」
四人席に座る草薙が、花連を手招きした。
「あんたは引っ越しが終わるまで、ここで待っていなさい。
ついでに少し、話を聞かせてくれないか」
香澄はうなずいて、草薙の向かいの席に腰を下ろした。
その隣に花連が座る。
草薙がコーヒーを一口飲んでから告げる。
「あんたは会社に最後まで居残りをしていた。
それは間違いないね?」
辛い日々を思い出し、暗い表情で香澄が応える。
「……はい。
ほぼ毎日、私が最後に出てました」
「会社の施錠はどうしてたんだね?」
「いつもは巡回の警備員さんに事情を話してました。
出入りはセキュリティカードでしたし」
草薙がニヤリと微笑んだ。
「なるほど、超過勤務の証拠はバッチリという訳だね。
それならあんたは、期待しておくといいよ」
香澄がきょとんとした顔で尋ねる。
「どういうことでしょうか」
「なに、こちらの話だよ。
あんたの離職手続きが簡単になるってことだ。
今は労基の監視が厳しいからね」
「はぁ……」
草薙がスマホを操作しながら尋ねる。
「あんたの銀行口座、教えてもらえるかい?
これから何かと使うことになる。
給与振り込みも、そこでいいかな?」
香澄がスマホを取り出し、銀行アプリを立ち上げた。
「それなら……これです」
スマホを差し出し、口座画面を見せる。
草薙は香澄のスマホを見ながら、自分のスマホを操作していった。
「……ありがとう。
ついでに家電の下取り代金も振り込んでおいた。
そのうち反映されるから、確認しておきなさい」
「はぁ……」
香澄がスマホを手に取ると、晴臣がコーヒーとショートケーキを香澄の前に置いた。
「どうぞ召し上がれ」
「あ、どうも……」
香澄はコーヒーを飲みながら、口座画面の更新ボタンを定期的にタップしていく。
何度か繰り返すと、香澄の口座に企業名義で振り込みが反映された。
「……えっ?! こんなにもらっていいんですか?!」
草薙が楽しそうに告げる。
「うちの系列のリサイクルショップだ。
氷雨が査定した上での額だから、気にしなくていいよ」
「でもこれ、ものすごい高くないですか?!」
草薙が声を上げて笑った。
「あんた、しばらくは物入りになるだろう?
儂からの餞別だよ。
大事に使うといい」
香澄はスマホを胸に抱きしめ、草薙に頭を下げた。
****
香澄がコーヒーを飲んでいると、ドアベルを鳴らして氷雨が店内に入ってきた。
「えっと――ああ、いたいたー。
荷ほどきまでやっておいたわよー。
もうバッチリ、すぐに住めるわー」
草薙がうなずくと、氷雨は会釈を返して店を出ていった。
「水無瀬さん、スマートロックのアプリは設定を終えたかな?」
「あ――はい。さっき教えられたとおりに」
草薙が立ち上がって告げる。
「それじゃあ新居に入るとしようか。
ついでにいくつか、案内をしていこう」
香澄がうなずき、花連と一緒に立ち上がった。
草薙の後を追って、香澄は喫茶店の外へ出た。
エントランス脇のゴミ集積場。
エントランスに入ってからの郵便箱や宅配ボックス。
オートロックの仕組みなど、草薙は丁寧に説明していった。
香澄がスマートロックで解錠し、エレベーターホールに入る。
三人でビルの高層に移動し、部屋の前まで草薙が案内した。
「ほれ、あんたの部屋だ。
自分でドアを開けてみなさい」
香澄がうなずき、おそるおそるスマホをロック装置に近づける。
カチャリと音がしてから、香澄がドアノブに手をかけた。
ゆっくりとドアが開かれると、新居特有の木の香りが香澄の鼻をくすぐった。
香澄は慎重に、タイル敷きの玄関に足を踏み入れた。
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