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第1部 『神樹の里』 第1章 『神樹の里』の始まり

4.リンのいる生活

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「シント、なにを作っているの?」

「いざというときに備えた欠損回復用のポーションです。使う機会などない方がいいのですがね」

「あはは……シントといると伝説の霊薬や神薬でしかできないはずのことが普通にできることに聞こえちゃう」

 リンがこの神樹の里にやってきて2週間が経過しました。

 最初の方こそなかなかうち解けてくれませんでしたが、一週間経ってようやくうち解けて始め、いまでは仲のいい……友達のようになっているのだと思います。

 僕もリンも『友人』などいなかったのでよくわかりませんが。

「リンは今日の修行は終わりましたか? 今日は……」

「聖魔法の訓練、終わったよ。……まさか、伝説の時空魔法も含めてすべての属性を覚えているなんて想像もしなかったけど」

「メイヤの仕業です、諦めましょう。僕なんて〝神眼〟もあるんですよ? 大抵のことは見抜けますからね?」

「そうだよね。それに私を助けてくれた〝命魔法〟だって伝説だものね。メイヤ様ってやっぱりすごいなぁ」

「聖霊とはそういうものらしいです。ところでリン、毎日の食事が果物しかありませんが不服はありませんか?」

「毎日お腹いっぱい食べられるだけで十分! それに果物なのにいろいろな味がするし、体の調子もいいし、聖霊様のお恵みに文句を言うだなんて罰当たりな真似はできないよ」

「ならいいのですが……僕もエルフの食事事情はわからないものですから」

「……私もよくわからないな。ずっと最低限の食事しか食べさせてもらえなかったから」

「すみません、辛いことを思い出させてしまい」

「ううん。シントの村ではどうだったの?」

「僕もあまり食事事情はよくなかったです。村の厄介者でしたから」

「そっか。じゃあ、いまはメイヤ様の恵みに感謝だね!」

「はい。毎日たくさんの果物を食べさせられるのだけは何とかしてほしいですが」

「あれって生命力向上とか魔力向上とかいろいろあるそうだよ。いざというときの備えだって」

「なにに備えるんでしょうね?」

「さあ? いざとなったらシントのことは私が守るのに」

「守られてばかりというのも気が引けますが実戦経験のない僕では足手まといですよね。よろしくお願いいたします、リン」

「任せて!」

 リンも元気によく笑うようになってくれました。

 最初のような張り詰めた雰囲気は数日でなくなり、恐る恐るであった僕との接触も段々慣れていってくれましたから。

「そう言えば、この神域って畑を耕したりとかってしないの? 作物もよく育ちそうなんだけど……」

「可能かもしれませんがふたりで育てられますか? それに育てて収穫しても料理が……」

「……ごめんなさい」

「あと、種の問題もあります。そう考えるとないものだらけですよ。必要もないんですけどね」

「調理器具とかもないよね。必要ないけど」

「創造魔法で作りますか?」

「私、お料理なんてできないよ?」

「僕だってできません。無駄なものは作らないでおきましょう」

「そうだね。無駄なもの、じゃないんだけどこの服って素材はなんなんだろう? 下着も含めてすごく肌触りがいいんだけど……」

「さあ……? 僕も聞いたことがあるんですけど教えてくれなかったんですよ。靴もなにかの皮でできていますが軟らかくて履き心地がいいですし、なにより底が滑らない」

「……不思議だよね」

 メイヤのくれる衣服はとにかく不思議です。

 やたらと肌触りがよく、ポーションをこぼしたことがありましたが水はすべてはじきしみひとつつかない。

 それでいてちゃんと洗濯はできる謎の服です。

 乾くのもやたらと早いですし。

 デザインもこっていますが……誰が作っているのでしょうか?

『あら、今日もふたりで戻ってきたの? リンはそんなにシントのことが恋しい?』

「なっ!? メイヤ様、そんなことではありません!」

『違うの? あなたがここの生活に慣れてからは毎日ふたり一緒に戻ってきていることを自覚している? シントからあなたを呼びに行っていることはないのだから、あなたがシントのところに行っているのでしょう? 悪さをしないなら怒らないわよ?』

「悪さなんてしていません! お話をしているだけです!」

『そう。お昼の準備はできているわ。食べられる分だけ食べて、残ったら時空魔法で保管しお腹が空いたときに食べなさいな』

「ねえ、メイヤ。僕に時空魔法を覚えさせたのって便利な食材庫としてですか?」

『回復薬の保管庫も兼ねているわよ?』

「時空魔法って伝説級のスキルですよね? それがそこらの道具入れみたいに……」

『時間経過が止まるから痛むことはないし、中でぶつかり合うこともないから瓶も割れない。便利な保管場所じゃない。望めばいつでも手元に出てくるんだし』

「……まあ、いいでしょう。リン、昼食にしましょうか」

「……うん。さすがに時空魔法が保管庫っていう話には驚いたけど」

『あなたにとっても保管庫よ? シントから各種ポーションをいくつか分けてもらっておきなさい。特に魔力回復用のポーションは多めに。あと、魔力回復効果のある果実や魔力回復速度を高める果実もあとで渡すわね』

「……ありがとうございます、メイヤ様」

 メイヤってどうにも人の感覚とずれているんですよね。

 どんなスキルでも自分で生み出した果実で覚えさせることができるみたいですし、どんな効果の果実でも作れるみたいですが……。

 僕たちが人前に出る機会など一生ないかもしれませんが、他人には渡せないものばかりを作られています。

 僕のポーションは一般的な回復薬も作っているはずなんですけど……。

『それで、午後はどうするつもりなの?』

「私は魔法をもっとうまく使えるように練習です。いざというときにシントを守れるようにならないと」

『いい心がけね。シントは?』

「メイヤ。僕も普通の魔法って覚えられませんか?」

『覚えさせることはできるけど……どうするの?』

「いえ、いざというときは自分の身をある程度は守れないと」

『そう。それなら構わないわよ。魔法スキルを覚える果実を作ってあげるからそれを食べて。使い方はリンに聞きなさい』

「わかりました。リン、よろしくお願いします」

「うん! なんでも聞いて!」

『リン、ちなみにシントの方が魔力操作能力も魔法熟練度上昇力もあなたより上よ?』

「……メイヤ様、それってすぐに私が追い抜かされるって意味ですか?」

『頑張りなさい』

「……はい。先輩として愛想を尽かされないように頑張ります」

「あはは……すぐには追い抜けませんよ。多分……」

 メイヤの宣言があるというのが怖いですからね。

 ともかく、魔法スキルを覚えられるという木の実を食べて魔法訓練開始です。

 開始ですが……メイヤの言っていたことがよくわかりました。

「うわーん!? なんで1時間ちょっと教えただけなのにシントの方が威力調整も上手で最大威力も大きいの!? それに魔力枯渇の症状もまったく起こさないし!?」

「ええと……多分、メイヤが来る前に食べさせられていた果実の影響かと」

「そうだよね! 私を治療したのだって命魔法だもんね!? 魔法、上手だよね! でも、私も絶対に負けない! シント、新しい的を作って! 私そっちで練習する!!」

「わかりました。わかりましたから詰め寄らないで……」

 リンの要望通り新しい的を作ってあげると、彼女はそちらで魔法の練習を始めました。

 鬼気迫る激しい練習でしたが、大丈夫でしょうか?

 とりあえず、彼女も楽しそうですし問題はない……のかなぁ?
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