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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第九章 フルートリオンの新しい生活
90. 聖獣の烙印
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草花の妖精やユーツリスにご飯をあげたら私たちもご飯の時間。
いまはご飯作りをアストリートさんの侍女であるニケさんがまとめてやってくれている。
料理はあまり得意じゃないって言っていたけど、私よりも上手いからね。
メイドさんって器用だ。
「お待たせしました。今日の朝ご飯です」
「いえ、毎朝ありがとうございます」
「こちらこそ毎日新鮮な食材を手に入れてもらえて助かっています。テーブルまで持っていきますね」
「はい。お願いします」
ニケさんは出来上がった料理をテーブルまで運んでくれた。
テーブルには私の他に、アストリートさんとローレンさんが座ってる
ニケさんは配膳や片付けなどを担当するため、私たちとは別に食事をとっていた。
残りのひとり、ヘレネさんはというと、まだお母さんから受けた傷が癒えておらず、寝たきりのままだ。
お母さん、本気を出しすぎじゃないかな。
食事後にもその話題が出てくるほどだし。
「ローレン様、ニケ、ヘレネの傷はまだ治りませんか?」
「はい、アストリート様。傷をつけられたときのまま、傷口が再生しておりません」
「肉が焼けただれてひどいんです。でも、そこから血がにじむことは一切なくて、余計怖いような」
「そうですね。十数年前に他国であった聖獣との戦争。あの際にも同じような現象が起こっていたと聞きます。あの際は単なる裂傷だったそうですが、傷が癒えないのはまったく同じですね」
「そうですか。ノヴァ様はなにか治療方法をお持ちではないでしょうか?」
私?
私が治療する方法かぁ。
「ありません。あの傷には普通の傷薬は効きませんし、お母さんの烙印を消すにはお母さん以上の魔力で癒やしてあげる必要があります。私はお母さんよりもはるかに魔力が弱いですし、ヘレネさんのために治癒術を使ってあげる義理もありません」
「嫌われていますね、ヘレネは」
「仕方がないじゃないですか。周りすべてにケンカを売るような態度をして歩いているんですから。そのうち、一緒にいる私の評判まで悪くなりそうです」
「それは申し訳ないことをしております……」
「そう思うんでしたら、しっかり言い聞かせてください」
本当にヘレネさんはどうにかならないものかな。
公爵様にお手紙を書いたら人員を交代してくれるんだろうか?
なんだか無理な気もする。
しばらくはアストリートさんに任せよう。
「話がずれましたが、繰り返します。私じゃお母さんの烙印を消すことが出来ません。烙印の効果が消えるまで、怪我は治り始めません」
「ノヴァ様、聖獣様の烙印とは?」
ここでローレンさんが質問をしてきた。
私も聖獣の烙印についてはあんまり詳しくないんだよなぁ。
少し困るけど、わかる範囲で説明しよう。
「聖獣の烙印は、聖獣が自分の敵に対して刻み込む一種の呪いらしいです。相手の魂そのものに傷をつけ、肉体の再生を出来ないようにしているんだとか。肉体の再生自体が出来ないため、どんな傷薬でも治療不可能なんですよ。怪我を治せるようにするには、烙印を刻んだ聖獣以上の魔力で魂を回復させなければなりません」
「なるほど。それで、あの国はほかの国から侵攻を受けてもまともな抵抗を出来なかったのですね」
「聖獣の怒りを買った国の状況がわかりませんが、烙印を刻まれた人間しかいなければ戦いにならないと思います。烙印でできた傷は、常に傷を受けた直後と同じ痛みを与え続けるらしいので」
「それはまた、すさまじい……」
ローレンさんが顔を引きつらせるけど、本当にすごい効果だよね。
怪我をした直後の痛みがずっと続くんだもん、誰だって動けなくなるよ。
その聖獣の怒りを買った国って相当ひどかったんじゃないかな?
聖獣さんたちって基本的に人とは関係を持ちたがらず、接点を持っても温厚的かつ中立的だと聞くし。
一体なにをしでかしたんだろう。
「私が知っている聖獣の烙印の詳細はこれくらいです。治療の方法がないことだけはわかってもらえましたよね?」
「ええ、嫌というほどに」
「では、そういうことですので、ヘレネさんにはもうしばらく痛みを味わい続けてもらってください。お母さんが許せば傷が治り始めるはずですから」
「ちなみに傷が治るには、あとどれくらいかかるのでしょう?」
今度はアストリートさんに聞かれたけど、私も詳しく知らないんだよね。
知ってることはひとつだけだし、それは教えておこう。
「わかりません。お母さんがどのくらい深い刻印を刻んだのかにもよりますし、傷が治り始めても魂の修復に時間がかかるため、治る速度は非常に遅いです。これは薬などを使っても変わらないのでどうにもなりません。ただ、魂は修復を始めているので、鎮痛薬程度なら効くようになるかも」
「鎮痛薬ですか。では、ヘレネの傷が治り始めたらそちらの処方をお願いできますか?」
「まあ、アストリートさんの頼みならいいですけど……あまりヘレネさんの治療はしたくないなぁ」
アストリートさんの護衛としてヘレネさんが必要なのはわかる。
でも、私はどうにもあの人を好きになれないんだよね。
むしろ嫌いだからどうにもならない。
大人ってこういうときどうしているのかな?
今度アーテルさんに会ったら聞いてみてもいいかも。
こういう風に相談したいことがあるときに限ってこないんだけど。
いまはご飯作りをアストリートさんの侍女であるニケさんがまとめてやってくれている。
料理はあまり得意じゃないって言っていたけど、私よりも上手いからね。
メイドさんって器用だ。
「お待たせしました。今日の朝ご飯です」
「いえ、毎朝ありがとうございます」
「こちらこそ毎日新鮮な食材を手に入れてもらえて助かっています。テーブルまで持っていきますね」
「はい。お願いします」
ニケさんは出来上がった料理をテーブルまで運んでくれた。
テーブルには私の他に、アストリートさんとローレンさんが座ってる
ニケさんは配膳や片付けなどを担当するため、私たちとは別に食事をとっていた。
残りのひとり、ヘレネさんはというと、まだお母さんから受けた傷が癒えておらず、寝たきりのままだ。
お母さん、本気を出しすぎじゃないかな。
食事後にもその話題が出てくるほどだし。
「ローレン様、ニケ、ヘレネの傷はまだ治りませんか?」
「はい、アストリート様。傷をつけられたときのまま、傷口が再生しておりません」
「肉が焼けただれてひどいんです。でも、そこから血がにじむことは一切なくて、余計怖いような」
「そうですね。十数年前に他国であった聖獣との戦争。あの際にも同じような現象が起こっていたと聞きます。あの際は単なる裂傷だったそうですが、傷が癒えないのはまったく同じですね」
「そうですか。ノヴァ様はなにか治療方法をお持ちではないでしょうか?」
私?
私が治療する方法かぁ。
「ありません。あの傷には普通の傷薬は効きませんし、お母さんの烙印を消すにはお母さん以上の魔力で癒やしてあげる必要があります。私はお母さんよりもはるかに魔力が弱いですし、ヘレネさんのために治癒術を使ってあげる義理もありません」
「嫌われていますね、ヘレネは」
「仕方がないじゃないですか。周りすべてにケンカを売るような態度をして歩いているんですから。そのうち、一緒にいる私の評判まで悪くなりそうです」
「それは申し訳ないことをしております……」
「そう思うんでしたら、しっかり言い聞かせてください」
本当にヘレネさんはどうにかならないものかな。
公爵様にお手紙を書いたら人員を交代してくれるんだろうか?
なんだか無理な気もする。
しばらくはアストリートさんに任せよう。
「話がずれましたが、繰り返します。私じゃお母さんの烙印を消すことが出来ません。烙印の効果が消えるまで、怪我は治り始めません」
「ノヴァ様、聖獣様の烙印とは?」
ここでローレンさんが質問をしてきた。
私も聖獣の烙印についてはあんまり詳しくないんだよなぁ。
少し困るけど、わかる範囲で説明しよう。
「聖獣の烙印は、聖獣が自分の敵に対して刻み込む一種の呪いらしいです。相手の魂そのものに傷をつけ、肉体の再生を出来ないようにしているんだとか。肉体の再生自体が出来ないため、どんな傷薬でも治療不可能なんですよ。怪我を治せるようにするには、烙印を刻んだ聖獣以上の魔力で魂を回復させなければなりません」
「なるほど。それで、あの国はほかの国から侵攻を受けてもまともな抵抗を出来なかったのですね」
「聖獣の怒りを買った国の状況がわかりませんが、烙印を刻まれた人間しかいなければ戦いにならないと思います。烙印でできた傷は、常に傷を受けた直後と同じ痛みを与え続けるらしいので」
「それはまた、すさまじい……」
ローレンさんが顔を引きつらせるけど、本当にすごい効果だよね。
怪我をした直後の痛みがずっと続くんだもん、誰だって動けなくなるよ。
その聖獣の怒りを買った国って相当ひどかったんじゃないかな?
聖獣さんたちって基本的に人とは関係を持ちたがらず、接点を持っても温厚的かつ中立的だと聞くし。
一体なにをしでかしたんだろう。
「私が知っている聖獣の烙印の詳細はこれくらいです。治療の方法がないことだけはわかってもらえましたよね?」
「ええ、嫌というほどに」
「では、そういうことですので、ヘレネさんにはもうしばらく痛みを味わい続けてもらってください。お母さんが許せば傷が治り始めるはずですから」
「ちなみに傷が治るには、あとどれくらいかかるのでしょう?」
今度はアストリートさんに聞かれたけど、私も詳しく知らないんだよね。
知ってることはひとつだけだし、それは教えておこう。
「わかりません。お母さんがどのくらい深い刻印を刻んだのかにもよりますし、傷が治り始めても魂の修復に時間がかかるため、治る速度は非常に遅いです。これは薬などを使っても変わらないのでどうにもなりません。ただ、魂は修復を始めているので、鎮痛薬程度なら効くようになるかも」
「鎮痛薬ですか。では、ヘレネの傷が治り始めたらそちらの処方をお願いできますか?」
「まあ、アストリートさんの頼みならいいですけど……あまりヘレネさんの治療はしたくないなぁ」
アストリートさんの護衛としてヘレネさんが必要なのはわかる。
でも、私はどうにもあの人を好きになれないんだよね。
むしろ嫌いだからどうにもならない。
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今度アーテルさんに会ったら聞いてみてもいいかも。
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