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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第七章 フルートリオンへの帰り道

82. フルートリオンへの道程 三週目

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 フルートリオンの街へ向かう旅も三週間目の半ばに入った。
 本来ならそろそろ到着予定だったんだけど、雨の影響で別の道を選んだ結果、あと一週間くらいかかることになったんだよね。
 旅慣れてきたし、私は一向に構わないんだけどさ。
 きついのはアストリートさんとニケさんかな。
 ふたりともお屋敷暮らしが長かったせいで、旅暮らしには慣れていないみたい。
 ローレンさんはときどき新種の薬草がないか採取に出かけていたというし、ヘレネさんは騎士だからお仕事で出かけていたことも多いみたいで旅慣れているらしいよ。
 冒険者の四人は上級者ふたりがへっちゃらそう、初心者ふたりが少し疲れ気味かな。

 さて、旅そのものは順調だったんだけど、途中の宿場町で嫌な噂を聞いた。
 この先の街道で賊が出るらしいんだよね。
 大きな商隊は襲わず、小規模な商人や旅人しか襲わないみたいだけど、人数はそれなりにいて被害も結構出ているみたい。
 今日は野営をしないといけないしどうしたものか。

「さて、今日はこのあたりで野営だな」

 アーテルさんは森の中に設けられた広場を野営地に選んだ。
 これは仕方がないかな。

「ですね。日も暮れてきましたし、馬もこれ以上進むのは無理そうです」

「本当は賊がいるっていう周辺を抜けたかったんだが……」

「仕方がないですよ。目撃範囲が広すぎます」

「そうだな。とりあえず、火をおこす薪は買ってきたものを使うとしよう。バラバラに森にはいるのは危険だろう」

「はい。火起こしをしてしまいますね」

 私は着火の魔法で薪に火をつけ、たき火を用意した。
 そこで簡単なスープを作り、今晩の夕食は準備完了だ。
 問題は食べる順番なんだけど。

「さて、メシを食べている間も狙われかねないからな。順番を決めてしまおう」

「そうですね。アーテル殿とヘレネさん、ベレニスとマリオンは先に食べていてください。私とカルメンでその間の守りを務めます」

「そうだな、そうさせてもらうか。軽く食べたらすぐに交代するから待っていてくれ」

「はい。そうします」

 冒険者さんたちの間でも順番は決まったみたい。
 私はその間に配膳を済ませ、食事の準備を整えた。
 いつも通りのお野菜と野草のスープだけど、評判はいいんだよね。
 スープに植物を煮出して乾燥させたスープの素を入れているからかな?
 味が濃くなって旅のお供にはちょうどいいらしい。
 冒険者さんやフルートリオンを訪れた商人さんたちも買っていく人気商品だ。
 これもしばらく買えなかったけど、大丈夫だったのかな?
 立て看板には、『公爵様の呼び出しで留守にします』、と書いてあるから問題ないと思いたいのだけど。
 あとから食べたふたりも無事に食べ終えてあとは寝るだけなんだけど、ちょっと辺りの様子がおかしい。
 アーテルさんに相談してみよう。

「アーテルさん。周囲の気配、変じゃないですか?」

「ん? お前でもわかるのか? じゃあ、魔物じゃなくて賊がやってきたな」

「賊、人ですか。どうしましょう?」

「襲ってくるなら倒すだけ。と考えていたが、馬がやられると面倒だよな。どうするか」

 私は薄い魔力を放っているおかげで相手の居場所まで全部お見通しなんだけど、アーテルさんはそういうわけでもないみたい。
 これは私が捕まえるべきかな?

「アーテルさん。私が賊を全員捕まえましょうか?」

「出来るのか?」

「出来ます。ちょっと特殊な魔法を使いますが、全員生け捕りに出来ますよ」

「それなら頼む。ほかにも賊がいないか尋問しなくちゃいけないからな」

「わかりました。ソーンバインド!」

 私は魔導銃に魔法を込めて空に向け一発撃つ。
 するとその魔法は空ではじけ飛び、周囲へ舞い散っていった。

「な、なんだ!?」

「茨が生えてきただと!」

「なんだこいつら!? 絡みついてくる!」

「離せ! 離せ、この!?」

 森の中からは喧噪が聞こえてくるけど気にしない。
 捕獲は上手くいったみたいだからね。

「……すごいな、いまのが魔法か?」

「はい。ソーンバインドという魔法です。地面から茨を伸ばして相手を絡め取ります。茨にはもちろんトゲがありますし、振りほどこうと暴れると更に締め付けられるので結構痛い魔法ですね」

「……街で使うんじゃねえぞ?」

「状況によります」

 結構派手な魔法だからあまり使いたくないけれど、相手を拘束するには持って来いなんだよね。
 実際、魔法で茨を光らせて賊を回収したときも、茨の締め付けで思いっきり血がにじんでいたし。
 アーテルさんは、その中のひとりと私を連れて賊のアジトを強襲に行くことにしたみたい。
 強襲とはいっても、他に捕まっている人質とかはいないらしいから、全員まとめてソーンバインドで絡め取って終わったんだけどさ。
 そのまま賊の一味は近くの街まで行って引き渡したんだけど、その時、賊たちが早く牢に入れてくれとせがんでいたのが印象的だった。
 そんなにソーンバインドって痛かったのかな?
 確かに傷みで眠れなかったみたいだけど……。
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