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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第六章 アストリートの歩む道
78. アストリートの向かう先
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アストリート様の火傷痕がなくなったことを祝う宴から一夜明けた。
お母さんは公爵様からたくさんのお野菜や果物をもらって帰っていった。
野菜や果物を受け取ったあと『近いうちにまた顔を見せるわ』と言い残して去っていったけど、なにかあるのかな?
とにかく、お母さんもいなくなって公爵様のお屋敷には普段通りの一日が戻ってきた感じだ。
私とモーリーさん、それからローレンさんは違ったけど。
「よく来てくれた、モーリー、ローレン。それにノヴァ」
「いえ、公爵様のお呼びとあれば」
そう、私たちは公爵様に呼び出されて公爵様の執務室にやって来たんだ。
詳しい内容はついてから話すということで聞いていない。
一体どういう話なんだろう。
「お前たちに集まってもらったのはほかでもない。我が娘、アストリートが医師になりたいと言い出したことについてだ」
ああ、昨日の話の続きなんだ。
でも、どうして私まで集められたんだろうか?
「アストリート様が医師にですか? 昨日の宴の際、そのようなことをいいだしたと噂には聞きましたが、本当だったとは」
「昨日の今日で噂になっているとは、我が屋敷も噂好きが多いらしい。ともかく、その話は本当だ。私が考え直すように説得したが聞く耳を持たず、一歩も退かない構えだった。こうなってはあれを医師にするしかないだろう」
「なるほど。私たちが呼び集められたのは、アストリート様の指導体制についてですか」
「申し訳ないがそうなる。モーリーよ、誰かをアストリートの指導役につけてもらいたい。指導役は女性だ」
「それでしたらローレンをつけましょう。いいな、ローレン」
「はい、構いません。ですが、そうなると、私の担当している薬草のスケッチが遅れるのでは?」
「ああ、それも困るな。誰かほかの高弟をつけるべきか」
モーリーさんは誰をアストリート様の指導役にするか考え込んで固まってしまった。
ローレンさんには薬草の絵を描くお仕事もあるから、あまり自由な時間がないものね。
どうするんだろう?
「ふむ。ローレンをつけるか。それならば最初の間は問題ないかもしれないな」
「公爵様?」
「いや、実はな、アストリートを医師の修行中、ノヴァの家で預かってもらおうと考えていたのだ」
「私の家ですか!?」
「そうだ。アストリートは正式にお披露目をしていない我が家の娘になる。そのため、私が発言しなければ、公爵家の子供であることはばれない。また、ノヴァの家でなら常に新しい薬草の知識を覚える事ができるだろう。ノヴァよ、お前の家に部屋は開いているか?」
部屋か……。
私の雑貨屋で開いている部屋は、いま私が使っている家主の部屋と昔私が使っていた部屋、それからもう一室の三部屋だ。
これなら大丈夫かも。
「はい。部屋は空いています。でも、本当にアストリート様を私のところで預かってもいいのでしょうか? 身辺警護などはどうしましょう?」
「身辺警護は女性騎士をひとりつける。冒険者風にして紛れ込ませるので問題なかろう。アストリートも貴族の娘ではなく、医師志望で珍しい薬草があると聞いてやってきた大商人の娘とする」
あそっか、公爵様の娘とは名乗れないんだっけ。
いろいろと大変だなぁ。
「最初はローレンが指導を担当してもらいたい。そのため、アストリートがフルートリオンに向かう際に同行し、ノヴァの家にある薬草のスケッチと並行して指導を行ってほしい」
「かしこまりました。それで、医師としての修行を終えたあと、アストリート様はどうされるのでしょうか? 公爵家のお抱え医師ですか?」
「いいや、違う。アストリートには公爵家から離れてもらい、ユーシュリア医師ギルドのギルド長に就任してもらう」
ギルド長に!?
ずいぶん大胆な舵の切り方だなぁ。
「ユーシュリア医師ギルドではギルド長が最も優れた医師である必要はない。問われるのは十分な人員配置ができる頭脳と計算能力、先見性だ」
「それは確かにそうですね」
「いまアストリートには簡単な試験をさせているが、その結果次第では医師ギルド開始時点からギルド長に収まってもらう。そのためにも、医師としての知識と経験は早めに積ませねばならない。ノヴァよ、フルートリオンの街では病人や怪我人はどの程度出る?」
病人や怪我人か。
困った質問だなぁ。
「薬の売れ行きからすると、怪我人は冒険者さんたちが毎日たくさん怪我をしています。病人はさほど出ていないように思います。病気の薬はあまり売れませんから。せいぜい痛み止めと冬の風邪薬がよく売れる程度ですね」
「ふむ。そうなるとフルートリオン周辺の無医村に対する回診も考えねばならないか。とにかく、場数を踏ませねばな」
公爵様の中ではアストリート様をどうやって鍛えるかのシミュレーションが始まったみたい。
私もローレンさんに家の間取りを教えてどの部屋に誰を住まわせるのか聞いておくし、モーリーさんも指導用の医学書を再点検するって言ってた。
アストリート様の出発準備もあるから、私がフルートリオンに帰るのは二週間後と決まったしそれまでに私も準備を済ませないとね。
主にモーリーさんやローレンさんのお手伝いだけど。
お母さんは公爵様からたくさんのお野菜や果物をもらって帰っていった。
野菜や果物を受け取ったあと『近いうちにまた顔を見せるわ』と言い残して去っていったけど、なにかあるのかな?
とにかく、お母さんもいなくなって公爵様のお屋敷には普段通りの一日が戻ってきた感じだ。
私とモーリーさん、それからローレンさんは違ったけど。
「よく来てくれた、モーリー、ローレン。それにノヴァ」
「いえ、公爵様のお呼びとあれば」
そう、私たちは公爵様に呼び出されて公爵様の執務室にやって来たんだ。
詳しい内容はついてから話すということで聞いていない。
一体どういう話なんだろう。
「お前たちに集まってもらったのはほかでもない。我が娘、アストリートが医師になりたいと言い出したことについてだ」
ああ、昨日の話の続きなんだ。
でも、どうして私まで集められたんだろうか?
「アストリート様が医師にですか? 昨日の宴の際、そのようなことをいいだしたと噂には聞きましたが、本当だったとは」
「昨日の今日で噂になっているとは、我が屋敷も噂好きが多いらしい。ともかく、その話は本当だ。私が考え直すように説得したが聞く耳を持たず、一歩も退かない構えだった。こうなってはあれを医師にするしかないだろう」
「なるほど。私たちが呼び集められたのは、アストリート様の指導体制についてですか」
「申し訳ないがそうなる。モーリーよ、誰かをアストリートの指導役につけてもらいたい。指導役は女性だ」
「それでしたらローレンをつけましょう。いいな、ローレン」
「はい、構いません。ですが、そうなると、私の担当している薬草のスケッチが遅れるのでは?」
「ああ、それも困るな。誰かほかの高弟をつけるべきか」
モーリーさんは誰をアストリート様の指導役にするか考え込んで固まってしまった。
ローレンさんには薬草の絵を描くお仕事もあるから、あまり自由な時間がないものね。
どうするんだろう?
「ふむ。ローレンをつけるか。それならば最初の間は問題ないかもしれないな」
「公爵様?」
「いや、実はな、アストリートを医師の修行中、ノヴァの家で預かってもらおうと考えていたのだ」
「私の家ですか!?」
「そうだ。アストリートは正式にお披露目をしていない我が家の娘になる。そのため、私が発言しなければ、公爵家の子供であることはばれない。また、ノヴァの家でなら常に新しい薬草の知識を覚える事ができるだろう。ノヴァよ、お前の家に部屋は開いているか?」
部屋か……。
私の雑貨屋で開いている部屋は、いま私が使っている家主の部屋と昔私が使っていた部屋、それからもう一室の三部屋だ。
これなら大丈夫かも。
「はい。部屋は空いています。でも、本当にアストリート様を私のところで預かってもいいのでしょうか? 身辺警護などはどうしましょう?」
「身辺警護は女性騎士をひとりつける。冒険者風にして紛れ込ませるので問題なかろう。アストリートも貴族の娘ではなく、医師志望で珍しい薬草があると聞いてやってきた大商人の娘とする」
あそっか、公爵様の娘とは名乗れないんだっけ。
いろいろと大変だなぁ。
「最初はローレンが指導を担当してもらいたい。そのため、アストリートがフルートリオンに向かう際に同行し、ノヴァの家にある薬草のスケッチと並行して指導を行ってほしい」
「かしこまりました。それで、医師としての修行を終えたあと、アストリート様はどうされるのでしょうか? 公爵家のお抱え医師ですか?」
「いいや、違う。アストリートには公爵家から離れてもらい、ユーシュリア医師ギルドのギルド長に就任してもらう」
ギルド長に!?
ずいぶん大胆な舵の切り方だなぁ。
「ユーシュリア医師ギルドではギルド長が最も優れた医師である必要はない。問われるのは十分な人員配置ができる頭脳と計算能力、先見性だ」
「それは確かにそうですね」
「いまアストリートには簡単な試験をさせているが、その結果次第では医師ギルド開始時点からギルド長に収まってもらう。そのためにも、医師としての知識と経験は早めに積ませねばならない。ノヴァよ、フルートリオンの街では病人や怪我人はどの程度出る?」
病人や怪我人か。
困った質問だなぁ。
「薬の売れ行きからすると、怪我人は冒険者さんたちが毎日たくさん怪我をしています。病人はさほど出ていないように思います。病気の薬はあまり売れませんから。せいぜい痛み止めと冬の風邪薬がよく売れる程度ですね」
「ふむ。そうなるとフルートリオン周辺の無医村に対する回診も考えねばならないか。とにかく、場数を踏ませねばな」
公爵様の中ではアストリート様をどうやって鍛えるかのシミュレーションが始まったみたい。
私もローレンさんに家の間取りを教えてどの部屋に誰を住まわせるのか聞いておくし、モーリーさんも指導用の医学書を再点検するって言ってた。
アストリート様の出発準備もあるから、私がフルートリオンに帰るのは二週間後と決まったしそれまでに私も準備を済ませないとね。
主にモーリーさんやローレンさんのお手伝いだけど。
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