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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第四章 医師ギルド発足準備
66. ユーシュリア医師ギルド構想
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公爵様が考えている医師ギルドの概要はこうだ。
まず、本部を公爵様のユーシュリア領のどこかに置き、そこを拠点に本の生産や医師の育成を進めていくことにする。
医師ギルドに加入する条件は、医療ギルドが出版を予定している翻訳辞典と医療技術書、それから薬草学の本を買うこと。
それ以外にも、今後はいろいろと本を発行していくだろうがそれらは必須ではないようにするらしい。
それらの本三冊を揃えた者を医師ギルドの会員として認め、教育を始めるそうだ。
基本教育期間は三年を予定。
その三年間は医師ギルドの用意する寮を使用する限り宿泊費や食事代も含めて無料とする。
三年を過ぎても卒業できない者、あるいはそれ以上を学びたい者は月謝を支払ってギルドで学び続けることも可能にするらしい。
それから、教育を始めて一年目はギルドでの講習のみだけど、二年目からは交代で小さな村などでの診療業務もこなしてもらうことにする予定のようだ。
こうすることで、お医者様のいない村で少しでも医療を受けられるようにし、その上でギルド会員に実地での訓練も行えるという仕掛けらしい。
やっぱりいろいろと考えているんだね。
私では考えつきもしないなぁ。
「さて、いままで話したことが私が考える医療ギルドの骨子だ。なにか疑問のある者は?」
「はい。公爵様、ひとつよろしいでしょうか?」
「なんだね、モーリー」
「三年間無償で教育するようですがそれではギルドの運営に負担が出ませんか? その期間も月謝をもらうなど、ギルドの収入がなければ早晩ギルドが崩壊すると思われます」
「その点か。そこについては心配しないでもらいたい。最初の間は我がユーシュリア領からの出資でその財源をまかなう。その後はそれ以外の領地や、王国そのものからも出資が来るだろうと私は判断しているぞ」
「ユーシュリア領以外からの出資?」
「うむ。まず、この医師ギルド最大の強みは、カラフルに色づけされた資料本を低価格で大量に販売できるということだ。これらは医師を志す者だけではなく、既に医師として働いている者たちからも購入されるだろう」
「はい。それはなんとなくわかりますが……」
「それから、医師ギルドを卒業した医師についてある制限を定めたいとも考えている」
ある制限?
公爵様が考えている制限ってなんだろう?
「制限とは卒業後、数年間を支援してくれた領地内で医師活動しなければならないという義務だ。当然、最初期はユーシュリア領内のみでの医師活動となるな」
「公爵様、それはつまり」
「そうだ。王国が国として医師を雇いたいのであれば、国がこれから作る医師ギルドに出資しなければならない。他領も同じこと。ほかの領地でも同じように医師ギルドを作ろうとするだろうが、我々よりもわかりやすい医療技術書を我々の販売する価格帯で販売できるなどあり得ん。無論、技術漏洩には気を付けねばならんが、肝である色とりどりな図や絵は錬金術の道具で再現しているものであり、ほかの領地では再現できまい。これが我々の強みだよ」
うわぁ。
公爵様っていろいろな事を考えていた。
私なんかが心配して考えている必要なんてなかったのかもしれない。
でも、自分の頭で考えることは重要だよね。
「優れた医師が三年間で育つかどうかは疑問だが、まずはこれをベースに考えてみようと思う。三年で足りないようであれば年数を追加することはあとでもできるからな」
「わかりました。それでは、私どもは三年間で学び取るための資料を作成すればよろしいのですね?」
「初めはそうなる。技術書の作成についてはモーリーが監修せよ。ローレンは薬草の図や絵を担当するのだ。よいな?」
「かしこまりました。必ずやよき技術書を作りあげましょう」
「私もです。学び取るに値するだけの薬草図鑑を作ってみせましょう」
「頼んだぞ。そして、ノヴァには各工程で必要になる錬金術の道具を生産してもらいたい。レインボーペンも薬草を描く人数分は最低でも必要だ。アルケミストインクも代替するインクを開発できるまでは必要だし、レインボーペンで描かれた内容を転写する一連の道具については言うまでもないな。頼めるか?」
「はい! 喜んで承ります」
「よろしい。それでは、動き出すまでの準備はこの体制で行くとしよう。ローレンにはしばらくノヴァのいるフルートリオンへ行ってもらう必要もあるやもしれんな」
「フルートリオンに、ですか?」
「フルートリオンにはノヴァの薬草園があるのだろう? そちらに行けば我が屋敷の薬草園にはない薬草も生えているだろう。それに、それらの薬草の効能をノヴァに聞く必要もあるのではないか?」
「ああ、それは確かに。ノヴァ様、準備ができましたら私もフルートリオンへ向かいます。その時はよろしくお願いいたします」
「はい。任せてください!」
こうしてユーシュリア医師ギルドの設立構想は順調に進んでいった。
やることはたくさんあるけれど、それでも前に進まなくちゃいけない。
うん、私もお役に立てるよう頑張らなくちゃ!
まず、本部を公爵様のユーシュリア領のどこかに置き、そこを拠点に本の生産や医師の育成を進めていくことにする。
医師ギルドに加入する条件は、医療ギルドが出版を予定している翻訳辞典と医療技術書、それから薬草学の本を買うこと。
それ以外にも、今後はいろいろと本を発行していくだろうがそれらは必須ではないようにするらしい。
それらの本三冊を揃えた者を医師ギルドの会員として認め、教育を始めるそうだ。
基本教育期間は三年を予定。
その三年間は医師ギルドの用意する寮を使用する限り宿泊費や食事代も含めて無料とする。
三年を過ぎても卒業できない者、あるいはそれ以上を学びたい者は月謝を支払ってギルドで学び続けることも可能にするらしい。
それから、教育を始めて一年目はギルドでの講習のみだけど、二年目からは交代で小さな村などでの診療業務もこなしてもらうことにする予定のようだ。
こうすることで、お医者様のいない村で少しでも医療を受けられるようにし、その上でギルド会員に実地での訓練も行えるという仕掛けらしい。
やっぱりいろいろと考えているんだね。
私では考えつきもしないなぁ。
「さて、いままで話したことが私が考える医療ギルドの骨子だ。なにか疑問のある者は?」
「はい。公爵様、ひとつよろしいでしょうか?」
「なんだね、モーリー」
「三年間無償で教育するようですがそれではギルドの運営に負担が出ませんか? その期間も月謝をもらうなど、ギルドの収入がなければ早晩ギルドが崩壊すると思われます」
「その点か。そこについては心配しないでもらいたい。最初の間は我がユーシュリア領からの出資でその財源をまかなう。その後はそれ以外の領地や、王国そのものからも出資が来るだろうと私は判断しているぞ」
「ユーシュリア領以外からの出資?」
「うむ。まず、この医師ギルド最大の強みは、カラフルに色づけされた資料本を低価格で大量に販売できるということだ。これらは医師を志す者だけではなく、既に医師として働いている者たちからも購入されるだろう」
「はい。それはなんとなくわかりますが……」
「それから、医師ギルドを卒業した医師についてある制限を定めたいとも考えている」
ある制限?
公爵様が考えている制限ってなんだろう?
「制限とは卒業後、数年間を支援してくれた領地内で医師活動しなければならないという義務だ。当然、最初期はユーシュリア領内のみでの医師活動となるな」
「公爵様、それはつまり」
「そうだ。王国が国として医師を雇いたいのであれば、国がこれから作る医師ギルドに出資しなければならない。他領も同じこと。ほかの領地でも同じように医師ギルドを作ろうとするだろうが、我々よりもわかりやすい医療技術書を我々の販売する価格帯で販売できるなどあり得ん。無論、技術漏洩には気を付けねばならんが、肝である色とりどりな図や絵は錬金術の道具で再現しているものであり、ほかの領地では再現できまい。これが我々の強みだよ」
うわぁ。
公爵様っていろいろな事を考えていた。
私なんかが心配して考えている必要なんてなかったのかもしれない。
でも、自分の頭で考えることは重要だよね。
「優れた医師が三年間で育つかどうかは疑問だが、まずはこれをベースに考えてみようと思う。三年で足りないようであれば年数を追加することはあとでもできるからな」
「わかりました。それでは、私どもは三年間で学び取るための資料を作成すればよろしいのですね?」
「初めはそうなる。技術書の作成についてはモーリーが監修せよ。ローレンは薬草の図や絵を担当するのだ。よいな?」
「かしこまりました。必ずやよき技術書を作りあげましょう」
「私もです。学び取るに値するだけの薬草図鑑を作ってみせましょう」
「頼んだぞ。そして、ノヴァには各工程で必要になる錬金術の道具を生産してもらいたい。レインボーペンも薬草を描く人数分は最低でも必要だ。アルケミストインクも代替するインクを開発できるまでは必要だし、レインボーペンで描かれた内容を転写する一連の道具については言うまでもないな。頼めるか?」
「はい! 喜んで承ります」
「よろしい。それでは、動き出すまでの準備はこの体制で行くとしよう。ローレンにはしばらくノヴァのいるフルートリオンへ行ってもらう必要もあるやもしれんな」
「フルートリオンに、ですか?」
「フルートリオンにはノヴァの薬草園があるのだろう? そちらに行けば我が屋敷の薬草園にはない薬草も生えているだろう。それに、それらの薬草の効能をノヴァに聞く必要もあるのではないか?」
「ああ、それは確かに。ノヴァ様、準備ができましたら私もフルートリオンへ向かいます。その時はよろしくお願いいたします」
「はい。任せてください!」
こうしてユーシュリア医師ギルドの設立構想は順調に進んでいった。
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