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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第四章 医師ギルド発足準備

65. 本を生かすためには?

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 私の使っている部屋に戻り、お茶をいれてアーテルさんに差し出したら話の続きだ。
 今度は大量に作ることとなった本の売り方などだけど。

「なるほど。医術の技術書を大量に作る技術は確立したんだな?」

「はい。あとは技術を成熟させて本を作っていくだけだと公爵様も言っていました」

「父さんがそう言っていたならそうなんだろうな。そうなると、本を売るための販売経路と売ったあとどうするか、か」

「売ったあと?」

「技術書ってのは売っただけじゃ意味がないだろう? それを使える者がいて初めて意味をなす。それが人の命を扱う医学なら一層な」

 ああ、そっか。
 自分で学べばいいってだけじゃないもんね。
 そう言えば、医学も誰かが教えなくちゃいけないし、その前段階の文字だって誰かが教えないと読めないかもしれない。
 本を売りに出すって難しいなぁ。

「お前はそんなに難しく考えなくてもいいんじゃないのか? 難しい事は父さんに任せておけよ」

「でも、私だってなにかの案を考えたいんです!」

「はあ。相変わらず自立心が強いというか、負けず嫌いというか。考えること自体は悪くないがあまり根を詰めるなよ」

「はい!」

 お茶を飲むとアーテルさんは自分の客間へと帰っていった。
 そうなると私ひとりが取り残されるわけだけど、なにかいい案はないかな?

「うーん。文字を教えるにしろ医学を教えるにしろ、どこかで学ばなくちゃいけないよね。でも、そんな場所は簡単には存在しない。どうすればいいんだろう?」

 私が考える限り、必要なのは医学書などの内容について教える学びの場。
 それがあれば、医学も一気に普及していくと思うんだ。
 薬草なども準備しなくちゃいけないけど、まずは医学を学ぶ場所だよね。
 公爵様はそこについてどのようにお考えなのだろう?
 うーん、明日も打ち合わせがあるし聞いてみようかな。

「ふう。本ひとつ広めるだけでもいろいろな障害があるんだね。いろいろと勉強になるよ」

 私はその日、いろいろな案をメモ帳にまとめてから眠りについた。
 そして、翌日の打ち合わせでそれらを発表してみる。
 公爵様もモーリーさんも私がそこまでいろいろと考えていたことに驚いていたよ。

「うむ、その通りだ。これらの本を売るだけではダメなのだ。それを教える機関を用意しなければならない」

「はい。しかし、ノヴァ様もそこまで考えられていましたか。ノヴァ様は本の増産方法だけを考えられてもよかったのですが」

「本の増産についてはいまある錬金術アイテムで事足ります。あとはそれを大量生産するだけですから時間の問題だけです。それよりも、本を作ったあとどうするのか考えないと」

「そうだな。本を作っただけではダメだ。医療の技術書を大量発行する以上、それに見合った責任もとらねばならぬ」

 公爵様はそう言ってひとつ溜めを作ると次の言葉を発する。
 それは私にとって完全に予想外で、実現可能か首をかしげてしまうほどのことだった。

「その本を発売するにあたり国家規模の医師ギルドを我が領で新規に設立する。無論、国家規模となれば国王陛下の承認も必要となるのですぐには動けないだろう。だが、それでも動く価値がある案件だ」
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