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第二部 医学の知識と若木の令嬢
51. 十歳の春、緊急の使者
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スピカおばあちゃんの死から二年とちょっとが経った。
私も十歳になり、背も結構伸びている。
雑貨店の売り上げも結構順調。
やっぱり錬金術で作ったお薬の売り上げが多いんだけど、それでも各種雑貨が売れている。
雑貨屋はほかにも何軒かあるから、お薬を買いに来たついでに買っていってくれている感じかな。
この二年間はそれなりに大変だった。
スピカおばあちゃんがいた頃はやったことのなかった、雑貨品の仕入れもしなくちゃいけないし、街の商店組合の会合にも参加しなくちゃいけない。
やることがたくさんあって目が回りそうだったけど、なんとか踏ん張ってやってきている。
さて、今日も頑張りますか!
「シシ、そろそろお店を開けようか」
「にゃおう!」
シシはまだ喋れない。
あの後、お母さんには何回か来てもらっているけれど、シシが話せるようになるには五十年から百年はかかると言われてしまった。
気が長い話だけど仕方ないのかな。
それじゃ、お店の前の看板を変えてこなくちゃ。
「ノヴァ! いるか!?」
看板を変えに行こうとしたらアーテルさんが飛び込んできた。
アーテルさんは相変わらずこのお店の常連さん。
普段からこのお店に来て話をしていったり、買い物をしていったりしているんだけど、今日はなにか様子がおかしい。
なにがあったのかな?
「アーテルさん、どうしたんですか?」
「すまん、ノヴァ! すぐに旅支度を調えてくれ!」
「はい?」
どうしよう、アーテルさんの言葉の意味がわからない。
どうして旅支度を調えなくちゃいけないんだろう?
なにか厄介な魔物でも出たのかな?
私もこの二年間で護身用という名の下に武器をお母さんからもらった。
それは古い魔法文明時代の武器を復元したもので、魔導銃というものらしい。
魔法をその中に貯め込んで必要なときに打ち出す弓矢みたいな飛び道具なんだけど、威力は普通に魔法を使うよりもはるかに高い。
片手でも構えられるくらい軽くて小さいのに、弓矢よりも長く飛び、爆弾よりも威力が高いんだから結構な危険物だ。
これを手に入れたことで、相手が単体かつ冒険者では手が出しにくい魔物を狩るときには私が付いていくことも何回かあったほどすごい武器なんだよね。
護身用のはずが危険に身を投じなくちゃいけないというのは、どこか間違えている気がするけど。
「落ち着いてください、アーテル殿。いきなり旅支度をしてくれではノヴァ様も混乱してしまいます」
「あれ? 確か……ナーヒさん?」
「はい。ナーヒです。覚えていてくださいましてありがとうございます」
アーテルさんの後ろから騎士の鎧を身に着けたおじさんが出てきた。
この人はナーヒさんであっていたみたい。
ナーヒさんは確か、アーテルさんのお父さんである公爵様の部下なんだよね。
四年前にやってきたとき、薬の許可をもらったから覚えていたんだけど、間違えなくてよかった。
「ナーヒさんまで一緒だなんてなにがあったんですか? 公爵様からのお呼び出しですか?」
「申し訳ありませんがそうなります。用件はノヴァ様に錬金術の薬を作っていただきたいということです」
「錬金術の薬を?」
「はい。子細についても説明する許可をいただいておりますので説明いたします。実は、昨年の冬の終わり頃から公爵様の末のご子息が風邪を患い寝込んでいたのです」
「風邪ですか? それだけならもう治ってますよね」
「はい。最初は風邪だけだったはずですが、次第に病状が悪化していき、いまでは高熱が下がらず毎日の食事も満足に食べられない状況です」
それは辛いよね。
末の子供さんが何歳かはわからないけれど、ご飯も食べられないくらい体が弱っているんじゃ苦しいもの。
よし、行って助けてあげよう!
「わかりました。私が行ってその方を治療すればいいんですね?」
「そうなります。公爵様お抱えの薬師も神殿の神官たちも匙を投げてしまうほどの奇病、申し訳ありませんが錬金術士の力を借りるしかないという判断です」
「構いません。ただ、どんな病気かわからないので、裏庭に行って可能な限りの薬草を集めてきます。それで足りなければ薬草を採取することになるかもしれません」
「かしこまりました。迎えの馬車は入り口前に止めてあります。なるべくお早い御支度を」
「はい。あ、アーテルさんは長期不在にすることを書いた木板を作っておいてください。出かける前にそれを看板と一緒に下げておきます」
「お、おう。すまないな、気が動転していて」
「いえいえ。とりあえず、看板はよろしくお願いしますね」
私は看板をアーテルさんに任せて裏庭へと出た。
そこにはもう百種類を超える薬草たちが生い茂っている。
薬草ごとに生育しやすい環境は違うけど、魔法の結界でその環境を再現してあげているから、どんな薬草だって根付くもんね!
さて、今回はどんな薬草が必要かな?
「聞いた病状だと最低でも解熱剤と食欲改善の薬は必要。でも、毒物を飲んでいる可能性もあるから、いろいろな毒に効く薬草も持っていかなくちゃダメ。それから、内臓も弱っているかもしれないし、そちらを保護したり元気づけたりする物も必要だよね。そうなると……」
私は裏庭から百近い薬草を採取して店の中へと戻る。
そこではアーテルさんが看板を用意して待っていてくれた。
「お待たせしました、アーテルさん」
「いや。薬草選びの時間なんて領都までの移動時間を考えれば誤差に過ぎないさ。それに、お前の薬草園ってごちゃごちゃしていて必要な薬草を選ぶだけでも一苦労だろ?」
「む! そんなことありません! 必要な薬草は一目でわかります!」
「わかった。看板は出来ているから出発しよう」
「はい。出発です。シシもいいよね?」
「にゃう!」
私は迎えの馬車に乗り、公爵様たちがすんでいるという領都へと向かった。
普通に馬車の旅をしていくと、宿場町を経由していくから二週間ちょっとの旅になるらしいけど、今回はそんな余裕もないので宿場町には泊まらず野宿をしながらの旅だそうだ。
これだけで一週間程度の時間短縮になるんだからすごいよね。
私の体調を気遣われたけど、私だって病人がいるなら多少の無茶はするよ。
目指せ、領都、だね。
私も十歳になり、背も結構伸びている。
雑貨店の売り上げも結構順調。
やっぱり錬金術で作ったお薬の売り上げが多いんだけど、それでも各種雑貨が売れている。
雑貨屋はほかにも何軒かあるから、お薬を買いに来たついでに買っていってくれている感じかな。
この二年間はそれなりに大変だった。
スピカおばあちゃんがいた頃はやったことのなかった、雑貨品の仕入れもしなくちゃいけないし、街の商店組合の会合にも参加しなくちゃいけない。
やることがたくさんあって目が回りそうだったけど、なんとか踏ん張ってやってきている。
さて、今日も頑張りますか!
「シシ、そろそろお店を開けようか」
「にゃおう!」
シシはまだ喋れない。
あの後、お母さんには何回か来てもらっているけれど、シシが話せるようになるには五十年から百年はかかると言われてしまった。
気が長い話だけど仕方ないのかな。
それじゃ、お店の前の看板を変えてこなくちゃ。
「ノヴァ! いるか!?」
看板を変えに行こうとしたらアーテルさんが飛び込んできた。
アーテルさんは相変わらずこのお店の常連さん。
普段からこのお店に来て話をしていったり、買い物をしていったりしているんだけど、今日はなにか様子がおかしい。
なにがあったのかな?
「アーテルさん、どうしたんですか?」
「すまん、ノヴァ! すぐに旅支度を調えてくれ!」
「はい?」
どうしよう、アーテルさんの言葉の意味がわからない。
どうして旅支度を調えなくちゃいけないんだろう?
なにか厄介な魔物でも出たのかな?
私もこの二年間で護身用という名の下に武器をお母さんからもらった。
それは古い魔法文明時代の武器を復元したもので、魔導銃というものらしい。
魔法をその中に貯め込んで必要なときに打ち出す弓矢みたいな飛び道具なんだけど、威力は普通に魔法を使うよりもはるかに高い。
片手でも構えられるくらい軽くて小さいのに、弓矢よりも長く飛び、爆弾よりも威力が高いんだから結構な危険物だ。
これを手に入れたことで、相手が単体かつ冒険者では手が出しにくい魔物を狩るときには私が付いていくことも何回かあったほどすごい武器なんだよね。
護身用のはずが危険に身を投じなくちゃいけないというのは、どこか間違えている気がするけど。
「落ち着いてください、アーテル殿。いきなり旅支度をしてくれではノヴァ様も混乱してしまいます」
「あれ? 確か……ナーヒさん?」
「はい。ナーヒです。覚えていてくださいましてありがとうございます」
アーテルさんの後ろから騎士の鎧を身に着けたおじさんが出てきた。
この人はナーヒさんであっていたみたい。
ナーヒさんは確か、アーテルさんのお父さんである公爵様の部下なんだよね。
四年前にやってきたとき、薬の許可をもらったから覚えていたんだけど、間違えなくてよかった。
「ナーヒさんまで一緒だなんてなにがあったんですか? 公爵様からのお呼び出しですか?」
「申し訳ありませんがそうなります。用件はノヴァ様に錬金術の薬を作っていただきたいということです」
「錬金術の薬を?」
「はい。子細についても説明する許可をいただいておりますので説明いたします。実は、昨年の冬の終わり頃から公爵様の末のご子息が風邪を患い寝込んでいたのです」
「風邪ですか? それだけならもう治ってますよね」
「はい。最初は風邪だけだったはずですが、次第に病状が悪化していき、いまでは高熱が下がらず毎日の食事も満足に食べられない状況です」
それは辛いよね。
末の子供さんが何歳かはわからないけれど、ご飯も食べられないくらい体が弱っているんじゃ苦しいもの。
よし、行って助けてあげよう!
「わかりました。私が行ってその方を治療すればいいんですね?」
「そうなります。公爵様お抱えの薬師も神殿の神官たちも匙を投げてしまうほどの奇病、申し訳ありませんが錬金術士の力を借りるしかないという判断です」
「構いません。ただ、どんな病気かわからないので、裏庭に行って可能な限りの薬草を集めてきます。それで足りなければ薬草を採取することになるかもしれません」
「かしこまりました。迎えの馬車は入り口前に止めてあります。なるべくお早い御支度を」
「はい。あ、アーテルさんは長期不在にすることを書いた木板を作っておいてください。出かける前にそれを看板と一緒に下げておきます」
「お、おう。すまないな、気が動転していて」
「いえいえ。とりあえず、看板はよろしくお願いしますね」
私は看板をアーテルさんに任せて裏庭へと出た。
そこにはもう百種類を超える薬草たちが生い茂っている。
薬草ごとに生育しやすい環境は違うけど、魔法の結界でその環境を再現してあげているから、どんな薬草だって根付くもんね!
さて、今回はどんな薬草が必要かな?
「聞いた病状だと最低でも解熱剤と食欲改善の薬は必要。でも、毒物を飲んでいる可能性もあるから、いろいろな毒に効く薬草も持っていかなくちゃダメ。それから、内臓も弱っているかもしれないし、そちらを保護したり元気づけたりする物も必要だよね。そうなると……」
私は裏庭から百近い薬草を採取して店の中へと戻る。
そこではアーテルさんが看板を用意して待っていてくれた。
「お待たせしました、アーテルさん」
「いや。薬草選びの時間なんて領都までの移動時間を考えれば誤差に過ぎないさ。それに、お前の薬草園ってごちゃごちゃしていて必要な薬草を選ぶだけでも一苦労だろ?」
「む! そんなことありません! 必要な薬草は一目でわかります!」
「わかった。看板は出来ているから出発しよう」
「はい。出発です。シシもいいよね?」
「にゃう!」
私は迎えの馬車に乗り、公爵様たちがすんでいるという領都へと向かった。
普通に馬車の旅をしていくと、宿場町を経由していくから二週間ちょっとの旅になるらしいけど、今回はそんな余裕もないので宿場町には泊まらず野宿をしながらの旅だそうだ。
これだけで一週間程度の時間短縮になるんだからすごいよね。
私の体調を気遣われたけど、私だって病人がいるなら多少の無茶はするよ。
目指せ、領都、だね。
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