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第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第九章 森と魔物の異変

43. 近づく冬と森の異変

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 商隊がやってきて賑やかだった春が終わり、暑い夏は何事もなく過ぎ去り、秋ももう終わりかけ。
 もうすぐ冬の季節で外を吹き抜ける風はとっても冷たい。
 わたしは今年も防寒用の毛布を作ったり風邪薬を作ったりしていたけど、街のみんなは元気に冬を過ごせそうかな?
 冬の間は本当に最小限の往来しかなくなっちゃうからちょっと心配。
 寒い季節はなにかと不便だし、何も起こらなければいいんだけど。

 日々の無事を祈りつつ毎日のお薬作りと店番に精を出していたところ、アーテルさんがやってきた。
 今日は何の用事だろう?

「いらっしゃいませ、アーテルさん。今日はどういった用件でしょう?」

「さび止め用オイルってあるか? あるなら売ってくれ。ないなら作っておいてもらいたい」

「ありますよ。どれくらいいりますか?」

「小瓶ひとつ分で十分だ。ところで、ノヴァ。この季節にしか採れない薬草ってないのか?」

「さあ? わたしも薬草にはあまり詳しくないので。見れば薬草かどうかはわかるんですけど」

「そういやそうだったな。じゃあ、今度若い冒険者連中と一緒に森へ出かけないか?」

「若い冒険者さんと?」

「去年もこれくらいの季節に若い冒険者を連れて狩りに出たろう。確か、革の補修剤を作る材料を探すために」

 ああ、そんなこともあったなぁ。
 あれからもう一年も経っているんだっけ。
 お仕事をしていると月日が経つのも早く感じちゃう。

「どうだ? 今年も新人どもが増えたおかげで森の歩き方さえままならない奴が多い。それに、この街じゃ『冒険者の薬草』なんてかすり傷に使う痛み止め程度の意味しかないのも知らずに来ているから、金を稼ぐ方法を知らないのも多いんだよ。冒険者ギルドから冒険者への育成目的依頼として森での採取と討伐を行うからお前も参加してほしい」

 なるほど、冒険者さんたちのお手伝いというわけだね。
 それなら参加してもいいかも!

「それに、ノヴァが一緒なら跳ねっ返りの冒険者どもも勝手に遠くへは行かないだろう。子供を見捨てて勝手なことをするような奴は許さないからな」

 む、結局子供扱いしてる!
 でも、季節の変わり目にしか採れない薬草もあるかもしれないし、お誘いには乗っておこう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 森への採取は出発を三日後として予定が組まれたみたい。
 当日の朝は、たくさんの若い冒険者さんたちで街の門が賑わっていた。
 これ、全部今日の参加者かな?

「よし、集まっているな。集まっていなかったら置いていくだけだし、問題ないけどな」

 アーテルさんが気楽に言うけど、若い冒険者さんたちに取っては冗談ではなかったみたい。
 ちっとも笑いが起きなかったもん。
 それだけみんな必死なんだね。

「それじゃ、街の外に行くぞ。詳しい話は現地に着いてからだ」

 アーテルさんの指示で集団がぞろぞろと動き始める。
 アーテルさんはわたしが疲れないようなペースで歩いてくれるからいいけど、ほかの冒険者さんたちの中には明らかにわたしより速く歩いて行こうとしてアーテルさんに止められてる人がいた。
 そのたびわたしをにらんでくるんだけど、わたしをにらんでも速くはならないんだからどうにかしてほしいな。
 本当に急ぐんだったらアーテルさんがわたしを抱えて走るだろうし。

 そのようにしてたびたび注意される冒険者さんがいたものの、わたしたちは無事に目的地である街近郊の森までたどり着いた。
 それで、着いたらアーテルさんが若い冒険者さんたち全員を集めて今日の予定……を話すのかと思ったら説教から始まった。

「お前ら、ノヴァより先に行こうとするな! 集団行動もとれないようじゃ冒険者としてやっていけないぞ!」

「い、いや、そんな子供より」

「そんなもこんなもあるか! ノヴァが依頼主の子供だったらどうする? お前らはそれをおいたままほいほい先に進むのか?」

「ええと、そんなことは」

「なら今回もちゃんとやれ。ノヴァを連れてきたのは、お前らがどの程度集団行動を出来るか見極めるためだからな」

「は、はい」

 わたしってやっぱりお荷物扱い。
 一人前だっていつも言っているのに!

「じゃあ、改めて今日の説明だ。今日はこの森の中で採取と討伐を行う。採取と討伐は各自の任意でやってもいいが、ノヴァを放り出すような真似はするな。お前たちがお前たちの腕前で守り抜けると思うだけの人数だけ必ずそばに残しておけ。いいな」

「あの、順番とかは?」

「知らん。お前らが決めろ。それから俺はノヴァと一緒にいるが、俺はノヴァと一緒に周囲をふらつき回る。俺たちのことを見失って戻ってこれなくなっても失格だ」

 それって結構ハードルが高いような。
 でも、わたしもある程度は自由に動き回れるみたいだし、自由に採取させてもらおっと。

「それじゃ、森の探索開始だ。いま言ったことを忘れるなよ」

 アーテルさんが開始を宣言した途端、若い冒険者さんたちは競い合うように森の中へと入って行ってしまった。
 残されたのはわたしとシシ、それにアーテルさんだけ。
 アーテルさんはこの展開も予想通りだったみたいで、溜息をついているね。

「やれやれ。若いうちは貪欲なくらいじゃなくちゃいけないが、護衛対象をほっぽり出すのは貪欲とは言わないんだがな」

「どうしましょうか、アーテルさん」

「放っておくぞ。俺たちは別の場所から森へ入ろう」

「いいんですか? あの人たち、わたしたちのことを見失いますよ?」

「そこも含めて今日の課題だ。まったく、森の外から始めたからといってその場所から森へ入るとは言ってないのにな」

「あはは」

 アーテルさんもお疲れの様子。
 最初からこんな調子じゃ無理もないか。
 わたしたちは森にはいる場所を最初の位置からずらして森へと入った。
 森の中は一層寒くて凍えそうな感じ。
 さて、薬草になりそうな草花はどこかな?

「……あれ?」

「ノヴァもおかしく感じたのか?」

「はい。なんというか、命の気配が薄い? みたいな。草花の活気がまったくありません。冬になる前ってこんな感じでしたっけ?」

「いや、ここまで寒気がするような雰囲気じゃないはずだ。俺も奇妙なまでに気配がなくて恐ろしく感じていたところだぜ」

 よかった、わたしだけじゃなくて。
 でも、足元を見ればシシも森の奥を見ながら殺気立っているし、何かあるのかな?

「……これは街に戻って報告だな」

「報告ですか?」

「ああ。明らかに森の様子がおかしい。こういうときは何かある」

「何か、ってなんですか?」

「さあな。俺も話でしか聞いたことがないんだ。ともかく、今日は帰るぞ。森を出て冒険者どもを呼び戻す」

 アーテルさんはわたしとシシを連れて森を出ると、すぐに呼び笛を使って冒険者さんたちを集めた。
 冒険者さんたちも呼び笛がなった場合はすぐに集まるよう指示が徹底されていたらしく、渋々ながらも集まったみたい。
 若い冒険者さんの人数を数え終わったアーテルさんは、わたしを抱えてフルートリオンまで戻ったよ。
 急ぐときは抱えると思っていたけど、本当に抱えなくてもいいじゃない!
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