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第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第七章 爆弾などは作りません

36. 温かい石と冷たい花は爆弾の材料にもなります

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 襲ってきた魔物との戦いでさらにボロボロになった冒険者さんたちも含め、わたしたちは冬の雪原を歩いていく。
 魔物に襲われていた人たちはただでさえ薄着だったのに、魔物に襲われて服があちこち破れてしまっている。
 怪我はわたしが作った傷薬で治していたけどとっても寒そう。
 凍傷止めのお薬で寒いだけだけど、大丈夫かな?

「ノヴァ、あいつらの事が気になるか?」

 後ろの事ばかり気にしていたら、アーテルさんから声をかけられてしまった。
 そうだよね、ときどき振り返っているんだもん、ばれるよね。

「気になります。なんだかとっても寒そうですね」

「冒険者が魔物に襲われるなんて日常茶飯事だ。替えの服も用意してこなかったあいつらが悪い」

「という事は、アーテルさんは用意してきているんですか?」

「ここまで厚手の服は用意してきていないが、服の内側に着るインナーを五着替えとして持ち歩いている。それだけでもかなり違うものだぞ」

 そうなんだ、勉強になるなぁ。
 わたしも長期間の採取を行うときは替えの服を多めに持ち歩く事にしよう。
 替えの服、全部マジックバッグにしまってあるから、服を増やすだけなんだけど。

「……あれ? アーテルさん、あそこの周りだけ雪が解けています。何かあるんですか?」

「ん? ああ、あれは温暖石だな。やっぱり雪が降ったあとだとわかりやすいぜ」

「〝おんだんいし〟?」

「まあ、あそこに石が落ちているから持ってみればわかる。魔物や危険物の類いではないから気にするな」

「はあ?」

 アーテルさんに言われたとおり雪が解けている場所に行くと、ちょっとだけ暖かい。
 熱源は落ちている石だね。
 手で触ってもほんのり暖かいだけで熱くはない。
 これが〝温暖石〟か、覚えた。
 あれ、でも、これって……。

「アーテルさん、温暖石ってこの種類だけですか?」

「温暖石の種類? いや、ほかには聞いた事がないが」

「アーテルさん、耳を貸してください」

「ん?」

 アーテルさんがしゃがんで顔を近づけてくれたので、わたしは小声で温暖石の効果を教える。
 これ、結構危険物だ。

「アーテルさん。これ、錬金術で扱えば爆弾の材料になります」

「は?」

「だから、爆弾の材料です。それもかなり強めの」

「マジか?」

「試してみないとどこまで強いかはわかりません。でも、触れてみた感触だと小さな家を吹き飛ばせるほどの威力になると思います」

「……ヤバいな」

「問題ですよね」

「大問題だ。ちなみに、これをそのまま持っていて爆発する事はないか?」

「多分ありません。錬金術で加工しなければほんのり熱を帯び続ける変わった石です」

 わたしのその言葉にアーテルさんは安堵したみたい。
 わたしが爆弾の材料になるって教えたときは顔が引きつっていたからね。

「わかった。この情報は限られた者と共有する。お前は普通に素材を手に入れたフリをして温暖石を集めておけ。本当は後ろの冒険者どもにひとつずつ渡そうかとも考えていたが、お前がまとめて管理するのが一番安全そうだ」

「いいんですか? 何もしなければ石ころですよ?」

「何かあったときに備えるためだ。後ろの連中には特性だけ覚えさせて我慢させる」

「では、お言葉に甘えて集めさせてもらいます」

 今回の採取で見つけた温暖石はすべてわたしがもらう事になった。
 後ろの冒険者さんたちには悪いけれど、これの扱いは慎重にしたいからね。
 わたしは温まらなくてもへっちゃらだけど、そういうことなので諦めてもらおう。
 そのあとも平原をとことこ歩き回りめぼしい物がないか探し回る。
 ただ、やっぱり雪に埋もれた平原だからなかなか変わったものは……あれ?
 あそこ、一部だけ雪が凍って山になっている。
 何かあるのかな?

「アーテルさん。あの雪山の下には何があるんですか?」

「ん? さあな。俺たちも雪山をわざわざ掘り返すような真似をしないから」

「じゃあ、掘り返してもいいんですよね?」

「魔法で溶かさないのか?」

「下に何かあってそれまで溶けたら嫌ですから」

「なるほど。一理ある」

 最初は後ろにいた冒険者さんたちに掘ってもらおうとしたけど、体が凍えている上に掘り返すための道具がないからなかなか進まなかったので引っ込んでもらった。
 次はアーテルさんたちがやろうとしたけどそれも断り、わたしとシシが風魔法を使いゆっくり雪を吹き飛ばしていく。
 すると中から氷が現れ、その中には透き通った花弁を持つ花が咲いていた。
 この花ってなんだろう?

「アーテルさん、この花は知っていますか?」

「いや、俺たちも初めて見た。ノヴァ、取り出せるか?」

「水魔法で溶かせば大丈夫かと……ってあれ?」

「どうした?」

「溶かしたそばから凍っていきます。どういうことだろう?」

 弱い水魔法で溶かしても効果がなかったので、水魔法の干渉力を強めにして一気に氷を溶かしていく。
 それでも氷は再生するのでなかなか溶けては行かず、五分ほどかかってようやく花が取り出せた。
 ちょっぴり疲れちゃった。

「お花、取り出せました。でも、やっぱり、花の周囲から凍りついていこうとしています」

「変わった花が冬の平原には咲いていたんだな。錬金術には使えるのか?」

「使えますが……氷の爆弾です」

「……危険物だな」

「はい、危険物です」

 この花も危険物認定されたけど、わたしが集めて預かっておく事になった。
 爆弾なんて作りたくないんだけどなぁ。
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