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第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第六章 冒険者は命がけのお仕事です

32. 冒険者さんは本当に大変なお仕事です

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「それでそんな大金をもらって来たのかい」

「はい。驚きました」

 救護室での治療のあと、わたしは普段は入った事のない豪華な部屋に連れて行かれた。
 そして、そこで冒険者ギルドの一番偉い人という人と会って今回使ったお薬の値段を決める事になったんだ。
 わたしとしては普段使っている傷薬と同じ値段でもよかったんだけれど、冒険者ギルドとしてはダメらしい。
 そんな強力な回復薬が安価に手に入る事がわかれば、冒険者さんたちがこぞって手に入れようとするからって。
 うーん、手に入れようとしてもわたしがもう作れないから無理だよね。
 とりあえずということで、冒険者ギルドからはすごくたくさんのお金が支払われた。
 ひょっとするともっと高くなるかもしれないんだって。
 ただのお薬なのにすごい。

「いいかい、ノヴァちゃん。そのお薬はもう使っちゃダメだよ」

「え? どうしてですか、スピカさん」

「命の対価っていうものは時としてとんでもなく高くつくってことさ。いまのノヴァちゃんには難しいかもしれないけどね」

 む、わたしだって一人前なのに!
 でも、命の対価が高くつくって意味はよくわからない。
 スピカさんもはっきり教えてくれないし、どうしようかな?
 今度、アーテルさんにでも聞いてみようか。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ふーん。スピカ婆さんがそんな事をなぁ」

 アーテルさんが次にお店にやってきたのは三日後。
 この二日間はわたしもさび止めオイルの研究に忙しかったから丁度いいんだけど、もう少し早く来てもいいんじゃないかな。
 普段から用事がなくてもよく来るくせに。

「アーテルさん、どういう意味でしょう?」

「ん? スピカ婆さんには聞かなかったのか?」

「聞いたけど答えてくれませんでした。だから、アーテルさんにも聞いてるんです」

「ああ、なるほど。それなら俺が答えるわけにもいかないな。自分で考えてみてくれよ」

「あ、ずるい」

「ははは。それにしてもさび止めオイルまで作れるとは、錬金術って言うのは本当に便利だな」

「あ、話を逸らす」

「気にするな。で、このさび止めオイルって俺たち冒険者には売ってもらえないのか?」

「え? 売れるんでしたら売りますけど……売れますか?」

「俺も含め上位冒険者連中はこぞって買っていくだろう。正直、武器の手入れには困っていたんだよ」

 アーテルさんの話によると、上位冒険者さんたちは装備も特別製でこういった田舎町では手に入らないような高級品を使っている人が多いそうな。
 それで、普段のお手入れは欠かせないんだけど、そのための道具にも事欠いているんだって。
 いままでは鍛冶屋や武具屋でオイルを分けてもらっていたらしいよ。

「そういうことだったら売ります。他にほしいものってありますか?」

「そうだな。傷の補修が出来るような素材は作れないか?」

「傷の補修。それって金属の鎧とかでしょうか?」

「いや。金属の鎧だったらへこんでも鍛冶屋のグラスルさんにお願いすれば直してもらえる。どっちかって言うと革がな……」

「革の補修ですか? それなら服飾店のリーファスさんはどうでしょう?」

「ある程度は修復してもらえるんだが、使い続けているとどうしても傷が貯まっていってな。どんなに手入れをしても革も固くなってくるし傷口からひび割れも起こす。なあ、錬金術でパパッと出来ないか?」

「錬金術はそこまで便利な道具じゃありません。でも、補修剤は作れるかも」

「本当か!?」

「可能性の話ですよ? それに素材が足りません」

「素材か。何が必要だ?」

「多分、魔物の骨とか皮がいると思います。あとは試してみないとなんとも」

「ああ、お前自身が素材を見てみないとダメなんだよな。よし、スピカ婆さんに頼んでお前と一緒に魔物狩りへ行く算段を付けよう」

 わたしと一緒に魔物狩りって。
 そんなに大変なんだね、冒険者さんっていうのは。
 スピカさんからもアーテルさんたちが守りにつくならという条件で許可が出たし、翌日魔物退治に行く事になった。
 でも、魔物の骨や皮を採る必要があるってことは、わたしやシシが燃やしちゃいけないんだよね。
 アーテルさんたちに魔物退治は任せちゃおっか。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 翌日、スピカさんの雑貨店にアーテルさんはわたしを出迎えに来た。
 でも、他にも一緒に行動する冒険者さんがいるみたい。
 あれ、この女の人って。

「アーテルさん。この人、この間助けた人ですよね?」

「ああ、そうだな。おい、あいさつを」

「は、はい! ライムと言います。今日はよろしくお願いします」

「あ、はい。ノヴァです。よろしくお願いします」

 アーテルさんとライムさんの他にも何人か冒険者さんたちが一緒についてくるみたい。
 でも、その人たちはみんな若くって装備もなんというか貧弱に見える。
 ライムさんは少しだけいいものを使っているけどなんでだろう?
 なんとなく聞くのもはばかれる中、街から出て近場の草原へとやってきた。
 ここからどうするのかな?

「さて、ノヴァ。素材にするにはどんな魔物がいい?」

「うーん、よくわかりません。まずは手当たり次第倒してもらうしかないかも」

「よし、わかった。聞いたな、お前ら! まずはどんな魔物でもいいから倒してこい! そして解体してから持って来るんだ! いいな!」

「「「はい!」」」

「よし、いけ!」

 若い冒険者さんたちは散り散りに平原へと駆け出していった。
 取り残されたのはわたしとシシ、アーテルさんだけだ。
 アーテルさんはわたしの護衛だから行かないんだよね。
 わたしが行っても邪魔にしかならないだろうし、素材が届くまでここで待っていよう。

「素材、持って来ました!」

「わかった。これは……平原ウサギの素材か」

「はい。すぐに見つかりましたので」

「望み薄だが調べるとするか。ノヴァ、これで作れるか調べてくれ」

「うん。……うん、ダメみたい。わたしが使っても特殊なお肉が出来るだけの気がする」

「特殊な肉? なんだそりゃ」

「えっと、魔物が好きそうな匂いを出す肉? みたいな?」

「ふむ。それはそれで使い道がありそうだな。使いどころと使い方を正しくすればだが」

 ……魔物を寄せ集めるだけの道具に使い道なんてあるんだ。
 冒険者さんっていろいろ考えるんだなぁ。

「とりあえず、草原ウサギはダメと。他の魔物を狩ってこい!」

「はい!」

 この調子でいろいろな魔物の骨や皮、お肉などを調べたけど全部外れ。
 この周辺の草原で見つけられる魔物は大体狩り尽くしたという事で、今度は森の方へと移動するみたい。
 森に入ったあとも若い冒険者さんたちは魔物を狩りに行った。
 でも、なんであんなに必死なんだろう?

「ねえ、アーテルさん。なんでみんなあそこまでがんばっているんですか?」

「ん? ああ、今日の狩りは冒険者ギルドからの依頼としてあいつらに出されたものだからな。報酬は出来高制。いままでの狩りの成績だって俺がちゃんとつけてるんだぜ?」

 いつの間に。
 アーテルさんって意外と器用かも。

「まあ、フルートリオンの街じゃノヴァのおかげで薬草の需要が減っているからな。そっちの採取で食えなくなっているって事情もある。少しでも稼ぎたいのはみんな一緒なんだよ」

「わたしのせい?」

「お前の薬の方が薬草なんかよりも効くからな。それでいて、お前の使う〝薬草〟は俺たち冒険者の使う〝薬草〟とは別物だ。つまり、俺たち冒険者が〝薬草〟を集めても売れないんだよ」

 うーん、そういう事情もあったのかぁ。
 わたしのお薬でみんなが幸せになっているわけじゃないんだね。
 どうしよう?

「お前の事だ。薬の販売を今後どうするか考えているだろ?」

「……はい、アーテルさん。どうしましょう?」

「お前は気にせず売り続けろ。お前の薬で冒険者も死ににくくなっているのは確かなんだ。冒険者が冒険者として生きている以上、なにをするのも冒険者の責任。日々の食い扶持だって新しく探さなくちゃいけないのさ」

「大変なんですね、冒険者さんって」

「楽な仕事なんてないさ。錬金術士だって楽なわけじゃないだろ?」

 楽じゃないか。
 あまり気にした事がなかったけど、確かに楽じゃないかも。
 毎日薬草畑で薬草を摘んで土魔法と水魔法で栄養を与えているし、その日売る分のお薬は最低でも作らなくちゃいけない。
 街の人たちから新しい要望があればそれも作れるか試さなくちゃいけないし、想像以上にがんばっているのかも。
 なので、わたしはアーテルさんに「そうですね」とだけ返して新しい素材が届くのを待った。
 結局、この日討伐できた魔物の素材だけでは革製品の補修剤を作れなかったけど、若い冒険者さんたちにはかなりいい稼ぎになったらしい。
 ただ、その稼ぎも宿賃や食費、装備の手入れなんかで消えていくってアーテルさんが言ってた。
 アーテルさんも通った道らしいけど、冒険者さんって大変だなぁ。
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