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第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第五章 お薬は誰にでも売ります
28. お薬の販売許可
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アーテルさんのお父さんの知り合いらしい人たちは、雑貨屋の周りを囲んでいた人たちを縛り上げて連れて行った。
結局、あの人たちはなんだったんだろう?
代わりに、あとから来た人たちの代表っぽい人が私のところへとやってきたよ。
「失礼。錬金術士ノヴァであっているかな?」
「はい。わたしがノヴァです。あなたは?」
「ああ、すまない。わたしはユーシュリア公爵の部下で此度の先遣隊隊長を務めているナーヒという。よろしく頼む」
「はい。よろしく」
「にゃぁう」
「そちらは?」
「あ、聖獣フラッシュリンクスのシシです。シシもよろしくお願いしますって」
「やはり聖獣様だったか」
ナーヒさんはシシの事を聖獣だって見当がついていたみたい。
聖獣さんを知っているのかな?
「あの不心得者どもはこちらで捕らえておく。これ以上、敵対はしないでほしい」
「なーう?」
「襲ってこないなら何もしません。シシもそう言っています」
「それは助かる。聖獣様相手に戦うのは無理があるからな」
やっぱりナーヒさんは聖獣さんについて知っていそう。
でも、それを聞く雰囲気でもないかな。
やめておこう。
「さて、私が来たのはユーシュリア公爵の先触れとしてだ。あと2時間ほどで公爵様がこの街に到着なさる」
「こうしゃくさま?」
「君の薬について販売許可を出せるお方だ。それにしても、妙な一団がいると聞き数日急いだ甲斐があったな。あのような連中がいようとは」
「あのような連中、か。あいつらはどうするんですか、ナーヒ殿」
ここで会話に入ってきたのはアーテルさん。
わたしもあいつらの今後は気になっていたから聞いてみよっと。
「アーテル殿か。あいつらのことは中央に身元照会をして正式な爵位持ちとわかれば中央へ送り届けます。わからなければ、集団で武器を持ちだして街を騒がせた罪人として裁くだけですね」
「なるほど。中央がトカゲの尻尾を切り離しそうだ」
「切り離せるなら切り離すでしょう。聖獣様の怒りを買った事も付け加えて伝えますよ」
「それがいい」
どうやら、あの人たちは罪を犯した人として裁かれるみたい。
中央って言うのがどこかわからないけど、そこが助けてくれなかったら犯罪者になるみたいだね。
でも、ほとんどの人たちはシシによって傷を付けられているから……。
「それにしても、アーテル殿。少し見ない間に変わったお知り合いを増やしたようで」
「そう言わないでください、ナーヒ殿。ノヴァは俺の命の恩人でもあるんですから」
わたしがさっき連れて行かれた連中のことを考えていたところ、アーテルさんとナーヒさんが話を始めていた。
このふたりって昔からの知り合いなのかな?
「この少女がアーテル殿の命の恩人とは?」
「三カ月くらい前かな? ヴェノムグリズリーがこの街に現れたことがあって死にかけたんです。その時、助けてくれたのがノヴァとその治療薬でして」
「なるほど。錬金術士の治療薬とはそこまで効果が高いですか」
「高いですね。最初に使ったときは傷に思いっきりしみて絶叫しましたが」
そう言えばそんなこともあったなぁ。
あれから一度もお薬を使えていないんだっけ。
早くお薬を使っていいって許可が出ないかなぁ。
「それにしても、聖獣連れの錬金術士とは。報告を聞いたとき、ユーシュリア公爵も驚いておりましたよ?」
「でしょうね。そんな爆弾、取り扱いたくないでしょうから」
む、今度はバカにされている気がする。
ちょっとにらんでおこう。
「おや? かわいい錬金術士さんににらまれてしまいましたね」
「俺たちが爆弾扱いしたのが気に食わなかったのかな? ナーヒ殿、周囲の警戒を頼んでもいいですか?」
「お任せを。皆様はユーシュリア公爵が到着するまで店の中でお待ちください」
そのユーシュリア公爵という偉い人が来るまでまだ時間がかかるらしいので一度お店に入って待つことになった。
念のため裏庭が荒らされていないかも確認したけど大丈夫だったね。
荒らされていたらもうちょっと懲らしめてあげようと思ったのに。
そのまましばらく待っているとナーヒさんから「ユーシュリア公爵が到着した」と連絡があり、わたしたちは店の外に出て待つこととなった。
外に出てみんなひざまずいて待っているけどわたしもやった方がいいのかな?
スピカさんもアーテルさんもヴェルクさんも何も言わないけど。
「ユーシュリア公爵がご到着になりました!」
その号令で全員がバッと俯く。
えっと、どうすればいいのかな?
「どうしたのだ、小さき翼を持った少女よ」
「え?」
わたしに声をかけてきたのは少し白髪の交じった赤毛のおじさんだった。
結構な歳のようだけれど、体はがっしりしていて老けて見えない。
あれ、でも、少し顔がアーテルさんに似ているような?
「皆の者、面を上げよ」
おじさんの声で俯いていたみんなが顔を上げた。
なんだったのかな?
「久しいな、アーテル」
「お久しぶりです、お父様。ご健勝なようでなにより」
「うむ。それにしても天翼族の錬金術士とは。この国では天翼族というだけでも珍しいのに、さらに錬金術士とはな」
「はい。ちなみに、ノヴァにはわざと礼をとらせませんでしたが問題でしたでしょうか?」
「構わん。幼い子供だ。それに天翼族はプライドが高く、礼儀はわきまえてもひざまずきはしない。気になどせんさ」
「それはよかった。それで、お父様自ら来てくれたという事は考慮の余地ありという事ですね?」
「うむ、それなのだが……本当にこの少女が錬金術の薬を作れるのか?」
む、また信用されていない。
わたしってそんなに錬金術士に見えないのかな?
「見た目は子供ですが立派な錬金術士ですよ。ノヴァ、何か作ってみせてくれ」
「わかりました。なにがいいですか?」
「そうだな。わかりやすく傷薬にしよう」
「傷薬ですね。シシ、始めよう」
「にゃう!」
わたしの隣で様子を見守っていたシシが飛び出し、地面に踏ん張ったところでその上に錬金釜を浮かせる。
やってきた人たちはそれを見るだけでも驚いているけど、まだ始まっていないのにな。
シシが炎を出して錬金釜の準備が整うとわたしの出番。
いつも通り順番にお薬の材料を放り込んでっと。
「元気になーれ! ふっふふのふ~ん♪」
「にゃっにゃにゃにゃ~ん」
素材を入れ終わったら釜を棒でかき回して完成!
いつも通りの傷薬ができあがったよ!
「……ふむ。これが錬金術で作った傷薬か」
「そうですよ。見た事がないんですか?」
「ないな。錬金術士は才能が見いだされるとすぐに皆中央へ連れて行かれる。錬金術で作られた品々など、中央の人間しか知らないだろう」
そうなんだ。
だから誰に見せても反応がおんなじなんだね。
またひとつ賢くなった。
「さて、この傷薬だが、どの程度の傷まで癒せる?」
「えーっと、切り傷ならかなりざっくりいっていても治せます。やけどとかはあまり効きません」
「つまり、私が来る前に暴れていた連中の治療には使えぬと」
「あの人たちは別の理由でも治療が出来なくなっていますから」
「……やはり聖獣様の怒りを買ったか」
うん、聖獣さんが本気で戦闘を始めると相手の魂に傷を与えるんだって。
魂に傷を負った相手は傷の治りが遅くなるどころか治らなくなるそうな。
わたしは見た事がないけど恐ろしいよね。
シシに守られている側のわたしが言う事じゃないけど。
「それでは薬の効き目はわからぬか」
「お父様。冒険者ギルドで適当な怪我人を探してきましょうか?」
「……いや、ナーヒ!」
「はっ!」
ユーシュリア公爵さんの言葉に応えたナーヒさんが、懐からナイフを抜いて自分の腕に突き刺しちゃった!
なんて危ない事をするの!
「ナーヒ、傷薬だ」
「は、はい……くっ。すごい、少し傷にしみただけで傷痕すら残さず消えています」
「そうか。それではこの薬は本物だな」
「はい。本物の錬金術士の薬です」
「わかった。錬金術士ノヴァ。そなたの薬をこのフルートリオンの街にて販売する事をケウギーヌ = ユーシュリアの名をもって認める。……ちなみに軍用に大量販売などは受け付けるか?」
「大量販売はしません! お薬の効果を確かめるためとはいえ、わざと怪我をしないでください!」
もう!
みんな、する事が大胆なんだから!
でも、これでお薬を販売する許可ももらえたようだし、何も問題ないよね。
明日からもお仕事頑張ろう!
結局、あの人たちはなんだったんだろう?
代わりに、あとから来た人たちの代表っぽい人が私のところへとやってきたよ。
「失礼。錬金術士ノヴァであっているかな?」
「はい。わたしがノヴァです。あなたは?」
「ああ、すまない。わたしはユーシュリア公爵の部下で此度の先遣隊隊長を務めているナーヒという。よろしく頼む」
「はい。よろしく」
「にゃぁう」
「そちらは?」
「あ、聖獣フラッシュリンクスのシシです。シシもよろしくお願いしますって」
「やはり聖獣様だったか」
ナーヒさんはシシの事を聖獣だって見当がついていたみたい。
聖獣さんを知っているのかな?
「あの不心得者どもはこちらで捕らえておく。これ以上、敵対はしないでほしい」
「なーう?」
「襲ってこないなら何もしません。シシもそう言っています」
「それは助かる。聖獣様相手に戦うのは無理があるからな」
やっぱりナーヒさんは聖獣さんについて知っていそう。
でも、それを聞く雰囲気でもないかな。
やめておこう。
「さて、私が来たのはユーシュリア公爵の先触れとしてだ。あと2時間ほどで公爵様がこの街に到着なさる」
「こうしゃくさま?」
「君の薬について販売許可を出せるお方だ。それにしても、妙な一団がいると聞き数日急いだ甲斐があったな。あのような連中がいようとは」
「あのような連中、か。あいつらはどうするんですか、ナーヒ殿」
ここで会話に入ってきたのはアーテルさん。
わたしもあいつらの今後は気になっていたから聞いてみよっと。
「アーテル殿か。あいつらのことは中央に身元照会をして正式な爵位持ちとわかれば中央へ送り届けます。わからなければ、集団で武器を持ちだして街を騒がせた罪人として裁くだけですね」
「なるほど。中央がトカゲの尻尾を切り離しそうだ」
「切り離せるなら切り離すでしょう。聖獣様の怒りを買った事も付け加えて伝えますよ」
「それがいい」
どうやら、あの人たちは罪を犯した人として裁かれるみたい。
中央って言うのがどこかわからないけど、そこが助けてくれなかったら犯罪者になるみたいだね。
でも、ほとんどの人たちはシシによって傷を付けられているから……。
「それにしても、アーテル殿。少し見ない間に変わったお知り合いを増やしたようで」
「そう言わないでください、ナーヒ殿。ノヴァは俺の命の恩人でもあるんですから」
わたしがさっき連れて行かれた連中のことを考えていたところ、アーテルさんとナーヒさんが話を始めていた。
このふたりって昔からの知り合いなのかな?
「この少女がアーテル殿の命の恩人とは?」
「三カ月くらい前かな? ヴェノムグリズリーがこの街に現れたことがあって死にかけたんです。その時、助けてくれたのがノヴァとその治療薬でして」
「なるほど。錬金術士の治療薬とはそこまで効果が高いですか」
「高いですね。最初に使ったときは傷に思いっきりしみて絶叫しましたが」
そう言えばそんなこともあったなぁ。
あれから一度もお薬を使えていないんだっけ。
早くお薬を使っていいって許可が出ないかなぁ。
「それにしても、聖獣連れの錬金術士とは。報告を聞いたとき、ユーシュリア公爵も驚いておりましたよ?」
「でしょうね。そんな爆弾、取り扱いたくないでしょうから」
む、今度はバカにされている気がする。
ちょっとにらんでおこう。
「おや? かわいい錬金術士さんににらまれてしまいましたね」
「俺たちが爆弾扱いしたのが気に食わなかったのかな? ナーヒ殿、周囲の警戒を頼んでもいいですか?」
「お任せを。皆様はユーシュリア公爵が到着するまで店の中でお待ちください」
そのユーシュリア公爵という偉い人が来るまでまだ時間がかかるらしいので一度お店に入って待つことになった。
念のため裏庭が荒らされていないかも確認したけど大丈夫だったね。
荒らされていたらもうちょっと懲らしめてあげようと思ったのに。
そのまましばらく待っているとナーヒさんから「ユーシュリア公爵が到着した」と連絡があり、わたしたちは店の外に出て待つこととなった。
外に出てみんなひざまずいて待っているけどわたしもやった方がいいのかな?
スピカさんもアーテルさんもヴェルクさんも何も言わないけど。
「ユーシュリア公爵がご到着になりました!」
その号令で全員がバッと俯く。
えっと、どうすればいいのかな?
「どうしたのだ、小さき翼を持った少女よ」
「え?」
わたしに声をかけてきたのは少し白髪の交じった赤毛のおじさんだった。
結構な歳のようだけれど、体はがっしりしていて老けて見えない。
あれ、でも、少し顔がアーテルさんに似ているような?
「皆の者、面を上げよ」
おじさんの声で俯いていたみんなが顔を上げた。
なんだったのかな?
「久しいな、アーテル」
「お久しぶりです、お父様。ご健勝なようでなにより」
「うむ。それにしても天翼族の錬金術士とは。この国では天翼族というだけでも珍しいのに、さらに錬金術士とはな」
「はい。ちなみに、ノヴァにはわざと礼をとらせませんでしたが問題でしたでしょうか?」
「構わん。幼い子供だ。それに天翼族はプライドが高く、礼儀はわきまえてもひざまずきはしない。気になどせんさ」
「それはよかった。それで、お父様自ら来てくれたという事は考慮の余地ありという事ですね?」
「うむ、それなのだが……本当にこの少女が錬金術の薬を作れるのか?」
む、また信用されていない。
わたしってそんなに錬金術士に見えないのかな?
「見た目は子供ですが立派な錬金術士ですよ。ノヴァ、何か作ってみせてくれ」
「わかりました。なにがいいですか?」
「そうだな。わかりやすく傷薬にしよう」
「傷薬ですね。シシ、始めよう」
「にゃう!」
わたしの隣で様子を見守っていたシシが飛び出し、地面に踏ん張ったところでその上に錬金釜を浮かせる。
やってきた人たちはそれを見るだけでも驚いているけど、まだ始まっていないのにな。
シシが炎を出して錬金釜の準備が整うとわたしの出番。
いつも通り順番にお薬の材料を放り込んでっと。
「元気になーれ! ふっふふのふ~ん♪」
「にゃっにゃにゃにゃ~ん」
素材を入れ終わったら釜を棒でかき回して完成!
いつも通りの傷薬ができあがったよ!
「……ふむ。これが錬金術で作った傷薬か」
「そうですよ。見た事がないんですか?」
「ないな。錬金術士は才能が見いだされるとすぐに皆中央へ連れて行かれる。錬金術で作られた品々など、中央の人間しか知らないだろう」
そうなんだ。
だから誰に見せても反応がおんなじなんだね。
またひとつ賢くなった。
「さて、この傷薬だが、どの程度の傷まで癒せる?」
「えーっと、切り傷ならかなりざっくりいっていても治せます。やけどとかはあまり効きません」
「つまり、私が来る前に暴れていた連中の治療には使えぬと」
「あの人たちは別の理由でも治療が出来なくなっていますから」
「……やはり聖獣様の怒りを買ったか」
うん、聖獣さんが本気で戦闘を始めると相手の魂に傷を与えるんだって。
魂に傷を負った相手は傷の治りが遅くなるどころか治らなくなるそうな。
わたしは見た事がないけど恐ろしいよね。
シシに守られている側のわたしが言う事じゃないけど。
「それでは薬の効き目はわからぬか」
「お父様。冒険者ギルドで適当な怪我人を探してきましょうか?」
「……いや、ナーヒ!」
「はっ!」
ユーシュリア公爵さんの言葉に応えたナーヒさんが、懐からナイフを抜いて自分の腕に突き刺しちゃった!
なんて危ない事をするの!
「ナーヒ、傷薬だ」
「は、はい……くっ。すごい、少し傷にしみただけで傷痕すら残さず消えています」
「そうか。それではこの薬は本物だな」
「はい。本物の錬金術士の薬です」
「わかった。錬金術士ノヴァ。そなたの薬をこのフルートリオンの街にて販売する事をケウギーヌ = ユーシュリアの名をもって認める。……ちなみに軍用に大量販売などは受け付けるか?」
「大量販売はしません! お薬の効果を確かめるためとはいえ、わざと怪我をしないでください!」
もう!
みんな、する事が大胆なんだから!
でも、これでお薬を販売する許可ももらえたようだし、何も問題ないよね。
明日からもお仕事頑張ろう!
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