上 下
10 / 99
第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第二章 従魔契約と錬金術

10. 目覚めてみると……

しおりを挟む
「う、ううん……」

 あれ、わたし、どうしていたんだっけ?
 確か、末っ子フラッシュリンクスさんと従魔契約をしようとして、そのまま意識が遠のいて……。
 だめ、これ以上思い出せない。

「にゃう! にゃうにゃう!」

「あ、末っ子フラッシュリンクスさん。おはよう」

 木の葉のベッドの横には末っ子フラッシュリンクスさんがいた。
 末っ子フラッシュリンクスさんはわたしが目覚めたのを確認すると大きな声で鳴き、通路の方へ駆け出していった。
 変な末っ子フラッシュリンクスさん。
 あれ、でもなんだかわたしの体が変なような?
 背中になにかがくっついている気がする。
 何だろう?

『ノヴァ! 目を覚ましたか!』

『心配したわよ、ノヴァ!』

『ようやくか! ヒヤヒヤさせやがって!』

「ええと?」

 わたしがもぞもぞする背中をなんとかしようとしていたらお兄さんやお姉さんたちが部屋に飛び込んできた。
 一体なにがあったのかな?

『こら、あなたたち。いきなり全員で話しかけないの』

「あ、お母さん」

『ええ、お母さんよ。ノヴァ、体は大丈夫?』

 体?
 何のことを言っているんだろう?

「平気ですよ? 背中がちょっとムズムズするけど」

『落ち着いて聞きなさい。あなたは従魔契約を行ってから一カ月以上眠っていたの』

「え?」

『それから種族も変わったわ。人間族から天翼族、人間からは〝天使〟と呼ばれる種族に変わったわね。細かく言えば天翼族の中でも上位存在である炎翼族なんだけど』

「……え?」

 状況が飲み込めないわたしはそのまましばらく固まってしまった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


『……以上が大体の説明。理解できた?』

「ええと、なんとなく」

 従魔契約を試した後にお母さんが詳しく説明してくれた。
 従魔契約が終了すると同時にわたしは気を失ったんだって。
 倒れるのは長男フラッシュリンクスさんのおかげで大丈夫だったらしいんだけど、二日経っても目が覚めず様子を見に来たらわたしの背中に小さな翼が生えていたらしい。
 その翼は日を追うごとに大きくなっていき、いまではわたしの体を覆い包める程成長していた。
 翼の数は三対。
 お母さんによると、慣れてくれば翼は一対まで隠すことができるらしいけど、すべてを消すことはできないらしい。
 それから、お母さんが魔法で鏡のような物を作ってくれたからわかったんだけど、両耳の上に数本の羽が生えて頭の後ろの方に向かっていた。
 これも天翼族の特徴らしいよ。
 髪の色もピンクっぽい色に変わっていて、肌の色もきれいな白色。
 完全に別人になっちゃった。
 さらに天翼族になった結果、わたしの寿命もものすごく延びたみたい。
 天翼族の中でも上位の炎翼族だから怪我や病気に気を付ければ数万年生きられるんじゃないかって。
 ちょっと頭がクラクラしてきた。
 あとは、空が飛べるらしい。
 らしいというのは試しても浮かぶことすらできなかったためで、お母さんが教えてくれたところによると、魔力の流れが制御できてなくて飛ぶことができていないそうだ。
 こっちも慣れれば自由に飛べるようになるらしいから期待しておこう。

『状況説明は終わったわね。それじゃあ、ひとまずご飯にしましょうか』

「え? わたしお腹が空いていませんよ?」

『天翼族は魔力さえあれば生きていける種族だもの、魔力に満ちたこの空間ではお腹が減らないのは当然よ。でも、食事をしないと物を食べるという体の機能がだんだん失われていくかも知れないの。食事だって一カ月以上取ってないわけだし、一緒に食べましょう』

「そうですね。はい、わかりました」

 食事をしてみてわかったことは、食べ物の味もかなり違って感じるようになったって事。
 人間だったときはお兄さんお姉さんたちに炙ってもらっても苦みを少し感じていた果物だって甘く感じる。
 試しに炙っていない物を食べてみたけどこっちもへっちゃら。
 お母さんに言わせると吸収しなくちゃいけない栄養の種類が変わったことと、体が受ける毒の種類が変わったためなんだって。
 とりあえず、食事に困らなくなったことはいいことだと思う。
 こうして食事も終わり、次になにをするかお母さんに聞くと、わたしの従魔になった末っ子フラッシュリンクスさんの名前決めだった。
 ちなみに、末っ子フラッシュリンクスさんはわたしの膝の上でくつろいでいる。
 のんびりしてるなぁ。

「末っ子フラッシュリンクスさんの名前をわたしが決めていいんですか?」

『ええ。従魔契約の最後は従魔の名前を決めるところなの。いまはまだ従魔契約が半端な状態で止まっているわ。この子に名前を付けてあげて』

 うーん、名前かぁ。
 考えたこともなかったなぁ。

「四番目のお姉さんだから四姉じゃダメ……だよね」

「にゃう、にゃうん」

 末っ子フラッシュリンクスさんはそっぽを向いてしまった。
 やっぱりお気に召さないらしい。
 そうなると……こっちはどうだろう。

「じゃあ、シシっていうのはどうかな?」

「にゃ!」

 あ、こっちは喜んでくれたみたい。
 じゃあ、この子の名前はシシで決定だね!

『その子の名前、シシでいいのね』

「はい。末っ子フラッシュリンクスさんもシシでいいみたいなのでシシにします」

『わかったわ。それでは娘よ、一度ノヴァの膝の上から下りなさい』

「にゃうん!」

 末っ子フラッシュリンクスさんはわたしの膝の上から下り、わたしと向かい合ってくれた。
 この後どうすればいいんだろう?

『ノヴァ。あなたは娘に向かって魔力を送りながら名前を呼んであげて。それで名付けも完了よ』

「わかりました。えっと、こう、かな」

 わたしは体の中にある温かい物を末っ子フラッシュリンクスさんに送り届ける。
 それは温かく燃える炎の色を宿して末っ子フラッシュリンクスさんに届いていた。

「それじゃあ末っ子フラッシュリンクスさん。あなたの名前は〝シシ〟です。これからよろしくね」

「にゃおん!」

 末っ子フラッシュリンクスさん、シシが一鳴きするとシシの体が赤い光で包まれてその姿を隠した。
 少しするとその光りもなくなりシシが姿を現したんだけど少しだけ体の形が変わっていたよ。
 まず、背中……前脚のつけ根あたりから炎の翼が生えて空を飛んでいる。
 それから頭のてっぺんにあった耳もなくなり、空に向かってピシッと生えた羽に変わっていた。
 ちょっとかっこよくなったかも。

『シシも炎翼族であるあなたと契約したことでその姿を変えたようね。これからもシシと仲良くしてあげてね』

「はい、お母さん!」

「にゃあ!」

「……シシ、喋れないの?」

「にゃあ?」

『言葉を話すにはまだ早いみたい。鳴き声や仕草から感情を読み取ってあげて』

「はい!」

「にゃ!」

 あ、いまはシシも「はい」って言った気がする。
 これから一緒に頑張って行こうね、シシ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく
ファンタジー
 西暦21XX年。予言の日から100年余りを過ぎた頃、ようやく地球にやってきた『アンゴルモア大王』の出現により、世界は核の炎に包まれた。  その絶望の世界をアンゴルモア大王が慈悲の心で再創造を|行《おこな》い、それから1200年という月日が流れる。  地球は|魔物《モンスター》や魔法が溢れる世界へと様変わりしてしまう。その中で人々は過酷な環境に抗いつつ、文明を再び築きあげていくのであった。  ニンゲンたちは『半獣半人』と呼ばれる種族として生まれ変わり、アンゴリア大王国、ポールランド副王国、イタリアーノ副王国、フランク副王国の4か国で生活するようになる。  そんな世界において、アンゴルモア四天王のひとりに『拳聖』と呼ばれる女性:キョーコ=モトカードがいた。  彼女は多くの優秀な弟子を輩出したが、その中でも8年前に命をすくった少年:ロック=イートを自分の後継者として指名する。  しかし、それがいけなかった。ロック=イートには『世界最強の生物』となる夢がある。  それが原因で拳聖:キョーコ=モトカードは自分が育てた『裏』に反旗を翻されることとなる。  そして、『裏』は拳聖の一番弟子であるロック=イートの右腕を切断してしまう。 利き腕を失ったことで再起不能になってしまったかのように見えたロック=イートは、師匠である拳聖から『|天叢雲剣《アメノムラクモノツルギ》』と呼ばれる義腕を託される……。  ロック=イートはその後、強制労働所へ搬送されるが、彼は未だに『世界最強の生物』になる夢を捨てることはなかった。  彼は彼の夢を自分の手でへし折ることをよしとしない。その夢を叶えるためには、この世界の|理《ことわり》を造った主アンゴルモア大王を越えねばならぬのにだ。  ロック=イートは果てない『夢追い人』として、この過酷な世界で|拳《こぶし》を天に突きあげ、渇望の雄叫びを上げる。

異世界で、おばちゃんナース、無双・暴走します。

lily
ファンタジー
看護師として働いて数十年。アラフォーになっていた。日々仕事にあけくれて、働いて、働いて、働いて。 目の前暗くなって… あれ、なんか、目が覚めた?? と思ったら、森の中でした。 アラフォーだから、図太く生きてやる‼︎おばさんなめんなよ? 自重なんて、どっか置いてきた! これは、おばちゃんナースが獣人見つけてもふもふしたり、嫌いなものをぶっ飛ばしたり。 ドキドキしたり。 そんなお話。 ※諸事情により、更新が大変遅れます。申し訳ありません。2020,8,20 記載。 ※異世界行くまで少し長いかも知れません。一個人の日々の愚痴が入ります。 愚痴なんて聞きたくないよって方は3話目からどうぞ。 ※このような時期ですので、謝罪いたします。不快と思われる方は、Uターンしてください。 ※感染症に関する規制があるようです。規制内容が曖昧で削除される可能性があります。序章のみの変更で大丈夫かとは思われますが、削除された場合は内容を変更して再投稿致します。 しおり機能を利用されている方にはご迷惑をお掛けします。 ※ノミよりも小さい心臓ですので、誹謗中傷には負けます。そっと退室してください。お願いします。 ※恋愛も含める予定です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

住所不定の引きこもりダンジョン配信者はのんびりと暮らしたい〜双子の人気アイドル配信者を助けたら、目立ちまくってしまった件〜

タジリユウ
ファンタジー
外の世界で仕事やお金や家すらも奪われた主人公。 自暴自棄になり、ダンジョンへ引きこもってひたすら攻略を進めていたある日、孤独に耐えられずにリスナーとコメントで会話ができるダンジョン配信というものを始めた。 数少ないリスナー達へ向けて配信をしながら、ダンジョンに引きこもって生活をしていたのだが、双子の人気アイドル配信者やリスナーを助けることによってだんだんと… ※掲示板回は少なめで、しばらくあとになります。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

処理中です...