上 下
59 / 100
第2部 街を駆け巡る〝ペットテイマー〟 第5章 〝ペットテイマー〟ドラマリーンへ

59. ドラマリーンでの交渉

しおりを挟む
 さて、目の前にいる虎獣人のギルドマスター、デレック様。
 この依頼状を見てどう反応するかな?

「私も冒険者ギルドマスターでしてな。細かい話は苦手なのですよ。本題から入りましょう。アイリーン特使はアイリーンの冒険者ギルドからどのような書状をお持ちで?」

「はい。こちらになります」

 私は《ストレージ》の中から1枚の便せんを取り出した。
 それに驚いているのは、デレック様だね。

「ふむ。特使様は冒険者と聞いていたが《ストレージ》まで使えるか。それならば上級貴族や豪商の使用人になった方が待遇も生活環境もよくなるのでは?」

「私はそれを望みません。あくまでも〝ウルフ狩りのステップワンダー〟でいたいんです。そして、これが書状です」

「〝ウルフ狩りのステップワンダー〟ですか。あれだけの功績を挙げて、なお、ウルフ狩りにこだわるとは。オークだって一般兵クラスならいくらでも狩れるでしょうに」

「アイリーンの街ってオーク肉に需要がないんです。むしろ、食べやすいウルフ肉の方が需要はあります」

「なるほど。……ふむ、こちらの冒険者ギルドで〝オークの砦〟攻めのための冒険者を募集してほしい。報酬は冒険者ひとりあたり前金で金貨10枚と戦果による増額。鋼の武器も支給。話がうますぎますね。その真意は?」

 う、やっぱりおいしすぎる仕事だって見抜かれちゃうんだ。
 サンドロックさんにはある程度話していいって言われているし、話せる範囲で話しちゃおう。

「今回、アイリーンの街を襲ってきたオーク兵は階級が一番低い者こそ鉄の剣に木の鎧でしたが、少し階級が上がっただけでも鉄の鎧を身につけていました。ハイオークになると鋼の剣に鋼の鎧です。救援に駆けつけていただく冒険者の方々には、オーククラスの相手をしていただくことが前提になります。ハイオーク以上はアイリーンの冒険者で倒します」

「なるほど、アイリーンの冒険者は鋼を切り裂けるだけの装備。おそらく、ミスリル合金の剣も用意してあると。それくらい、今回のオークは強いですか」

「それは……」

 どうしよう、これ以上話していいかがわからない。
 私がオークジェネラル2匹を倒したことは伝わっているみたいだけれど、その装備がなんなのかまでは伝わっていないっぽいし。

「特使様、その表情だけですべて伝わりますよ。特使を務めるなら、もっと表情をお隠しにならないと」

「う……」

「そうなると、オークブラックスミスだけではなく、オークアルケミストまで多数おりますな。そちらの対応は?」

「私を初めとした隠密行動部隊が暗殺して回ります。私はいろいろと奥の手を隠し持っていますので」

「なるほど。ですが、それだけでは人員が不足するでしょう。我が街からも隠密行動部隊を出しましょうか。ただし、ひとりあたり金貨20枚と出来高制です」

 う、困った……。
 値段交渉をしていいのかも聞いてきていない。
 私、特使の役目を果たせていない……。

「ふむ、その様子ですと、値段交渉の権利すら与えられていないようですね」

「……申し訳ありません。私に与えられた命令は書状を届けるだけですので」

「なるほど。ちなみに特使様は冒険者でしたよね? 冒険者になってから何年ですかな?」

「……今年の夏の終わり頃で1年です」

「なるほど。戦功や街への貢献度は立派ですが、経験不足を考慮されて権限を与えられていないのでしょう。難しい話はギルドマスター同士でいたしますよ。ひとまずこの話は受理いたしましょう」

「え? 受けてくださるのですか?」

「もちろん。Dランクに上がっても、鋼の武器を買えないでいる冒険者は、数が多いですからね。危険な壁役を行わないことを、ギルドマスター同士の話し合いで取り決めさせていただきますが、この申し出はありがたいお話です。それに、金貨10枚もあれば、新しい装備を一式手に入れることもできるでしょうからね」

「ありがとうございます。これでもう1枚の書状を使わないですみました」

「もう1枚の書状。領主命令による依頼命令書ですか? 確かにそれは使われたくありませんね」

 うう、私の言葉から全部漏れちゃってる。
 この人、本当にできる。

「さて、依頼の話はこれで終わりでしょう。特使様はこのあとどうお過ごしになるのですかな?」

「依頼の話はまとまりましたが1週間はこの街に滞在いたします。その間に、キラーヴァイパーやヴェノムヴァイパーを狩って素材を持ち帰りたいのですが、問題ありますでしょうか?」

「いえ、なんら問題ありません。それに、キラーヴァイパーはもうすぐ大討伐の時期でした。特使様が数を減らしてくだされば冒険者の犠牲も減るというもの。討伐数確認のため、ギルド職員も同行させますがよろしいでしょうか?」

「はい。問題ありません。では、そちらの準備もあるでしょうから2日後行いたいと思います」

「よろしくお願いします。ただ、キラーヴァイパーの肉はある程度当ギルドに販売していただけますでしょうか? 高級肉としての需要があるものでして」

「キラーヴァイパーだけでいいのですか? ヴェノムヴァイパーも狩る予定ですが……」

「ヴェノムヴァイパーの肉は食用に向きません。錬金術師が装備素材に錬成するときに使う素材です」

 なるほど、いいこと聞いちゃった。
 アダムさんへのいいお土産にできそう。

「わかりました。キラーヴァイパーの肉を販売して帰りましょう。それから、衛兵の方から新人冒険者に対してウルフ狩りの基礎を教えてほしいという依頼もありましたが」

「ほう。受けていただけるのでしたら是非」

「新人冒険者たちに貸し与える装備の実費をギルドが負担してくれるのでしたら請け負います。買い与えるのは普通の鉄製装備になるのでそんな高額にはならないでしょう」

「そうですな。その程度でしたら負担いたしましょう。いつ実施していただけますか?」

「ヴァイパー狩りの翌日にでも。ヴァイパー狩りが不調でしたらその次の日もヴァイパー狩りに挑ませていただきます」

「わかりました。できれば4日目もヴァイパー狩りを行っていただけますか? 街の冒険者にもヴァイパー狩りのやり方を教えたい」

「構いませんが、私の狩り方はかなり特殊になると思いますよ?」

「それでも参考にしますよ。それすらできないのでは冒険者失格だ」

 この人、厳しいなぁ。
 でも、サンドロックさんも厳しい人だったから、ギルドマスターってみんなこうなのかも。

「承知いたしました。では4日後もヴァイパー狩りをやらせていただきます」

「ええ。私はその間にこの依頼をクエストボードに出し、ウルフ狩り講習やヴァイパー狩り講習の話を進めて参りましょう」

「よろしくお願いします。……それにしても、ずいぶんすんなりと話を受けてくださいましたね?」

「我が街としても利のある依頼ですからね。守りが一時薄くなりますが、領主の兵団がいるのでさほど問題ないでしょう。それに、センディアの二の舞はごめんです」

 ……ああ、なるほど。
 だから、私をセンディア問題が片付くまでこっちに向かわせなかったんだ。
 大人って汚い。

「それでは、会談終了ですね。本日からはどちらの宿にお泊まりに?」

「ええと、ホテルセイレーンという宿です」

「おお、あそこですか。あそこの食堂では歌姫の歌が聴けてなかなか素晴らしい宿ですよ。旅の休暇を満喫していってください。案内の者もつけましょう」

 こうして、私はホテルセイレーンまでギルド職員さんに案内してもらえた。
 その人は私と同じステップワンダーで、もう120年もこの街で暮らしているんだって。
 修行期間は終わったけれど、この街が気に入ったから里には帰らないそうだよ。
 私も似たようなことになりそう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり
ファンタジー
五歳を過ぎたあたりから、体調を壊し始めた弟。 お医者さんに診断を受けると、自家性魔力中毒症と診断される。 「大体、二十までは生きられないでしょう」 「ふざけるな。何か治療をする方法はないのか?」 その日は、なにも言わず。 ただ首を振って帰った医者だが、数日後にやって来る。 『精霊種の住まう森にフォビドゥンフルーツなるものが存在する。これすなわち万病を癒やす霊薬なり』 こんな事を書いた書物があったようだ。 だが、親を含めて、大人達はそれを信じない。 「あての無い旅など無謀だ」 そう言って。 「でも僕は、フィラデルを救ってみせる」 そして僕は、それを求めて旅に出る。 村を出るときに付いてきた幼馴染み達。 アシュアスと、友人達。 今五人の冒険が始まった。 全くシリアスではありません。 五人は全員、村の外に出るとチートです。ご注意ください。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

末期の引きこもりが魔王のペットになって全力で愛でられます。

雪野ゆきの
恋愛
引きこもり生活かれこれ300年。久しぶりにお外に出て徹夜明けのテンションでふざけて魔王のペットに志願してみました。当然警備のヒト怒られて帰ったけど魔王が家まで追って来た!?ちょっと私今裸なんだけど……。え?養いたい?私を?マジか。 魔王がやっと自分の癒しを見つけて不器用ながらも全力で愛でるお話。 なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

ペットになった

アンさん
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

処理中です...