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第2部 街を駆け巡る〝ペットテイマー〟 第5章 〝ペットテイマー〟ドラマリーンへ
59. ドラマリーンでの交渉
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さて、目の前にいる虎獣人のギルドマスター、デレック様。
この依頼状を見てどう反応するかな?
「私も冒険者ギルドマスターでしてな。細かい話は苦手なのですよ。本題から入りましょう。アイリーン特使はアイリーンの冒険者ギルドからどのような書状をお持ちで?」
「はい。こちらになります」
私は《ストレージ》の中から1枚の便せんを取り出した。
それに驚いているのは、デレック様だね。
「ふむ。特使様は冒険者と聞いていたが《ストレージ》まで使えるか。それならば上級貴族や豪商の使用人になった方が待遇も生活環境もよくなるのでは?」
「私はそれを望みません。あくまでも〝ウルフ狩りのステップワンダー〟でいたいんです。そして、これが書状です」
「〝ウルフ狩りのステップワンダー〟ですか。あれだけの功績を挙げて、なお、ウルフ狩りにこだわるとは。オークだって一般兵クラスならいくらでも狩れるでしょうに」
「アイリーンの街ってオーク肉に需要がないんです。むしろ、食べやすいウルフ肉の方が需要はあります」
「なるほど。……ふむ、こちらの冒険者ギルドで〝オークの砦〟攻めのための冒険者を募集してほしい。報酬は冒険者ひとりあたり前金で金貨10枚と戦果による増額。鋼の武器も支給。話がうますぎますね。その真意は?」
う、やっぱりおいしすぎる仕事だって見抜かれちゃうんだ。
サンドロックさんにはある程度話していいって言われているし、話せる範囲で話しちゃおう。
「今回、アイリーンの街を襲ってきたオーク兵は階級が一番低い者こそ鉄の剣に木の鎧でしたが、少し階級が上がっただけでも鉄の鎧を身につけていました。ハイオークになると鋼の剣に鋼の鎧です。救援に駆けつけていただく冒険者の方々には、オーククラスの相手をしていただくことが前提になります。ハイオーク以上はアイリーンの冒険者で倒します」
「なるほど、アイリーンの冒険者は鋼を切り裂けるだけの装備。おそらく、ミスリル合金の剣も用意してあると。それくらい、今回のオークは強いですか」
「それは……」
どうしよう、これ以上話していいかがわからない。
私がオークジェネラル2匹を倒したことは伝わっているみたいだけれど、その装備がなんなのかまでは伝わっていないっぽいし。
「特使様、その表情だけですべて伝わりますよ。特使を務めるなら、もっと表情をお隠しにならないと」
「う……」
「そうなると、オークブラックスミスだけではなく、オークアルケミストまで多数おりますな。そちらの対応は?」
「私を初めとした隠密行動部隊が暗殺して回ります。私はいろいろと奥の手を隠し持っていますので」
「なるほど。ですが、それだけでは人員が不足するでしょう。我が街からも隠密行動部隊を出しましょうか。ただし、ひとりあたり金貨20枚と出来高制です」
う、困った……。
値段交渉をしていいのかも聞いてきていない。
私、特使の役目を果たせていない……。
「ふむ、その様子ですと、値段交渉の権利すら与えられていないようですね」
「……申し訳ありません。私に与えられた命令は書状を届けるだけですので」
「なるほど。ちなみに特使様は冒険者でしたよね? 冒険者になってから何年ですかな?」
「……今年の夏の終わり頃で1年です」
「なるほど。戦功や街への貢献度は立派ですが、経験不足を考慮されて権限を与えられていないのでしょう。難しい話はギルドマスター同士でいたしますよ。ひとまずこの話は受理いたしましょう」
「え? 受けてくださるのですか?」
「もちろん。Dランクに上がっても、鋼の武器を買えないでいる冒険者は、数が多いですからね。危険な壁役を行わないことを、ギルドマスター同士の話し合いで取り決めさせていただきますが、この申し出はありがたいお話です。それに、金貨10枚もあれば、新しい装備を一式手に入れることもできるでしょうからね」
「ありがとうございます。これでもう1枚の書状を使わないですみました」
「もう1枚の書状。領主命令による依頼命令書ですか? 確かにそれは使われたくありませんね」
うう、私の言葉から全部漏れちゃってる。
この人、本当にできる。
「さて、依頼の話はこれで終わりでしょう。特使様はこのあとどうお過ごしになるのですかな?」
「依頼の話はまとまりましたが1週間はこの街に滞在いたします。その間に、キラーヴァイパーやヴェノムヴァイパーを狩って素材を持ち帰りたいのですが、問題ありますでしょうか?」
「いえ、なんら問題ありません。それに、キラーヴァイパーはもうすぐ大討伐の時期でした。特使様が数を減らしてくだされば冒険者の犠牲も減るというもの。討伐数確認のため、ギルド職員も同行させますがよろしいでしょうか?」
「はい。問題ありません。では、そちらの準備もあるでしょうから2日後行いたいと思います」
「よろしくお願いします。ただ、キラーヴァイパーの肉はある程度当ギルドに販売していただけますでしょうか? 高級肉としての需要があるものでして」
「キラーヴァイパーだけでいいのですか? ヴェノムヴァイパーも狩る予定ですが……」
「ヴェノムヴァイパーの肉は食用に向きません。錬金術師が装備素材に錬成するときに使う素材です」
なるほど、いいこと聞いちゃった。
アダムさんへのいいお土産にできそう。
「わかりました。キラーヴァイパーの肉を販売して帰りましょう。それから、衛兵の方から新人冒険者に対してウルフ狩りの基礎を教えてほしいという依頼もありましたが」
「ほう。受けていただけるのでしたら是非」
「新人冒険者たちに貸し与える装備の実費をギルドが負担してくれるのでしたら請け負います。買い与えるのは普通の鉄製装備になるのでそんな高額にはならないでしょう」
「そうですな。その程度でしたら負担いたしましょう。いつ実施していただけますか?」
「ヴァイパー狩りの翌日にでも。ヴァイパー狩りが不調でしたらその次の日もヴァイパー狩りに挑ませていただきます」
「わかりました。できれば4日目もヴァイパー狩りを行っていただけますか? 街の冒険者にもヴァイパー狩りのやり方を教えたい」
「構いませんが、私の狩り方はかなり特殊になると思いますよ?」
「それでも参考にしますよ。それすらできないのでは冒険者失格だ」
この人、厳しいなぁ。
でも、サンドロックさんも厳しい人だったから、ギルドマスターってみんなこうなのかも。
「承知いたしました。では4日後もヴァイパー狩りをやらせていただきます」
「ええ。私はその間にこの依頼をクエストボードに出し、ウルフ狩り講習やヴァイパー狩り講習の話を進めて参りましょう」
「よろしくお願いします。……それにしても、ずいぶんすんなりと話を受けてくださいましたね?」
「我が街としても利のある依頼ですからね。守りが一時薄くなりますが、領主の兵団がいるのでさほど問題ないでしょう。それに、センディアの二の舞はごめんです」
……ああ、なるほど。
だから、私をセンディア問題が片付くまでこっちに向かわせなかったんだ。
大人って汚い。
「それでは、会談終了ですね。本日からはどちらの宿にお泊まりに?」
「ええと、ホテルセイレーンという宿です」
「おお、あそこですか。あそこの食堂では歌姫の歌が聴けてなかなか素晴らしい宿ですよ。旅の休暇を満喫していってください。案内の者もつけましょう」
こうして、私はホテルセイレーンまでギルド職員さんに案内してもらえた。
その人は私と同じステップワンダーで、もう120年もこの街で暮らしているんだって。
修行期間は終わったけれど、この街が気に入ったから里には帰らないそうだよ。
私も似たようなことになりそう。
この依頼状を見てどう反応するかな?
「私も冒険者ギルドマスターでしてな。細かい話は苦手なのですよ。本題から入りましょう。アイリーン特使はアイリーンの冒険者ギルドからどのような書状をお持ちで?」
「はい。こちらになります」
私は《ストレージ》の中から1枚の便せんを取り出した。
それに驚いているのは、デレック様だね。
「ふむ。特使様は冒険者と聞いていたが《ストレージ》まで使えるか。それならば上級貴族や豪商の使用人になった方が待遇も生活環境もよくなるのでは?」
「私はそれを望みません。あくまでも〝ウルフ狩りのステップワンダー〟でいたいんです。そして、これが書状です」
「〝ウルフ狩りのステップワンダー〟ですか。あれだけの功績を挙げて、なお、ウルフ狩りにこだわるとは。オークだって一般兵クラスならいくらでも狩れるでしょうに」
「アイリーンの街ってオーク肉に需要がないんです。むしろ、食べやすいウルフ肉の方が需要はあります」
「なるほど。……ふむ、こちらの冒険者ギルドで〝オークの砦〟攻めのための冒険者を募集してほしい。報酬は冒険者ひとりあたり前金で金貨10枚と戦果による増額。鋼の武器も支給。話がうますぎますね。その真意は?」
う、やっぱりおいしすぎる仕事だって見抜かれちゃうんだ。
サンドロックさんにはある程度話していいって言われているし、話せる範囲で話しちゃおう。
「今回、アイリーンの街を襲ってきたオーク兵は階級が一番低い者こそ鉄の剣に木の鎧でしたが、少し階級が上がっただけでも鉄の鎧を身につけていました。ハイオークになると鋼の剣に鋼の鎧です。救援に駆けつけていただく冒険者の方々には、オーククラスの相手をしていただくことが前提になります。ハイオーク以上はアイリーンの冒険者で倒します」
「なるほど、アイリーンの冒険者は鋼を切り裂けるだけの装備。おそらく、ミスリル合金の剣も用意してあると。それくらい、今回のオークは強いですか」
「それは……」
どうしよう、これ以上話していいかがわからない。
私がオークジェネラル2匹を倒したことは伝わっているみたいだけれど、その装備がなんなのかまでは伝わっていないっぽいし。
「特使様、その表情だけですべて伝わりますよ。特使を務めるなら、もっと表情をお隠しにならないと」
「う……」
「そうなると、オークブラックスミスだけではなく、オークアルケミストまで多数おりますな。そちらの対応は?」
「私を初めとした隠密行動部隊が暗殺して回ります。私はいろいろと奥の手を隠し持っていますので」
「なるほど。ですが、それだけでは人員が不足するでしょう。我が街からも隠密行動部隊を出しましょうか。ただし、ひとりあたり金貨20枚と出来高制です」
う、困った……。
値段交渉をしていいのかも聞いてきていない。
私、特使の役目を果たせていない……。
「ふむ、その様子ですと、値段交渉の権利すら与えられていないようですね」
「……申し訳ありません。私に与えられた命令は書状を届けるだけですので」
「なるほど。ちなみに特使様は冒険者でしたよね? 冒険者になってから何年ですかな?」
「……今年の夏の終わり頃で1年です」
「なるほど。戦功や街への貢献度は立派ですが、経験不足を考慮されて権限を与えられていないのでしょう。難しい話はギルドマスター同士でいたしますよ。ひとまずこの話は受理いたしましょう」
「え? 受けてくださるのですか?」
「もちろん。Dランクに上がっても、鋼の武器を買えないでいる冒険者は、数が多いですからね。危険な壁役を行わないことを、ギルドマスター同士の話し合いで取り決めさせていただきますが、この申し出はありがたいお話です。それに、金貨10枚もあれば、新しい装備を一式手に入れることもできるでしょうからね」
「ありがとうございます。これでもう1枚の書状を使わないですみました」
「もう1枚の書状。領主命令による依頼命令書ですか? 確かにそれは使われたくありませんね」
うう、私の言葉から全部漏れちゃってる。
この人、本当にできる。
「さて、依頼の話はこれで終わりでしょう。特使様はこのあとどうお過ごしになるのですかな?」
「依頼の話はまとまりましたが1週間はこの街に滞在いたします。その間に、キラーヴァイパーやヴェノムヴァイパーを狩って素材を持ち帰りたいのですが、問題ありますでしょうか?」
「いえ、なんら問題ありません。それに、キラーヴァイパーはもうすぐ大討伐の時期でした。特使様が数を減らしてくだされば冒険者の犠牲も減るというもの。討伐数確認のため、ギルド職員も同行させますがよろしいでしょうか?」
「はい。問題ありません。では、そちらの準備もあるでしょうから2日後行いたいと思います」
「よろしくお願いします。ただ、キラーヴァイパーの肉はある程度当ギルドに販売していただけますでしょうか? 高級肉としての需要があるものでして」
「キラーヴァイパーだけでいいのですか? ヴェノムヴァイパーも狩る予定ですが……」
「ヴェノムヴァイパーの肉は食用に向きません。錬金術師が装備素材に錬成するときに使う素材です」
なるほど、いいこと聞いちゃった。
アダムさんへのいいお土産にできそう。
「わかりました。キラーヴァイパーの肉を販売して帰りましょう。それから、衛兵の方から新人冒険者に対してウルフ狩りの基礎を教えてほしいという依頼もありましたが」
「ほう。受けていただけるのでしたら是非」
「新人冒険者たちに貸し与える装備の実費をギルドが負担してくれるのでしたら請け負います。買い与えるのは普通の鉄製装備になるのでそんな高額にはならないでしょう」
「そうですな。その程度でしたら負担いたしましょう。いつ実施していただけますか?」
「ヴァイパー狩りの翌日にでも。ヴァイパー狩りが不調でしたらその次の日もヴァイパー狩りに挑ませていただきます」
「わかりました。できれば4日目もヴァイパー狩りを行っていただけますか? 街の冒険者にもヴァイパー狩りのやり方を教えたい」
「構いませんが、私の狩り方はかなり特殊になると思いますよ?」
「それでも参考にしますよ。それすらできないのでは冒険者失格だ」
この人、厳しいなぁ。
でも、サンドロックさんも厳しい人だったから、ギルドマスターってみんなこうなのかも。
「承知いたしました。では4日後もヴァイパー狩りをやらせていただきます」
「ええ。私はその間にこの依頼をクエストボードに出し、ウルフ狩り講習やヴァイパー狩り講習の話を進めて参りましょう」
「よろしくお願いします。……それにしても、ずいぶんすんなりと話を受けてくださいましたね?」
「我が街としても利のある依頼ですからね。守りが一時薄くなりますが、領主の兵団がいるのでさほど問題ないでしょう。それに、センディアの二の舞はごめんです」
……ああ、なるほど。
だから、私をセンディア問題が片付くまでこっちに向かわせなかったんだ。
大人って汚い。
「それでは、会談終了ですね。本日からはどちらの宿にお泊まりに?」
「ええと、ホテルセイレーンという宿です」
「おお、あそこですか。あそこの食堂では歌姫の歌が聴けてなかなか素晴らしい宿ですよ。旅の休暇を満喫していってください。案内の者もつけましょう」
こうして、私はホテルセイレーンまでギルド職員さんに案内してもらえた。
その人は私と同じステップワンダーで、もう120年もこの街で暮らしているんだって。
修行期間は終わったけれど、この街が気に入ったから里には帰らないそうだよ。
私も似たようなことになりそう。
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