上 下
56 / 100
第2部 街を駆け巡る〝ペットテイマー〟 第4章 〝ペットテイマー〟旅の休み

56. ウサギ探し

しおりを挟む
 領主邸でリオ様にペットたちを見せた翌日は、〝シラタマの丘〟でウサギを探してみることになった。
 ただ、まだオーク軍の残党がいるかもしれないっていうことで、騎士の人も大勢いるんだよね。
 大丈夫かなぁ。

「ねえ、シラタマ。仲間だけど出てきてくれると思う」

『わからないの。ウサギって臆病だから、人がたくさんいると、怖がって巣穴から出てこない可能性があるの。でも、オークから守ってくれるいい人たちだとわかれば出てくるかもしれないし、運なの』

「運ですか……残念です」

 リオ様は落ち込んじゃったけど、こればかりはなぁ。
 そもそもウサギがどの程度残っているかもわからないし。

「私たちも呼びかけてみましょうか、シズクお姉ちゃん?」

「んー、それは最後にしよう。〝ペットテイマー〟といっても人がいることがわかれば警戒されるかも」

「そうですか。ペットを育てるのも増やすのも難しいです」

「今の時代、小動物たちには会いにくいみたいだしね。あ、〝シラタマの丘〟についたみたい」

 まずは騎士たちが安全確認ということで、丘の中央部を避けて周囲の監視に向かった。
 その装備も鋼よりきらめいていて、ミスリル合金かな?
 その場に残って周囲を警戒するグループと、森の中に分け入って探索するグループに分かれるみたい。
 あの重たそうな金属鎧で森の中を歩くって大変そう。

 そして、一時間ほどすると探索に出ていた人たちも帰ってきた。
 そのあと、ひとりの騎士が小走りにこの馬車へと近づいてきて礼をとりながら、奥方様に報告をしてくれたよ。

「周囲の確認終わりました。オークどもの存在は確認できません」

「ご苦労。今後も警戒は怠らないように」

「はっ!」

 それだけ告げると騎士の人はまた小走りで帰って行っちゃった。
 うん、私には騎士なんて無理だね。
 気ままな冒険者で〝ウルフ狩りのステップワンダー〟がちょうどいいよ。

「それでは参りましょうか、3人とも。うまくウサギたちが見つかってくれるといいのですが……」

「申し訳ありません。こればかりは保証が……」

「いえ、構いません。無理を承知でお願いしたのはこちらですから」

 ともかく、私とミーベルン、ギスヒーナ様、リオ様は馬車から降りシラタマの丘へ。
 試しに《気配判別》をしてみると……結構いるんだけど、かなり警戒されちゃっているみたい。
 シラタマの説得で出てきてくれるかな?

「シラタマ、早速だけど、お願い」

『わかったの』

「くー! (みんな! お腹の空いている子はいないの!? おいしいご飯をあげるの!!)」

「いや、シラタマ、いきなり餌で釣らないでよ」

『でも、これが一番わかりやすいの。ほら』

 ウサギたちが巣穴の中から顔を覗かせてくれた。
《気配判別》の色も中立になっているし、よっぽどお腹が空いているのかな?

『シズク、ミーベルン。《ペット用ご飯作り》なの!』

「う、うん、わかった」

「はい! 頑張ります」

 顔を覗かせているウサギたちを観察しながら、《ペット用ご飯作り》でそれぞれにあったご飯を作ってあげる。
 すると、匂いに引きつけられたのか、1匹、また1匹と巣穴の中から顔を出して取ってき始めた。
 このままじゃ、ご飯を巡って争奪戦になりそう!?

「みんな、落ち着いてね! みんなのご飯を作るだけの野菜の葉っぱやお野菜はいっぱい用意してあるから!」

「ケンカしちゃだめだよ。みんな仲良く食べてね?」

「ぷー! (はーい!)」

 私たちのもとに集まってきたウサギたちは餌をおいしそうに食べていくと、ある程度食べたところで交代、次の子たちが食べ始める。
 それを何度も繰り返し、ウサギたちの食事が終わったのは2時間後だった。

『大丈夫なの、みんな。まだお腹は空いてないの?』

「くー(もうちょっと空いているけど、これだけ食べられれば幸せー)」

「ぷー(最近は怖い人やモンスターのせいで食事が満足にできなかったから幸せー)」

「そうだったんだ。ごめんね、気付いてあげられなくて」

「すー? (なんでお姉さんが謝るの?)」

「私、時々、この丘を見回りにきていたんだよ。でも、ウサギさんたちがこんなに棲んでいるだなんて思わなかったから」

「ぷー(そういえば見たことあるー。でっかい犬に乗ってたー)」

「すー(怖いから近づけなかったのー)」

 やっぱり。
 キントキだって私が乗るサイズになっていたら怖いよね。

「くー? (お姉さんたちのご用事ってご飯だけ?)」

「ああ、えっとね。あっちにいる女の子と一緒に遊んでほしいの。大丈夫?」

「ぷー! (いいよ! 悪い人間じゃなさそうだし!)」

「くー! (みんな! 突撃―!)」

 突撃ってちょっと!?
 止める間もなく、ウサギたちはリオ様を取り囲んでプークー鳴きだした。
 それを見たリオ様も最初は恐る恐るだったものの、最初の1匹をなでると、ウサギたちの方からじゃれつき始めてもみくちゃにされていた。

 そのあともしばらくはウサギたちとリオ様の遊びは続き、リオ様も草まみれになりながら、ウサギたちとのひとときを楽しんでいたね。
 ああ、でもそろそろ帰る時間になっちゃうのかな?

「リオ、残念だけど、そろそろ帰る時間よ」

「ええ、お母様、もう帰る時間ですか?」

「あなたがウサギたちと遊びたいのはわかるけれど、他にもすることはあるでしょう?」

「うう……残念です」

「くー(リオちゃん、帰っちゃうんだ)」

「ぷー(残念だなぁ。もっと遊びたかったのに)」

 あ、これならいけるかも。

「ねえ、ウサギたち。誰かリオちゃんと一緒にリオちゃんのお家に帰って一緒に暮らしてあげる子はいない?」

「くー? (リオちゃんのお家?)」

「ぷー? (それって僕たちでも棲めるの?)」

「どうなんでしょう、ギスヒーナ様」

「そうね、数匹くらいなら大丈夫よ。ああ、でも、飼育はどうしようかしら」

 飼育、飼育かぁ。
 私の《ペット用ご飯作り》と《ペット言語理解》を渡せればいいんだけれど。

『ふむ。飼育について困っているようじゃな』

「ミネル」

『シズク。いまのお前なら《ペット用ご飯作り》と《ペット言語理解》を渡すことができるぞ』

「あれ? もう少し強くならなくやいけないんじゃ?」

『センディアで特殊変異個体と戦ったおかげじゃろう。お主の魔力が上がっておる。試しにリオへと渡してみるといい』

「わかった。リオ様。私のスキルを一部、与えます。拒まなければリオ様のものになるので受け取ってください」

「は、はい!」

 私は《ペット用ご飯作り》と《ペット言語理解》をイメージしながら魔力を圧縮していった。
 するとできたのは、赤と青の魔力の塊。
 これをリオ様に渡せばいいのかな?

「リオ様、これをどうぞ」

「わかりました。……あれ? ウサギたちの声が普通に人の声として聞こえます」

『やったあ! リオの声も普通に聞こえるようになった!』

『これで一緒に行っても大丈夫だね!』

「ええと、お母様」

「わかりました。3匹までなら連れ帰ることを許しましょう。ただ、ウサギは10年も生きられないそうです。あなたよりも早くお別れすることの覚悟は決めて飼い始めなさい」

「10年……わかりました。その間にたくさんの思い出を作ります!」

『10年、10年かぁ。じゃあ、若い子優先だね!』

『リオちゃんと少しでも一緒に長くいられるようにね!』

「ありがとうございます。ウサギさんたち」

 ウサギたちの間で話し合いをした結果、ライオンヘッド、ヒマラヤン、ダッチという種類のウサギ3匹が選ばれたみたい。
 どっちも生後半年程度で、まだまだ長生きできるからって。

 あと、この騒ぎの中でミーベルンも契約したウサギがいたみたい。
 イングリッシュスポットの〝ハンテン〟だって。

 ウサギたちにも平和な限り、時々餌の供給を約束しようとしたら、〝普段は自分たちで探すからいい〟って突っぱねられちゃった。
 余計なお節介だったかな。

 とにかく、ミーベルンとリオ様は新しく増えたペットを上機嫌で抱えて夢の中へ。
 ふたりとも《ペット言語理解》を持っているからしつけには困らないでしょう。
 早く懐いてくれるといいね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰
ファンタジー
平凡な冒険者である俺は、手頃に抱きたい女が欲しいので獣人奴隷を買った。 ただ性欲が解消できればよかったのに、俺はその奴隷に溺愛されてしまう。 爛れた日々を送りながら俺達は迷宮に潜る。 二人で協力できるようになったことで、冒険者としての稼ぎは抜群に良くなった。 その金で贅沢をしつつ、やはり俺達は愛し合う。 大きな冒険はせず、楽な仕事と美味い酒と食事を満喫する。 主従ではなく恋人関係に近い俺達は毎日を楽しむ。 これは何の取り柄もない俺が、奴隷との出会いをきっかけに幸せを掴み取る物語である。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

世界樹の下で

瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。 念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。 面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ? あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの? プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です

末期の引きこもりが魔王のペットになって全力で愛でられます。

雪野ゆきの
恋愛
引きこもり生活かれこれ300年。久しぶりにお外に出て徹夜明けのテンションでふざけて魔王のペットに志願してみました。当然警備のヒト怒られて帰ったけど魔王が家まで追って来た!?ちょっと私今裸なんだけど……。え?養いたい?私を?マジか。 魔王がやっと自分の癒しを見つけて不器用ながらも全力で愛でるお話。 なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

ペットになった

アンさん
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

処理中です...